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母と妻と女の狭間で・・・   作者: 透明ゆき
2/7

留学・青春・出会い編 P20-P39

 そんで、いよいよ運命の金曜日の夜、

(それほどでもないんだけど)

Int'l student(留学生)パーティーに出発!


 アメリカの大学生は勉強熱心で、

月曜日から金曜日は、とにかく勉強。

ひたすら勉強。


 そりゃ、もう、頭が真っ赤に

大爆発しそうになるくらい、勉強する。


 アメリカの大学の図書館はロスとか

ニューヨークなんかのでっかい大学は、

基本24時間開館。


 私がいた田舎のちっさな大学でも、

午前0時までは図書館が開いてた。


 だから、大学の図書館には、

真っ赤に大爆発しちゃう生徒のために、

各机の横に、消火器が設置されてる。



 だけど、金曜の夜は、Party Night!

平日の必死の勉強が終わった金曜の夜、

それは始まる。


 そう、それが、Dancing Night!

好きなだけお酒を飲んで、

真っ赤になって踊る!


 黄色い太陽が見えるまで、

ひたすら踊る!


 Int'l studentパーティーは、

ほんとに世界各国の留学生がいて、

南米、アフリカ、東南アジア、

人種は様々。


 年齢も、18歳から40歳過ぎまで、

年齢も様々。

それでも、みんなダンスが大好きで、

飲んで、踊って、大騒ぎ!


 最初に入った時は、その熱気にびっくりして

頭が沸騰、真っ白な湯気が出たんじゃないかと思うほど。

いや、ほんとに凄かった!



P21


 中は薄暗くて、よく見えない。

おまけに、聞き慣れない音楽が、

ガンガンかかっていて、

すっごく、怪しげなイメージ。


 よくテレビで、麻薬の取り締まりで、

そんなパーティーに踏み込む映像が目に浮かんだ。


やばいとこに入っちゃった!


 それが第一印象。


 それでも、ほかの日本人の友達のてまえ、

後戻りはできないから、

勇気を出して、中に入ってみた。


 そしたら、部屋の中心では、6人が踊ってた。

よーく見ると、やっぱり中南米の人達。

あとで聞いたら、やっぱりブラジル人だった。


 で、音楽の種類は”サルサ”って言ってた。

なんでも、中南米の国々でポピュラーな音楽。



 踊りの感じは、二人ペアで腰が密着!

日本のイメージだと、タンゴかな?

でも、圧倒的に早い!



 ブラジル人の男女二人のサルサダンスは

ほんとに凄い!


 二人とも腰をくねくねさせながら、

すっごくセクシーな感じで、素敵だった。


 入っていきなりそんな雰囲気だったから、

これぞ、アメリカ!


 って、私は思った。

なんだか、暗くて


 そんな雰囲気に圧倒されながら、

部屋の奥に入って行くと、

踊っているのはその人達だけで、

あとはまわりで、お酒を飲んでた。


P22


 最初のイメージに圧倒されて、

思わず引いちゃったけど、

それでも、後ろの友達に後押しされるように、

ずんずん中に入って行くと、

そのホールには、結構な人数が、

入ってた。


 しばらくして、怪しげな暗さにやっと目が

パチッと開いてきて、よーくあたりを見回すと、

そこは、ブラックや南米系、チャイニーズ、

なんかのオリエンタルとか、

ほんとに多種多様の人種がペチャクチャしてた。


Oh my goodness!


 日本人の友達みんなと顔を見合わせて、

ほんとにびっくり!


 アメリカに来てから、

ホストファミリー以外に学校で出会う人は、

大学のアメリカ人学生か、みんな日本人で、

こんなにたくさんの留学生がいたなんて、

全然想像できなかった。


 ざっと見渡して、50人位。

その中にはちらほら日本人らしき人もいて、

当然みんなが英語でペラペラ。


 ここが、海外ってことを、グサッと思い知らされた。

あ、いい意味でね。


「「すごいね~」


 それがみんなの感想。

日本人の友達は英語ができないから、

ただ、ただ、圧倒。


 思わず見とれてた私も、はっ、と気がついて、

とりあえず、近くにいた同じ年っぽい、

日本人風の女の子に、日本語で、話しかけてみた。


P23


「Hi, ここに来て長いんですか?」


そしたら、


「うん、もう2年半くらいかな?」

って返事。

それが、最初のおしゃべり。


よかった、日本人だった!


