ソニアお嬢様
俺たちはアルフォードさんに連れられて、アルフォードさんの娘がいるという部屋の前に案内された。
豪奢な扉の部屋まで来て、ノックする。
「ソニア、入るぞ」
ソニアってのが、アルフォードさんの娘の名前らしい。
アルフォードさんが部屋の中に入っていく。
俺たちも一緒に入っていく。
「失礼します」
「こっちのが、娘のソニアだ」
アルフォードさんが紹介してくれる。
その先には女の人が一人。
あのときには血や土で汚れていて気付かなかったが、お嬢様然としたその姿は紛れもない美人さんだ。
最初に鎧姿を見たときは、二十歳を越えているようにも見えたけど、こうしてドレス姿を見ていると意外と若いのかもしれない。
その美人さんのソニアお嬢様は、縄でぐるぐる巻きにされベッドに寝かされていた……どういうこと?
まさか、危ないプレイとか。
「お父様、ほどいてよ!」
うわっ! リアルお父様発言、人生で初めて聞いちゃったよ。
こんなお嬢様という人種、いくら異世界とはいえ本当にいるもんなんだな。
「ソニア、静かにしなさい。お前に会わせたい人たちがいるんだ」
「私に会わせたい人たち?……誰よ」
ソニアお嬢様は器用に縛られたままソファーに座ると、ようやく俺たちの存在に気が付いたようだ。
「そっちの子達は?」
「ソニア、お前を地竜から助けてくれたキョースケ君たちだよ」
「! あなたたちが?」
「まぁ、一応」
「信じられない。まだ子供じゃない」
十代半ばまで若返っている俺の姿や、シフォンやハルといった面々を見て、ソニアお嬢様が失礼なことを言ってくる。
実際の年齢は俺の方が年上なんだけどな。
だが、今は証明できるものがあるわけでもないし、めんどくさそうなので黙っておく。
「門番にも確認をとった。間違いない」
「…………」
え~と、なんかメッチャ、ソニアお嬢様に睨まれてんだけど、どうしよう?
「あなたたち強いの?」
「まぁ、それなりに」
「私と勝負して!」
ソニアお嬢様の突然の申し出に驚きだ。
え~と、勝負? 何で?
「どうせ、お父様が適当に私のお守りをさせようと連れてきたんでしょ。だったら、私が、あなたたちなんかの手に負えないじゃじゃ馬だってことをわからせてあげるわ」
自分がじゃじゃ馬である自覚はあるんだ。
断れる雰囲気でもなさそうだ。
勝負して納得してくれるっていうんなら、それもありかもしれない。
「わかりました」
俺が引き受けるといったと同時に、ソニアお嬢様が縄から抜け出した。
見事な縄抜けだ。
ソニアお嬢様が動きやすい服に着替えるのを待って、俺たちは、建物の中庭に移動する。
「勝負は簡単。私から三本取ればあなたの勝ち。その間に私があなたから一本でも取れたら私の勝ち」
「ずるくないですか?」
「実力差を考えれば当然でしょ!」
強さに関して、それなりと言った筈なのに、いつの間にかソニアお嬢様の三倍は強いことになっている。
実際は本当にソニアお嬢様よりもかなり強いのは確かなのだが、俺の戦いを見たことがないソニアお嬢様がそれを知っているはずもない。
もし、俺たちの会話や様子からの判断だとしたら、実はこのお嬢様、無謀なだけでなく意外に人を見る目があるとか?
だとしたら、地竜に挑むなんて無茶をどうしてしたのだろう?
