ベルの塔
俺は換金してもらった金を持ち、ユグシルの街を散策していた。
俺の目の前では、魔導師の少女シフォンとレベルが上がり人型で実体化出来るようになった勇者ハルがハシャギ巻くっている。
「ねぇ、恭介。あっち、いってみたい♪」
「兄貴、俺もいってきていいですか?」
「お前ら、絶対に迷子になるぞ。俺もついていく」
俺たちが門のほうに行くと、前に俺たちに串焼きをサービスしてくれた屋台のおばちゃんが商売をしていた。
前は無一文だったが、今は資金もある。
お礼がわりに、たっぷり買い物でもしてみるか。
「なあ、シフォン、あの屋台のおばちゃんとこに行かないか?」
「あの串焼き美味しかったもんね♪ 行きましょう!」
「シフォンの姉御、待ってくださいよ」
走り出すシフォンを追いかけ俺たちも行く。
「こんにちは」
「あら、あんたたち、この間の」
屋台のおばちゃんも俺たちのことを覚えていてくれたようだ。
さすが客商売しているだけある。
大した記憶力だ。
「シフォン食うか?」
「食べたい♪ ……でも、お金がいるんでしょ? 私、今はお腹一杯だから……(グゥゥゥ)!」
「「「!」」」
シフォンの腹の虫が盛大に大合唱だ。
シフォンが恥ずかしそうに赤面しているが、俺も恥ずかしくてたまらない。何か、シフォンの言い方だと捉え方次第では俺が甲斐性がないみたいだし。
せっかく今は金もあるんだし、我慢なんてしなくていいのに。
向こうの世界でも、こっちの世界でも金に関しては今まで縁がなかったから、シフォンには苦労させっぱなしだったしな。
「おばちゃん、串焼き十本下さい」
俺はおばちゃんに大銅貨を一枚渡す。
おばちゃんは毎度あり~♪とばかりに焼きたての旨そうなヤツを選んで渡してくれた。
俺たちは、それぞれ串焼きにかぶりつく。
残念ながら、武器であり勇者であるハルは実体をもらっても食事は出来ないようだ。シフォンがハルの分の串焼きにも食らいついている。
実に幸せそうだ。
良かった。良かった。
「そうだ。おばちゃん、どっかこの辺で冒険者が集まってそうな所って知らない?」
「冒険者ね……この時間だと、みんな依頼を受けて街の外に出掛けてるだろうね。ああ、そうだ。ベルの塔って所があるよ。この街から南に少しいったところで、大昔の遺跡みたいな感じかね。でも、この間塔の周囲の魔物の掃討が済んだから、今はいるかわかんないけどね」
「ベルの塔か……行ってみるか」
「うん」
「ハルはどうする?」
「兄貴、せっかくだし、兄貴や姉御と分かれてもう少し街中を見て回っていいですか? この街にはまだまだ魅力がイッパイなんで♪」
ハルの目線が、前屈みになっている爆乳のお姉さんに向けられている。よくみると、服の特売みたいで、十代から二十代のお姉さまがたがひしめいている。
ハルのダークブラウンの瞳は、お姉さまがたの動きを数瞬も見逃すものかと、戦闘中以上の気迫が漂ってギラギラしている。
本当にこいつは、見た目が子供じゃなかったら捕まっているレベルの変態だよな。
まぁ、いざとなったらハルは呼べば強制召喚できるしいいか。
「ハル、犯罪だけは止めとけよ!」
「イエッサー♪」
ハルはお姉さまたちの花園へと旅立っていった。
シフォンが近くのベンチで残りの串焼きを食べている間に、俺は近くをうろうろする。
露店商みたいなところで、若い兄ちゃんが手作りアクセサリーを売っていた。
その中の一つ、シンプルなデザインの指輪を手に取ってみる。
「おっ、坊主、いい趣味してんな。でも、それは高いから止めとけ。こっちのほうが安いぞ」
「でも、これが似合うと思うんだよな」
「何、プレゼントか? だったら俺も男だ! 負けてやるさ♪ 本来なら大銀貨1枚のところを小銀貨5枚でいいぞ」
「マジ♪ サンキュー」
「で、どんな子にプレゼントするんだ?」
「あそこで、串焼きを食っている奴ですよ」
「そうか、あんな可愛い子にプレゼントか…………よし、代金は大金貨一枚だ!」
「えっ、高すぎでしょ!」
さっきまで小銀貨5枚って言ってたくせに。
地竜の鱗、五枚分って、どんだけぼったくる気だ、この兄ちゃん!
「俺の嫉妬心からきた慰謝料を上乗せしておいた」
「意味がわかりません!」
こうして、俺は結局、兄ちゃんをなだめて小銀貨5枚で銀の指輪を手に入れた。
シフォンには、いつも食べ物とかのプレゼントだったから、たまにはこういう形で残るものもいいだろう。
ってか、どのタイミングで渡すべきなんだろう?
まぁ、持ってればいつかそのときが来るだろう。
俺が買い物している間に、シフォンはスッカリ平らげたようだ。
満足そうな顔をしている。
「行くか、シフォン」
「うん♪」
俺たちは街を出て、ベルの塔に向かった。
塔に向かっていくと、途中、兎や猪といった動物と出会った。
一応、光の魔導レーザーショットで仕留めておく。
今日の夕飯の分を残しつつ、余分な獲物は俺が亜空間に飼っている地竜の餌にする。
「なんか、恭介、強くなったわよね」
「まぁ、お前やハルに殺されそうだった頃に比べたらな」
「これなら可愛くて、か弱い私を守れるわね♪」
「…………」
「ちょっと、何で無言なの!」
シフォンが、氷の魔導で猪を仕留めながら、不服そうな顔をしている。
う~ん、いつから猪を魔導で仕留めるような女の子のことを、か弱いと言うようになったのだろう。
だが、口に出したら確実に暴れそうなのでやめておく。
でも、シフォンが可愛い……これは間違いない。
隣を歩くシフォンは、露店商の兄ちゃんが嫉妬するくらい誰が見ても美少女だ。
こうして結構一緒にいるが、シフォンは俺のことをどう思っているのだろうか?
