水上都市アクア
俺は、集合場所でシフォンたちと合流すると、移動を開始した。
最初はテレポートで行くつもりだったが、向こうでどのくらいの戦闘になるかもわからないので、体力温存のために地竜グランドでの移動をすることになった。
今は、お嬢様で獣使い(テイマー)のソニアがグランドの首筋付近に乗り、俺たちは背中の部分に乗せてもらっている。
ソニアもグランドに指示を出すのが忙しいみたいだが、俺もただ乗っているだけでなく忙しかった。
「だから、お前ら機嫌直せって」
「…………」
俺は、地竜グランドの背に揺られながら、フイと顔を横に向けて拗ねてしまっている奴らに声をかける。
一人は、10才くらいの少年の姿をした、うちの変態にして黄金級の勇者ハル。
あまりのセクハラ発言への厳罰として亜空間で、この地竜グランドと鬼ごっこをさせていたが、その事をすっかり忘れていた俺は、グランドを呼び出すまでハルがいないことに気付きもしなかった。
亜空間から出した、グランドが魔剣形態のハルをくわえていたときには俺ら全員固まってしまった。
「「「あっ!」」」
って感じだ。
黄金級の勇者ユグドラシルじいちゃんが、その身で鍛えてくれたハルの本体である魔剣は、地竜グランドの牙でも傷一つ付いていなかった。
だが、亜空間の中で1人置いておかれた、その疎外感と孤独感は半端じゃなかったようだ。
ハルが拗ねるのも当然かもしれない。
続いて、拗ねている二人目のシフォンに話しかける。
「あの、シフォン……さん……も機嫌を直してくれませんか?」
「どうして私が機嫌を直さないといけないのかしら。私はこれが普通なんですけど!」
そう言って顔を背けている辺り、シフォンはかなりご機嫌斜めだ。
その理由は、俺が魔都ミリハイムに行ったときに、レオナの求婚を冗談だと思って不用意に受けてしまったためだと思われる。
所謂、嫉妬。
日本では全くモテなかった俺が、こんな贅沢な悩みを持つ日がくるとは思ってなかった。
ただ、持ちたかったわけではないけどな。
「どうせ、恭介もレオナやミランダみたいな胸の大きい子が好みなんでしょ」
「…………」
まあ、小さいよりは大きい方が……って、あっ、シフォンが汚物を見る目で俺を見ている。
「ほら、やっぱりそうなんだ!」
「違うって、俺はシフォンくらいのが一番……」
「兄貴、まさか、シフォンの姉御の胸を揉んだんですか?」
「まさか、私が寝ている間に! サイッテー!」
「いや、だからそれも違うって!」
俺は、うんざりしながら叫んだ。
賑やかな後ろの様子を楽しげに眺めながら、ソニアが告げる。
「そろそろ、水上都市アクアのある水辺に着くけど大丈夫なの?」
そんなの答えはわかりきっている。
「ダメに見えるかもしれないが、これが俺たちさ」
「そうよね。恭介との話は後でしっかりするとして、今は水上都市の方が心配よ」
「そうです。兄貴、いっちょ、やりますか」
気分を臨戦モードに切り替える。
「ねえ、恭介、マジックブー……キスをお願い」
「お、おう」
せっかくの気合いがグラつきそうなくらい、魅惑的なシフォンからのお願い。
マジックブーストと言いかけて、わざわざキスと言い直したのはシフォンなりの甘え方なのかもしれない。
まあ、これから激しい戦闘を控えているし、これで少しでもシフォンの機嫌が良くなるなら安いもんだ。
シフォンとキスし、マジックブーストしておく。
俺は、検索の魔法で水竜を探す。
「グランドの様子からしたら、この先に何かいるわよ」
「俺の検索にも引っ掛かった。間違いない。水竜だ!」
森を抜けたと同時に目の前に広大な湖か海が出現する。
そして、森と水辺との間に全長数メートルの竜がいた。
全身を鱗で覆われた狼に角が生えたような地竜のグランドと違い、細やかな鱗で細部を覆われているが、その姿は首長竜を連想させる。
「動くぞ!」
俺の声を合図に各人がグランドの背から移動する。
「ハル、魔剣形態だ」
「了解です」
ハルは魔剣ハルクライムへと姿を変え、俺の手に収まった。
シフォンも氷の魔導を発動する。
「アイスドール……モデル、戦女神」
シフォンは氷の女神に飛び乗り、そのまま滑空していく。
だが、一番最初に攻勢に出たのは地竜を駆るソニアだ。
「グランド、咆哮」
ゴォォォォ
水竜は陸上ではそんなに速く動けないのか、それとも避ける気がないのか、グランドの咆哮の直撃を受ける。
もし、水竜が地竜のように防御力が高く頑丈だったとしても、家を数件粉砕するほどの振動波を受け、すぐには動けないはずだ。
これを機にたたみかける。
「戦女神、前足を狙うわよ」
シフォンのアイスドールが水竜の右前足を切り落とす。
あの剣、なかなかの切れ味だ。
前足を一本失い、水竜がバランスを崩した。
苦し紛れに、口から高圧の水流を出して俺を狙ってくる。
「ロックタートル……levelMAX、玄武」
水流は、俺と水竜の間に現れた巨大な盾に遮られた。
「おい、ハル、そのまま玄武を食え」
<了解です、兄貴>
俺は魔剣を盾に突き立て、そのまま吸収させる。
闘衣を顕現させる。
(闘衣発動、玄武装!)
白と黒の鎧に身を包まれる。
利き手と反対の籠手には、やや小さめながら盾まで付いていた。
さすがは防御主体の玄武を組み込んだだけある。
手にもった魔剣の刀身は黒に染まっている。
「くらえ!」
その刀身で水竜の首を狙うと、アッサリと切断することができた。
自分でも怖くなるほどの切れ味だ。
見ると、水竜は一匹ではなく、確認できるだけでまだ3匹以上はいるようだ。
「とりあえず、ここの奴らを倒すぞ」
『了解♪』
俺たちは各個撃破するべく動き出す。
10分くらいで戦闘は一段落ついた。
念のため辺りを検索するが、近くに新たな水竜はいないらしい。
そして、俺は見た。
唯一の交通手段である橋を落とされても尚、水面に浮かぶようにして存在する美しい都市を。
どうやら、あれが水上都市アクアのようだ。