「いくわよ。準備はいい」
「いつでもどうぞ」
(フィジカルブースト)
俺は身体能力を上げ、ソニアお嬢様に先手を譲る。
ソニアお嬢様は、手に持った女性用の片手剣を振るってくる。
なかなか鋭いのだが、俺の動体視力には見え見えだ。
「ウインドウォール」
とりあえず、風の壁を構築して反応をみる。
「くっ」
突進するのをやめ、回り込んで来るソニアお嬢様。
俺は至近距離への接近をわざと許して、剣技を観察する。
一般人としては良いのかもしれないが、俺には通じない。
一撃一撃も軽いし、森で熊などに襲われても仕留められるか怪しいところだ。
十分ほどソニアお嬢様に好きに攻めさせたところで、少し距離を開ける。
息が少し上がっているがそれだけだ。
スタミナもお嬢様育ちをしているわりにはあるほうだろ。
アルフォードさんの目もある。
怪我のないように丁重に相手はしたし、力の差はわかってくれたはずだ。
だが、ソニアお嬢様の瞳は強くこちらを見たままだ。
このお嬢様、シフォンと同じくアイスメンタルでも使えるんかってくらいの強情さだ。
参ったって言ってくれたら楽なのに。
こうなったら、少しだけ攻撃に転じてみる。
「ウインドショット」
「きゃっ」
すれ違い様に、ソニアお嬢様の腹部に拳大の大気の塊を当ててみたら、数メートル吹き飛んだ。
ヤバイ! 怪我してたらどうしよう!
チラってアルフォードさんの様子を見ても、とくに何もいうことなく静かに俺たちの様子を眺めている。
親バカって思っていたけど、案外違うのだろうか?
俺の心配をよそに、ソニアお嬢様は立ち上がる。
「そうこなくちゃ♪ まずは一本ね」
何故か闘志を掻き立てられている様子だ。
お嬢様はマゾという人種なのだろうか?
「どんどん来て」
「…………」
俺のお嬢様への疑いが強まった。
さて、どうしよう。
まさか、俺を動揺させるんがお嬢様の作戦とか?
いや、足にきてるしそれはないだろう。
ソニアお嬢様が、突進してくる。
交わし様に、もう一発。
「ウインドショット」
「クゥっ!……まだまだ!」
前のめりに倒れ込むと思われたが、手に持っていた剣を地面に突き刺して踏みとどまった。
すごくいい形で腹部に一発入ったから、大の男でも悶絶してもおかしくないっていうのに。
かなりの根性だ。
「これで二本目……まだ、あなたの本気を見せてもらってないわ。見せてもらうまでは倒れるもんですか」
「どうしてそこまでするんですか?」
「言ったでしょ。私はじゃじゃ馬なの。困っている人や、危ない人を見たり聞いたりしたら、放ってなんかおけない! 自分の力量も考えずに首を突っ込んじゃうの。そんな私のお守りを弱いやつがしたら皆死んじゃうのよ! だから、あなたたちの強さをこの目で見るまでは倒れることはできないの!」
それがお嬢様が倒れない理由だとしたら、本当にいい根性だ。
ひょっとして、地竜に挑むのもユグシルの街の近くだったから、住民に被害がでないか心配だったからかもしれない。ごろつきを雇ったのも、自分の周りの見知った兵たちを犠牲にしたくなかったからとか。
それだけの覚悟があるなら見せてやってもいいだろう。
「わかりました。いきますよ」
「いつでもいいわよ♪」
俺が魔力を練り上げるのを、ソニアお嬢様……いや、ソニアが痩せ我慢して笑いながら眺めている。
俺の覚悟も決まった。
「ファイアレイブン、levelMAX……朱雀!」
俺の高めた魔力で、火の魔導が発動する。
巨大な火の鳥が、ソニアを襲う。
「…………綺麗」
ソニアは一歩もたじろがずに、その炎を受け入れようとしている。
「これが……あなたの本気。想像以上ね」
「……って、死んじゃったらダメですよ?」
俺は、ソニアの前にテレポートで移動。
ハルを呼び寄せる。
「ハル、来い。……朱雀を喰らえ」
<へい、兄貴♪>
魔剣に形態変化したハルが、その紫の刀身で朱雀を受け止め、吸収する。
「朱雀装!」
ハルを通して俺の体に流れ込んだ魔力が溢れだし衣に変化する。
俺は白と赤を基調とした闘衣に身を包まれ、ハルの刀身も朱に染まっている。
「すごい……」
朱雀装の俺をソニアが驚きの顔で見ている。
とりあえず、これで満足してくれたようだ。
顔が憑き物が落ちたようなスッキリした表情をしている。
「これが俺の本気です。満足してくれました?」
「……まあね」
ようやくソニアから俺の待ち望んだ言葉を聞くことができた。
「私の負けよ」




