02解雇勇者はやけ食いをする
2話です。
誤字修正しました。
ここは剣と魔法の世界アシェム
この世界には時々魔王が現れ、世界を滅ぼそうとするのでした。
そんな魔王と対をなすのは勇気と力を持ち、運命に導かれた者、つまり勇者です。
勇者の存在は賢者によって予言され、姿を現し、賢者から力を授かります。
そして勇者は仲間である魔法使い、僧侶、戦士とともに魔王を倒し、世界を平和に導いたのです。
めでたしめでたし
…この物語はアシェムの人間、とりわけ代々勇者を輩出しているノエル王国の国民は幼いころに一度は聞き、また次の世代にと語り継がれている物語だ。
例に漏れず僕も、幼少期にこの物語を聞かされて勇者に憧れた人間だった。
普通の子供なら一度は勇者に憧れるものだ。が、そんなものはほとんどが一時の感情であり、
大半の人間は他に新たな夢を描き、現実的な夢を見つけ、又は挫折をして
凡庸だが幸せな人生を歩んでゆく。
しかし僕は違った。
無謀にも勇者になりたいと強く望み、本気で勇者になるために多くの時間を費やして力を研鑽した。
そして王国の賢者から力を振るう術を学び、王様にも認められる勇者となった。
のに、
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「はぁーあ…。」
僕、元・勇者のマインは宿のベッドに横たわり盛大な溜息を吐いた。
突然僕だけが王宮に呼ばれたと思ったらこのざまだ。
ため息を吐かないはずがない。
まさか勇者を解雇になるとは思ってもいなかった。
たしかに僕は歴代の勇者に比べるとまだまだ弱い。
先日も魔王軍の四天王と戦い、どうにか辛勝はしたものの、
仲間を守り切れず負傷させてしまったばかりだ。
それについて咎められると思い、おっかなびっくり王宮に向かったのだが
告げられたのはまさかの解雇宣言。
吃驚して固まっていたら、王様に淡々と理由を説明されたが
その理由がなんとも正当で、小心者である僕は反論さえも叶わなかった。
しかし、それにしても、
「召喚者、かぁ~。」
僕は玉座の間にいた黒髪黒目の少年を思い浮かべた。
召喚者—その名の通り異界から召喚された者の名称だ。
時々どこからか現れる彼らは強い力を持ち、この世界を導いてきた。
まさに神話的存在。
―そんな力をもつ人間が魔王出現の頃に現れたのだ。
彼、異装の少年が勇者にならない理由などない。
納得の理由と高位貴族の圧から一つ返事で勇者を解雇されたわけだが、
僕は今猛烈に悩んでいた。
「どうアイツらに伝えるべきかな…。」
そう。この事実を仲間はまだ知らないのである。
本来なら仲間たちも王宮に呼ばれるだろうが、
仲間の一人である魔法使いが四天王に怪我を負わされたので
彼女の治療のついでに全員が短期休暇を取っていた。
だから僕、勇者マインだけが王宮に招かれたのだ。
そのうえ解雇にされたのは僕だけで他の仲間たちは新しい勇者
—召喚者とそのままパーティを組むのである。
そしてその事実は僕から告げなければいけない。
(気が重い…。)
パーティメンバーには先程、伝達の魔道具を使用して、
『話があるので王都に集まってほしい。』
と報告した。きっと明日の夜には仲間たち全員が王都に集うことだろう。
それまでは何をして過ごそうか。そう思ったものの何も手につかず、
僕は昼に勇者解雇宣言をされてからずっと宿のベッドで横になっていた。
目が冴えて眠ることもできない。
一歩も動きたくない。
これからのことは考えたくもない。
だが喉は乾くし腹が減る。
僕は現実逃避をして今の問題である空腹を片付けることにした。
僕はベッドからのそりと体を起こす。何時間横になっていたのだろうか。
木の戸がついた窓を開けると空はすっかり暗くなっていて
王都の石畳の路には明るい行燈を掲げた様々な屋台がひしめき合っていた。
「【水鏡】」僕は魔法を行使して全身鏡を出現させる。
そこに映った僕はあまりにもひどい顔をしていた。
服も髪もくしゃくしゃ。
