新しい依頼
俺とシフォンは、ベルの塔から黄金都市ユグシルヘ戻ってきた。
門番の兄ちゃんに軽く挨拶すると、街の中に入っていく。
俺の気持ちは、ちゃんと伝えられたかわからないが、とりあえず自分の気持ちに名前を付けることができた。
今は、これで十分だろ。
「さて、うちの変態勇者は今何してんだろうな」
「探そっか。……行こう、恭介♪」
手を差し伸べるシフォン。
その細い指には俺のプレゼントした指輪がはめられている。
その手を掴もうとしたときに、向こうから見知った顔の奴が走ってくる。
「アーニーキーーー!」
ダークブラウンの瞳に茶色の髪の十歳の少年。
うちの変態勇者ハルだ。
そのハルが、衛兵とおぼしきお兄さんたちに追われている。
俺の脳裏にあることが浮かんだ。
ついにハルの奴、やりやがったな。
ズバリ、性犯罪だ。
罪状は覗きか、下着泥、実体化してる今、痴漢なんてのもあるかもしれない。
少し酷いかもしれないが、俺の中では事情を聞く前に有罪確定だ。
自業自得だし、檻の中で反省させるのも、たまにはいいかもしれない。
「!……あいつらは」
追いかけているお兄さんたちも、俺たちに気付いたようだ。
「あそこの二人にも一緒に来てもらおう」
「了解。ロックウォール」
あの衛兵のお兄さんたちの中に魔導を使える人がいるみたいだ。
俺たちの後方を岩の壁が取り囲む。
ちょっ! マジ迷惑なんだけど!
関係者と認識されたようだ。
「来い、ハル。魔剣形態だ!」
「了解です!」
ハルが、両刃で刀身が紫の輝きを出す魔剣へと変貌し、俺の手に収まる。魔剣になったハルにとって、ただの岩なんて粘土もいいところだ。意図も簡単に壁を切り崩す。
「どんなもんだ♪」
……ってことしている間に取り囲まれている。
なかなか連携がとれている動きだ。
お兄さんたちと対峙する俺たち。
あれ? ついさっきまでシフォンといい雰囲気だったと思ったんだが、なんだこの状況は?
というか、この状態は完璧に巻き込まれたよな?
「あいつら、勇者とその使い手だったのか!……隊長、どうします?」
「全員待機!」
「はっ!」
隊長格とおぼしき人物が歩み寄ってくる。
武器もあるが、納刀したままだし、どういうことだろう?
「自分はこの街の警備隊長クレイといいます」
二十代後半と思われる男性が、外見は十代の俺に丁寧に声をかけてくる。うん、この人なら俺の話も聞いてくれそうだ。
とりあえず、俺の言い分を聞いてもらおう。
「あの、少し話を聞いてもらえませんか? うちの変態勇者が迷惑をかけたんですよね? それはわかります。だから、こいつを牢にいれるのは当然として、俺とそこの、シフォンは見逃してくれませんか?」
《兄貴、俺を裏切るんすか!》
「うるさいハル。どうせ、お前の自業自得だろ!」
俺たちのやりとりを不思議そうな顔をしながら警備隊長クレイは聴いている。
「あの、話を聞いて欲しいのはこちらの方なのですが……」
「へっ?」
俺たち全員の頭に疑問符が浮かんだ。
あれ? ハルのせいで追いかけられたんじゃないのか?
俺たちはクレイの話を聞く。
その内容は詳しくは言えないが、この街のお偉いさんが俺たちに直々に依頼したいことがあるらしいというものだった。
何だろう?
「どんな依頼なんですか?」
「直接、依頼主からお聞きください」
俺たちは街の中心部にある大きな建物に案内された。
普通に四階建てのビルにも見えるその建物の最上階の執務室のようなところに案内される。
「どうぞ、お入りください」
「失礼します」
俺たちが入ると、中では壮年の男性が出迎えてくれた。
「私はこのユグシルの長をしているアルフォードといいます」
「恭介です。こっちは魔導師のシフォン。そこのは、ハルといって黄金級の勇者です」
「立ち話もなんだから、どうぞ座ってくれ」
俺たちは促されるまま、ソファーに座る。
高級品なのかもしれない。いい座り心地だ。
「恭介、このお菓子美味しい♪」
「よかったな、シフォン」
「兄貴、あのお姉さんの脚線美ヤバイですよ」
「ちょっとは自重しろ、ハル」
シフォンはお菓子、ハルはお茶を持ってきてくれたお姉さんに夢中だ。
ちょっと恥ずかしい。
だが、アルフォードさんはそんな俺たちの態度を気にした様子もない。
「警備隊長のほうから簡単な用件の話は聞いていると思うが、その前にまずは礼を述べさせてくれ」
そういって、アルフォードが頭を下げる。
えっ! どういうこと?
