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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第9章 軍神
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風雅と陽美香

 二人とも、十人が十人振り向く美少年と美少女である。

 ともに十年前の戦いで母を亡くしている。

 それぞれその道で天才と呼ばれている。

 そして少なくとも、少年の方は憎からず思っているのだろう。

 割とお似合いではと大和は思っていた。


 柔術のいわゆる乱取りと呼ばれる練習法。

 複数人でそれぞれ自由に技を掛け合う稽古方法である。

 優秀な水地流門下の中で、特に張り切って動くのが赤羽陽美香と釧灘大和。

 そして、赤羽陽美香をただただニコニコと見つめているのが岩倉風雅である。


 京都から名古屋まで来るのにフットワーク軽くないか? と大和は思っている。

 岩倉風雅は、陽美香に渡した術式札の調整という名目でこちらまで来ていた。

 最もそれは口実にすぎないのだろうが。

 陽美香は大学生男子を見事に投げ飛ばし、呼吸を整える。

 

 風雅はそれを見ながら笑顔を真剣なものに変え、ぶつぶつと呟く。

「君は金の戦女神……。いや、流石に直球か?」

 風雅は腕を組んで俯く。

 どうやら歌詞を作っているようだ。


「はい、やめ! 休憩に移れ!」

 水上龍誠の号令に一同は動きを止め、水分補給を行う。

 陽美香にタオルを持って近づく風雅。

 二人は楽し気に話をしている。


 先ほど陽美香に投げられた大学生が、こそこそと大和に近づく。

「なあ大和くん、あいつ誰よ? 陽美香ちゃんの彼氏?」

「ああ、まあどうでしょう。あいつの方は多分赤羽に惚れてはいるんでしょうけど」

「すごい美少年じゃん~。お似合い~」

 そこに豊満な体をサロンで焼いた女子高生が、茶化すように言う。

「まあ、赤羽は赤羽で彼氏欲しいとは言ってたので、いずれ付き合うんじゃないですか」


「青春だねえ。羨ましいことだ」

「お二人も交際されてるでしょう」

 大和の言葉に、二人は照れた笑いを浮かべる。

「それはそうとお前、勇美ちゃんとはどうなのよ」

「……善処しますよ」

 苦笑しつつ、大和は経口補水液を飲み干した。


「……そういうのは、俺みたいなのには相応しくないんですよねえ」

 そう誰にも聞かれぬように呟いた。



「いやあ、陽美香ちゃん凄いなあ。自分より年上の男をばんばん投げ飛ばしてさあ」

 風雅は快活な笑顔で笑いながら陽美香を褒める。

 護衛は風雅で十分なので、師匠には控えてもらった格好だ。

「えへへ。けどホントに良かったの? 名古屋まで来たんだから観光とか」

「全然! 陽美香ちゃんの稽古凄いかっこよかったよ! だから水地流に見学に行って良かった!

 それに皆いい人だったし!」

 確かに人のいいのは多いかもしれないと大和は思った。

 二人が話しているのを眩しいものを見るように少し後ろで歩く大和。


 そう話をしている間に、陽美香の家の前までつく。

「ちょっとシャワー浴びてくるから、中で待っててよ。そしたら、イサミン連れて遊びに行こう」

 金髪の少女は天真爛漫に言ってのけ、風雅は面白いように顔を真っ赤にした。

 陽美香は元気よく扉を開けただいまと言い、家に二人を招く。


 

