ベルの塔再び
俺は今、シフォン、ハル、ソニアの三人とともにユグシルの近くの森の中にあるベルの塔にきていた。
理由は簡単、修行である。
ソニアのお守りを、ソニアの父でユグシルの街の長でもあるアルフォードさんから仰せつかった俺たちは、早速ソニアの無茶苦茶ぶりを目にした。
「私たちも水上都市アクアへ行くわよ」
「嫌です」
俺はキッパリと断った。
今、現在、水上都市アクアは水竜の群れに襲われているらしい。
黄金都市ユグシルヘも救援要請はきたが、アルフォードさんの話では、ちゃんとそっちには正規で救援の兵や冒険者たちが行ってくれている。
だが、ソニアは自分も行くと言って聞かないのだ。
一回、地竜に殺られそうになっているのに、懲りないお嬢様だ。
理由が、困ってそうな人を見過ごせないということでなければ、一発しばいているところかもしれない。
基本、正義感の強い良い娘なのだ。
しかし、いくら俺がついているとはいえ、万が一ということにもなりかねない。
そこで、一回、皆で修行してみるかって話になったのだ。
修行に時間を稼げれば、その間に水上都市のゴタゴタも片付いているって可能性もある。
今日もベルの塔には魔物の姿はなく、難なく屋上の一つ下の階まで簡単に来ることができた。
「それで修行はどうやってするものなの?」
確かにどうやってするものなのだろう?
現代日本で生活してきた俺にそんな知識はない。
ソニアは魔導は全く使えず、片手剣を使った戦いをする。
そうなると、やはり実践形式の訓練がいいのかもしれない。
だが、俺たちが相手してもいいが、やっぱり顔見知りだと緊張感がでないだろう。
……あっ、そうだ。
俺は、亜空間にあいつがいるのを思い出した。
「実践形式の訓練にいい相手がいますよ」
「誰よ? まさかその子?」
「いえ、ハルじゃないです」
不思議そうな顔をするソニア。
俺は、亜空間から地竜を召喚する。
「こいつって、あのときの!」
一度、地竜に殺されかけたこともある、ソニアの驚きはしょうがないと思う。
さあ、存分に悲鳴でも上げてくれ。
そう思っていると。
「近くで見ると、結構可愛いじゃない」
そんな感想を言い出した。
それを聞いてか、俺に餌付けされているせいか、地竜もさらに人に対して従順になっているような気がする。
今もフセの状態で、こちらの様子を窺っている。
あれ? もっと、こう、あのときはよくも的な展開になると思っていたのに、全然そんな雰囲気ではない。
「ねぇ、キョースケ」
「なんですか、ソニアお嬢様?」
「私たちは仲間なんだし、ソニアでいいわ」
「じゃあ、そうさせてもらいます。じゃあ、改めましてソニアどうしたんです?」
「この地竜、一回、私一人に任せてくれない?」
「へっ?」
このお嬢様は、いったいどれだけ怖いもの知らずなのだろう。
いや、違うな。
怖い目に会って、それでも尚挑もうとするんだから、ただのおかしい人なのかもしれない。
まぁ、地竜も今はおとなしくなっているし、お嬢様の攻撃じゃ鱗に傷ひとつつけられないから地竜を怒らせることもないはずだ。
剣を振るうことも鍛練になるし、まぁいいか。
一応、目の届く範囲にいてもらうことを条件に了承する。
「わかりました。いいでしょう。ハル、一応近くで見ておいてくれ」
「了解です」
「ありがとう」
さて、これでソニアは当分大人しくなるだろう。
少し休憩でもするかな。
俺がいい休憩場所はないかと少し離れたところを探していると。
「恭介、私も強くなりたい」
今まで俺とソニアの様子を黙って見ていたシフォンがいきなりそんなことを言い出した。
シフォンも強くなりたいなんて、いきなりどうしたのだろう?
「なんか、恭介ばっかり強くなってズルい! あの変態バカ勇者だって、黄金級に上がっているし、私も強くなりたい!」
成る程、皆においていかれるようで心配な気持ちもわからなくない。
「でも、シフォンの魔導のイメージはもう完成されているし、それでいい気はするんだけどな」
「私はイヤ!……もし、恭介や変態バカ勇者が危ない目に遭ったときに助けることもできないなんて……」
俺のために強くなりたい!
