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僕と異種族な君の青春日誌<前編>  作者: 有坂まの
二年生編
32/142

第2話 他クラスの転入生

「どう? 新しいクラスの方は」

「あー。まあ大丈夫だろ。お前はどうだよ」

「うん。なんとかなりそうかな」



 クラス替え当日から一週間が経った今でも、陽人は自分と登校を共にしてくれる。


 新しいクラスメイト、担任の教師の印象、修学旅行のこと。

 本当はその情報は、同じクラスメイト同士として共有し合いたかったのだが、仕方がない。



 願わくば。この先もずっと変わらぬ関係でいられたらいいのだが。



「そういえば、D組に転入生が来たって聞いたけど」

「……あー」

「外国人の男子が二人だって。どんな人たち?」

「……良い……んじゃねえか??」

「うん?」

「よくわかんねえけど。まだ」



 少し歯切れが悪い陽人。

 しかしまだ一週間だ。そんなものかと、リーフェルトはそれ以上踏み込むようなことを口にせず、相槌を打つ。



「お前のところもどうだよ。いるんだろ? 学年トップの―――」

「ランフランク君」

「あいつってどんな奴?」

「悪い人じゃないみたいだよ。あまり笑わないから、怖いって人もいるらしいけど。

 男女問わず友達も沢山いるしね。空手部ですごく強いんだって」

「へえ。文武両道ってやつか」

「正直もう、そこから勝てないような気がするけど。

 歩花が、自信を付けたいなら資格でも取ってみたらどうかって」

「資格なー」

「僕は僕で、頑張ってみようって思うんだ」




 彼女が背中を押してくれているのだから、精一杯努力したい。




(……それにしても、なんだか不思議な感じだなあ)




 恋人がいるだけで、何かに対する意欲がこうまで上がるとは。




(歩花が、優しいからかな―――)




 クールながら、彼女はいつだって優しく微笑んでくれる。

 できると言われればできる気がしてくるし、大丈夫だと言われれば、本気でそう思える。



「……駄目だなあ」

「……? 何か言ったか?」

「あ、ううん。ごめん、独り言」



 なんだかんだで恋人に甘えてしまっている自分に気付いて、情けない気持ちになるあまり、

 胸の内が声に出てしまったようだ。



 慌てて首を横に振り、

 リーフェルトは陽人に苦笑した。











 昼食時。

 リーフェルト、歩花、陽人、小夜の四人で屋上に集まり、

 皆各々で用意した弁当箱を見せ合う。


 今回、初めての弁当作りだというせいか、

 リーフェルトと小夜の二人は、どこか緊張した面持ちで座っていた。



「誰が誰のを食べるか、あみだくじで」



 そんな小夜の提案から簡単なあみだくじを作り、仲間内で弁当箱を交換する。



 リーフェルトのものを小夜が。

 歩花のものを陽人が。

 陽人のものをがリーフェルトが。

 小夜のものを歩花が。


 弁当箱を開いて自分たちの箸を手に取り、

 「いただきます」と礼儀正しく互いに言い合い、箸の先を突っ込んだ。



「うん! 美味しいよ、ガーシェル君」

「そう? 卵焼き、崩れちゃったけど」

「……小夜。このハンバーグは手作りか?」

「……あー。えっとね。本当は、別のものが入る予定でした」

「……『でした』」

「焦げちゃったから。ハンバーグとグラタンは冷凍食品ですぅー……」

「なるほど。でも頑張った方じゃないか」

「……なんでだろう。辰弥に言われると、ちょっとイラッとする」



 歩花を睨み、ぷぅ、と頬を膨らませる小夜。


 しかし彼女のそんな目に慣れている歩花は涼しい顔で眼鏡を中指で持ち上げ、

 もくもくと食べている陽人をちらりと見やった。



「陽人君。このから揚げ美味しいね」

「おう。から揚げとオムライスは自信あり」

「……それで陽人。僕の料理に対する感想はないのか」

「……あ? あー。普通」

「ある意味、何とも失礼な感想だな」

「仕方ないだろ……お前の味とかもう食べ慣れてんだから」



 幼い頃より一緒にいるからこそ、許されるコメントだろう。



 そうはわかっていても、リーフェルトにとってはやはり、陽人が羨ましい。

 『普通』だなんてさらりと発言できるほど、彼は今まで歩花の料理を沢山食べてきたのだ。



(……僕も食べたかったな―――)



 恋人の弁当を食べたくない男など、果たして存在するだろうか。


 和食で固められた彼女の弁当の、繊細な味付けがちょっぴり恋しいけれど。



(……でも、このオムライス美味しいな……)