 赤羽家のリビングで一息つく大和と風雅。

 いや、風雅は顔色を真っ赤どころか青くなっているが。

 そこに、陽美香の伯母さんが紅茶とお菓子を持ってくる。

 陽美香とは違い、純和風の美人といった印象だ。

「大和くん久しぶりよね。そっちの子はどなたかしら」

「い、岩倉風雅と申します。いつも陽美香さんにはお世話になっています」


 伯母さんはすぐにピンと来たのか、大和に耳打ちする。

「……陽美香のこと、好きなのかしら?」

「……黙秘します」

 初見で看破される程度にはわかりやすい風雅にため息が出そうになる。

「うふふ。あの子も大和君以外の男の子を連れてくる年頃になったのね。時が経つのは早いわあ」

 そう言いながら、伯母さんは風雅に近づく。

「あの子と仲良くしてあげて……。そうすれば、妹も喜ぶから」

 伯母さんの目線の先には、仏壇があった。


 チーンというおりんの音が、室内にこだまする。

 静かに手を合わせる大和と風雅。

「ありがとうね」

 頭を下げる伯母さんに恐縮する二人。

「陽美香は、いい子なのよ。四歳で母親が事故で死んでからも、前を見ようと足掻いてる。まだ寂しいでしょうにね」

 風雅と大和は言葉に詰まる。真実を知っているゆえに。

「ずっと、母親の影を追うように鍛錬してきたけど、丁度勇美ちゃんが友達になったころからかしら。

 本当に自分を追い込んで柔術の特訓をするようになったのは」

 伯母さんは目を遠くする。


「あんな風に男の子に負けないように強くなりたいって。きっと憧れてるのね。

 だから、お願いします。大和くんは勇美ちゃんを、風雅くんは陽美香を、大事にしてあげて。

 それがきっとあの子の力になる。そんな気がするの」

 伯母さんはそう言って、はかなげに笑った。

 その時、チャイムの音が鳴る。

 どうやら勇美が来たようだ。


 結局その週末は動物園に行ったり夕ご飯を食べたり、充実したものとなった。



 そして、桧山の出所から二週間が経ったころ。

 大和の防人である50絡みの袴姿の男性水上龍誠と、勇美の防人であるトレンチコート姿の井上雄大は学校の近くで待機していた。

 住宅街にあるコインパーキングに車を止め、三人の学校が終わるのを待つ。

 昼飯も互いに時間帯を分け、一人は学校近くに待機していた。

 協力プレイができる大人気狩猟ゲームを行っていた。 

「そろそろ来るかな。そっち行ったぞ」

 龍誠は雄大に声をかける。

「そうですね、桧山陽介は消息を絶っていますので、そろそろ来るでしょう。」

「確かに、然るべき兵隊を集めて、中だるみする時期で、そのうえで相手の堪え性も加味して、大体は」

 二人はゲームオーバー画面になったゲーム機の電源を切る。

 丁度、最終下校を知らせるチャイムが近所に響き渡った。


 車から出る二人。

 水上は布に覆われた長物を持っている。

 臨戦態勢に入る水上達に、男が四人近づいてくる。

 一人は、水上と同じく和装の男。中肉中背だが鍛え上げられた肉体。そしてじっとりとこちらを見つめる殺気ある顔。

 一人は、195センチある雄大より頭半分ほど高い大男。その体重はおそらく140キロ前後か。

 一人は、大陸系の顔立ちに黒のスーツ姿をしたこれまた巨漢。そのズボンは不自然に曲がっていることを水上は看破した。


「とりあえずチェンさんは待機してくれますか? 折角だから楽しみたい」

「おいおい。日本政府ノ最高戦力が二人となりゃア、三人がかりの方がいいんじゃないノか?」

 和装の男の申し出にあまりいい顔をしない、独特なイントネーションを持つ大陸系の男。

「いや、俺も折角だから警察組織最高戦力ってやつと遊んでみてえな。あんたは静観しててくれるか?」

「……余り仕事に私情ヲ挟むものじゃないよ日本人(イーベンレン)。まあ、揉めるのモ面白くないし静観しますガ」

「話が分かりますね」


 三人の話を聞き流しながら、水上は和装の男について何か気づいたように言う。

新天生(しんてんしょう)流、座宮照三(ざみやしょうざん)か」

 雄大もまた、大男の素性を把握している。

「壊し屋涯。五件の障害致死容疑で全国指名手配中。良くのこのこ出てきたものだな」

 涯と呼ばれた男は、雄大の問いかけを無視しボクシングスタイルの構えを取る。

 雄大もまた、空手に伝わる呼吸法、息吹で体を整えた。


 

 一方、校門を出た大和達。

 本日はテスト期間の補修だったため、三人一緒だ。

「ああ、テスト辛いなあ」

「赤羽は頭が悪いからなあ」

「直球すぎない!? 私だってイサミンと添い遂げるために頑張ってるんだから!」

「そこは一緒の高校行くためって言いな」

 学校と住宅街に挟まれた路地を、冗談を言いながら歩いていく。

 そんな三人の前を、大学生位の男達が歩いて来る。

 後ろからは、車の音。

 

 先頭の男がふっと黒い棒状のものを突きつけた。

 大和はそれを見切り、男を一本背負いで投げ飛ばす。

 そして警棒を振り回し、三人ほど瞬く間に昏倒させる。

 

 勇美と陽美香も臨戦態勢を取る。

 だが、その後ろに何者かが立つ。

 その男は、大きかった。

 190センチ前後の身長に、体重は130キロほどか。

 サングラスをした、長い髪を後ろにまとめた大男。

 痛みに転げまわる男が叫ぶ。

「“怪獣”比堂(ひどう)! やっちまえ!」


 比堂と呼ばれた男は、まずは勇美にゆったりと近づく。

 勇美はすかさず金的蹴りを行う。

 だが、男は内またになり蹴りを防ぐと、勇美の肩と二の腕を掴む。

 そのまま押し倒し、勇美は痛みに悶絶する。

 静かに殺意を(たぎ)らせた陽美香は、サングラスごと目を抉ろうと指で突く。

 だが、男は俊敏にかわし突き手を取ると、陽美香の肩を取り、外した。

 少女の悲鳴が路地に響く。


 大和は、頭が冷えるのを感じた。

 そして、警棒を振り上げ、比堂と呼ばれた男の首元に思いっきり叩き付けた。

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