なんか、理由がメッチャ嬉しいんだけど。
「それは確かに頑張ってもらいたいな♪」
「どう頑張ればいいの?」
そりゃそうだ。
だが、魔導師が強くなるってからには魔力とかの兼ね合いがあるのだろうが、やはり魔力の上げ方なんて、日本育ちの俺が知っているわけもない。
だが、こんなときに俺には奥の手がある。
検索の魔法だ。
俺は検索の魔法を発動する。
検索内容は人間の魔導師の魔力を上げる方法。
聞き慣れた、ピコーンって音とともに、俺の目の前に光の文字で方法がいろいろ羅列されている。
要約すると、そのほとんどは、どこどこで修練を積むとか、時間をかけて容量を増やすといったものだった。
今の俺たちに向かないかもしれない。
「ん?」
その中の一つの方法に目が止まる。
そこには魔力の一時的な譲渡について書かれていた。
自身の魔力の一部を一時的に他者に受け渡す方法があると。
俺はその方法を見て、驚愕する。
そこへ、待ちきれなくなったシフォンが声をかけてくる。
「ねぇ、どうにかなりそう?」
「いや、なりそうと言えばなりそうだが、無理そうと言えば無理そうだ」
「何それ? 強くなるならどんな方法でもいいわ。とりあえず、言ってみて」
シフォンに促され、俺は渋々魔力を上げる方法について口にする。
まずは、俺が無理そうかもしれないと思った正規の魔力の底上げする方法について話す。
「……という感じで、魔力を上げるには時間がかかる」
「う~ん、もっと簡単なのはないの?」
「あるにはある。俺がミリーから受け継いだ膨大な魔力の一部を一時的にシフォンに譲渡する方法ならある」
「それいいじゃない♪ どんな方法?」
「いいか、怒るなよ。すごく言い難いんだが、俺とキスするんだ」
「!」
シフォンの顔が紅潮し、魔力が手に集まってきている。
あっ、ヤバイ。これはいつものパターンだ。
俺は本当のことを言っただけなのに何で怒られなきゃいけないのだろう?
理不尽すぎる!
だが、いつもなら問答無用で発動される氷の魔導が今日はこない。
どうしたんだ?
少したったあと、俯いていたシフォンが顔を上げる。
「……いいわよ」
「へっ?」
シフォンの答えに、俺は自分の耳を疑いながら、間抜けな声を上げてしまった。
「前にここに来たときに、恭介、私にこれをくれたじゃない」
そう言って、シフォンが左の薬指にはめた指輪を見せてきた。
あれって、俺がシフォンにやった指輪。
こうやって見せられるとチョイ恥ずかしいな。
「つまり恭介は私のことを、そう思ってんのよね?」
「……ああ」
「だから、その……キスでもいいって言ってんの! 言っとくけど、初めてなんだからね……」
「……そ、そうなのか」
「うん」
顔は相変わらず紅潮しているが、確かに嫌そうではなかった。
本人が良いと言っているのであれば、俺に止める理由はない。
だって、シフォンは紛れもない美少女で、今まで一緒に過ごしてきた大事な奴だから。
むしろ、心の中は歓喜の気持ちでイッパイだ。
俺は、恐る恐るシフォンに聞いてみる。
「さっそく……試してみるか?」
「ここじゃちょっと……」
向こうでは、ソニアが地竜相手に何やらゴソゴソやっていて、一応見守り目的で、ハルもついてもらっている。
距離はあるのだが、さすがに少し恥ずかしい。
俺もそうなのだから、シフォンはもっと恥ずかしいのではないのだろうか?
幸い、地竜も大人しく危険そうな感じもない。
何かあれば、ハルが呼んでくれるだろう。
「屋上にいくか」
「そうね」
俺たちは屋上にいく。
ここは相変わらず眺めはいいし、風も気持ちいい。
シチュエーションとしてはまずまずだろう。
俺とシフォンは向かい合う。
え~と、やっぱりこういう場合は俺から声をかけるんが筋なんだろうか?
一応、OKが確定しているとはいえ緊張する。
「……やるか」
「……うん」
シフォンが目を閉じる。
俺は、力の譲渡の言葉を述べる。
「我が力の一部を譲らん」
そして、唇を重ねる。
シフォンの唇はメッチャ柔らかかった。
時間にして、僅か三秒ほど。
俺の体に変化はないが、シフォンの体がうっすら発光し反応する。
光とともに魔力の一部を譲渡することに成功したようだ。
マジックブーストとでも呼んでおこう。
これから、マジックブーストするときは毎回キスするのかと思うと、嬉しくもあり恥ずかしくもある。




