魔王との一戦
水上都市の中央広場の片隅。
二人の少年が小首を傾げていた。
「どういうことだ?」
「何でですかね?」
俺とハルは同時に疑問符を撒き散らしていた。
俺たちの疑問は簡単だ。
どうやっても俺とハルの共鳴率が99%までしか上がらないのだ。
うちの変態勇者で魔剣のハルのlevelが上がり、黄金級から白金級になったことで、新しく限界突破というものを覚えたらしい。
限界突破すると闘衣化の上位版の神衣化を使えるそうだ。
だが、限界突破するためには俺とハルの共鳴率が100%以上になる必要がある。
ソニアたちの命懸けの我が儘に強制的に付き合わされ、これから魔王を相手にしなければならない俺としては、これは是非とも修得しておきたい。
だって、相手は魔王だぞ。
ゲームなら後半戦もしくは終盤にしか出ないヤツだ。
本来なら逃げ出したって誰も文句は言ないはずだ。
なんか、うちの魔王少女ミリーの知り合いっぽかったが、油断は禁物だろう。
あいつ、性格悪そうだったしな。
出来ることはやっておいて損はない。
「ハル、もう一回下着を鑑賞しまくるぞ」
「兄貴、了解です♪」
俺とハルの共鳴率を上げるにはエロが最適であると考えている。
なので、一生懸命全力でエロいことを考えてみたり、魔法でシフォンのパンツ鑑賞をしたりしてみた。
悪いと思いながらも魔法でソニアやレオナの下着も覗いてみた。
だが、その結果が99%止まりだった。
何でだ?
これでも闘衣化は出来るが、魔王相手に大丈夫なんだろうか?
そんな不安が付きまとう。
辺りが夜に更けていく。
魔性石の効果の一つだろうか?
太陽が沈んだというのに、水上都市は足元からぼんやりとだが明るいままだ。
そろそろ魔王の言っていた約束の時間かもしれない。
俺たちは水上都市の広場で魔王ベールールを待ち受ける。
闘衣は体力を消耗するので、ソニアに地竜グランドをだし、シフォンにマジックブーストしただけの状態だ。
というか、魔王がいい加減な約束を破って来ないでくれるならそれが一番ありがたい。
でも、そんな期待は裏切られる。
「よう、待たせたか」
軽い口調とともに、何処からともなく20代とおぼしき細身の男性が現れた。
魔王ベールールである。
昼間と変わらない姿。
手には一本のシンプルな剣を持っている。
「本当に来やがった」
「だから、俺は来るって言っただろう? けど以外だったな。俺としては、お前らがどこかに逃げていると思っていたんだがな」
「!?」
あれ、やっぱり逃げるって選択肢がが正解だったのか?
だったら、逃げれば良かった。
そんなことを思っていると、俺の表情の変化に気付いたのか当の魔王が声をかけてきた。
「まあ、逃げた場合は追っていって、そこの街も憂さ晴らしに滅ぼしてやろうと思っていたんだけどな♪」
笑いながら、魔王ベールールはそんなこと言ってくる。
こいつ性格悪っ!
というか、もし俺たちが黄金都市ユグシルや魔都ミリハイムに逃げていたらそこが戦場になった可能性があった。
そんなことまで考えていたとは思わないが、今はシフォンとソニアの我が儘に感謝だ。
「さて、やるか」
魔王ベールールの言葉。
開戦の合図だ。
念のためシフォンたちにはエクアを守るようには言ってある。
あいつらは俺の合図があるまで動かないはずだ。
「ハル、相手は魔王。始めっから全開だ。闘衣でいくぞ!」
「兄貴、了解です」
ハルが本来の紫の刀身をもつ魔剣形態になり俺の手に収まる。
「ファイアレイブン……levelMAX、朱雀。……ハル、喰え」
《はい、喰います!》
ハルが俺の火の魔導を吸収する。
朱雀装。
溢れる闘気と魔力が俺の全身を包み込む白と赤の闘衣となり、魔剣の刀身が朱に染まる。
「お~、いいなそれ。どうやるんだ?」
「知るか」
「まあ、いいや。お前らがどんだけやれるか見せてくれよ」
「言われなくても見せてやる!」
俺は全力で魔王に斬りかかる。
「おーおー、馬鹿正直に真っ向勝負か……ん!?」
魔王ベールールが手持ちの剣で受け止めようとして、それをやめた。剣をその場に残したまま瞬間移動する。
その直後、俺の斬撃がベールールの残した剣をその刃ごと両断する。
「おーおー、あぶねえな」
「ちっ」
「やるねぇ♪ 一応、俺のお気に入りの剣だったんだけどな♪ また何処かの店屋でお気に入りになりそうな剣を一本くすねてこなきゃいけないな♪」
魔王が褒めてくれるが、全然気持ちがこもってない。
そんな軽口に付き合ってる場合でもない。
「くらえ、ファイアレイブン……levelMAX、朱雀!」
「さっき、その剣に喰わせた火の魔導か」
丸腰になったところで火の魔導をぶつけてみる。
魔王が炎に包まれた。
見た目は人間だし、少しでも効いててくれたら有難い。
だが、俺の期待は裏切られる。
「アツッ、尋常じゃない熱さだな♪ 丸焦げになるかと思ったぞ♪ で次は?」
言葉とは裏腹に魔王が何事もなかったかのように炎をかき消し出現する。
「くそっ! シフォン!」
「アイスショット×5」
「おーおー、間髪いれずにお嬢ちゃんの氷の魔導か、いいねぇ。この温度差、金属の体を持った魔物には効果的だろうな♪……って、ここからの斬撃か♪」
シフォンの魔導も続く俺の斬撃も魔王に体捌きだけでかわされる。
魔王に弄ばれるような戦いが続く。
「どうした? 疲れたか?」
魔王が余裕の表情できいてくる。
魔力はともかく、俺の体力の消耗が激しい。
「そろそろ限界か?」
「まだまだ」
「う~ん、根性はまあまあ認めてもいいとして、これ以上待ってても面白いことは起きそうにないんだよな」
魔王が飽きるイコール俺たちの死だ。
「そろそろ終わるか……」
そう魔王が呟いたとき、一条の光が俺と魔王の間に降り注ぎ、地面に一本の美しい槍が突き刺さっていた。
そして、その槍の先には一人の少女が腰かけていた。
「あれぇ~、急いできてみたら、魔王がいるぅ」
《あれは魔王ベールールみたいだ。マリア、気を付けるんだ》
「ロン、言われなくてもわかってるってぇ」
槍と少女の短いやり取り。
俺はその声ややり取りに覚えがあった。
「あり得ない……」
槍の先に腰かけていた少女、それは俺たちがこっちの世界に探しに来た白金級の勇者ロンギヌスと、その使い手マリアだった。