 その、同じ年に見えた女の子は、

”ミキちゃん”って名前で、

なんと、28歳!

私よりも、9歳も上だった!


 アメリカにいる人は、

みんなあんまりお化粧してないから、

すっごく童顔に見える。


 それでも、とっても素敵で、

かわいい人だったのね。


 そしたら、向こうから、


「最近きたの?」


って、話しかけてくれた。


 そのまま、しばらく話してたら、

その子は、2年半前に来たけど、

1年位してから、アメリカンの

”ジョン”って名前の彼氏ができて、

半年前から一緒に住んでるんだって!


 いまは、”ジョン”と、”アンディー”って名前の

黒いラブラドール・レトリバーと

2人と1匹で住んでて、

お互いの両親にも挨拶が済んでて、

来年の6月に結婚するから、

学校を休学して、花嫁修行中なんだって!

いいな~、ジューンブライド!


 つまり、いまは婚約中!

左手の薬指のリングが光ってた。

羨ましい!


 私が思い描いていた、理想の人生を、

その通りに歩いている人がいるなんて!


 この時は、ほんとに興奮して、

まわりの友達のことなんか、

すっかり忘れて、出会ってから、

結婚するまでの経緯を、

こまごま質問しちゃった。


 そんなプライベートな事なのに、

嫌な顔しないで、しっかり応えてくれた事に

”この人はほんとに素敵な人なんだな!”

って、2度驚いた。


P24


 ミキちゃんて、大学の英文科を出て、

普通に外資系の製薬会社に就職して、

5年働いた後、こっちに来たんだって。


 もともと英語に興味があったから、

大学は英文科に行ったんだけど、

外資系の製薬会社に就職した時に、

あまりに、英語が使えなくて、

一念発起して、お金を貯めて、

海外英語留学したんだって。


 外資系の製薬会社だからって、

英語が話せないといけない訳じゃなくて、

もちろん、日本法人だから、

99%は日本語で話す。


 でも、本社から重役が来たときとか、

海外の取引先に連絡する時は、もちろん英語。


 もちろん専門の部署があるんだけど、

ちょっとした会話や、電話の取次なんて、

いちいちそんなところに電話を回してたら、

怒られちゃうから、そんなちょっとした英会話は、

できると便利だった。


 それでも、ほとんどの人は、

電話をとった瞬間、


「誰か~、相手外人!」


なんて、感じだった。


 そこで、会社終わりに英会話に通ってみたら、

ちょっと自信がついて、会社で電話をとった時、

思い切って話してみたら、


「通じた!」


この時の感動は、2年以上経った今でも、

鮮明に思い出せるって。


 それから、しばらく仕事しながら、

英会話に通っていたけど、

どうしても本格的に勉強したくて、

今に至るって。


 それがどうして、ジョンと結婚?


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 それがね、ジョンと出会ったのは、大学の講義で。

みきちゃんは、たんに英語の勉強をしたかった

だけだから、大学に入学するつもりはなかったの。


 だけど、語学学校の目的は、最終的には


「大学入学」


 だから、クラスが進んで上級になると、

必然的に大学の講義に出なきゃならなくなるわけ。


 ってわけで、大学に行くつもりがなくても、

大学の講義に出てたんだって。


 そこで、問題の!じゃなくて、

素敵な”ジョン”と出会うわけ。


 何となく分かるでしょ?

そう、もちろんジョンの一目惚れ。


 アメリカ人のジョンにとって、

少し小柄な、(って言ってもミキちゃんは身長164cm!)

みきちゃんは、それだけで可憐に見えたらしいい!


 しかも、そんな細くて可憐な日本人が、

なんのためらいもなく、わからないところを、

どんどん質問して、時には講義が終わっても、

さらに教授の後にくっついて、

質問攻めにしてる姿を見て、


「僕が助けて上げなければ!」


って、思い込んだんだって。


 それから、ジョンの猛アタックが始まった!

講義が始まる前は、最前列の席を二人分確保。


 講義中は、隣りに座って、逐一解説して、

講義が終わったら、教授を教室に足止めして、

ミキちゃんの質問タイムを作る。




 みきちゃん、初めはまじめに勉強するつもりだったから、

そんなジョンの行動を、


「ずいぶん親切な人だな?

