竜使いソニア
俺はシフォンとの初キスの余韻に浸っていたのだが、シフォンは早速効果を試したいようだ。
「ねえねえ、恭介。早速試していい?」
まあ、ベルの塔は頑丈だし、屋上だから問題ないだろ。
「ああ、いいぞ」
「じゃあ、いくわよ」
シフォンが、ブーストされた魔力を練り上げていく。
確かにブーストなしの魔力と比べたら遥かに強くなっているのがわかるほどだ。
「アイスドール……モデル、戦乙女×3」
3体のアイスドールがシフォンの目の前に出現。
以前のアイスドールは、ただの氷の塊に手足が付いた外見であったが、今は彫刻のような造形の、羽のはえた女性剣士の像になっている。
胸がやけに大きいのはシフォンの願望だろうか?
あまりに忠実に女性の体を模していて、少し目のやり場に困る。
そんな俺の様子も気にせず、シフォンは増幅された自分の魔力にご満悦だ。
「うん、魔力が大きくなって、よりイメージを具現化できるようになったわ♪」
「やるな」
「少し、動かしてみるわね。踊って、戦乙女」
シフォンの声かけに氷の乙女たちが舞うように動き出す。
人間の造形に近くなった分、動きが凄く滑らかだ。
ひとしきり動きのチェックを終了する。
「それじゃ、ソニアたちの様子も気になるし、そろそろ下の階に戻るか」
「そうね、あの変態勇者がソニアにセクハラしていないか心配だし」
さすが、変態勇者ハル。
一緒に置いてきた地竜よりも先に警戒されているとは、たいした信頼感だ。
俺たちが屋上から下に戻ると、うちの変態勇者ハルが近寄ってきた。
ハルは、シフォンに聞こえないように俺に話しかけてくる。
「兄貴、お疲れ様です。どうでした、シフォンの姉御との初キッスの味は?」
「お前っ、何で知ってるんだ!」
「それは、俺と兄貴と繋がってますからね。情報は筒抜けっすよ♪」
「そうなのか」
「そうなんです」
まあ、これから戦闘中にシフォンとキスし、マジックブーストをしないといけない場面もあるかもしれないし、ハルにバレていても構わないだろう。
「で、どうでした?」
「……凄く良かった……です」
「くぅ~、羨ましい!」
なぜか、ハル相手に丁寧に答えてしまっている俺。
俺の答えを聞き、ハルが悔しがっている。
「それで、ソニアの様子はどうだった?」
「ああ、そうでした。あのお嬢様、なかなかやりますよ。剣も魔導もイマイチですが、獣使い(テイマー)の才能があったみたいですね」
「獣使い(テイマー)?」
「言葉の通り、獣と心を通わすことのできる奴らのことです」
見ると、ソニアは地竜の背に乗っている。
えっ! マジで?
その姿は、ペットと飼い主といった様子にも似ていて、とても以前に殺し合いをしたもの同士には見えない。
「見てみて、キョースケ、この子スッゴい可愛いの♪ 名前も付けちゃった。名前はグランドよ♪」
地竜の背に腰掛けたソニアがご満悦で名付けまでしてしまっている。
確か、あの地竜は最高位の魔獣クラスの強さがあったはずだ。
以前、俺の全力の魔導をぶち当ててみたが、結局仕留めることはできず空間魔法で亜空間に閉じ込めておくしかなかった。
まあ、今は俺の一回魔力使用量も上がっているし、魔剣として復活し、黄金級になったハルもいる。今なら全力でいけば、勝てるだろう。
「地竜を操れるんなら、ソニアも強くなったんだね」
「今なら、シフォンちゃん、あなたより強いかもよ♪」
「それは聞き捨てならないわ」
「じゃあ、勝負する?」
ソニアがシフォンを挑発する。
あ~あ、わかりやすいくらいにシフォンがカチンときているな。
ため息が出そうだ。
「いいわ。やってやろうじゃないの。ねえ、恭介。マジックブーストをお願い」
「え~と、ここでか?」
「ここでよ!」
当たり前だが、周りにはソニアとハルもいる。
まあ、今後のためにも俺も周りも慣れといたほうがいいかもな。
もし、今後強敵を前に照れて時間がかかるなんて致命的だろう。
俺は羞恥心を押し殺し、覚悟を決める。
「いくぞ!」
「いいわよ」
待ちの構えをとるシフォン。
俺とシフォンの公開キスが始まろうとしている。
ああ、わかっていたが周りの他の視線がメッチャ痛い。
「ふう……我が魔力の一部を譲らん」
目を閉じ俺を待つシフォンに唇を重ねる。
時間は前回より長めの5秒。
光るシフォンの体の発光具合が前回より強い。
時間に応じて譲渡量も増えるらしい。
今回も無事に魔力の譲渡は完了したようだ。
「ありがと、恭介♪」
「……ふーん、そんなことで、私のグランドに勝てると思ってるの?」
ソニアがそんなことを言っているが、俺はまだ地竜を譲り渡すと言った覚えはない。
まあ、それだけ気に入ってくれたなら譲るのはいいが、街中ではちゃんと亜空間に戻すことを条件にしないと大混乱に陥ってしまうだろう。
「私の新しい魔導を見せてあげる」
「へえ♪」
ソニアが楽しそうに笑う。
ひょっとしたら、この挑発もソニアの計算で、これから一緒に行動するシフォンの強さも確認しておきたいとかそんな感じなのかもしれない。
「アイスドール……モデル、戦女神」
シフォンの目の前に1体の氷の像が出現する。
戦女神の名を冠するそれは、全身を鎧で身に纏い、手には剣と盾を持っている戦乙女の上位版といった造形の像だった。
大きさも二メートル近くある。
「ふーん、見かけ倒しだったら承知しないわよ♪」
「試してみたら?」
「それじゃ、遠慮なく♪ いくわよ、グランド」
シフォンはアイスドール、ソニアは地竜を操り女同士の闘いが始まる。
先に仕掛けたのはソニアの駆る地竜グランドだ。
爪でアイスドールに襲いかかるが、アイスドールは盾で爪を受け流す。そのまま剣で迎え撃つが、咄嗟に地竜が距離をあける。
「なかなかやるわね。グランド、咆哮!」
振動波にも似た破壊の力がアイスドールを襲う。
さすがにやりすぎじゃないのか?
俺の心配を余所に、シフォンは余裕そうだ。
「アテナ、翔びなさい!」
アイスドールが短く飛翔しかわすと、そのまま上空から、地竜へと剣を振るう。
「そんな動き、羽が付いてるって時点で想定内よ♪ グランド、尾で打ち落として」
鋼鉄の鞭より硬く速い一撃がアイスドールを襲う。
それがアイスドールに当たると思った瞬間、地竜の尾がアイスドールの体を素通りする。
「何で!?」
アイスドールはそのまま消えてしまった。
ソニアが驚愕しているが、俺も何でかわからない。
俺たちの様子を見て、シフォンは満足そうだ。
「これが私の新しい魔導、アイスミラージュよ♪」
シフォンの言葉を合図に、アイスドールが地竜の前に出現する。
突然、目の前に現れたアイスドールに対応できず、アイスドールの剣が、ソニアに向けられている。
「アイスミラージュは小さい氷の欠片で、相手の認識を阻害したり、スクリーンみたいに写し出すことができるのよ♪」
勝負あったって感じだ。
「まいったわ」
「あなたとその地竜も充分強かったわよ♪」
「勝者にそう言われたら、悪い気はしないわね。これから宜しくね、シフォンちゃん」
「宜しくね、ソニア」
二人は優しく握手した。




