第十話 騎士達の様子がおかしいです
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バキルガムの青い瞳の中に潜む黒い影に危機感を覚え、頭で考えるよりも先に手が動いていた。
気づけば腕の中で抱き止めていた騎士は手から離れ、代わりにバキルガムが腕の中にいた。
「バキ、落ち着いて下さい!治療していたときに体勢を崩しちゃっただけですから!」
「「「「「……………え!?」」」」」
(((((いま、ミヤ(ちゃん)があの副団長を『バキ』って愛称で呼ばなかったか…!?)))))
怯えて一切声が出せなくなっていたはずの騎士達が、ミヤの発言に驚きの声を発していた。
全員が同じことに衝撃を受けて目を丸くする。
「えっと…?」
一斉に驚かれたことに戸惑い、部屋の中の騎士達を見回す。何かまずいことをしてしまったのかな?と騎士達の表情を窺っていると、寂しそうな声が間近から聞こえた。
「ミヤ…?ダレヲ見テルノ?」
地を這う声を出した人とは思えないほど、弱々しい声と不安そうな顔をしたバキルガムが見ていた。
攻撃的な態度を取ったと思ったら、今度は子犬の様な態度を取られて母性がくすぐられてしまう。
「バキはあたたかいなと、思っていただけですよ」
だから、こんな言葉が口から出てしまっていた。
バキは今日も生きている。
それを実感させてくれるこの体温が愛おしい。
「ミヤ……。会イタカッタ……」
「「「「「……………っ!?」」」」」
(((((……あの冷酷騎士の副団長が甘えている!?!しかも、笑った!?!?)))))
数時間前に会ったばかりなのに、目元を細めて嬉しそうな顔を見せてくれる。
バキルガムが頬に擦り寄ってくる姿の後ろに、目を見開く騎士達の顔が映り込んだ。
(やっぱり騎士様たちの様子が変だわ…)
騎士達の様子が気になりつつも、バキルガムを放置することが出来ない。
そういえば、どうして此処にバキルガムは来たのだろうかと不思議になり確認をする。
「バキはどうしてここに?」
「休憩中、ミヤヲ見ニキタ」
「午前の訓練が終わったのですね!昼食はもう食べましたか?」
バキルガムはコクリと頷くと、ミヤを抱き締める。
「お話中にすみません、副団長。ミヤさんとはどういうご関係で?」
一連を横から見ていたジークが、控えめな声で二人の世界に割り込みバキルガムに問いかけた。
(((((ジーク!よく聞いてくれたな!!)))))
同じく一連を見ていた騎士達が、心の中でガッツポーズをした。
全員の視線がバキルガムに注がれる中、ミヤの頬に擦り寄せられていた顔がむくりと上がる。
それから騎士達に睨みを効かせた後に、ジークのところで視線を止めた。
「ミヤハ、俺ノ番ダ」
部屋の全員に聞こえる声で、はっきりとそう告げた。
(((((ミヤ(ちゃん)が副団長の番!?)))))
今日何度目か分からない衝撃が騎士達を襲い、恋心を砕かれた者達が肩をがっくしと落とす。
それとは対照的に涼しい顔をしたジークが、まだ視線を合わせているバキルガムに言った。
「番なだけなのですね」
含みのある言葉に、バキルガムの目つきが鋭くなる。
二人の視線が絡み合い、バチバチと火花が音を立てる中、団長がやって来た。
「バキルガム探したぞ!そろそろ午後の訓練始まるぞ!」
扉の方から飛んできた大きな声に、バキルガムの耳がぴくりと動き、しょんぼりとした顔に変わる。
「ミヤ……。マタ後デ……」
そう言いながら、ミヤを抱く腕の力が強まった。
「バ、バキ?行かなくて大丈夫ですか?」
「行ク………」
もっと腕の力が強くなる。
「バキ……?あのーー」
「バキルガム!!!ミヤちゃんに会うの禁止するぞ!!早く訓練に戻れ!!!」
どでかい声に遮られて、呆れ顔の団長がズカズカと部屋の中へと入ってくる。
ミヤを抱く手がビクッと大きく跳ねて、拘束から解かれる。
「ミヤ………」
何かを言いたそうな顔で名前だけを呟かれ、寂しそうな背中が部屋から遠ざかっていった。
やっと訓練場へ向かった部下にため息を吐いた団長が、ミヤの方を振り返る。
「はぁ〜、しょうがねえなぁ、あいつも。ミヤちゃんごめんな色々と」
「い、いえ!私は大丈夫ですよ!」
団長はミヤの表情に安堵した顔をすると、部屋の騎士達を見回してニカっと白い歯を出して笑った。
「治療も終わったみたいだな!ありがとな、ミヤちゃん」
「こちらこそ、皆様のご協力のお陰で無事に終わりました」
「そんな堅苦しくしないでくれ、ミヤちゃんは俺らの恩人なんだからさ!」
「わ、わかりました!」
団長のどっしりとした雰囲気と優しい言葉に救われ、精一杯の返事をする。
「そうだ、ミヤちゃんに話があってさ。昼食摂ったら、団長室まで来てくれるか?」
「はい。わかりました」
(話がある……?ここで言えないことなのかな?)
軽く言われた団長の言葉に不安が過ぎる。
落ち着いた返事とは裏腹に、心臓はドクドクと嫌な動きをしていた。