学校に言われてエスコート役してくれてるのかな?」


って、”学校から言われた義務”で、

としか思ってなかったって。


 みきちゃん、ちょっと天然?

でも、初めて会ってから、1ヶ月くらいずっと、

世話を焼いてくれてたから、


「そろそろ一ヶ月だし、だいぶ学校にも慣れたから、

もう一人で大丈夫。もう良いよ?」


って、言ったんだって。



 そしたら、


P26


 なにを言ってるんだい、僕はみきのそばから離れないよ!

それに、ミキのためならどんなことでもするよ!」


そこでミキちゃん、 初めて


「ん?なんか違うぞ?」って気がついた!


やっぱり天然だよね。

いくら学校から言われたって、

1ヶ月も常にそばから離れないで、

細々世話を焼いてくれるなんて、

普通なら一週間くらいで、気がつくじゃない?


そうじゃなくても、


もしかしたら、ストーカー?


なんて思っちゃったりして、

むしろ怖くなっちゃったりするよね?


 たしかにジョンは背は高いし(190cmくらい)、

黒髪ブルーアイのちょーイケメン。


 しかも、テニスプレーヤーのスポーツマン。

学校もテニスの特待生で他の州から来てるんだって。

 で、今年卒業したら、プロになることが決まってるって、

ちょ~エリート。


 そんな人だから、アメリカ人だって、

狙ってる人はたくさんいたと思うよ?


 なのに、一ヶ月もべったり隣りにいたのに、

その理由に気が付かないミキちゃんて、

やっぱり天然だよね。


 それが、


「ミキのそばから離れないよ!」


って聞いて初めて、


「あ!もしかしたらこの人、アピールしてる?」


なんて、おそ! 遅いよね~

でも、ジョンはそんなところが気に入ったのかもね。


 しかも、


「ジョンはもしかして、私のことが好きなの?」


って、聞いちゃったんだって!


 聞いてて私のほうが、恥ずかしくなっちゃった。

そしたらジョンは、


 ”Of course, Please marry me?”

 「もちろんだよ、僕と結婚してくれないか?」


って、こっちもストレートに質問で返したって。


 で、なんとそれまでジョンのことを、

”ただのいい人”ってしか見てなかった

ミキちゃんの返事は、


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“Yes, I will marry you”

(はい、もちろんOK!)


「え?それで決めちゃったの?」


って聞いたら、


「うん、そう。

だって、すごくいい人だったから」


 そりゃね~、誰だって狙った獲物を手に入れるまでは、

必死に何でもするでしょー?

それを過ぎたら、

”釣った魚には、餌はやらない!”

ってなりかねないし。


 だってねー、出会って一ヶ月。

しかも、アメリカに住んでる、アメリカ人。

自分は、来てまだ1ヶ月。

不安になるし、ホームシックにだってなるかも?

そんな時にたまたま優しくされただけの男の人にいきなり、


「結婚してください!」


って言われただけであっさり、


「はい、結婚します!」


なんて、普通の神経じゃ考えられないでしょ?


 それに、学校の先生が言ってたけど、

来て一ヶ月間はハネムーン期間って言って、

ふわふわ、そわそわ、何も手につかないのは、

結婚と海外留学はよく似てるんだって。


 みきちゃんの場合はまさにそれ!


 来て一ヶ月、見知らぬ土地で、

アッと言う間に時間が過ぎて、

やっと慣れてきたかな?って時でしょ?

やっぱり、ダメなんじゃないかな?

って思ったのね。


 もちろん、みきちゃんにそう言ったら、


「運命感じたんだもん」


って、素敵な笑顔で答えられちゃった。


 ああ、なんて素敵!

