村での生活
俺とシフォンのミリハイム村での生活は概ね順調だった。
結局、ベッドは二人で使っている。
よくよく考えたら、以前の四畳半の部屋での共同生活の時には、これより近い距離で寝ていたのだ。
そのときも間違いは起こらなかったし、今回も大丈夫だろう。
ただ、俺の体が若返ったせいで、色んなことに反応し易くなっていることも事実だ。
向こうの世界で、パジャマや下着という文化を吸収したシフォンの可愛さは日々増している。
シフォンには私が寝ている間に手を出したら、殴ると釘を刺されていたが、以前襲ったら殺す!って言われていた頃と比べると幾分かマシになったと言えるだろう。
生活リズムは他の村人と一緒だ。
シフォンが森へ採集や狩りにいっている間に、俺は農作業を手伝ったりしている。
地道に、力仕事を手伝いながら村の様子を観察するが、いかにも異世界の小さな村ってだけで、特筆するところが何もない。
のどかなところだ。
因みに、俺やシフォンは、ただ旅の途中で情報を求めてこの村に立ち寄り、体を休めながら旅を続けるための食料などを蓄えさせてもらっているということにしてある。
村は全方位森に囲まれており、採取や獲物については村人の分が減るというような量的な問題はそんなにしなくても大丈夫だろ。
魔導については、使えることは秘密にしてある……というか、聞かれてもいないのに自分からペラペラ話す必要はないだろう。
別に嘘をついているわけでもないし。
こんなに小さな村には珍しいらしいが、魔法使いの婆ちゃんもいて、空き時間を作っては会いに行っていた。
あくまで、孫が婆ちゃんの所に遊びに来たような感じで訪れると、向こうも歓迎してくれた。
俺はこっちの世界の魔導や魔法を使う奴をシフォンしか知らない。
情報収集は大事だろう。
やっぱり、この世界での魔法は事象を起こすことのみのようで、シフォンや俺の使う魔導の方が格上の技術のようだった。
しかし、学ぶべき点もある。
それが空間魔法だ。
これは、魔力でフィールドを造って、その空間内の法則を少しだけ操作することができるらしい。
ただ、これはとても魔力を消耗するらしく、熟練者である婆ちゃんも片手分の空間を操作できるかどうかというものらしい。
村では作物の発芽などで重宝されるということだ。
それが本当なら、醸造や発酵といった長期間かかる過程も全部すっ飛ばせることになる。
味噌や醤油も作れるかもしれない。
いつか試してみよう。
そして、空間魔法での目玉のひとつが、亜空間作成。
時間の流れが停止した空間のなかに食物を入れておけば腐らないどころか鮮度も変わらないということだ。
それに、実際の大きさや重さに関係なく、物を手ぶらで運べるという。
これは使える。
普通の魔法使いや魔導師なら、魔力の容量の問題で精々、樽二つ分らしいが、俺はミリーから受け継いだ膨大な魔力がある。容量云々の問題はクリアだろう。入れ放題だ。
この世界での通貨は、この小さな村ではあまり必要ないらしく、まだ目にしたことはない。物々交換で全部賄えてしまう。
そこは少し残念だが、これから先、また見る機会はあるだろう。
俺たちは、予想以上に村人たちに溶け込んでいた。
「今日の獲物を持って来たわよ。私が仕留めたんだから♪」
「シフォンちゃんは凄いな。本職顔負けだよ。それに比べてロカルド、お前はそんなんじゃピノちゃんを食わしていけんぞ」
「そうですね」
「ピノちゃんもロカルドやめて、シフォンちゃんに嫁にもらってもらった方がいいんじゃないか♪」
牙が異常に発達したイノシシのような生物を目の前に、シフォンは村人たちに褒められ満足そうにふんぞり返っている。
攻撃用の魔導を使わず、人に見られないように沼の表面を凍らせて、そこにうっすら土を被せて罠としたのだそうだ。
あとは追い込んでもいいし、おびき寄せてもいい。
実に楽しそうだ。
隣で小さくなっている若い猟師が、気の毒で仕方がない。
たしか、ロカルドって名前で、今度ピノって子と結婚するはずだ。
ピノって子は結構可愛いし、やっかみもあるのだろう。
至って、平和なことだ。
ロンギヌスっていう白金級の勇者に奪われた、うちの魔王少女ミリーの魂のことはたしかに心配ではあるが、大丈夫ではないかという変な確信を持っていた。
確かに、ロンギヌスの槍とその使い手のマリアは、俺を殺そうとしてはいたが、一回もミリーを殺そうとはしていなかった。
それに、あいつらは、俺と最初に出会ったとき『奪いに来た』と言っていたはずだ。
ただ、それだけのことだが、大丈夫だと思う。
このまま追いかけても返り討ちに合うかもしれない。
今は力を蓄えるべきだろう。
「私にかかれば、このくらい何てことないのよ」
たしかに、そうなんだろうがシフォンは少し楽しみ過ぎな気もしなくもない。
シフォンの成果のおかげで、今日も村の食卓は豪華だ。
ある日。
ラルフさんの家の耕作を手伝う約束だったので行くと、ラルフさんが村人数人と難しい顔をして話し込んでいた。
「ラルフさん、どうしたんです?」
「やぁ、キョースケ。東の森の少し行ったところに魔物が出たらしい」
「魔物!」
魔物かぁ、いよいよ異世界って感じになってきた。
シフォンが捕ってくる獲物も十分に魔物染みていたが、本物の魔物は別物らしい。
ラルフさんが魔物について説明してくれた。
この世界の魔物は、魔力溜まりから生まれること、魔物にも強さや希少性によりランクがあると。最初に魔物であったモノは、やがて年月を経て魔人となり、魔力を増すと理性を持たぬ魔獣になるらしい。その中の一部に、冒険者や勇者にも倒されず生き残り、尚且つ理性を持った者のみが、魔王への道が開けるのだと。
最後に、ラルフさんはこれはじいさんの受け売りなので、半分は迷信かもしれないがな、と言い加えた。
本当かどうかはわからないが、これが本当なら魔王もミリーだけではなく、他にもいるということになる。
勇者も魔王もいすぎだろって話だ!
本当にどうなっているんだ? この世界!
……と話が逸れてしまった。
とりあえず、魔物は討伐対象であり、近くの村に応援を呼びに行っているらしい。
うまく冒険者のパーティーや青銅級の勇者とその使い手なんかがいてくれたら心強いが、それらがいなかった場合、村の男手総出での討伐になる。
その場合、損害はわからない。
魔物がどんなものであるかはわからない以上、俺たちだけで行くのも危険であるし、今は幸運を祈っておく。




