マリアと魔王
「先遣隊の人に無謀にも先に乗り込んだ人たちがいるって聞いて急いで来てみたんだけど、あなたたちだったんだぁ。こなきゃ良かったかなぁ」
マリアがそんなことを言ってくる。
こいつ、殴ってもいいだろうか?
だが、とりあえず助かったのは事実だ。
「まさか、お前らに助けられるとはな」
「まだ助かった訳じゃないと思うんだけどぉ~」
会話をしつつも俺たちの視線は魔王ベールールに向けれている。
一時たりとも意識からはずしていい相手ではないはずだ。
「まずはあいつをどうにかするぞ」
「あんたに言われなくてもそうしようと思っていたとこぉ。ロン、闘衣を着るよぉ」
《了解した》
マリアが槍から流れ出た闘気を身に纏い、ワンピースの上に鎧を形成する。
俺のとは違い、少し足とかの露出が多いが、これがこいつらの闘衣のようだ。
……って、ん、闘衣?
「なあ、確か名前はマリアだったよな? お前ら白金級だろ。神衣化はできないのか?」
「はぁぁ、あんたバカぁ? 神衣は白金級でも最高の奥義の一つよぉ。簡単にできる訳じゃないじゃない。共鳴率をあげるのも大変なんだからぁ」
《私とマリアの共鳴率はMAX98%だ》
マリアとロンが説明してくれる。
え~と、こいつらの共鳴率は俺たちより下のようだ。
「くそ、役立たず……って、痛っ! おい、こら、いくら闘衣の上からとはいえ、槍でつつくなよ」
「あんたが酷いことを言うからでしょ?」
マリアの持つ槍ロンギヌスも白金級の勇者だ。
そんな槍で突っ込みをいれるなんて、マリアはシフォン以上に危ないヤツだ。
まあ、出会ったときからわかっていたことだけど。
マリアたちに、うちの魔王少女ミリーのことはあとで聞くとして、今は目の前の魔王ベールールに集中だ。
「どうした。そろそろいいのか?」
俺たちの様子を黙ってみていた魔王ベールールが退屈したようにきいてきた。
「どうしかける?」
「あなたは好きに攻めればぁ。その隙を私とロンが攻めるしぃ」
「わかった。シフォン、ソニアたちを連れて離れといてくれ」
「死んだら許さないから!」
シフォンたちは離れていく。
マリアがいる以上、援護はそう必要ないはずだ。
それくらい以前に見たマリアとロンギヌスの攻撃には隙がなかった。
「いくぞ、ウインドレイブン×7」
俺が風の魔導を放つ。
真空の刃をもつ鳥が、七筋の軌跡を残し魔王に殺到する。
続けて、もう一回。いや、もっとだ。
「ウインドレイブン×7……ウインドレイブン×7……ウインドレイブン×7」
「質より量で勝負ってわけか」
「いやいや、やっぱり魔王相手に量で勝負って失礼なことはしないでしょ」
「ん?」
魔王の意識を俺の魔導に集中させる。
そこへマリアの最速の一撃。
シンプルだが、にわかコンビの俺たちにしては、ベストなコンビネーションの攻撃。
「神の刺突!」
俺たちには苦い思い出、以前にハルの本体だったハルバートを砕いた、マリアの固有奥義が放たれる。
「おわっ!」
魔王がエネルギーの奔流に巻き込まれる。
決まった。
そう思ったが、次の瞬間にはダメだったことに気付く。
エネルギーが過ぎ去ったあとに、魔王が何事もなかったように居座っていた。
「いや~、やばかったな♪」
「まさか、お前、不死身か?」
「そうなのぉ?」
「それこそ、まさかだろ♪ 見てろよ♪」
魔王が瓦礫の中から尖った破片を取り出す。
すると、なんの躊躇もなく、自分の体を傷つけてみせた。
瓦礫の破片により、血こそでないが魔王の腕に深い傷が刻まれる。
「なっ、ちゃんと傷つくだろ♪ このままだと見た目が悪いからすぐに治すんだけどな♪」