誰でも夢見る 「白馬の王子様」

まさにそんな感じなんだろうな~


 で、「それから2年以上経つけど、

いまでも同じ気持なの?」


 ってみきちゃんに聞いたら、


「ううん、それ以上に好きになっちゃった」


 その時の顔を見たら、

それだけで、全部理解できた。

本当に好きなんだなー


 それ以上は言うこと無くて


「おめでとう、良かったね~」


って私も、心からお祝いの言葉とともに、

自分まで幸せな気持ちが広がった。


「私が夢見た人生が、今そこにある」


 それが、私のこれからのアメリカ滞在を

たくさんの希望に変えていた。



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 ひとしきりみきちゃんと盛り上がって、

ふっと、自分がなんでここにいるのか、

思い出して、我に返った。


「あ、みんなをInt’l studentパーティーに

連れてきたんだ!」

 

 そう、みきちゃんの、あまりに素敵なお話に、

英語が話せない達、日本人の友達を、

Int’l studentパーティーに連れてきたことを、

すっかり忘れちゃってた!


「みんなどこかな?」

 あたりを見回すと、日本人らしき集団は、

どこにも見当たらなかった。


「もしかして、帰っちゃったかも?」

急に心配になって、いったん寧子のホストに

帰ろうとした時、入口付近でなんだか賑やかな

集団を見つけた。

 

 それは、一緒に来た寧子と男友達2人と、

ブラジルから来た”アンジェル”がお酒を飲んで

とっても盛り上がってる所だった。


「へ~、私がいなくても全然平気じゃん」


 ちょっとがっかりしたり、ホッとしたり、

少し複雑な感じだった。


 「なに話してんの?」


 聞いてみると、アンジェルはブラジルから

来たんだけど、やっぱり英語がぜんぜん

話せなくて、ひたすら飲んで踊ってたんだって。


 でも、さすがに疲れたから帰ろうと思ってたところで、

同じ感じの寧子達と意気投合して、

日本語とポルトガル語と、たくさんの

ボディー・ランゲージで、コミュニケーションを

取ってたんだって。


「やはりアルコールのなせる技か!

これぞ、国際化!習うより慣れろ!

言葉なんて、気合と根性でなんとでもなる!」


 こんなことって、日本にいたんじゃ

絶対にないことだから、寧子達も喜んでた。


 そのあと、寧子達に聞いた話だと、

なんでも、アンジェルは「国が主催する留学プログラム」で、

来たんだって。


 でも、その選抜方法が、日本じゃ信じられない物。


P29


 なんたって、


「くじ引き」


 そう、お盆や年末に、デパートなんかでやる

あの、ガラガラ・ポン、と同じ「くじ引き」だったんだって。


 もうびっくり!

日本じゃ考えられないよねー。

詳しい方法は、わからなかったみたいだけど、

くじ引きってことは、わかったみたい。


 なんでも、費用は全額タダ!

そう、衣食住から、学費まですべて国持ち。


 だから、貧富の差が激しいブラジルでも、

サッカー以外の「ブラジリアンドリーム」

のひとつで、けっこう倍率が高かったみたい。


 私も、そんなことがあるなんて、ほんとに驚いて、

ワインの入ったプラスティックのコップを、

落としそうになっちゃった。


 「へー、国が違うとありえないことがあるんだね。

アンジェルはきっと貧乏なんで、一攫千金狙いなんだろね」


 って、寧子に言ったら、


「ううん、お父さんは外交官だって」


 それを寧子に聞いて、2度びっくり!


 「お金持ちだよね?」


 って、私が寧子に聞いたら、

寧子もおなじ質問をしたみたいで、


 「くじ引きは公平だから、誰が応募したって良いんだよ!」


 って、アンジェルが全然悪びれないで、

当然だと言わんばかりのドヤ顔で答えてくれたって。


 そりゃ、誰にでも平等なはずのくじ引きだけど、

お金に苦労していない、外交官の息子さんに

当たる必要はないと思ったよ。


 だから、ブラジリアンはいつまでたっても、

貧富の差がなくならないんだと、

似合わないことを、考えちゃった。


 それも、アメリカにきたおかげかも!