とくに、実年齢は26でも、今は十代半ばまで若返っているから、シフォンとほぼ同い年くらいだ。
俺のことをどう思っているのか興味本意だが聞いてみたい。
「あのさ……」
「恭介、塔に着いたみたいよ」
どうやら本当に到着したようだ。
地上から五十メートル程の高さの塔のようなものが見える。
誰だ、こんな距離に作った奴は!
もっと遠くに作ってくれれば、シフォンの気持ちが聞けたのに。
おばちゃんの話では、塔のてっぺんに何か魔力媒体のようなものがあり、それでできた魔力溜まりで魔物が発生するらしい。
冒険者たちは、それを狩ったりしてランクを上げたり、金を稼いだりするとか。
そんな危険な塔を破壊しようと、いろいろ試したこともあったらしいがダメだったから今まで存在するのだろう。
「残念ながら、誰もいないみたいね」
「まぁ、最近魔物も討伐されたばっかりとかだったらな」
見た目的にはボロボロの今にも崩れそうな石作りの塔だが、見た目通りではないのだろう。
回りに俺たち以外、誰もいないのを確認。
俺は魔導を発動する。
「ファイアレイブン、levelMAX……朱雀!」
俺が火の魔導を放つが、塔に当たっても燃え上がるどころか、何事もなかったかのように塔は佇んでいる。
何だろう? 防がれたってよりは、無効化か不干渉に設定されているって感じだ。
「どういうこと?」
「塔のてっぺんにあるっていう魔力媒体のせいだろうな」
「てっぺんに行ってみる?」
「ああ、そうだな」
俺たちは塔の中に進んでいく。
中では、チリのようなモノが宙を漂っていた。
これが、魔物の元なんだろうか?
何か、メッチャ綺麗なんだけど。
とりあえず、危険はなさそうなんで放って階段を上がっていく。
……なんか、この建物何かに似ているような。
気のせだろうか?
八階仕立てだったが、途中コウモリのような生き物が襲ってきたが、シフォンがアッサリと撃退した。
うん、やっぱりシフォンはか弱くはないだろ。
「ここが、最上階?」
「そうみたいだな」
そこは広間のような空間だった。
壁には八面の窓があり、風が結構吹き込んでくる。
ときどき強風が吹き、シフォンの短めのスカートがはためいて、際どいラインが見える。
惜しい、もうちょいなのに!
「何もないな」
「そうね……恭介、あそこに階段がある」
シフォンが更に上にあがる階段を見つけた。
先にあがるシフォンに続き、階段をあがると、上を行くシフォンのスカートの中が見えた。
今日は白だ♪
「恭介、何か大きな鐘がある。これが魔力の媒体かしら?」
「そうみたいだな」
よく回りを見渡せるいい場所だ。
今のところ危険もなさそうだ。
「なぁ、シフォン、俺のことどう思う?」
「エロい、とくにさっきの私を見上げる目、あの変態バカ勇者といい勝負」
アッサリと聞いてみたら、アッサリと思いがけない返事が返ってきた。
あちゃー、俺が下着を覗いてたん、バレていたのか。
俺はあわてているが、シフォンは冷静だ。
「えっと、その……すまん」
「何で謝るの? それだけ私に興味持っていて好きってことでしょ?」
「えっ! え~と……」
「そして、ミリー様のことも、あの変態バカ勇者のことも好きなんでしょ」
ああ、みんな好きって話か。
焦ったぁ。
「ああ、俺はみんなのことも、勿論シフォンのことも好きだ」
このタイミングなら、シフォンの気持ちを聞けるか。
「シフォン、お前は俺のこと……どう思う? 好きか嫌いかでいうとって話で!」
「確かに、出会いは最悪だったし、エロい目で見られたり、大変なこともあったけど、ちゃんと私の苦しんでいるときや危ないときにはちゃんと来てくれた。私のために怒ってくれた」
そして、シフォンはこの言葉で最後を締め括る。
「……私はそんな恭介が好き」
あまりにいい笑顔で言われ、とっさに反応が出来なかった。
それは、どんな好きなんだろうか……。
家族? 仲間? それとも……。
そこから先は考えるのをやめる。
考えても一緒だからだ。
俺は、シフォンが大事だ。
自分の命と天秤にかけられるくらい。
それだけがわかっていれば十分だ。
「これからも、お前に何かあったら、俺は真っ先に駆けつける」
「あったり前でしょ!」
鐘が一人でに鳴る。
ゴーンゴーンとまるで、結婚式でも祝福するように。
そうか、この建物何かに似ていると思ったけど、教会に似ているんだ!
鐘の前で告白のようなことをする俺たち。
こっぱずかしい! ん、そういやここで渡すってのはどうだろう?
俺は露店商で買った指輪を取り出す。
「シフォン、これやるよ」
「……ありがとう♪ 大事にするね」
赤面しながら微笑むシフォンは、メチャクチャ可愛かった。