というか、ユグシルの長をしてるってことはそんな簡単に頭を下げさしていい人物ではないはずだ。
「礼?……ちょっと、頭を挙げてください!」
話が見えなくて、混乱してしまっている。
俺が困惑の表情をしていることにアルフォードさんが気づいたようだ。
「これは失礼。まずは事情を話さないといけないな。君たちが地竜を討伐又は捕獲する依頼を受けた時に、助けてくれた女性がいただろう?」
「いました」
確かに俺たちは、イケメンだと思った姉ちゃんを助けた。
だが、それがどうしたのだろう?
「私の娘なのだ」
「ええっ!」
じゃじゃ馬過ぎるだろ!
こんなお偉いさんの娘が地竜に挑むって無茶し過ぎだ。
もうちょっと護衛を付けるとか管理体制をどうにかするべきだ。
「娘は、昔から冒険者に憧れていてね。街の近くに地竜が降りてきたのを知った娘は、街のごろつきを数人雇って出ていってしまった」
「勇ましいを通り越して、無謀すぎでしょ!」
地竜は確かにカテゴリーは動物に分類されるが、強さは魔獣級だ。
しかも、今回俺たちが相手した地竜は、高位の魔獣と同等の強さだとユグドラシルじいちゃんが言っていた。
街のごろつきを数人連れたお嬢様が敵う相手じゃないはずだ。
「私がその事を知ったのは娘が街を出発してからだいぶ経ってからだった。正直、娘の死すらも覚悟したよ。だが、娘は街に帰ってきた。今はまだ自室で療養させているが、治療師の話でもたいした怪我をしていないらしい」
まぁ、致命傷は俺が回復の光で治したしな。
「話を聞いても全然わからんかったが、門番の話とギルドの買い取り所での地竜騒ぎで君たちのことを知ったんだよ」
「手荒な探し方をさせて申し訳なかったが、どうしても君たちと会いたくてこんな形になってしまった。……改めて、礼を言わせてもらう。ありがとう」
再び頭を下げる、アルフォードさん。
頭を挙げてくださいと言おうとしたが、アルフォードさんの目から光るものが流れ落ちるのを見て、言うのを止めた。
暫くして、アルフォードさんが顔をあげるが、その時にはもう父親ではなく街の長としての顔になっていた。
「それで、依頼というのは嘘なんですか?」
「そのことか。それは本当だ。ここからだいぶ離れた所に海があるのだが、そこにある水上都市アクアに海竜の群れが現れたらしい。ここ黄金都市ユグシルヘも救援要請が来たのだ」
「成る程、その救援に行ってくれと?」
「いや、救援部隊は正式な兵や冒険者に報酬を出し向かってもらう」
「ん? それじゃ俺たちは?」
「君たちには娘の護衛を頼みたいのだ。海上都市に海竜の群れが現れたのを娘が知ったら、絶対に飛び出していく。間違いない」
アルフォードさんの顔が苦悩の色を浮かべる。
その顔は長としての凛々しい顔から、あのバカ娘~!って父親の顔になろうとしていて、見ている分には面白い。
だが、巻き込まれるのはめんどくさい。
「因みに、断ったら?」
「私の全権限を駆使して、黄金都市ユグシルは君たちと敵対することになる♪」
にこやかに敵対宣言するアルフォードさん。
うわっ! この親バカ信じらんねぇ。
「その代わり、君たちが依頼を全うしてくれている間は、君たちの街『魔都ミリハイム』とも友好関係を結び、必要な技術や物資の無償提供を約束しよう」
「無償提供!」
「住人たちが望めば、移住も認めよう」
ミリハイムのレオナたちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
というか、このアルフォードって人物はなかなか出来る人のようだ。俺はこの街で、魔都ミリハイムの話をしたことはほとんどないし、どこから情報を収集してきたのだろう? それに鞭ばかりでなく、ちゃんと飴も用意してあるところが侮れない。
確かにハイリスクではあるが、その分見返りもでかい。
正直、でか過ぎるくらいだ。
本当にどれだけこの人は親バカなんだろう?
「わかりました。引き受けます」
「おお、本当か♪」
満面の笑みのアルフォードさん。
いや、アルフォードさん、あんたが断れないように仕向けたんだけどね!
俺はそんな言葉を飲み込みつつ、新な依頼を引き受けた。