とにかく、引っ込み思案だった、

No English の日本人学生も、

少しだけど、国際化の扉が開いたみたいで、

ホッとひと安心。



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 みんながなんとか打ち解けたのを確認して、

私自身も落ち着いたんで、あらためてまわりを見回したら、


 「あ!、”あさひ”がいる!」


 そう、窓際の外国人ばかり5~6人の輪の中に、

一人だけ日本人の、”あさひ”がいた。

その輪の中の”あさひ”は、にこやかに、穏やかに、

心から楽しそうに、みんなと話していた。


 気が付くとそんな”あさひ”から目が話せなくなって、

しばらくの間、見つめていた。


 そしたら不意に、後ろから声をかけられた。


「どしたの?Ash[アッシュ] が気になるの?」


その声は、さっきのみきちゃんで、

私がずっと”あさひ”を見ているのに、

気がついたみたい。


「え!そういう訳じゃないけど、

外国人の中に、ひとりだけ日本人がいるなって・・・」


 ちょっとドギマギしながら答えた。


そしたらみきちゃん、いたずらっぽい笑顔で、


「あの子かわいいよね。

ちょっと変わってるけど」


って。


私が、


「え?知ってるの?」


って答えると、


「うん、Ash[アッシュ] ね、4月に来たんだけど、

初めから英語が話せてね、いきなり上級クラスに

来たんだよ。

 で、その時の上級クラスって日本人がいなくて、

先生たちが気を使って、日本人を紹介しようとしたら、


「日本人と付き合いたくないので・・・」って言って


断ったんだって。


 でも、なんかアッと言う間にクラスや先生たちと仲良くなって、

気が付けば何年もここにいるような人になってたって」


 私は内心、


「へ~、あんがい社交的なんだ」


 って、変なところに関心してた。


 「どこのホストにに住んでるの?」


私は、当然どっかのホストファミリーに住んでると思って、

みきちゃんに聞いてみると、


P31


「ううん、寮に住んでるよ」


だって。


「え?寮って、日本人でも住めるの?」


って聞いたら、


「住めるよ。でも日本語は全然通じないから、

いきなり寮に入る日本人って、聞いたことないけどね」


〈やっぱり変わってる!〉


 私は内心確信した。

だって、誰でも初めての場所に来たら、

たとえそこが外国じゃなくても、

少しは、ううん、相当心細いでしょ?

 そしたら、とりあえず知り合いを探すか、

じゃなければ、その場所の様子を聞くために、

近くにいる、親切そうな人に話しかけるでしょ?

それが、普通でしょ?


 それなのに、知り合いのいない見知らぬ外国に来て、

せっかくまわりが親切に、


「心細いだろうから、ここの様子を知ってる、

親切な日本人を紹介してあげるよ?」


 って言ってくれてんのに、それを断るなんて、

どんだけ自分に自信があるんだろう?


 じゃなければ、よほどダメな人か、

性格が終わってる人なのかな?

 きっと、最初の時に感じの印象そのままに、

すっごく性格の悪いやつに違いない!


 みきちゃんに、


「あの人何歳?」


 ミキちゃんは”Ash? ”って即座に答えたけど、

私は、なんかムッとしたので、わざと”あの人”って言ってた。 

って聞いてみると、


「21歳だって」


って、即答。


〈ああ、私の2個上か〉


 って、思うと同時に、あまりにみきちゃんが、

あさひのことに詳しいから、


「あの子と仲がいいの?」


 って、無意識に質問してた。

そしたらみきちゃん、


「うふふ・・・」


 って、イタズラっぽい笑顔で答えただけだった。


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「気になるの?」


そう、ミキちゃんが言葉を続けた。


 私は慌てて、


「そうじゃなくて、なんかすっごく性格悪そうなやつだから、

みきちゃんと知り合いなんてありえないと思って」


そのミキゃんの小悪魔的な笑顔を見て、

〈ドキッ!〉

とした自分がいた。


 その時に思ったのが、

〈もしかしたら・・・〉

そんな気持ち。


 そしたらミキちゃん、私の気持ちを見透かしたように、

「Ash・アッシュ]とはなんでもないよ。

ただの友達」


 って、笑いながら言った。

そりゃそうだよね。

ミキちゃんには愛するダーリン”ジョン ”がいるもんね。


「私、今は休学中で、学生だったら授業に出てるはずの、

変な時間にお散歩してたりするでしょ?

