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神殺しは銃で死ぬ  作者: 尾根末彦
第9章 軍神
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ゲームスタート

 比堂(ひどう)と呼ばれた男は首元に一撃をくらい悶絶(もんぜつ)する。

 だが、即座に復帰すると、大和(やまと)のカッターシャツを握ろうとする。

 大和はさらに男の掴み手を小手打ち、皮膚が裂け血が宙を舞う。

 しかし、男は全くひるまず、ぶちかましを行おうとする。

 それを見切った大和は男の膝を踏み抜き、前に行かせない。

 

 たまらず飛びのいた男は何と後ろを向いて逃げだした。

 大和は辺りを見回すと、倒れていた男達が回収されて誰もいないことに気づいた。

 そして勇美と陽美香もいない。

 誘われている。

 それを理解しつつも、大和は全力で比堂を追いかけた。


 

 場所は変わって、こちらはコンクリートの壁に囲まれたコインパーキング。

 龍誠(たつまさ)と、新天生(しんてんしょう)流座宮照山(ざみやしょうざん)は刀を構え、睨み合っていた。

 正確には龍誠が刀を青眼(せいがん)に構え、照山が居合の構えを取る。


 人斬り照山。二十四人の斬殺経験を持つ、生粋の殺人嗜好(しこう)者である。

 二十四人のほとんどは一流の剣術家、及び武器術の使い手であり、その戦闘経験は非常に多い。

 いくら水上龍誠といえど、一筋縄ではいかぬ相手。


 しばし睨み合う両者。

 まるで空気が割れるような緊張感が、平穏な夕焼けの住宅街で満ち溢れる。

 そこに、轟音が響き、二人は同時に動いた。


 照山の斬撃は、音を置き去りにし、龍誠の体を切り裂いたかに見えた。

「馬鹿な」

 照山の呆然とした叫びだけが、音として残る。

 照山の刀は、柄から先が消失していた。

 ありえないと思った。

 抜く前に、収めた状態の刀を斬り裂いたのだ。

 即ち鉄で鉄を斬ったということ。

 達人である照山の認識を超えた速度でそれを成したということ。


 慮外(りょがい)。

 

 まさにそう言える一撃に、座宮照山の体から全ての力が抜ける。

 次元が違う。

 水上はつまらなさそうに刀を納めた。

 そして先ほどの轟音の方に目を向ける。

 

 コンクリートのブロック塀。それも鉄骨でしっかりと補強されたものをぶち抜き、大男が倒れていた。

 井上雄大は不思議そうにそれを見つめる。

「……壊れた」

「君が壊したんだろ」

 空手家のつぶやきに呆れたように言う剣術家。

 一拍置いて、大陸系の男を見る。

「うーん。大口叩いてこの様。ワタシ怒っていいと思ウ」

「そうだな。一応自首するなら許してやるが」

「まあでも、ビジネスはビジネスでス。一応やれるだけはやるよ。

 改めまして、陈(チェン)無命(ウーミン)です」


 そう言ってチェンと呼ばれた男は中国式の刀を取り出す。

「関刀(青龍刀)か。僕がやろうか?」

 水上が雄大に問うが、雄大は首を振る。

「足はあんたのが速いでしょう? 俺がやりますよ。

 それに、あいつは……」

 その体格は195センチ110キロの雄大と同程度か。

「うん。拳法家だね。じゃあ気を付けて」


 そう言い残して、水上はその場から消えた。

「あらら、あっさり見破られちゃっタ。やっぱり割に合わない仕事だネ」

 チェンは青龍刀を投げつける。

 相当の速さで投擲(とうてき)された青龍刀を雄大は手刀で斬り裂いた。

 その瞬間、男が近づき、爆発的な衝撃が雄大を襲った。

 

 発剄(はっけい)か。

 雄大は脱力により衝撃を逃がすと、反撃の正拳がチェンの体を貫く。

 足を止めての殴り合い。

 肉を叩く鈍い音が連続でコインパーキングに響いた。



 大和が比堂を追って辿り着いたのは潰れた食品工場だった。

 敷地内に入ると、先ほどの車が止まっているのが見えた。

 勇美と陽美香は中か。

 そして、こちらを見つめるいくつもの視線を感じた。


 上等だ。全員病院に送ってやる。

 

