第四話 夢ではなくて異世界でした
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「ソウ…………。俺ヲ、ミヤノ恋人ニシテ?」
ゆらりゆらりと揺れる瞳の奥に黒い何かが棲んでいる。
(こ、これは断ったら殺られるのでは…!?)
このヤバそうな人と恋人にならないと、生きる道は無いのだろうか。これが夢では無いのなら、ここが何処なのかも聞かなければならない。
ちらりとバキルガムに視線を送ると、しゅんとした顔をしていた。この一瞬の間に何が?と考え出す前に、寂しそうな声がした。
「………ダメ……、ナンダネ。…………ワカッタ」
今回は引き下がってくれたみたいだ。何だか悪いことをしているみたいだけど、取り敢えず良かった。
無意識に小さく息を吐くと、後ろからまたスリスリと頬を擦り寄せられる。どうやら離す気は無いようだ。
「ところで、嬢ちゃんは何処から来たんだ?この王宮の中にどうやって入ってきた?」
ミヤ達の話を静かに聞いていた男性が問いかけてきた。
(ここは『王宮』なの………?)
意味がわからなくて、質問に質問を返していた。
「ここは何処ですか?」
「王宮の中の救護室だ」
「貴方たちは……?」
「ダビガラド王国の王国騎士団だ」
(いま、なんて言った……?)
「えっと………、もう一度よろしいですか」
「だから、ダビガラド王国の王国騎士団だ」
再度聞き直しても濁音が多すぎて国名が良く聞き取れなかったけれど、私がいる国ではないことは理解した。
と、言うことはーーー、これは夢ではない!!
夢では無いことが確定してしまった。
どうしよう、今すぐ帰りたい。
帰る方法を彼らは知っているのだろうか。
小さな希望を胸に彼らに問う。
「ごめんなさい!私、この国の人ではなくて、気がついたらここにいて……、帰る方法を知りませんか?」
「……は?帰る方法?そんなもん知らん!!薄々感じてたが、お前やっぱりダビガラド王国の人じゃないんだな」
小さな希望は一瞬で絶望へと変わった。
これからどうやって生きていけばいいのだろうかと肩を落とすと、後ろからぎゅうぎゅうと強く抱きしめられた。
「帰ラナイデ!!!………ミヤ……、嫌ダ!!」
バキルガムがふるふると首を振り、嫌だ嫌だと抱きしめる腕の力を強めていく。
「……いっ……………」
力の強さに顔が歪み、小さな声が漏れる。
「おいバキルガム!!ミヤちゃんが痛がってるぞ!」
すかさず団長さんが止めに入ってくれる。
その声にバキルガムがビクッと反応して腕の力が弱まった。
「ゴメン…………」
申し訳なさそうな声が耳元から聞こえた。
「まぁ、取り敢えず。ミヤちゃんはしばらく王宮に居たらいいんじゃないか?部下達の怪我を治してくれたなら悪い人でもないだろうし、今年は雨が多くて回復薬の薬草が不作で困ってたんだ。ロッディの話が本当なら俺たちも助かる」
団長さんはそこまで話して、バキルガムを見る。
「それに、バキルガムも番の近くに居たいだろ?」
ニカッと白い歯を見せて笑った。
団長さんの言葉にバキルガムは無言でコクリと頷く。
「ミヤちゃん、どうだ?」
優しい目をした団長さんに問いかけられる。
王宮を出ても行く当てがない。
それならば断る理由はなかった。
「わかりました。しばらく王宮でお世話になります」
「ああ、よろしく頼むよ。部屋は用意してもらうとして……」
ハキハキと話していた団長さんの声が段々と小さくなっていき、視線を泳がせはじめた。
ちらり、ちらりとミヤの足元を見ていた。
視線を下に移すと、ミニスカートが目に入った。
(スカートがどうかしたのかな…?)
団長さんの話が途中で止まって、部屋がシーンと静まり返る。不思議に思いながら待っていると、ふいにバサバサと大きな音が後ろから聞こえた。
条件反射で後ろを振り返ると、バキルガムが上着を脱いでいた。その上着をふわりと肩から掛けられる。そして袖を通され、前のボタンを閉められた。
長身なバキルガムの上着は大きく、すっぽりと膝下まで覆っていた。
「ミヤ………、俺以外ニ、見セナイデ……」
服の上から太ももを撫でられ、拗ねた声がした。
そこまでされて漸く、この国にミニスカートを履く文化は無いのかもしれないと思い至る。
バキルガムを怒らせても良いことは無いので、大人しく首を縦に振り頷いた。
ブカブカな服を着たミヤを見て、バキルガムは頬を赤く染めてまた抱き締めてきた。
「ミヤ………、カワイイ。俺ノ服着テル、カワイイ」
「おいおい、俺らの前でイチャつくなよ!虚しい気持ちになるぜ!……まっ、これからよろしくな、ミヤ」
ロッディに爽やかな笑顔で挨拶をされた。
「ハハハッ…、こんなバキルガムは初めて見たな。そういや、お前らは元気になったんだよな?それなら、稽古に戻ってくれ!ミヤちゃんは服の貸し出しと、部屋の用意があるから俺に着いてきてくれるか?」
「わかりました!」
「ミヤまたな〜〜!バキルガム副団長も行きますよ」
「…………嫌ダ。ミヤ……、一緒ガイイ」
「ダメですってば!また後で会えますから!」
「………ワカッタ。……ミヤ、アトデ、会イニクル」
元気な男達四人としょぼんとしたバキルガムが救護室からぞろぞろと出ていった。
その後ろ姿を見送り、反対方向の廊下を団長さんと歩く。
「そういや……。俺が部屋に入った時、ミヤちゃんベッドの上で抱き合ってなかったか?あいつらに何かされてないよな?男ばっかの部屋に居たんだろ?」
「あ…えっと、あれは………」
(四人に告白されてましたなんて言えない…!)
モジモジし始めたミヤに何かを察したのか、団長さんは深くは追求せず別の話題を振ってきた。
「ミヤちゃんがバキルガムの番か……。大変だと思うけど、仲良くしてやってくれ」
何とも言えない顔をした団長が、ミヤを横目で見た。
「はい………」
どう返答したらいいかも分からず、力なく頷いた。