そん時にAshも同じようにウロウロしてたりするのよ。

だから、『授業じゃないの?』とかって声かけたのが始まり。」


 「え!」


 私は短く驚いた。

〈私の時は無視されたのに、ミキちゃんとは話したんだ〉

って思った。


P33


 それと同時に、ミキちゃんに少し嫉妬した

自分に気がついた。


〈もしかしたらあさひのこと好きになり始めてるのかも〉


 でも、実際彼のことは何も知らないし、

第一印象は最悪で、とても好きなんて感情は

持てなかったのも事実だし、それが好きって気持ちに

結びつくなんて考えもし無かった。


 ただ、確かなのは、彼のことが


〈とにかく気になる〉


それだけだった。


 

 そんな私の心の葛藤をよそに、

ミキちゃんは、そのまま話を続けた。


「そしたら、Ash が

『少し話し、聞いてもらっていいですか?』

って、言ったのよ」


 「それから、ベンチに座って30分位

話したかな?

Ash は4月に来て男子寮の受け入れ準備

が出来るまで、いきなり女子寮に一週間

入ってたんだって。


 それも、理由は


『ゲストルームが女子寮にしかないから』


だって。


 女子寮は、男子も平気で出入りしてたから、

それ自体はそんなに焦らなかったけど、

ランドリールームで洗濯中に、いきなり注意

されたのが、『前の人の選択が終わったら、

洗い終わったものを次の人が出して、

洗濯機の上に置いとくの!』って事

だったんだって。


 でも、女の子の洗濯物だし、普通はありえ

ないでしょ?

 でも、1回注意されたから、次はそうやって

洗濯物カゴに入れてたら、ちょうどその時に

持ち主が来て一言、『サンキュー』って

言って持ってったんだって。


 その中には、ブラやパンツがあったけど、

そんなのお構いなし。


 そのことに面食らったとか、

朝シャワーを浴びる時、気を使って、

みんなが起きそうもない、朝5時に

起きて浴びてたら、いきなり隣に女の子が来て、

シャワーを浴び始めて、めっちゃ焦ったら、

『シャンプー貸して』ッて言われて、手が

シャワーカーテンに入って来たんだって。


 びっくりして思わず『OK!』って答えちゃって、

渡しながら、


《強制送還だ!》


って覚悟を決めたら、何事もなかったように

『サンキュー』ってシャンプーを返してきて、

体中の力が抜けたんだって」


〈うわ~、そんなことがあるんだ!〉


私は素直に驚いてた。

 

 その後もミキちゃんは Ash と何を話したか、

内容を簡単に教えてくれた。


 実家は東京で、高校を出て三鷹の英語専門学校に

1年間通ってから、そこの先生の紹介でここに来たこと。


 高校から4年間付き合ってて、お互いに結婚する

つもりだった彼女に『アメリカへ行く』って言ったら、

『そこまで待てない』って振られて来たこと。

 

