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a trick of destiny Ⅲ -運命の悪戯 3-  作者: 樋山 蓮


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2/3

Ⅱ.Last Chronicleの幕開け





楽屋の扉がノックされ、

「Z∅REQUIEMのみなさん、スタンバイおねがいします!」

と、スタッフが呼びにきた。



大きなライブは今日の50周年記念のイベントライブと、ROCK IN THE BOX。

番組の収録も予定されている。








舞台袖で、前のバンドのラストソングを聴きながら最終チェックをする。


「リハーサルの時同様、この後テザーと司会者からの紹介があります。その後、ステージへお願いします。」


小規模のライブハウスで行われるヴィジュアル系の対バンとは違って、劇場のように大きなステージの転換がどんどん行われる。


「…すげえなぁ。」

Ruiくんが呟いた。


「さあ、行くぞ。」

「しっかり、この目に刻もう。」

「おう。」

「よっしゃ!」







舞台袖から一人一人出ていく。


Rui(ルイ)〜〜!」


(ヤナギ)〜〜!」


May(メイ)〜〜!」


剣斗(ケント)〜〜!」


普段はそれぞれ別のバンドのファンが全力で声を上げる。


Sui(スイ)〜〜〜〜!!!!」


一際、歓声が大きくなり、照明が消え暗転した。



ざわついていた会場の空気が、ゆっくりと沈んでいく。





低く響くノイズ。

心臓みたいに、一定のリズムが鳴り始める。


カツ…カツ…


Ruiが刻むリムクリック。

静かに、確実に、空間を支配していく。




Mayのクリーントーンが流れ出す。

冷たくて、どこか遠い音。

それだけで、観客の視線がステージに吸い寄せられる。


Suiさんは、

俯いたまま、微動だにしない。



一瞬の静寂。


「……」


顔が、ゆっくりと上がる。





「夜空に浮かぶ一粒の光」


囁くような声が、会場に落ちる。


息を呑む音が、どこかで小さく重なった。





「誰も気づかぬまま瞬く」


言葉は柔らかいのに、どこか痛い。

観客の意識が、じわじわと引き込まれていく。







柳の低音が、足元から這い上がる。


ドラムが少しずつ広がっていく。

空気が、揺れ始める。






Suiの声も、少しずつ強くなる。


「でもまだ諦めたくない――」




音が、止まる。


完全な無音。


「この一瞬に賭けて」






次の瞬間――


「One-shot Stars!!」


爆発。


剣斗のギターが、上手から一気に空間を切り裂く。


Mayの音が重なり、厚みを生む。


柳のベースがうねり、Ruiのドラムが全てを押し出す。


光が一斉に点灯する。






Suiの声が、まっすぐ突き抜ける。


「今、輝け心のまま――!」


それまで静かだった客席が、揺れる。

身体を揺らす人、思わず顔を上げる人、目を見開く人。


“掴まれた”のが、わかる。





One-shot Stars

  作詞:Sui 作曲:Rui


夜空に浮かぶ一粒の光

誰も気づかぬまま瞬く

胸の奥で叫ぶ声は

届かないまま消えてく


掴もうと手を伸ばすほど

遠くなる星のようで

でもまだ諦めたくない

この一瞬に賭けて


One-shot Stars

今、輝け心のまま

壊れそうな夢でも

一度きりの煌めきを信じて

One-shot Stars

夜を裂いて飛び出せ

暗闇の中で咲く光

永遠よりも短くても


涙も痛みも背負いながら

走り続けるこの道

いつか誰かの胸に

残る光になれ


One-shot Stars

今、輝け心のまま

壊れそうな夢でも

一度きりの煌めきを信じて

One-shot Stars

夜を裂いて飛び出せ

暗闇の中で咲く光

永遠よりも短くても




ステージに残る、まだ熱を帯びた歓声。

「One-shot Stars」のラストで跳ねた空気が、わずかに揺れている。


Suiはマイクを握ったまま、何も言わない。


その沈黙が、逆に観客のざわめきを静めていく。


照明が、ゆっくりと落ちる。

白から、蒼へ。

そして、深い群青へ。


「……次の曲、」


低く、囁くように。


「“幻月(げんげつ)(のちぎり)”」








一音目。


Ruiのドラムが入る。


間を置いて、もう一度。


その隙間に、柳のベースが忍び込む。

音というより、空気が重くなる感覚。


Mayのギターが、淡く揺れるアルペジオを鳴らす。

まるで水面に映る月みたいに、不安定で、綺麗で。


少し遅れて、剣斗。

歪みを抑えたロングトーンが、空間を裂く。







Suiは目を閉じ、マイクに触れる指先だけが、わずかに震えている。


客席も気づく。


