第五話 騎士隊員に口説かれました?
ご覧いただきありがとうございます!
評価、ブックマーク、感想、レビュー、リアクションは執筆の励みになりますので、少しでも面白いと思っていただけましたら気軽に残してもらえたら嬉しいです!
案内された控え室で着替え、待機していた。
バキルガムに着せられた上着は脱ぎ、控えめな刺繍が施された踝まで丈があるワンピースに身を包んでいた。
(この上着、後で返さないとな……)
洗濯して返せたらいいのになと思いながらも、王宮に居候している身としては自由に何かをすることも気が引ける。
そっと匂いを嗅いでみると、ふわりと優しい花の香りがした。臭くないから大丈夫か…と自分を納得させ、後で返しに行くことにした。
用意された紅茶に口をつけていると、控室の扉が開いた。
「ミヤちゃん、着替えは終わったかい?」
団長さんがこちらに歩きながら聞いてきた。
「はい!終わりました。少し丈が長いですが、問題なさそうです」
「直ぐに着替えがあって良かったよ。あの格好を他のやつに見られたら……。いや、なんでもない。早速で悪いんだが他にも怪我人がいてな、治療してくれないだろうか」
「もちろんです!住まわせてもらう分は、働かせて下さい!」
「ありがとう!助かるよ」
『ひと休憩してからで構わないぞ』と団長さんは言い残し、部屋から直ぐに出て行ってしまった。
部屋を出る際に、扉の前に立つ従者と一言二言だけ言葉を交わしていった。
せっかく淹れてもらった紅茶だ。お言葉に甘えて、飲み干してから治療に向かうことにした。
爽やかな香りのアールグレイに似た紅茶は飲みやすく、不安に沈む心が落ち着きを取り戻していく。
(いい天気だな……)
部屋の窓から空を眺めて、呑気なことを思っていた。
◇◇◇
従者に案内された広い部屋には十数人の騎士がいた。
椅子に座っている軽傷の人、松葉杖をついている人、ベッドに寝たきりの人。
想像していたよりも多い人数に、扉の前で足が止まる。
「君がミヤか?話は団長から聞いてるぜ!先日の戦いでヘマしちまってさ……。今日で全員治せとは言わないから、傷が深いやつから治してやってくれよ!」
一番扉に近い場所に座っていた男性が、気さくに話しかけてきた。男性の言葉にほっと胸を撫でおろす。
部屋全体を見回して、人数と怪我の程度を把握する。
「部屋に入ってもよろしいですか?」
「もちろんさ!狭くて申し訳ないが、そっちにテーブルと椅子もあるから好きに使ってくれ」
男性の視線を辿ると、部屋の死角となっていた場所にテーブルと椅子が置かれていた。
「……うっ………!」
「ぐぅあ……、はぁ………」
部屋の奥へ入るにつれて、重傷者が痛みに耐える声が聞こえてくる。
(今日で全員の治療が終わらないとしても、痛みの緩和くらいはしてあげたいな…)
部屋の真ん中まで歩き、立ち止まる。
期待を込めた表情の騎士達に見守られる中、魔法を唱える。
「エリアヒール!!」
……………………。
……………………。
(やっぱり効かない!?なんで…?)
……………………。
「何だ?いまのは……。心があったかくなった?」
静まり返った部屋に、一人の男性がぼそっと呟く声が耳に届く。
(あれ…?光は出なかったけど、効いているのかな?)
そっと部屋の中を見回すと、全員が顔を赤く染めていた。
(どうして赤くなってるの!?!?)