 ミュージシャンか車のレーサーになりたいが、

そのためにはまずは〈英語がしゃべれないと〉と思って、

ここに来たこと。


 ここではとりあえず哲学か心理学を勉強したい事。


 「そんなことを、英語で話してくれたのよ」


P34


ってミキちゃんは言ってから、


「うそ、もちろん日本語でよ」


って、またイタズラっぽい笑顔で笑った。


 私も一瞬、


「え!英語でそんなこと話せるの?」


 ってびっくりしたけど、ミキちゃんの冗談に

まんまと引っ掛かった。


 そしたらミキちゃん、


「もしかしたら、ジョンがいなかったら、

私が好きになってたかも・・・」


って、ポツリと言った。


 そのミキちゃんの言葉が、

ほんとか嘘かなんてどうでも良くて、

私にとっては、ミキちゃんが言った


「私が Ash を好きになってたかもしれない」


 その言葉だけが、私の心のなかで

ぐるぐる回っていた。


 その時不意にあさひがミキちゃんを見つけて、

笑顔で笑いかけた。


 その笑顔が、私の隣りにいるミキちゃんに

向けられたものであることは、

私だってもちろんわかってたけど、

あさひが、まっすぐ私を見ながら笑いかけた

ような気がして、心が真っ赤に燃え上がり、

まるで洪水のようにドキドキした。


 その時、


「ああ、もう止まれない・・・」


 その瞬間、ミキちゃんに聞いていた話の中で、


「高校から4年間付き合ってた彼女と別れたばかり」


 その言葉が心の洪水の中から、

まるで水の勢いでなぎ倒された大木が、

その力強い力で、水面に浮かび上がったかのように、

私の心の中心に向かって叫んでいた。 


「ああ、今はフリーなんだ」


 その言葉が心に浮かんだ瞬間、

なんだか、私の心のなかに、小さなロウソクが

ぽっと、灯ったような気がした。


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 結局その日は、空がオレンジ色に輝くまで、

みんなと騒いだ。


 行く前は、すごく心配でたまらなかった

日本人の友達たちも、お酒のせいかはわからないけど、

あの夜は確かに、みんなが楽しんで、

完全にパーティーに溶け込めたと思う。


 私も、ちょっと偉そうだけど、

姉の気持ちで、ホッとひと安心。


 これで、少しは日本人の友達たちも、

アメリカの風景に溶け込めたんじゃないかな?


 土曜日の午前中は、みんなのんびり。

10時過ぎにブランチを食べて、末っ子のJoy と

遊んでたら、電話が鳴った。


「ねー、日本食、食べに行かない?」


 寧子からだった。


「え?近くに日本食、食べられるところがあるの?」


私が聞き返したら、


「あるんだって、私のママが言ってた」


 それは、寧子のホストファミリーのお母さんの事で、

つまり、”アメリカのお母さん”ってこと。


 まだアメリカに来て一ヶ月だったけど、

確かに日本食が恋しくなって来たところだった。

 

「うん、いいよ。行こうよ!」


 私は、返事をしたものの、移動手段がないこと

に気がついた。


「ああ、それなら大丈夫。

ミチさんが車買ったから。」


 ”ミチ君”って、21歳の日本人。

大学の夏休みを利用して、語学留学をしに

私達と一緒に来て2ヶ月間いるみたい。


「へ~、お金持ちだね」


 て、私が寧子に言うと、


「だって。ここっっておっきな丘の上に

出来た街でしょ?

坂ばかりで、自転車も余り役に立たないし、

それに、サマーバケーションの間は、

大学内の唯一のお食事処、”カフェテリア”も

お昼以外は閉まっちゃうし、車がないと

生活できないって、両親に言ったら、

すぐにお金を送金してくれたんだって」

 

 なんだか、私以外はみんなお金持ちに思えてきた。


「へ~、わかった。じゃあ支度して待ってるね」

 

 そう言って電話を切った。

私は久しぶりの日本食にワクワクしてた。


 その一方で、


「寮に住んでて、お昼以外は、

どうしてるんだろう?」


 ふっと、心のどこかであさひの食事のことが

気になった。


P36


「あのさ・・・」


その時、喉まで出かかった、

 

〈Ash も一緒に誘わない?〉


 その言葉を、グッと飲み込んだ。

だいたい、私も話したことがないのに、

いきなり呼んだって、みんなが困るし、

Ashは日本人と混ざりたがらないわけだから、

来るわけ無いと思った。


 

 電話を切って15分位で、寧子とミチ君と

他2人が迎えに来てくれた。


 私が、


「日本食レストランなんて、ここにあったっけ?」


って、に聞くと、


「うん、ハイウェイ沿いの道で、名前が

 ”Golden Dragon”」


 「ん?、それって日本食ってか、

チャイニーズっぽくないかな?」


 私はそう思ったけど、それは言わずに、

黙ってミチ君の車に乗り込んだ。


 それから30分後、怪しげな金の龍の書かれた店の前に、

立っていた。


「あのさ、ここってなんか日本食って言うか、

中華だよね?」


 私が言うと、みんなも、


「そうだね、中華だよね?」


 同じ意見。

最後には寧子まで、


「なんだ、ママから見ると、日本食もチャイニーズも

おなじに見えるんだな~」


 だって。

でもすまなそうに肩をすくめる寧子にみんなで、


 「いや、チャイニーズだってご飯あるだろうし、

日本食じゃなくても、オリエンタルだからいいじゃん!」


 って、みんなでウキウキしながら、店に入った。


 P37


 中に入ると、一番最初に目に飛び込んで来たのは、

痛いほどの、赤と金の壁の模様だった。


「これって明らかにチャイニーズだ!」


 それが私の印象だったけど、それはみんなも

同意見だったみたい。

 

