電池と呼ばれた少女(命の分配)
私がこの力に気づいたのは、七つの冬を数えた年だった。
母が倒れた夜、枕元で泣きながら手を握ったとき、母の頬にうっすらと赤みが戻った。
代わりに、私の指先が氷のように冷たくなった。
翌朝、村の長老が家を訪ねてきた。
母の顔色を見て、次に私の手を取り、しばらく黙った。
そしてこう言った。
「この子は"器"だ。命を分けられる。これは神の恵みじゃ」
恵み。
その言葉を、私は長い間、疑わなかった。
最初に分けたのは、老いた馬だった。
農耕に使う大事な馬が立てなくなって、私が手を当てたら、翌日にはまた畑を歩いていた。
村の人たちは拍手して、私の頭を撫でてくれた。
次は隣家のおじいさん。
咳が止まらず、もう駄目だろうと言われていた。
私が三日通って手を握り続けたら、おじいさんは起き上がって粥を食べた。
「ありがとう」と言われるたびに、胸が温かくなった。
自分には価値がある。
自分は必要とされている。
その実感だけで、指先の冷えは気にならなかった。
でも、いつからか「ありがとう」は消えた。
代わりに来るようになったのは、命令だった。
「東の牧場の牛が弱っている。明日、朝一番で行きなさい」
「領主さまの奥方が産後の肥立ちが悪い。馬車を出すから、すぐ支度しなさい」
断れなかった。
断る理由を、誰も認めてくれなかった。
だって「恵み」なのだから。
神に与えられた力を出し惜しみするのは罪なのだと、長老は繰り返した。
十二の年に、井戸の水面に映る自分の顔を見て、息が止まった。
同じ年頃の子たちは頬が丸く、髪に艶があった。
私の顔には深い隈が刻まれ、髪は白いものが混じり始めていた。
四十歳を過ぎた女のように見えた。
命を分けるたびに、私の時間が削られていたのだ。
村の大人たちは全員知っていた。
でも誰も、私には教えなかった。
ある秋の日、旅の薬師が村に立ち寄った。
薬草を売り歩く老人で、各地の病を診てきた人だった。
薬師は私を一目見て、荷物を落とした。
「この子、見た目は十二だが、体の中はもう五十を超えている。このまま続けたら、二十歳を待たずに老衰で死ぬぞ」
長老が薬師の袖をつかみ、小声で言った。
「余計なことを言わないでくれ。この子のおかげで、村は飢饉も疫病も乗り越えてきたんだ」
薬師は長老の手を振り払った。
そして私の前にしゃがみ、目線を合わせて、静かに言った。
「お前の命は、お前のものだ」
たった一言だった。
でもその一言を、生まれてから一度も聞いたことがなかった。
薬師は続けた。
「誰かのために使うことは尊い。だが、いつ、誰に、どれだけ分けるかを決めるのは、お前自身でなければならない。それを他人が決めている時点で、お前は人間じゃなく道具として扱われている」
その夜、藁の寝床で天井を見つめながら、初めて泣いた。
悲しさからではなかった。
怒りでもなかった。
自分の命について、自分で考えていいのだと初めて知った。
その安堵が、涙になって溢れた。
翌朝、私は村を出た。
荷物は薬師がまとめてくれた小さな袋一つだけ。
長老が門の前で叫んだ。
「お前がいなくなったら、村はどうなる。次に誰かが病に倒れたら、誰が助けるんだ」
私は答えた。
「私がいなくても人が死なない方法を探してこなかったのは、あなたたちです」
薬師の荷馬車に乗り、丘を越えたとき、朝日が麦畑を金色に染めていた。
生まれて初めて、朝日を綺麗だと思った。
命を分けることをやめたわけではない。
ただ、誰に分けるかを自分で決めると決めた。
それだけのことだ。
それだけのことが許されなかった。
あの村を出てから二十年が経った。
今、私は港町の片隅で小さな診療所を開いている。
来る人は選ばない。
金の有無も問わない。
でも、強いられることは、もうない。
昨日も一人の老人が訪ねてきた。
「すまんが、少しだけ分けてもらえないか。孫の顔を見届けるまででいい」
私は微笑んで答えた。
「いいですよ。でもその代わり、お孫さんが生まれたら私にも見せてくださいね」
老人は目を丸くして、それから笑った。
「こんな頼み方をされたのは初めてだ」
私の指先は、もう冷たくない。