心なしか、期待を込めた視線とは別に、熱い視線も感じるようになった気がする。
何とも言えない気まずい空気に小さく咳払いをして、今の魔法は無かったことにした。
仕切り直して、平常心を装い騎士に尋ねる。
「この部屋で一番重傷な方は誰ですか?」
「それなら、一番奥のベッドで横になってるやつだ!」
近くに座っていた騎士が答え、指で指し示す。
「ありがとうございます」
お礼を言いながら、一番奥のベッドへと移動する。
ベッドの上には頭に包帯を巻いた年若い男性が横たわっていた。小さく息を吐き、瞼を閉じて眠りについていた。
頬には薄っすらと涙の跡があり、痛みに苦しんでいたのだろうかと想像すると胸がギリッと痛んだ。
「失礼します」
聞こえてはいないだろうと思いながらも、一声かけてからそっと両手で包帯に巻かれた頭を包み込んだ。
ぽわっ……、ぽわっ………。
優しい小さな光が頭を包み込む。
「うっ…………………」
男性の息を吐く声が聞こえて、手を止める。
「ごめんなさい。痛みますか?」
男性の表情を確かめながら、慎重に尋ねる。
睫毛がゆるゆると動き、瞼の隙間から茶色い瞳が顔を出す。
「いや…、痛みが引いた気がする、よ…。貴方は…?」
茶色い瞳がミヤを見つけると、力なく微笑まれる。
男性のその表情に安堵して気が緩み、瞳に水が滲む感覚がした。こんな大勢の前で泣く訳にはいかないと、誤魔化すように笑顔をつくり答える。
「私はミヤです。怪我をされた人の治療に参りました。お休みのところに、突然すみませんでした」
「ミヤさんか……。女神の様な人だな………」
また力なく微笑まれると、男性の手がミヤの髪に伸びてきた。徐に髪を一房手に取られ、愛おしそうに見つめられる。
(えっと……、こ、この状況は……?)
髪を触られ、愛おしそうに見つめられて対応に困っていると、大きな声が飛んできた。
「ちょっと待ったあ!!おいジーク!寝ぼけてんのかあ?俺らの前でミヤを口説いてんじゃねえぞ!」
椅子に座っていた比較的軽傷な騎士が声を上げると、ジークと呼ばれた男性は声がした方に視線を動かした。
つられて周囲に目をやると、騎士達の鋭い視線がジークに向いていた。
「ああ、ごめん。皆もいたんですね。見えませんでした」
ジークはベッドの上から上半身を起こしながら何食わぬ顔でそう言うと、ミヤを見た。
「ミヤさん、今日は願い事をすると叶う日なんですよ」
「願い事が、叶う日……ですか?」
「はい。年に一度、神に願い事をすることが許される日なのです」
(七夕みたいな日なのかな……?)
こんなロマンチックの欠片も無さそうな国にも、七夕みたいな風習があったなんて……。
不思議でならないけれど、何となく想像はついた。
だけど、なぜこの状況でその話をされたのかは理解が出来ず、小首を傾げる。
「僕の願い事を、神が叶えてくれたみたいです」
「ジークさんの願い事を…?」
妙に熱い視線で見つめてくるジークの言葉に、疑問が増えて聞き返す。
「ミヤさん。貴方に会うことが出来ましたから」
聞けば聞くほどに意味が分からなくなりジークの表情を窺うと、花が綻ぶ様な眩しい笑顔を向けられた。
間近で受けた笑顔に心臓がドキッと大きく動き、じわじわと顔が熱くなる。
恥ずかしくなり視線を逸らすと、近くの騎士と目が合う。
「ストーーーーッップ!!!おいジーク!!いい加減にしろ!!」
「そうだそうだ!!ミヤさんは俺たちの治療のために来たんだ!お前のためじゃねぇ!!!」
「ミヤちゃんすみません!!他にも重傷者いますので、早めにお願いしてもいいですか!?」
甘い空気が漂い始めた二人の世界に、三人の騎士が割って入ってきた。
ジークがひっそりと舌打ちをする音が聞こえたけれど、それは聞かなかったことにする。
「重傷者の方は、どちらですか?」
騎士に呼ばれた方へ歩きながら尋ねる。
その場を離れてもジークが止めてくることはなかった。
「ミヤちゃんこちらです!」
案内された場所にはベッドに横たわる二人の男性がいた。
心の中で気合を入れて、ベッドへと近づく。
「任せて下さい!しっかり治しますから!」
ミヤの力強い言葉に騎士達の歓声が上がった。




