再会
……。
…………。
……………………。
ここは?
俺は目を覚ますと、ここが何処だかわからなかった。
見覚えのない天井。
四角く区切られた部屋は清潔で、ひとつある窓からは光とともに風が流れ込んできていた。
少し視線を落とすと、見覚えのある銀髪の少女が俺の寝ているベッドの腰の辺りに突っ伏す形で寝ていた。
シフォンだ。
俺が状態を起こすと、起こしてしまったようで、眠そうに目を擦りながらシフォンも起きた。
「あっ、恭介、良かった、目を覚ましてくれて」
シフォンが安堵の表情で声をかけてくれた。
その顔には疲労の色が見てとれる。
そうだ。
俺は魔王ベールールと戦いの最中で、ハーメルとかいう女性の黄金級の勇者に邪魔されて…………。
だめだ。そこから記憶が途切れている。
「シフォン、……今はいつだ? あれから俺はどうなったんだ?」
俺はベッドから飛び起きると、シフォンに質問を連発する。
「恭介、落ち着いて。……大丈夫、あのあとあいつらは戻ってきてないし、簡易の橋もかかったから、他の街からの応援も駆けつけてもらえて、水上都市もようやく落ち着いてきたところ…………因みに、恭介はあのあと倒れるように意識を失って2日寝てたの」
「そうだったのか」
少し現状がわかってきて、若干落ち着いた気がする。
それにしても移動や戦いで動きっぱなしだったし、最後は白金級の最高奥義の神衣まで纏ったわけで、ぶっ倒れたってのは俺的にも不思議ではない。
無理しすぎだ。
神衣化がどこまで負担になるのかわからない以上、今後は気を付けねば。
敵の前で眠りこけるとか冗談じゃない。
「他のみんなは?」
「動けるなら会いに行って上げたら、みんな心配してたし」
「そうするか」
ひょいと向きを変えようとしてふらつく。
「恭介、あぶないっ!」
「さ、サンキュー、シフォン」
俺を支えるためにシフォンが抱きかかえてくれる。
シフォンの顔が近い。
マジックブーストのために幾度となく唇を重ねてきた俺たちだが、戦い以外でこんな近距離になることもそうはない。
落ち着いた場所で見るシフォンはやっぱり美少女だ。
魔王ベールールとの戦いで死ななかったからこそ、こうしてまた見つめることができた。
なんだろ、これは結構良い雰囲気じゃないのか?
このまま一歩進んでも許されそうな感じ。
俺の手がシフォンの肩に触れた、その瞬間。
グウーウゥゥゥー。
うん、そうだよな。
腹へったぁ。
まあ、2日も飲まず食わずでいたのなら、腹が空いてても不思議はないよな。
グウーウゥゥゥーギュルルゥゥゥ。
「…………」
「…………」
今のは俺ではない。
俺より盛大な腹の音。
シフォンが恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「とりあえず、飯にするか」
「うん」
俺たちには良い雰囲気より食事のほうが大事みたいだ。
近くの部屋で待機してくれていた、みんなと合流するために部屋を出た。
窓から見える水面の景色でここが水上都市であることを認識する。
街の方にいっているエクアを除いて、ソニア、ハル、それに俺の作った転移門を通りワザワザ魔都ミリハイムから来てくれたというレオナが暖かく俺を出迎えてくれた。
「キョースケ、良かったぁ。目が覚めたのね」
「兄貴、心配しましたよ」
「キョースケ、あなたはまたいろんなことに首を突っ込んで、もう。避難する人を受け入れるのも大変だったんだから」
「悪い、心配かけた」
そう良いながらも嬉しくなる。
俺にもこうして心配してくれる奴等がいてくれるなんて……。
「ところで食事にしようと思うんだが、どうだ?」
「食べる(ます)」
全員賛成。
「で食堂は?」
「それが厨房はあるんですが、調理人たちは避難したままでいないんですよね」
「じゃあ、自分等で作るか」
「了解♪」
シフォンたちは厨房に移動すると調理を開始する。
俺も何かしようかと声をかけるが、起きたばかりだしゆっくりしておけと追い返された。
ドカン、バシャン、ガラガラガシャーーーン
およそ調理が順調に進んでいるとは思えない音が聞こえてくる。
「あいつら、大丈夫か?」
やっぱり、調理に参戦した方が良いんじゃなかろうか?
そう思いながら俺が椅子に腰かけて待っていると、ドアが開き誰か入ってきた。
「あんた、無事だったのぉ!」
「良かったな」
一組の男女。
それは白金級の勇者ロンギヌスとその使い手の少女マリアだ。
「おう、お前らも無事だったんだな」
「まあね」
マリアは可愛くない態度だが気にしない。
元々、こいつらに敵意はあっても好意はなかったし、実際に魔王との戦いで役にたったかと言われたら微妙だ。
馴れ合う必要はない。
だが、せっかくこうして再会できたんだ。
言いたいことを言わせてもらうか。
「なあ、ひとこと言わせてもらっていいか?」
俺が声をかけると少しマリアの表情が強張ったような気がする。
だが、俺は気にせずに言葉を紡ぐ。
「お前らが駆けつけてくれて助かった」
「はあぁ」
俺の心からの感謝の言葉に対し、マリアはキョトンとしている。
あれ? なんだこの反応は……。
そんなに意外だっただろうか?
「あんたバカぁ?」
この暴言、どうやら意外だったらしい。
「なんで、あたしたちにお礼を言うのぉ? あたしたちはあんたから魔王の魂を奪っていったんだよぉ?」
「それはそれだ。お前らがあの魔王ベールールとの戦いのときに、あのタイミングで来なければ俺たちは確実に殺されていたからな。人として礼を言うのは当然だろ?」
「……むぅ」
助けられたら礼を言う。
当然じゃないんだろうか?
マリアは難しい顔をしている。
「あたしはてっきり奪った魔王のことでなんか言われるのかと」
「それもキッチリとあとで言わせてもらうから安心しろ」
「やっぱり」
「良いじゃないか返してやれ、マリア」
様子を見守っていたロンギヌスこと、ロンがそう言うと、マリアが石を差し出してきた。
間違いない。
うちの魔王少女ミリーの魂を奪った魔性石。
それを差し出してきた。
「この中にミリ-が?」
「ああ、眠っている」
「でも、なんで急に返す気になったんだ?」
俺は当然の疑問をぶつけてみる。
「神衣化が出来る君たちが本気で奪いに来たら、マリアと自分では現状のところ敵いそうにない」
「そんなに何度も神衣化ができるとは思えないが? それに俺は寝ていたわけだし、いくらでも殺せただろう」
逃げるって選択肢だってあったはずだ。
「…………まあ、君の言う通りだ。そうだな、必要なくなったからというのが一番の理由かな」
わからない。
水上都市に来て魔性石が都市を浮かすほどの力もある石というのはわかった。多分、貴重な石なんだろう。
ワザワザ、異世界から現代日本まで来て奪った魔王の魂を……
ガラガラガシャーーーン、パリーン
厨房の方からけたたましい音がする。
間違いなく、なにかが起こっている。
この音を聞いて、まともなものが出てくるとは到底思えない。
弁当屋でバイトしていた俺の前で良い度胸だ。
「これは返してもらう。サンキュー。そんでお前らはそこで待ってろ! 話はまたあとだ!…………おい、お前ら俺に食材をよこせ!」
俺は、あっけにとられるロンとマリアを残し、厨房に駆け足で向かった。