さっきまでの“盛り上がり”とは違う。

これは、引きずり込まれるタイプの曲だと。






静寂。


そして——


「蒼に濡れた 欠けた月影」


Suiの声が落ちる。


“響かせる”じゃない。

落とす。


客席の奥まで、じわっと沈んでいく。






幻月ノ契

   作詞:Sui 作曲:May


蒼に滲んだ 欠けた月影

触れれば消える 夢の輪郭

あなたの声が 夜を裂いて

静寂しじまに堕ちる 私を呼ぶ


許されぬほど 惹かれてゆく

罪の名前を まだ知らぬまま


幻の月に 誓いを隠して

指先でなぞる 永遠とわの錯覚

壊れてもいい この瞬間だけ

あなたと結ぶ 禁断の契り


硝子のように 脆い心

触れれば砕け 光に散る

それでもいいと 囁く影

深く沈んで 戻れなくなる


正しさなんて 遠ざけて

鼓動だけが 真実になる


歪んだ月が 見下ろす夜に

重ねた嘘も 美しく燃える

終わりが来ても ほどけぬように

この身を預ける 幻の契り


触れてはいけない その温もり

わかっているのに 離れられない


幻の月に すべてを預けて

消えゆく光を 抱きしめたまま

戻れなくても 構わないから

あなたと刻む 永遠の契り







歌い終わったSuiさんは、静かにマイクを取った。





「……今の、忘れないで。」


少し間を置いて、目線を客席に流した。



「それだけでいい。」





「今日は来てくれてありがとう。」



「LUNE Entertainment、50周年おめでとうございます。50周年のプロジェクトの一つとして、Z∅REQUIEM(ゼロレクイエム)に集まってくれたメンバーを紹介します。」


上手(かみて)ギター 剣斗!

下手(しもて)ギター May!

ベース   柳!

ドラム   Rui !

素晴らしいメンバーと1からZ∅REQUIEMを作り上げました。」


「短い間だけど、このヴィジュアル系のシーンに新しい風を吹かせていくから、よろしく!」




「じゃあ、もう少し付き合って」




Suiは、少し後ろを振り返ってメンバーを見渡した。


「……まだ、終わんねぇよ」





照明が変わる。


深い蒼から、少しだけ白が混ざる。

夜明け前みたいな色。




剣斗が、ギターを鳴らす。


クリーントーン。

透明で、どこか懐かしいフレーズ。


Mayが重ねる。

今度はアルペジオじゃない。

寄り添うコード。




Ruiは、スティックを軽く鳴らすだけ。


カウントはしない。


空気で、全員が入る。



「静寂の夜に 揺れる光」


Suiの声は、さっきより柔らかい。


でも芯は残ってる。


“堕ちる声”から、“届く声”へ。


柳のベースが入る。


低音が、優しく支える。

さっきの曲みたいな“重さ”じゃない。


包み込む低さ。







Last Chronicle

 作詞:Sui 作曲:剣斗


静寂の夜に 揺れる光

遠くの記憶が 今、蘇る

手を伸ばすほど 霞む景色

けれど心は まだ君を探してる


時の砂を 零すように

儚く、でも確かに

刻まれた想いは 消えはしない


This is the Last Chronicle

終わりの旋律が 空に響く

星屑の海で 君と僕は

一瞬だけ 交わる光


夢の欠片を 集めながら

揺れる影は 夜を駆ける

言葉にならぬ 想いの海

胸の奥で 静かに燃えてる


時の扉を 閉じるように

切なく、でも美しく

残された記憶は 永遠に輝く


This is the Last Chronicle

最後の約束が 風に舞う

月明かりの下で 君と僕は

淡く光る 夢の残像


手を取り合えば 消えてしまう

でもその瞬間こそが 真実

光の渦に 溶ける僕ら

名前も知らぬ未来へと


This is the Last Chronicle

運命のページが 閉じるその時

君の笑顔だけを 抱きしめて

僕らは光となり 永遠へと消える


光の残像 揺れる空

Last Chronicle…







「手を取り合えば 消えてしまう」


Suiはマイクを両手で持ち、目を閉じる⸻







「でもその瞬間こそが 真実」


ここから一気に。





⸻ラストサビ


全部乗せる。


音も、感情も。


でも不思議と“うるさくない”


まとまってる。




「僕らは光となり 永遠へと消える」


Sui、最後は上を向く。


まるで光を見るみたいに。




ラスト。


音が抜けていく。


最後に残るのは、Mayギター。


そして⸻


完全な静寂。



数秒。


誰も動かない。



そのあと、爆発みたいな歓声。



Suiは何も言わない。


ただ一瞬、メンバーの方を見る。


剣斗が小さく頷く。

柳が息を吐く。

Ruiがスティックを回す。

Mayは少しだけ笑う。





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