第七話 私も願い事をしました
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「ど、どうしてそんな事を願うのですかっ…?」
震える声で問いかけると、目元を優しく細めながらバキルガムは答えた。
「俺ハ、ダレカニ殺サレテ死ヌ。ソレナラ、ミヤガイイ」
どうして………
「俺ガ死ンデモ、ダレモ泣カナイ……」
どうして………そんなに………
「ミヤニ殺サレルナラ……、最期マデ、ミヤヲ見テイラレル。……ミヤニ、見テモラエル」
幸せそうな顔をするの?
「ミヤガ俺ノコト、覚エテテ……クレル…」
幸せそうに微笑むの?
どうして………
悲しい願い事を、幸せな願い事だと思っているの?
(そんな悲しい願い事、叶えてあげられるわけないっ…)
恐ろしいほど綺麗な容姿。
それに似合わないカタコトな言葉遣い。
この二つを考えただけでも、私には想像がつかないほどの過去を背負っているのだろう。
貴方はこの世界でーーー、何を見て生きてきたの?
「バキ、私は……」
「ナニ…?」
「私はバキに生きていてほしいですっ…。だからっ…、その願い事は、叶えてあげられません…」
「…………ワカッタ。……ミヤガ、ソウ言ウノナラ」
「生きて、……いて、くださいっ…」
「生キル………。生キルヨ、ミヤ」
死を望んだ真っ直ぐな青い瞳が、ふわりと優しく笑った。
今まで見てきた誰の笑顔よりも綺麗だった。
そのせいで、その笑顔のせいで、堰き止められていた感情が思わず溢れて瞳を濡らす。
「ミヤ…、泣イテルノ…!?……ミヤハ、人殺ス、嫌ダヨネ……?ゴメンッ………」
何かを言いたくても言葉にならず、ふるふると顔を横に振って訴える。すると、バキルガムにぎゅっと抱き込まれて『ゴメン……、ゴメン……』と何度も謝られる。
謝って欲しい訳ではない、バキルガムが悪い訳ではないと、そう言いたいのに言葉にならなかった。
私は願いたいーーーー、神にではなく貴方の心に。
来年のこの日、貴方が願いたいと思える未来が
どうか、どうか、どうかーーーーーーー。
涙で滲む瞳で、夜空の星々の光に包まれるバキルガムを見つめる。夜空に負けないくらい綺麗な青い瞳に、私の願い事が届きますようにと静かに微笑んだ。
それに気がついたバキルガムが、優しく目を細めて言う。
「ミヤ…、風ガ冷タイ。……部屋ニ戻ロウ?」
「寒くなってきましたねっ…。戻りましょうか」
「送ル……」
ミヤを包み込んでいた腕が解かれ、部屋に向かって歩き出すと、バキルガムは嬉しそうに横に並んでついてくる。
バルコニーからミヤが寝泊まりする部屋までは距離が近く、直ぐに部屋の前に着いていた。
扉の前でしょぼんとした顔のバキルガムが挨拶をした。
「ミヤ……、オヤスミ」
「部屋まで送ってくれてありがとうございます。バキ、おやすみなさい」
部屋の扉が閉まる直前まで寂しそうな瞳に見つめられて、罪悪感を覚えた。
扉を閉めてからバキルガムの足音は聞こえなかったけれど、気配を消すのが得意なのだろう。
今日一日で色々な事があったせいか、ベッドに潜り込むと瞼が重くなり、直ぐに眠りについていた。
◇◇◇
ふかふかのベッドのお陰で、すっきりとした気分で目が覚めた。煌めく星々は姿を隠し、暖かな朝日がカーテンを明るく照らしていた。
何着か用意された服の中から、一番上の洋服に袖を通す。
「きゃっ……!」
平和な朝に、突然扉の前からメイドの小さな悲鳴が聞こえてきた。何事かと急いで部屋の扉を開けると、驚いた顔のメイドと目が合う。
「何かありましたか?」
そう尋ねると、メイドは下に視線を送り、謝り始めた。
「ごめんなさい。こんなところに人がいるとは思わなくて驚いてしまって…」
メイドの視線を辿り下を見ると、そこには扉の前で床に座り眠るバキルガムがいた。
「バキ!?」
「騎士団の格好に見えますが、お知り合いですか?こんなところで眠って、お酒でも飲まれて部屋を間違えたのでしょうか?」
メイドはそう言い『誰かに連れて行ってもらいましょうか』と通路を見回した。
扉の前で眠る青年の姿は、側から見ればメイドが言ったように見えるのだろう。だけど、ミヤにはわかる。この床で眠る青年はお酒なんて飲んでいないということが。
きっと昨日、足音がしなかったのは、扉を閉めた後もずっとここに居たからだったのだろう。
扉を閉める前の寂しそうな顔。
薄暗くて寒い場所にぽつんと一人蹲る体。
その姿を想像し、胸がズキズキと痛み出す。
罪悪感からバキルガムの冷えた体を両手で包み込んで、メイドに声をかけていた。
「すみません。運んでいただいた紅茶、この人の分も用意をお願いしてもいいですか?少し、部屋に連れて行きます」
「かしこまりましたっ!直ぐにご用意致します!」
メイドはバタバタとワゴンを押しながら、着た道を戻っていった。
腕の中で未だ眠るバキルガムに、声をかける。
「バキ、起きてください。ここは冷えるから、部屋の中に入ってください」
優しく肩をゆすると、長い睫毛が揺れて青い瞳が顔を出し、ぱちりぱちりと瞬きをした。
「ミヤ?………朝?」
「はい。もう朝ですよ。取り敢えず、部屋の中に入ってください」
「入ッテ、……イイノ?」
「いいですよ。体が冷えてしまってますから、部屋に入ってください」
そこまで言うと、バキルガムは静かにコクリと頷き立ち上がった。手を取り部屋の中のソファーまで誘導すると、バキルガムは素直に腰掛けた。