 大和は静かに殺意を高め、廃工場に乗り込んでいく。

 入口の死角で鉄パイプを持ち構える男が二人。

 大和は気づいているのかいないのか、すたすたと無警戒に歩いていく。

 背後から襲い掛かった二人を、大和は警棒を一振りさせ男達の首元に打ち込み一瞬で昏倒させる。


 ぞろぞろと雨後の筍のように出てくる男達を前に、大和は啖呵(たんか)を切る。

「俺は井上に手を出す奴らはただでは済まさないと、決めている!」

 大和は瞬足でもって、男達に挑みかかった。



 勇美(いさみ)と陽美香(ひみか)は、コンクリート打ちっぱなしの一室に縛られて転がされていた。

 そこには、男が5人ほど、その中には桧山や比堂の姿もある。

 比堂が陽美香に近づき、肩をはめる。

 衝撃に少女の呻きが室内に響く。

 勇美は比堂を睨むがどこ吹く風だ。

 それを陽美香は視線で制する。


「思い出した。比堂源一(ひどうげんいち)。中学柔道無差別級の絶対王者。あんた柔道やめたって聞いたけどこんなことしてんの?」

 陽美香はじろりと睨む。

「ああ、まあ。色々あってな。痛かったかい?」

 思ったよりも理知的な声に陽美香と勇美は意外に思う。

「痛いに決まってんでしょう。頭から投げ落とすわよ」

 陽美香の威勢のいい声に感心したような顔をする勇美と比堂。

 するとどこからか聞こえてくるのは、あの男のぜひぜひと息を吐くような笑い声。

 下品な笑い声に、勇美と陽美香は音源を睨む。


 その男は、よろよろと近づいて来る。

「相変わらず口の悪い女だなあおい。赤羽陽美香。

 んでもって気のつええ生意気な女だ。井上勇美」

 桧山陽介、その男はよたよたと近づくと、無造作に赤羽陽美香の顔を蹴り上げる。

「ちょっと! 止めて!」

 井上勇美の悲痛な声が室内に響く。

 陽美香は鼻血を出しつつ、桧山を睨む。

 嬉しそうに嬉しそうに男は井上勇美を睨みつける。

 

「そうだよなあ、お前は。自分より友達を傷つけられたら怒り狂うし、いっそう傷つく。そういう女だよなあ!」

 叫んで笑いながら、ストレス解消でもするかのごとく、サッカーボールのように陽美香の顔を蹴り回す桧山。

 狂ってる。

「やめて! やめてよお!」

 泣きながら、陽美香に覆いかぶさる勇美。

 だが、桧山は勇美を避けて執拗に陽美香を狙う。

「おい、ルール説明はまだなのか?」

 比堂の声に、ピクリと止まる桧山。


「ああ、そうだな。忘れてた」 

 桧山は襟元を正しながら、陽美香と勇美を見下ろす。

「……ゲーム?」

 陽美香は血まみれで睨む。

「おいおい、俺は殺す気で蹴ったぜ? タフだなあ。まあいい。

 つっても簡単だ。あの釧灘に恨みを持つ人間をこの建物に二十人ばかり集めたんだ。

 お前らが取り返しのつかないことになる前に、王子様が間に合うか?

 簡単なゲームだろ?」


 桧山は楽し気に笑う。

「んじゃ、まあとりあえず、引ん剝くか」

 そう言ってナイフを持って近づく男の体が、何かにぶつかる。

 まるで見えない壁があるかのように近づけない状況に、桧山は疑問に思う。


 勇美は陽美香を見やりたずねる。

「……これは?」

「風雅くんが言ってた。私がピンチになると自動で発動する札だって。

 いや、遅くない!? 私大分傷ついたんだけど!」

 陽美香の胸元が、この世ならざる青白い光を放つ。

 目の前の不可思議な現象に戸惑う男達。

 だが、桧山はどこか冷静だった。


「成る程な。ま(・)あ(・)そ(・)う(・)い(・)う(・)こ(・)と(・)も(・)あ(・)る(・)ん(・)だ(・)ろ(・)う(・)な(・)。まあ、流石に長物や刃物も持った二十人だ。釧灘の奴がずたぼろで来るのも時間の問題」


 ガラッ。


 扉が開く音に、思わずその目を向ける一同。

 そこには上半身裸で血まみれな姿の釧灘大和が立っていた。

 見れば、その血は返り血ばかりでほとんど無傷。

(いや、早くね?)

 男達は唖然と大和を見つめる。


「あ? 赤羽その傷」

 大和の呑気な声に、しばし空気が弛緩し。

 警棒が振るわれる。

 

 三人の男達が瞬く間に倒れ伏していた。

 

 思わず驚愕に顔をゆがめる桧山。

「女の顔に何してんだ阿呆ども!」

 男達を見下ろし、次に狙うは桧山。

 だが、その前に比堂が立ちふさがる。


 あまりに俊敏な速さで比堂が間合いを詰め。

 それ以上の速さで大和が間合いを引きはがし、警棒の攻撃を続けていく。

 

「貴様も! 良くも井上を投げ飛ばしてくれたな! 柔道家が女を投げるとは何事か!」

 そう叫び、喉元に警棒の一撃が吸い込まれ、比堂は悶絶し転がった。

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