 チャイニーズとは言っても、チャーハンや

ラーメンはあったから、まあ、日本食の一種

ってことでみんなで納得。


 私はチャーハンと春巻き、寧子がラーメン、

ミチ君がラーメンとシュウマイって感じで

しっかり食べた。


 「美味しかったけど、

なんか、チャイニーズだったよねー?」


 って、私が言うと、


 「そうそう、日本の感覚だと、

日本食って言うと、和食。

ご飯とお味噌汁だもんね」


 それが寧子。


 他のみんなも、みんな同じ意見で、


「期待が大きかったから、

なんかよけいに和食が食べたくなっちゃったね」


 って、ミチ君が言った。

そしたら、寧子が、


「わかったよ、今度は私が作ってあげるよ」


 って。

よくよく聞いてみると、婚約者がいる手前、

花嫁修業に、1年前から料理学校に通ってて、

料理の腕前は、かなりのもんだったんだよ。


「へ~、やっぱり婚約者がいると違うね~」


 私が言うと照れながら、


「そんな事ないよ~」


 って、真っ赤になりながら答えた。

そんなことを話しながら家に帰る途中で、

図書館から出てきたあさひを見つけた。


〈あ、もうすぐ23時なのに、まだ図書館にいたんだ〉


 そんなあさひを見て、


P38


 急に、「中華じゃなくて日本食?」なんて

言ってる自分が、恥ずかしくなった。


〈私がアメリカに来たのは、観光のためじゃない!〉


 私は発作的にミチ君へ、


「ここで降ろして!」


 って、ちょっと強い口調で、お願いした。

ミチ君は、私のうちまで迎えに来てもらったから、

もちろん私の家は知ってて、


「いや、もう夜遅いし、ここで降ろしたら、

家に帰れないんで、ダメだよ」


 って、言って車を停めることはしなかった。

私も、そう言われたら、確かにそうだと思って、

乗せてもらったこともあるし、素直に納得した。


 そのまま、あさひを車の窓越しに見てたら、

あさひが、後から出てきたブロンドの綺麗なおねーさんの

腰を抱いて、何か話しているのが見えた。


〈あ! あれってアメリカ人の彼女かな?〉


 それを見た時、体中の力が抜け、

なんだか、思わず視線を下に向けてしまった。


「は~~~」


 自分では意識してなかったけど、

まわりが驚くくらい、大きな、深いため息をついてたらしく

寧子が心配そうに、


「どうしたの?」


 って、聞いてきた。

私は、ため息を付いたことに気が付かなかったから、

寧子の”どうしたの?”って言葉に驚いた。


「え?私なんかした?」


 私は寧子の言葉に驚いて、逆に質問すると、


「なんだか心配になるくらい、深いため息をついてたから・・・」


 って、寧子が言った。

その時、私はあさひが好きで、

頭から離れないことを、自覚した。


「Ash が好き」


 そう小声でつぶやいてみたけど、

その声は車の音と、みんなのおしゃべりで、

寧子の耳には届かなかったみたい。


「何?」


寧子がもう一度、聞いてきたけど、

二回目の答えは、


「大丈夫、なんでもないよ」



P39


 ホストファミリーに帰って、自分の部屋に戻ると、

さっきのあさひの図書館での出来事が

ふっと、頭に浮かんできた。


 第一印象は最悪で、もう二度と会いたくないって

思っていたのに、今では反対に、


〈好き〉


になるなんて、自分でも信じられなかった。


 でも、今思い返すと、

最初に感じた印象は、自分の方を見てくれなかった

からだったかもしれない。


 ほんとは、一目惚れみたいな感じだったけど、

それを気づいてくれなかったことが、

感じ悪いと思った理由かもしれない、

そう、思った。


 その日は、なんとなく心がざわざわして、

なかなか眠れなくて、深い藍色だった空が、

だんだんとオレンジ色に変わっていくのを、

静かに見ていた。


 気が付くと、家の中がシーンと静まり返っていて、

人の気配がしなかった。

時計を見るともう10時。


 ホストのみんなは日曜日の礼拝に教会へ

出かけた後で、誰も家にはいなかった。


 普段は私も一緒に行ってたけど、

昨日遅く帰ってきた私に気を使って、

そっと寝かしてくれたみたい。 


 のそのそとベッドから這い出ると、

昨日の図書館での光景が、また頭の中に広がった。


〈もしかしたらあの後、あさひと彼女はKissしたかも〉


 そう思うと、悲しくなった。

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