2年生第1話 新学年
四月。
南実先高校の春休みは明け、一年生だった者たちは晴れて二年生へ。
青空が、生徒たちの新学期のスタートを祝福するように澄み渡り、
校庭を飾る桜たちが美しく咲き誇っている。
「今年も同じクラスだねー♪」
「やーだぁ、彼氏とクラス離れちゃったー!」
「きゃー! ユリー! 一緒のクラス!!」
「修学旅行一緒の班になろー! ねーっ!」
「おー。俺ら同じクラスじゃん、ヒデ!」
「おー」
掲示板で発表された新しいクラスメンバーの表を見上げ、
群がる生徒たちは喜んで手を取り合ったり、肩を落としたり。
「なーんだ、また陽人と一緒かー」
「……ぉう」
木塚小夜と笹永陽人の会話を背中に。
リーフェルト・ガーシェルは光のない瞳をして、掲示板の前で佇んでいた。
そんな彼の肩を、優しく叩いたのは二階堂“辰弥”。本名は、二階堂“歩花”。
見た目は少年だが、彼の能力でそう見せている―――本当はれっきとした少女の姿をした、リーフェルトの恋人である。
「安心しろ。……一人ぼっちは、君だけじゃない」
「……うん―――」
今年からは、リーフェルトがA組。歩花がB組。小夜と陽人がD組となる。
自分の素性を知らないクラスメイトたちに囲まれる、孤独な一年。
それを思うと泣きたいような気持ちになるが、自分の恋人もまた、自分と同じ試練をその身に受けるのだからくよくよしていられない。
「お昼、一緒に食べてくれる?」
「ああ」
「一緒に帰ってくれる? 一緒に遊んでくれる?」
「勿論」
「試験勉強も一緒にしよう?」
「……君の邪魔でなければな」
「歩花―――!!」
「辰弥だ」
感動に目を輝かせたリーフェルトに、歩花が一言冷静に訂正した。
「やほー、ガーシェル君!」
「やあ」
「あれ、ガーシェルも同じクラス?」
「うん。よろしく」
一年生の時も同じクラスだった他の生徒たちから声をかけられ、
笑顔で応えながら席に着いた。
すると近くの席に座っていた、また他の一年から同じだったクラスメイトの男子から、
「え。ガーシェルここ? A組??」
「うん。また同じクラス」
「えー、マジかよ! お前三学期期末学年二位だったべ?」
「? そうだね」
「外国人だってだけで目立つのによー、勘弁してくれよー。
また彼女できねーじゃん! 学年一位も同じクラスだっていうしさー」
「……学年一位―――」
目を瞬かせて呟いた時。
後ろの方から教室の扉が開く音が聞こえたと思えば、クラス内の空気が若干変化する。
女子たちのほとんどが途端にそわそわとし始め、
皆顔を突き合わせて、ちらちらとリーフェルトたちの後ろに目配せしだしたのだ。
「……?」
スポーツでもしているのか、がっしりとした体躯。
そして少し赤みを帯びた髪が、自然と目を引く。
「彼、本当に同じクラスなんだー♡」
「かっこいいー」
「私、今年頑張る! 勉強でわからないところ、聞きまくっちゃうんだから!
……勿論、うざくない程度に!」
「修学旅行一緒に行けるなんて……」
「ランフランク君と同じ班になりたーい!」
一番後ろの席に腰を下ろした、ランフランクと呼ばれた少年。
目つきが悪く、野生的な男くささを漂わせるその男子を見て、
「やっぱり」と思って首を傾けるリーフェルト。
(……男、にしか見えないよね……)
彼のことは、リーフェルトも無論知っている。
三学期期末試験。彼の点数を抜かそうと勉強を頑張っていたのだから。
フルネームは、ガートルード・ランフランク。
しかし“ガートルード”が女性名であるが故に、今まで遠くで彼を見つけられても、どうも頭の中で名前と顔が一致しなかったのだ。
(顔はちょっと、ラテン系っぽいけど……)
女子たちの視線に気付いているのか、気付いていないのか。
彼は自分の席に寄って来た友人らしき男子たちを見上げ、
ポケットに手を突っ込んだまま、雑談を交わしていた。
一方……時は経過し、SHR。
陽人、小夜がいるD組では、生徒たちに向けて、担任が転入生の紹介などを始めていた。
教壇の傍。陽人たちの前には、
長い黒髪にピアスをした褐色肌の少年と、
長いブロンドヘアを後ろに一つに纏めた白人の少年。
「ミリー・バークスです」
「シュガー・コフィでーす。よろしく」
目立つ新入りの外国人たちに皆が騒ぐ中。
クールに笑む褐色肌の男子と、愛嬌たっぷりな色白男子に、
陽人は目を瞬かせて、首を横に傾ける。
後に、担任の指示で出席番号順に予め空席になっていた小夜の隣に、シュガーが腰を下ろした。
女子顔負けの可愛らしい笑顔で、「よろしく」と声をかけたシュガーに対し、
小夜もにっこりと普通に微笑み返して、
「よろしく、コフィ君!」
「シュガーでいいよ!」
「じゃあ、シュガー君だね。私、木塚小夜。
……あ、木塚がファミリーネームで、小夜がファーストネームね?」
「OK! 色々教えてね、サヨ」
人懐っこい笑顔だ。
小夜の頭の中に、一年のとき同じクラスだったリーフェルトの顔が過ぎる。
彼をもっと明るくした、そんな感じの少年だ。
小夜は頷きながら、そんなことを思っていたが。
(―――同じ外国人でも、リーフェルトと全然違うんだなあ……)
頬杖を突いて担任の話を聞きながら、ぼんやり陽人は考える。
いや。そもそもリーフェルトは、人間でさえないのだが。
(まあでも。話してみりゃ案外良いかもしれないしな。自然に任せよ……)
SHRのチャイムが鳴り、去っていく担任を尻目に、
陽人は緩んだ緊張感から、大きな欠伸を一つ漏らした。