魔王の言う通り、傷はすぐに治っていた。
「おい、そこのお前、お前は魔王ミリーヒルクライムを知っているみたいだな♪ あいつは検索の魔法を使っていなかったか?」
「ああ、使っていたな」
今は俺が受け継いでいるって事実は魔王ベールールには黙っておこう。
「お前ら勇者とその使い手に奥義があるように、俺ら魔王には固有の魔法があるんだわ。ミリーは元々が攻撃に特化した奴だったから『検索』何てのを選んでいたが、なんの取り柄もない俺が選んだのは『支配』ってやつだ♪」
「支配?」
「俺の支配の魔法は魂を持たないものを操ることができるのさ。さっきもその魔法でエネルギーを逸らさせてもらった♪ そんでこの魔法は攻撃もできんだぜ……こんな風に♪」
魔王が指鉄砲で撃つ真似をする。
「バーン♪」
「!……ぐはっ」
目に見えない弾が飛んできて俺の腹部に命中した。
見えないが、感触からしたら野球ボールくらいはありそうだ。
「空気の弾丸だし、撃ち放題だぞ。ほれほれ、どんどんいくぞ♪」
魔王が両手を使い放ってくる。
無詠唱で予備動作もない。弾切れも期待できそうにない。
無様に避ける俺とは違い、マリアとロンギヌスのペアは射線を予測し、神速の突きで空気の弾丸を迎撃している。
こんなところは流石だ。
「闘気突き×3」
マリアの初級奥義三連発。
魔王に届くか?
「弱いな♪ そんなもんじゃ、固~い空気の壁は破れねえぞ♪」
空気の壁? 魔王のやつ、何言って……!
そう思って見ていると、マリアの奥義が壁に阻まれたように魔王の手前で霧散する。
そうか、さっきもこの空気の壁でマリアの奥義を防いだのか。
というか、白金級の固有奥義すら防げるってどんだけ固いんだ?
「ほらほら、お嬢ちゃん。ボーッとしてると固い空気の壁に囲まれて動けなくなるぜ♪」
「くっ!」
悔しそうなマリアの表情を見ながら、魔王が笑う。
確かに奥義すら防ぐ壁に取り囲まれたら脱出は難しいかもしれない。
「大丈夫か……!って、いってぇ!」
駆け寄ろうとしたが、見えない壁に遮られた。
「ああ、いい忘れていたな。お前ももう取り囲まれてるんだよ♪」
「いつの間に」
「なあ、お前ら空気が薄く感じないか?」
「!?」
確かに頭がクラクラする。
ヤバイ! どこでもいいから、テレポートだ!
俺は朦朧とした意識の中、全力でテレポートする。
今の全力テレポートは400メートルほど。
移動先で深呼吸すると、少しだけ意識がはっきりしてきた。
急いで戻らないと!
再びテレポートで広場に戻ると、マリアが地面に倒れている。
意識が無いようで、闘衣も解除されている。
ロンギヌスが槍から人型になり、マリアを守るように立っていた。
魔王が戻ってきた俺に気付く。
「へぇ、戻ってきたのか。ホントに根性だけはあるな♪」
「君の敵う相手じゃない。他の者たちも連れて逃げていいんだぞ!」
ロンギヌスが俺を心配してくれている。
ミリーの事がなければ意外と友達にもなれそうないい奴なのかもしれない。
「本当は戻ってきたくはなかったし逃げたいんだけど、ここで女の子1人見捨てて逃げたら、あとでシフォンやソニアからの突っ込みが大変なんだよ! どうせ、あいつらにこの状況を説明したら死んでも助けるって言うに決まっている! 後で死ぬか、今で死ぬかの違いなら、とことん付き合わせろ!」
「……ありがとう」
ロンギヌスが小さく礼を言う。
多分、ここから先はもう本当に俺たちに余裕はないはずだ。
「さて、魔王、第2ラウンド開始といこうぜ!」
「面白いやつだ♪」
俺の態度に魔王が満足そうに笑った。




