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【第四話】字が書ければ何とかなるって母さんが言ってた!


「カール様。この間お話しした我が家で行う茶会の件ですが」


 学園近くにあるアイゼンハルト伯爵家の邸宅の一室で、フリーデリケは婚約者であるカールと親交を深めていた。

 彼女の言う「茶会」には、社交の練習も兼ねて同世代の子女を招く予定であった。


「ああ! これからも仲良くしたい友人を呼ぶんだよな」

「……概ねその通りです」


 広義では合っている。

 フリーデリケは決して、決して、説明の義務を放棄した訳ではない。難しい言葉を詰め込むよりは、噛み砕いて理解させた方が良いと考えたのだ。


「カール様には皆様に送る招待状を書いていただきたいのです。まずは一通、試しに──」

「わかった!」


 勢い良く返事をしたカールはガサゴソと鞄からペンと便箋を取り出し、その場で文面を考え始めた。

 フリーデリケは「試しに自宅で書いてきて欲しい」と伝えるつもりだった。だが本人がやる気であるならば、その言葉を呑み込み、見守ることにした。


◇


「よし、できた!」


 カールがにこにこと差し出した紙に、フリーデリケは目を走らせる。

 彼女は「なるほど」とつぶやくと、しばし思案した後、こう続けた。


「招待状の文面としては、やや素直すぎるように思います。私(わたくし)が表現を改めますので、今回はそれを使用いたしましょう」


 カールの素直なうなずきに、フリーデリケは手本となる文面と宛先の一覧は後日渡すことを告げた。

 そして彼女にしては珍しく、少し迷ったような素振りを見せてからカールに尋ねた。


「カール様は非常に整った字をお書きになりますが、ご実家の方針なのですか?」


 カールは小首をかしげた。

 質問の意味がよくわかっていないらしい。


「うん? んー、母さんが『字は丁寧に書きなさい』っていつも言ってたんだ」

「左様ですか」


◆


 時は遡り、数年前のヴァイマン伯爵家。


 ヴァイマン伯爵から受け継がれた『ぽやんの種子』は、その子どもの代で大輪の花を咲かせていた。三男であるカールは立派なぽやぽや少年に成長したのだ。


 かねてより危機感を覚えていたヴァイマン伯爵夫人は、貴族としての心構えを何度も何度も彼に言い聞かせてはいたものの、ついぞ『ぽやん花』の開花を阻むことはできなかった。


「カール、よく聞くのよ」


 夫人はある日、カールの両肩をがっしりと──貴族夫人の握力とは思えない程の強さで掴むと、真っ直ぐ彼の瞳を見つめた。


「素直なのは貴方の美点だけど、貴族としては弱点になるわ」


 だからね──


「字だけは、丁寧に書きなさい。綺麗な字が書ければ、たとえ平民になっても何とかなるはずよ」


 その場に居合わせた長兄と次兄がつぶやいた。


「……目が据わっている」

「ガンギマリじゃん」


 ぐるりと回った母の目が兄たちの姿を捉える。


「お前たちも手伝いなさい。いいわね」

「「怖っ」」


 そこに隠された母の想いを、にこにこしていただけのカール少年は知る由もなかった。


 そしてそれが。

 あのような形で実を結ぶことになるとは、ヴァイマン家の誰一人として、思ってもみなかっただろう。



完

名付けました(今更)

ヴァイマン家

●父:ヨアヒム

 なんとか威厳を保っている。ぽやんの種保持者。

●母:アマーリア

 男四人(息子三人と夫)を育て上げた。

●長兄:ゲオルグ

 基本真面目。母の血がぽやんの種を駆逐した。

●次兄:ハインリヒ

「ハインツでいいぞ〜」ぽやんの種変種。

 外面「これはアイゼンハルト嬢、ご無沙汰しております」(爽やかスマイル)


この番外編は一旦ここで終わりにしようと思います。

本編『旦那様のご嗜好にはお付き合いできませんので』も含めて、読んでくださった皆さん、ありがとうございました!

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