水上都市の戦いの終わり
俺が神衣を纏い、魔王ベールールに安い挑発をかける。
すると、俺たちにモンスターをけしかけ、ふてぶてしくその様子を見ていた魔王ベールールも腰を上げた。
「ふ~ん、チョイと面白くなくなってきたな……」
魔王は、ご機嫌がやや斜めなご様子だ。
そんな様子を見ながら、俺はニヤリと笑いかける。
「魔王ベールールさんよ。俺は、ようやく面白くなってきたよ」
「……」
格下だと思っている奴からのなめきった言葉。
これは相当イラつくはずだ。
さて、魔王はどうでるか。
「しょうがねぇーな。…………基本的に優しい俺だが、お前はここで潰しといたほうが良さそうだな」
「…………」
魔王もようやく本気になってくれたか。
俺の挑発に乗って、少しでも冷静さを失ってくれたら嬉し……。
「な~んて言うとでも思ったか♪」
魔王は、ペロッと舌を出しつつ、飄々とした態度を崩さない。
どこまでも喰えない奴だ。
「まあ、一応戦ってはやるよ」
「始めるか」
「そうだな……っと♪」
魔王がさっきの指鉄砲のポーズではなく、手をダラリと下げたまま空気の球をノーモーションで撃ってきた。
そんなこともできるのか!
……っていうか、何で俺さっきまで見えなかった球が見えてんの?
神衣化のせいだろうか?
さっきまでと違ってダメージにならないっていうか、俺の着ている神衣にあたる瞬間キャンセルされているかのごとく、衝撃すらない。
魔王が支配の魔法で、理を歪めて撃ってきた空気の弾丸。
それが効かないなら、ひょっとして。
俺は懐に飛び込んで剣を振るう。
切っ先が今まで触れることも出来なかった魔王の服にかする。
「!?」
「いける!」
「嘗めるなよ♪」
「そうやってやる気になってるフリして、空間に穴を開けて移動しようとしているのも丸見えなんだよ!」
俺が空間の歪みを斬るつもりで剣を振ると、空間の歪みが消し飛んだ。
街の一区画とともに。
……威力がありすぎだ。
正直、使っている俺のほうが怖いくらいだ。
「お前に時間をやったんは失敗だったかな」
「かもな!」
魔王がようやく焦ってくれる。
もう少しで、仕留められそうだ。
そのときだ。
「もう、ベルってば、遊びすぎですよ!」
女性の声がする。
見ると、知的な眼鏡をかけて、キリッとした美人さんが遠くの家の屋根にいた。
気だるげな雰囲気の魔王とは対照的に、キチッと仕事をしそうなキャリアウーマン又は秘書のような洗練された印象を受ける。
あんな場所からここまで届くなんて、どれだけよく通る声なのだろう。
「ハーメル、早かったな」
魔王が女性に声をかけた。
「まったく……用事が早く片付いて戻ってきてみれば、なに殺されそうになっているんですか」
「いや、この魔剣の勇者の使い手、マジで強いって! ほら、よく見てみろ、神衣も着ているだろ?」
「言い訳はいいです。ベル、もうここには用事はないんでさっさと引き上げますよ」
このやり取りから、このお姉さんは魔王ベールールの関係者なのだろう。
それにしても……。
ここから引き上げる?
魔王は水上都市の魔性石を狙っていたんじゃないのか?
まさか、それもブラフか!
どこまでも人をおちょくった奴だ。
頭にきた。
お姉さんは事も無げに言ってくれているが、もちろん折角倒せそうな魔王を逃がすつもりもない。
ほら、ここで逃がして夜襲や奇襲、もしくはパワーアップでもした魔王に再び出会いでもしたらたまったもんじゃない。
ゲームだと第2第3の形態とかもあったりするし。
「逃げられると思ってんのか?」
「勿論です」
自信ありげにお姉さんが宣言する。
「やれるもんならやってみろ」
「わかりました」
お姉さんが指笛を吹くようにした仕草で、美しい音色を奏でる。
人の指笛では不可能じゃないかっていうほどの難解な音階の曲を奏で、それを聞いたシフォンたちがそれぞれ自分の首を絞め始める。
「なっ! どうしたんだ!」
「ほらほら、早く行きませんと皆さん死んでしまいますよ」
「くっ!」
俺は、魔王から距離をとりシフォンたちのもとに駆け寄るが、シフォンたちはやめようとしない。
シフォンたちの首から骨が軋む音がする。
このままだと、気道がつぶれてマズイことになる。
「クソっ、悪いっ!」
俺はシフォンたちに拳を叩き込み、気を失ってもらう。
人を傷つけずに気絶なんかさせた経験なんてないから加減もわからないため、少し強めにやったが、回復の光を当てたし死ぬことはないだろう。
その間にお姉さんは魔王と合流し、魔王も再び空間に穴を開けて脱出の準備を整えたようだ。
……えげつない方法をとりやがる。
「わたくしの手並みはいかがでしょう? このままだと脱出できそうですけれど♪」
優雅なお姉さんの言葉が気に触る。
この人は、その気になればシフォンたちを一気に殺すこともできたはずだ。
それをしなかったのは、この場から脱出するって目的のために俺の足を止める必要があったから。
ただ、それだけだ。
この距離じゃ、奥義を撃ったとしても向こうに逃げられるのが落ちだろう。
俺が睨むが、お姉さんや魔王はたいして気にした様子もない。
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。わたくしはハーメル、黄金級の勇者です」
ハーメル?
よくはわからないが、ヨーロッパかどこかのお伽噺か何かで、ハーメルンの笛っていうのがあったような気がする。
関係はあるのだろうか?
ひょっとして、水竜たちを操ってこの都市を襲わせたのはこのお姉さんの仕業か。
しかも、勇者のくせに魔王側につくってどういうわけだ!
まあ、魔王の魔力を受け継いで、魔剣の勇者を使う俺にどうこう言う権利はないだろう。
それにしても、こういう場合は名乗り返すのが礼儀なんだろうか?
「俺は恭介だ」
「キョースケ様ですか」
「そう言えば、異界にある国の言葉の中に、漢字って言うのがあって、そんな発音をする人間もいたな」
「異界?」
魔王が言った異界。
それは俺がもといた世界のことだろうか?
「キョウ……スケ……。狂った助べい……か」
「何だと!」
とんでもない勘違いだ。
「狂助、またな」
「失礼します、狂助様」
「お前ら、ちょっと待てって!」
魔王たちは消えるようにいなくなった。
俺の心に濁りを残し。
こうして水上都市の戦いは一応の終結をみせた。




