森の魔物
リチャードの村を壊滅させた俺とシフォンは、拐われていた子どもや娘たちだけでなく、リチャードの村の村人も含め、みんなでミリハイム村を目指して移動することになった。
流石に、全員ではテレポート出来ないし、一日がかりの移動になるだろう。
「なあ、シフォン、子供たちやこいつらをミリハイム村に連れていくのを頼んでいいか?」
「いいけど、恭介はどうするの?」
「俺は、森に出たっていう魔物のほうに行ってみようと思う」
「わかったけど、十分に気を付けてよ」
「ああ、わかってる」
シフォンの了承も得られたし、俺は検索の魔法を発動する。
検索内容は、ミリハイム村を襲おうとしている魔物の位置についてだ。
すると、ブブーっという音が鳴っただけで、何も表示されない。
まだ、村を襲う危険性はないと言うことだろうか?
今度は、ミリハイム村の近くにいる魔物の位置についてで検索する。
今度はピコーンっていう、いつもの音とともに光の道が表示される。
「ああ、そうだ。そいつらが少しでも抵抗しそうなら、死なない程度にならこらしめていいから。怪我させてても、腕の一本や二本なら後で治すし、遠慮はいらないぞ!」
「わかった。死なないようにだけは気を付けるわ」
俺たちの会話を聞き、リチャードたちの顔が青ざめる。
これで釘も指したし、この反応なら大丈夫だろ!
「じゃあ、また後でな」
俺は光の道に沿って、連続テレポートを開始する。
しばらく行くと、泉のような場所にきた。
ここで光の道が途絶えている。
ということは目的地もここで合っているということだろう。
泉は綺麗な水を湛えていて、ちょっとしたプールくらいの大きさがある。
俺に、もうちょい若さと元気があれば泳いだんだけどな……って、俺、今若いじゃん!
精神的には26歳だが、外見は十代半ばまで若返っている。
誰も見てないし、いいよな♪
俺は裸になって、泉に飛び込む。
ジャボンっていう水飛沫とともに、爽快感が肌を駆け抜ける。
一応、魔物を警戒してフィジカルブーストは発動中。お陰で、未だ嘗てない速さで泳ぐことができた。
気持ちいい♪
暫くして、泉の底に何かがいるのを発見する。
「何だ、あれ?」
泉の底に、小さな女の子が膝を抱え込むようにして座っているのだ。
俺が泳ぎ出して、五分以上は経っている。
その間に息継ぎに出てきてはいなかったはずだ。
まず、間違いなく人間ではないだろう。
よく見ると、人間のように見える外見の所々に小さなヒレや鱗のようなものがある。
俺は息を大きく吸い込み、潜ってみる。
女の子の目の前に到着。
泉と同じ、深い蒼のクリクリした瞳とフワフワの水色の長い髪。人間的な外見で、六歳くらいに見える。
実に可愛らしい。
水の妖精に子どもがいるとしたらこんな感じなのかもしれない。
魔物の女の子は、俺をみると小首を傾げた。
<……お兄ちゃんは誰? 何で、お兄ちゃんから懐かしい匂いがするの?……>
「……!」
魔物の女の子のほうから念話で話しかけてきた。念話が出来るなら話は早い。
(おい、そこのお前、聞こえるか? 念話が出来るんなら水の上に出てきて話さないか?)
<……いいよ……>
素直に女の子が応じてくれて助かった。
水の中じゃ、まともに話難くてしょうがない。
水中にいる俺に対しても何も仕掛けてこないということは、今のところは大丈夫そうだろ。
俺が岸に上がると、魔物の女の子は水面に立っていた。
水面に立つのってカッコいいな!
俺も今度試してみよう♪
「それで、お前の名前は? どうしてここにいるんだ?」
<……名前? 気付いたらここにいたの……>
俺のみる限り、嘘は言っていないっぽい。
検索の魔法で、俺の周囲に対して危険を検索してみるが、またも該当するものはなかった。
「お前はどこから来たんだ?」
<……知らない、気付いたらここにいたの……>
ということは、ここで発生したという魔物は、この女の子で間違いないと思われる。
多分、何を聞いても知らないって言いそうだよな……。
生まれてきたばかりで、自分の存在理由とかもわかっていなさそうだ。
このまま、ここに置いていても、魔物というだけで、この子は見つけた他の奴に殺されてしまうかもしれない。
勿論、俺は魔物というだけで殺す気はない。
こんな可愛いく愛らしい子を殺すくらいなら、リチャードたちを皆殺しにするほうが、よっぽど気が楽だ。
さて、どうするか。
<……お兄ちゃん、良い匂い……>
「へっ!」
食べ物として、良い匂いと言われたのかと一瞬ドキッとするが、そうではないらしい。
<……ママの匂いがする……>
魔物の女の子が、俺のほうから漂ってくる匂いにそう言ってきた。
残念ながら、俺の匂いは体臭しかしないはずだ。
「待てよ?」
ラルフさんが、以前に魔物は魔力溜まりから生まれると言っていた。
ということは、この子も魔力溜まりから生まれたということになる。
誰の魔力でその魔力溜まりができたということだが、その魔力の持ち主がひょっとしたらうちの魔王少女ミリーだったのかもしれない。
ここはミリハイム村の近くだし、十分に可能性がある。だから、俺の中にあるミリーの魔力に懐かしさを感じたんだとしたら話は合う。
そう考えると、この魔物の女の子に愛着が湧いてくる。
この子が誰かに殺される? そんなの絶対にごめんだ! 許せない!
「なあ、よく聞け。俺は、お前のママの……知り合いだ。今日からお前の名前は雫だ。いいな」
<……雫? 名前、雫……>
何度も自分につけられた名前を反芻している。メッチャ可愛い!
心なしか、喜んでいるようにも見える。
「雫、お前も俺と一緒にこい!」
<……いいよ……>
よし、話は決まった。
俺は、この魔物の女の子の雫とミリハイム村の人たちとの共存の道を考え始めた。




