魔導と希望
翌日、俺は一人でミリハイム村から遠く離れた森に来ていた。
もう昼過ぎだってのに、辺りは鬱蒼とした木々や茂みで薄暗い。
シフォンは、昨日の晩の宴会で騒ぎ疲れていたこともあって、念のため村に残ってもらっているし、雫には今後の上下水道の配備について相談したが、それには村の地下に流れる水脈にアクセスしたり、大きな川への水路の確保が必要だということを言っていた。
今は俺の我が儘を叶えるために一生懸命、地下の水脈へ干渉することを試みてくれていることだろう。
見た目は、六歳くらいの女の子なのに、雫は可愛いだけではなく、本当に出来る子だ。
まぁ、一応魔物だしな。
俺は、雫がどの魔物のランクに相当するのだろうかと検索の魔法で調べると、魔人級という回答が表示された。
確かに、ただの魔物にしては意思も知性もあるし、能力的にも高すぎるとは思っていた。
妥当な結果だと思う。
「うー、それにしても昨日は俺も飲み過ぎた。何で果実のジュースを飲んでいたはずだったのに、どうして果実酒が混ぜられていたんだ? 絶対、ラルフさんの悪ふざけだろ!」
昨日の晩は予定通り宴会になり、朝までコースだった。
俺は、一応村の子たちを助けた主役だったので付き合ったが、後半のほうは村の子を拐った犯人であるリチャードたちも巻き込んでのどんちゃん騒ぎだった。
それって、どうなんだろうとは思うが、これから共に同じ村で暮らしていくのだ、いがみ合うよりはマシだろう。
最後は、リチャードとラルフさんの飲み比べで、二人ともぶっ倒れて勝負は引き分けに終わった。
他の村人たちも二人の勝負や俺の造った新しい街並みや家々に大興奮。
そんなこんなで大宴会が開かれた結果、村の備蓄食料が底をついた。
酒の肴として、そこに手を出すなんてどうなんだろうか?
……あの人たちは、もうちょい加減というものが必要だと思う。
そういう訳で、手っ取り早く当面の食料を調達するため、村人の半分は近くの森の採取や狩りに行き、俺はこうして遠くの森に狩りに行くことになったのだ。
「おっ! いたな」
近くの茂みに身を隠す。
俺の視線の先に、大きな猪がいた。
何か餌となるものがあるのか、森の木の根もとを鼻で掘り返しそうとしている。
猪の肉は、加工もしやすいし、いい保存食になる。俺の造った倉庫にいれておけば鮮度を保ったままの貯蔵も可能だ。
(レーザーショット!)
光の魔導のレーザーで、猪の頭部を射抜く。
猪は、自分が何をされたのか気付かないまま絶命する。
俺は猪を空間魔法で造った亜空間に取り込んだ。
これで亜空間にある猪の死体は二十体目だ。
他にも食べられる野草や果実も適当に放り込んである。
このくらいの量があれば、今日明日は大丈夫だろう。
せっかく遠くの森までやって来たのだ。
少しやりたいことがあった。
それは魔導の訓練だ。
俺は近くに人がいないことを検索の魔法で確認すると、魔導の訓練を開始する。
今は異世界の事情もわからず、色々村の問題もあったから動かずにいたが、時期が来たら本格的に奪われたミリーの魂を追おうと思う。
そのときは、嫌でもまた白金級の勇者ロンギヌスとその使い手マリアとの再戦となるだろう。
準備はしておかないといけない。
「ファイアレイブン!」
俺は近くの手頃な大きさの木に向け、火の魔導を放つ。
カラス程度の大きさの鳥を象った炎が直撃すると、木の幹が炎に包まれる。
僅か、数秒で燃え散った。
「やっぱ、こんなものだよな」
なかなかの火力だと思う。
思うんだが……。
あいつら化け物クラスを相手にするならどうだろうか?
……答えは、全然足りない。
「レイブンじゃ、この辺りが限界か……」
俺は攻撃の魔導を使うとき、好んで鳥の形状をとるようにしている。
それは、俺のイメージに起因するところもある。
俺は最初の頃、風の魔導を使うときに虎の形をイメージして、ウインドタイガー。地の魔導を使うときに亀の形をイメージして、ロックタートルとかにしようと思っていた。
でも、考えてもみてくれ!
とくに、ロックタートル!
高速で地面を滑走する亀なんて見たことないだろ?
俺の知っている漫画やアニメでもそんな亀はなかなか存在しない。
実際使ってみると、恐ろしく鈍足の魔導になってしまったのだ。
結果、ロックタートルといった動物シリーズは却下となり、ロックレイブンといったレイブンシリーズが採用となっていた。
俺がレイブンシリーズを好むのは、ショット系の直線的なモノより、生き物の形のほうが様々な動きをさせやすいってことも理由のひとつだ。
だが、イメージがそのまま形になるのなら、解決策もあるはずだ。
俺は魔力を溜める。
今の俺の一回魔力運用量はレイブン換算で、十発分。
それを一発のレイブンに纏めて使用。
「コントロールはできるな」
少し準備に時間はかかるが、なかなかいい感じだ!
生じる炎の火力と規模も上がるのを感じる。
これならいけるか?
「よし、いくぞ……」
(朱雀!)
俺が放つ火の魔導は、巨大な火の鳥となって森の木々を纏めて焼き払う。
「なかなか調整が難しいけど、これくらいならいけるか」
一応は成功だろう。
対個人に使用するなら、もう少し範囲は狭めて、火力を上げられるかもしれない。
「でも、あいつら、本当の化け物みたいに強かったしな。とくにあの槍を振るうスピードが尋常じゃなかった」
まぁ、気休め程度にはなるか。
他にも、今まで敢えて避けていた俺の妄想の四聖獣シリーズを試し、少しだけ手応えを感じることができた。
テレポートは一回で二百メートルは移動できるようになった。
「あとは検索の魔法も試しておくか」
何を検索しようかと考えたが、何も考え付かなかったんで、適当にシフォンのパンツを検索してみる。
あくまでダメ元だったんだが、ピコーンって感じで、いつもの音が鳴った。
「マジで!」
俺は、パンツの色でも教えてくれるのかと思ってちょっと期待して待つ。
すると、俺の目の前にシフォンの下半身が映像で表示された。
白い太ももにピンクの紐パン……シフォンの奴、いつの間にそんなエロい下着を身に付けるようになったんだ。
成長を確かめるようにガン見してしまった。
画像はシフォンの臍辺りから太股までで、こちらからの一方通行のようだ。
覗き放題ってことか?
……ハルが生きていたら悪用しようと騒ぎ立てたに違いない。
俺は、ハルの人間形態だった少年の姿を思い出す。エロくはあったが、どこか憎めない奴であった。
「ハルか……あいつが生きていたら、ロンギヌスたちとの再戦も心強かったんだがな……」
ちょっぴり、しんみりしてしまった。
俺はポケットを探る。
ポケットの中には、ハルの本体であるハルバートが壊れた際に残っていた宝玉が入っていた。
手に取ると、光に反射して銀色に輝いていた。
「綺麗だな……」
このまま吸い込まれそうな輝きだ。
……俺は検索の魔法で、何となく検索する。
ハルを復活させる方法を……。
全く期待していなかったが、信じられないことに、ピコーンって音が鳴った。
「マジか!」
目の前に光の道が見える。
俺たちにとって、本当の意味での光の、希望の道が!
ハルが甦る?
俺は、その喜びをどう表現していいかわからない!
だが、これで俺たちの当面の目標が決まりそうだ。