頬にはベッドのシーツの跡がくっきりとついていて、
顔は青白く表情には悲壮感が漂っていた。
元ではあるが勇者にはあるまじき様相だ。
「これじゃあまるで屍だな。」
一人自嘲する。
せめて服くらいは変えようと思い、
【魔法収納】から替えの服一式を取り出す。
手早く着替えた僕は静かに宿から出て、街に繰り出した。
勇者とはいっても顔は割れていないのでいつもの店で飲んでもいいのだが、
今日に限っては知人には一切会いたくないので
いつもは行かないような王都でもはずれのほうに向かうことにした。
はずれのほうといってもさすがは王都、どの店も賑わっていた。
いつもなら大衆酒場で仲間たちと楽しく飲み食いするのだが、
今日はそんな気分でもないので一人で静かに飲める店を探す。
少し歩くと他の店と比べると照明の少し落ち着いた店を見つけた。
僕は建付けの悪い店の戸を開く。
店の中は存外広く、十数人の男たちが食事をしていた。
店は賑わってはいるが騒がしいわけでもなく、
皆節度を守って酒と食事と会話を楽しんでいた。
僕は店の中でも端の一人席に座った。
テーブルにはメニューの書かれた紙が立てかけられていたのでそれを手に取る。
僕はその中から度の強い醸造酒とそれに合うつまみ、腹が膨れそうな料理を
いくつか見繕って注文した。
少し待っていると先に酒と肴が運ばれてきたのでそれをちびちびやりながら
メインディッシュを待つ。酒の追加を注文して少し時間がたつと、注文した牛のローストと
パン、野菜のスープが注文したエールと伝票とともに運ばれてきた。
僕は酒もほどほどに食事を始める。
出された食事はどれも温かくておいしかった。
エールは氷魔術でも使用したのかとても冷たく、この店の質の高さが伺えた。
お腹が空いていた僕はあっという間に食事を済ませ、
追加で頼んだ蜂蜜酒を飲みながら今日のことを振り返った。
思い出して眩暈がし、蜂蜜酒を流し込む。
甘くて濃い酒精が喉を通り、通ったところが熱くなる。
僕はしばらくそうして焦燥を誤魔化した。
…解雇されたといっても、しっかりと報酬は貰っている。
それも今後の人生、贅沢をしすぎなければ十分幸せに生きていける額をだ。
どこか、僕のことを誰も知らないのどかな田舎でゆっくり楽しく平和に過ごすのもいいかもしれない。
かわいくて料理上手な妻をもらって、子供と農作業をしながら他愛ない話をして年を重ね、
家族に看取られて死ぬ。
それが一般的な、普通で凡庸で、でも幸せな人生かもしれない。
けどそれでいいのか?
僕は自問する。
(いいわけない。)
ぼやける頭ではっきりとそう思った。
勇者にあこがれていたころの自分は絶対にそんな選択はしない。
僕は勇者になりたくて、ここまで頑張ってきたのだ。
夢が破れた今でも何かを成し遂げたいと強く願っている。
(じゃあなにをすればいいのだろう。)
もう勇者に戻ることはできない。
この世界はもちろん僕だけが生きているわけじゃない。
王や召喚者の面子だってあるのだ。
一度引いた手前、戻ることはできない。
(やりたいことを見つけよう。)
僕は今まで勇者になるために、勇者として人生を全うするために生きてきた。
それ以外にやりたいことなどなかった。
それはある意味、勇者というものに囚われていたのかもしれない。
勇者ではなくなった今、今までの道からも新しい発見があるかもしれない。
(また一から始めるのもいいかもしれない。)
酒のせいか考えも明るくなってきた僕は
前を向いて全く新しい人生を歩んでいこうと決めた。
上機嫌のままに残りの酒を飲み干し、勘定をして店を出る。
街はだいぶ静かになり、空に星が輝いていたのだった。
実はこの時の僕はかなり出来上がっていたみたいで、
泣いたり笑ったりしながら次々に酒を開け、これまた恐ろしいスピードで杯を空にしていたので、
ウェイトレスが訝しんでいたということをのちに知るのだった。
文章が下手なのはあしからず…。
週一投稿目指せるように頑張っていきたいです。




