呼ばれて来た男
ミリハイム村の近くの森に魔物発生から数日。
幸い、近くの村に勇者が滞在しているということで、来てくれることになったそうだ。
俺に出番はなさそうだし、村に犠牲者も出さずにすみそうだ。
良かった。
三日後、一人の若い男がやって来る。
盗賊の下端っていう表現がしっくり来るくらいの悪人顔だ。
手には大きめの鎌を持っている。
だが、ただ普通の鎌と比べると大きめというだけで、特別な武器にはまるで見えない。
あれが勇者だろうか?
正直、勇者の使い手には見えないが、人は見かけによらないものだ。
実際、白金級の勇者ロンギヌスの使い手のマリアも外見だけなら、ただの少女にしか見えなかった。
悪人面なのも生まれつきかもしれないし、俺が元の世界でお世話になったバイト先の店長も極道面だったが、面倒見の良いいい人だった。
人を外見だけで判断するのはいけない。
「俺様は、白銀級の勇者デスサイズとその使い手ランド様だ。俺様が来たからには、もう大丈夫だ。さあ、この村の最高のもてなしをみせてみろ」
ランドという奴は、一番の上座にドカッと腰掛け自己紹介…というか好き勝手な要求をしてくる。
横柄な態度だが、勇者の使い手というのはこんなものなのかもしれない。
マリアも相当の変人だったしな。
そりゃ、こんなのばかり相手をしていたら、ハルの性格も歪むってものだろう。
そんなことを考えながら観察していると、おかしな所に気が付いた。
男の持っている鎌から、何の力も感じないし、意志の具現化した姿も見えないのだ。
どういうことだ?
おかしいと思いながらも、とりあえず村人たちは喜んでいるようなので、放っておく。
例え、嘘であったとしても強さが本物なら問題ないのだ。
歓迎の宴は夜まで行われた。
その夜、明け方辺りでトイレに起きる。
勿論、家の中にはないので、村の共同トイレまで行くと話し声が聞こえてきた。
「どうだ、この村に良い獲物はいたか?」
「いや、貧乏村で金目のものは一切なさそうだ。唯一売れそうなのが、村の子供や娘たちだな。こんな辺境の村にしてはみんな上玉だ。とくに、銀髪の娘なんかは高く売れるだろう」
銀髪の娘とは、シフォンのことだろう。
シフォンやピノたちを売る?
何とも穏やかではない会話だ。
俺は近くの屋根に、テレポートすると下を覗き込む。
月明かりに照らされ、会話している奴らの顔が浮かび出される。
ランドだ。
ランドは、白銀級の勇者の使い手などではなく、ただの盗賊団のようだ。
残念ながら、もう一人の顔も見えてはいたのだが、見覚えがない。ただ、ランドの仲間ということは確かだろう。
前後関係も見えないし、この場は放っておく方が良さそうだ。
ただ、シフォンには注意をしておくように忠告しとこう。
翌日、ミリハイム村の男たちに森へと案内され、ランドは出掛けていった。
俺は、検索の魔法を使用する。
検索内容は、この近くにいるミリハイム村以外の人間の所在についてだ。
ピコーンという音とともに、俺にしか見えない幾つかの道が表示される。
連続テレポートで移動し、一番多くの道が示されている方向へいくと、十分ほどで何処かの村に出た。
ミリハイム村よりは大きな村だ。
隠れて様子を見る。
村の中央にある一番立派な家から、村長らしき人間が出てくる。
「あれは!」
あの夜に、偽物の勇者の使い手ランドと話をしていた奴だ。
ちょうど、村の有力者と話をしているようで、少し話を盗み聞いてみようとするが、なかなか聞こえない。
そこで、俺はダメ元で検索の魔法を使用してみる。
検索内容は、この村の現在おかれている状況にしておく。
すると、ピコーンという音とともに光の文字が目の前に表示される。
ご丁寧に日本語だ。
今年は作物のできが悪かったこと。
裏家業の方が儲かること。
貴族お抱えの隠れ里になれば、今後の心配がなくなること。
そのために、ミリハイム村の娘たちや子供を献上しようとしていること。
献上された者たちは変態趣味の貴族にいたぶられた後、殺されるであろうこと。
残されたミリハイム村の者も、今後の遺恨を残さないように皆殺しにしようとしていること。
何とも分かりやすい悪党たちだ。
というか、検索の魔法便利過ぎるだろ!
人探しの探索から、情報収集まで行えるってどんだけ高機能なんだって話だ。
これからは、ちょくちょく使っていくことにしよう。
まぁ、あいつらの悪巧みも分かったし、ミリハイム村に帰るとするか。
ミリハイム村に帰ると、ラルフさんが慌てていた。
「キョースケ! 無事だったか!」
「どうかしたんですか?」
「ランド氏を案内している間に、村の子供や娘が拐われた。どこにいるのかもわからない。ランド氏は、引き続き森を探してくれるそうだ。我々は報告を聞いて先に戻ってきたんだ」
俺にとっては、ああ、成る程なという感じだ。
このあとの展開も、もうすでに首謀者から盗み聞いている。
「今夜辺り、やって来るかもですね」
「どういうことだ?」
俺はラルフさんに、俺が集めたすべての情報を話した。
「早速、村のみんなを集めて、あいつらを返り討ちにして連れ去られた娘たちを取り返しに」
「落ち着いてください。大勢で押し掛けても無駄に犠牲が出ることになるだけかもしれません。この件は俺に任せてください。奴らに思い知らせてやりますよ。浅はかな考えで行動するとどうなるのか」
「…………」
森の魔物は後回しだ。
ミリーを慕うこの村の人間に手を出したことを心の底から後悔させる。
殺すなど生ぬるい。
俺の悪い笑顔をみて、ラルフさんは無言で承諾してくれた。
それほど、悪辣な笑みを浮かべたつもりはないんだがな。




