旅立ち前夜
俺は、住民達に雫の安全性と利便性、そして可愛さについて力説する!
とくに、可愛さについては重要だ!
最初は、魔物だという事実だけで怖がっていた住民達も、落ち着きを取り戻すと、マジマジと雫を観察している。
まぁ、魔物なんて滅多に見られるもんじゃないのかもしれないしな。
因みに、すでに何人かの住人は、人の五、六歳にしか見えない雫にメロメロだ。
高齢の婆ちゃんとかはまだしも、若い男とかがメロメロだと、ちょっとどうだろ。
良いことなんだろうが、こいつら実はロリ?とかいう別な心配も出てくるが、まぁいいだろ。
雫は魔物だし、いざとなったら自分のことは自分で守れる子だ。
「みなさん、ここを見ててください」
俺は地の魔導で、公園とかにあった水のみ場を再現する。
「キョースケ、それって俺らの家にもあったやつだが、なにをするもんだ?」
「これは水道といって、ここ、蛇口って言うんですが、ここを回すと水が出るんです」
「水が? まさか!」
俺が、雫に合図を送り、蛇口を捻ると水がチョロチョロと流れ出してきた。
住民達から歓声が上がる。
「皆さんの家でも、これと同じことが出来るようになりますよ。それに、雫がいる限り、水が枯れることもないし、水質の汚染を心配することもなくなります。畑の水やりも楽になるはずですよ。これら水に関わる全部のことを雫はできますから」
<……エッヘン……>
俺に説明され、雫が無い胸をそらす。
とりあえず、褒められているというのはわかったのだろう。
「どうですか? これでもまだ雫を住民として受け入れてはもらえないですかね?」
「確かに、便利だし良いとは思う……けど、魔物だしな」
元のミリハイム村の村人は概ね賛同してくれたが、リチャードの村から来た奴らが難色を示している。
というか、こいつら自分らがミリハイム村にやろうとしたことを棚にあげて厚かましい!
俺が抗議の声をあげようとする前に動く人物がいた。
レオナも動いてくれようとしたけど、そのレオナを制止させ前に出る人物。
レオナの父、リチャードだ。
リチャードは前に出ると、ゆっくりと、自分の村の元の住人達に語りかける。
「人間だって、悪いことをする奴がいる。私達がそうだった。でも、この町の住人達はそんな私達を受け入れ、家も与えてくれた。この魔物の子は良いことはしても、まだ何も悪いことはしていない。魔物というだけで村から追い出すのは間違っていると思わないか? それでもこの子が気に入らないというのなら、この町から出ていくのは、元の住人達に対し、もうすでに罪を犯している私達の方だと思うのだが、どうだろう?」
リチャードのくせに、まともなことを言っている!……聞かれたら、失敬なって言われそうだが、思うだけなら自由だろ。
いや、でも、リチャードは元々は真面目でまともな性格だったのかもしれない。
どんなに窮地に陥っても自分の村の住人達のことは見捨てなかったのだから。
自分の父の言葉をきき、レオナも満足そうに頷いている。
確かに、今の言葉だけで考えると、自慢の父だろう。
俺も少しリチャードを見直した。
こうして、そのあとは誰も反対意見を述べることなく、雫は住人達に受け入れられることとなった。
……。
…………って、普通はここで終わるよな?
何で俺、こんなに働いてんの?
俺は新町長、レオナ指導のもと、急ピッチで地の魔導による土木工事を行っていた。
シフォンは、繊細な地の魔導が苦手ということと、魔力量の問題で工事は免除となっている。今は森へ狩りに行き、これからの旅に向けての準備を着々と進めてくれている。
俺もそっちのが良い……。
「はい、次はあの家を改造しちゃいましょ♪道向かいの息子さん宅にそのまま二階から行けるように渡り廊下を付けて欲しいみたい」
そんなもん、外から普通に回り込んだらダメなのだろうか?
「……お前な、何でもかんでも引き受けるなよ……」
「新しい町長の初仕事よ。手は抜けないわ♪それに、あそこに渡り廊下を付けると、洗濯物もいっぱい干せるし助かるのよ。あそこの息子さん、五人も子供がいるから」
「五人も!」
たしか、あそこの息子って二十歳過ぎ位だったはずだ。
頑張りすぎだろ!
「それにしても、この短期間でよくもこれだけの要望を集めたな?」
「まぁね、これでも町長だからね♪」
レオナが、年のわりに控えめな胸をそらしながら言っていると、向こうからチョモランマ級の大きな胸をユサユサ揺らしながら眼鏡をかけた女の子が近づいてきた。
え~と、たしか、レオナの幼馴染みのミランダとかいう娘だ。
少し地味な顔立ちだが、シフォンやレオナが可愛すぎるってだけで、十分に一般的な可愛さには達している。
その人をホッと一息着かせるような笑顔は慈愛の天使って感じだ。
何か、用事だろうか?
「レオナちゃん、新しい要望書を纏めてきたよ♪」
「ありがとう、ミランダ」
巨乳の天使は俺に死ねと言っているらしい。
そんなこんなで、俺はほとんどの家々を改造させられまくり、俺の造った画一的な街並みから、より生活感のある街並みに変貌させられていた。
今後のことを考えて、宿屋や集会所何かも建てさせられている。
その夜、俺は心地良い……いや、地獄の疲れにベッドに倒れ込む。
隣のベッドに腰かけているシフォンは、パジャマに着替えて、休む準備も万端だ。
「なぁ、シフォン、この町は良い町になったと思うか?」
「これからなっていくんでしょ? 大丈夫。この町には、レオナもラルフもリチャードだっているんだから。それに雫もいるんだしね」
シフォンの言葉に俺が頷く。
ミランダや他の住人もいるし、あとは俺が心配することじゃないだろ。
「で、私達は明日このミリハイムの町を出発していくわけだけど……恭介、あんたはまた泣くの?」
「何でだ? 俺にはシフォン、お前がいてくれるんだろ? なんなら、今晩、一緒に寝るか?」
俺がニヤリと笑顔で返す。
シフォンが、真っ赤になって慌てふためく姿は今日もメッチャ可愛いかった。
そして、可愛さと同時に、怖さも。
「あの、シフォンさん、手に魔力が集まってますが? それは、どうするつもりなのかな?」
「こうするのよ! アイスショット!」
「ぎゃぁぁぁ」
こうして、俺は疲れた体に鞭打って、深夜の家の立て替えをすることになった。