 ライスの味付けが良い。

 包み方も綺麗で、流石、陽人も手馴れている。



「陽人君。このオムライスの作り方、いつか教えてくれる?」

「おお」



 自分で作ってまた食べたいと思えるほどに、彼の料理も美味しかった。




 皆が昼食を完食し、弁当箱を返し合った後、

 話の流れは昼食の感想から、それぞれの近況へと移っていく。


 リーフェルトと同様、皆と離れてしまった歩花も今のところは、

 なんとかうまく周りに溶け込んでいるようだ。



 歩花はふと思い出したように陽人と小夜を見て、




「そういえば、転入生はどうだ」

「ああ、もうサイテー」




 意外にも。冷たく言い放ったのは小夜だった。

 彼女はさも不快そうに、自分が持って来たお茶を傾けている。


 小夜の隣にいる陽人はといえば、彼女が転入生に嫌悪していることを知っているのか、案外冷静な顔をしている。




「……一昨日、私他の子と昼食食べたじゃない?」

「ああ」



 一昨日、リーフェルトは小夜抜きで、歩花、陽人たちと昼食を取った。


 小夜は交友関係が広いので、そういうことがよくあるのだ。



「ちょっと人気のないとこ行ったんだ。

 マキが相談したいことあるって言うから。日陰の目立たないところ。そしたら……」



 そこで小夜は声のボリュームを落とし。

 少し言いにくそうにしながらも、



「……変な声が聞こえたの」

「? 変な声??」

「お弁当食べようと思って蓋開いた途端、大きな声聞こえて……最悪」

「……つまり。学校でということか」

「そう。いきなりだったからびっくりして、マキとどうしようか迷ってたら声が止んでね。

 しばらくしたら、角から男子と女子が手を繋いで歩いてきて……」

「その男子が転入生だったと」

「……転入一週間で?」

「ね。最低じゃない……!?」



 普段穏和な小夜にここまで言わせるとは余程だと驚きつつも、

 気持ちはわかるので、リーフェルトは「そうだね」と同調する。



「もう一人の子もなんだかなあ。その男子といつもつるんでるみたいだし。

 隣の席なんだけど……」

「同じようなノリなのか」

「一昨日の子は、ワルっぽい感じ。

 もう一人の子は、見た感じはガーシェル君に似てるかな。ガーシェル君をもうちょっと子供っぽくしたみたいな」

「……へえ」



 自分のような人と言われ、リーフェルトは興味を抱く。


 一体どんな感じの男子なのだろうという、純粋な好奇心。



 そんなリーフェルトの傍ら、歩花は眼鏡を外し、涙に耐えるように大袈裟に目頭を抑えた。



「最低と思えるようになったなんて。成長したんだな、小夜」

「な、なに……?」

「中学時代の頃のお前は本当に……本当に男の趣味が酷かった。

 お前が傷物にでもなったら小夜のお父さんにどんな顔をすればいいのか……あの頃僕は胃が痛くて痛くて―――」

「なんで辰弥がそんな心配するの……!?

 そりゃあ、まあ……昔は、迷惑かけたけど。お父さんにどんな顔をすればとか、そこまで心配するのはおかしいよ!」

「いや、悪い虫がつかないよう守ってやってくれと頼まれてるから。君のご両親から直々に」

「ぇえっ……嘘! そういうことならイッチと同じ学校に行けばよかったよ! 女子高だし!!」

「おや。いいのかそんなことを言って。折角僕が認めるほどのいい男と会えたのに……。

 星野尾先輩と、もう話せなくていいのか?」

「……っ、あ……そ、それは、感謝してるけど……! 感謝してるけどさ……」



 幼馴染同士のやりとりを黙って見守っているリーフェルトの片耳に、

 「俺さ」という小さな声が不意に入る。


 振り向けば、いつの間にか陽人が自分の横に移動していたのだ。



「あんま、似てるとは思わねえんだけどなあ」

「? 転入生の人のこと?」

「おう。色が白いとか金髪とか、共通点はあるっちゃあるけど。

 まあD組だし。A組やB組と接点はないから、お前が気にすることはないかな」

「あ……うん」



 確かにそうだけれど。


 一週間で女子と行き過ぎた関係を結べる男子が、好きな女子と同じクラスにいるというだけで、心配にはならないだろうか。

 もし自分が陽人の立場なら、気が気がでないと思う。

 小夜が彼のようなタイプを嫌っているのが救いでも。


 幸い自分の方は、恋人に手を出される心配はない。

 違うクラスであるという以前に、歩花が女子だということを知っている人間は、学校内では陽人とリーフェルトのみなのだから。



「陽人君。何か困ったことがあったら、なんでも言っておくれよ。

 クラスが違っても、僕は君の味方だから。愚痴ったっていいからさ」



 すると陽人は少し目を見開いて、驚いたような顔をした。


 人間とヴァンパイア。色々立場の違いはあるけれど、彼には沢山世話になったし、感謝している。



 友人として同じ男として、助けになれることもあるはずだと、

 リーフェルトは強い気持ちで陽人に頷いた。











 五時間目の授業が終わり、合間の休憩時間に、リーフェルトは2年A組の教室を出てトイレに行く。


 用をたしていると人が入ってくる気配がしてそちらを見やれば、

 ガートルード・ランフランクがこちらに近づいてきている。



「やあ」

「おう」



 短く挨拶を交わしはしたが、特に会話はない。

 まだ気安い会話ができるほど、親しくはないからだ。



 手洗い場で丁寧に手を洗い、髪の乱れはないか、顔に何かついていないか、鏡を見て身だしなみをチェックする。

 六時間目も移動教室ではないため、焦る必要はないと悠長にしていると、

 後に用をたし終えたガートルードも隣に立つ。



 彼はあまり身だしなみなど気にしないのか、手を洗って、そのままトイレを後にした。



 トイレを出た後は二人とも向かう場所は同じなので、

 自然とガートルードの後を追うように、教室へとリーフェルトは歩を進める。




「……―――」




 すると向こう側から、日本人離れした目立つ二人組が歩いてきているのに気付き、

 思わず見つめる。


 褐色の肌をした黒髪の男子と、その彼とは対照的な、白い肌をした金髪の男子。

 ……同じ階を歩いているということは、同学年だろうか。



(……彼らが転入生かな……)



 すれ違いざまに耳に入ってきた会話を聞く限り、二人して六時間目の体育には参加しないらしい。


 外国人だということを除けば、まあまあ普通の学生だ。




(僕に似てる……か。じゃあ、歩花のタイプ――じゃ、ない。と思いたい……)


















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