ミリハイム村
俺たちは家に招き入れられていた。
簡素なキッチンに大木をそのまま切り出したようなダイニングテーブルが味わいを醸し出している。
豪奢さはないけど、手入れが行き届き居心地の良さそうな空間になっている。
「このお茶、おいしい。こっちのクッキーもおいしい♪」
「確かに旨い!……だけど、シフォン、食い過ぎじゃないか?」
「褒めてくれて、ありがとうね。でも、若い人が遠慮なんかしたらダメよ」
図々しくお邪魔して、お茶までご馳走になってしまっている。
茶器は陶器で、こんな村のおばさんが中世ヨーロッパあたりで着られていたゆったりしたワンピースのような衣服も着ることができているってことは、それなりの技術レベルはあるみたいだ。
俺は、失礼とは思いながらも、キョロキョロ観察してしまっていた。
そんなこんなしているうちに、家の主が帰ってきたようだ。
「ただいま。やぁ、いらっしゃい」
「あなた、こちらの方たちが、あなたに聞きたいことがあるらしいの」
「初めまして、一応この村の長をしているラルフです。よろしく」
「よろしくお願いします。小林………恭介です。恭介と呼んでください」
「シフォンです」
俺たちは挨拶すると、俺たちのこれからの目的でもある、ミリーの魂が封じ込められた魔性石を持っている白金級の勇者ロンギヌスの槍とその使い手の情報を聞いてみた。
あくまで、ミリーはこちらの世界では魔王だったので、理由は以前助けていただき、直接感謝をしたいからということにしておく。
「すまんが、ワシも知らんな」
「そうですか」
「力になれずにすまない。ワシが知っているのはこの村の成り立ちと狩りや農業の仕方くらいだ。神都や聖都のほうにいけばイロイロわかるかもしれんが、ここからは数ヶ月かかるからな。ワシも未だいったことはないんだ」
神都や聖都。
聞いただけでもここよりは大都会だろ。
というか、移動に数ヶ月!
確かにテレポートを使える俺ならもっと短い時間で行けるのだろうが、最低数日は野宿をしなくてはならないだろう。
「あの、俺たちをしばらくこの村に置いてもらうってわけにはいきませんか?」
「ちょっと、恭介、何言ってんの! 私達は早くミリー様を探しに行かないと」
俺の突然の提案に、黙って聞いていたシフォンが反対する。
シフォンの気持ちはわからなくない。
だが、俺たちはここに来たばかりで情報も何もない。
この世界の通貨すら知らないのでは、これから先絶対に困ることになる。
「でも、俺もこっちの世界のこととかわからないし、お前は野宿とかできるのか?」
「当たり前でしょ!」
そういえば、シフォンは一人の時にもミリーを探していたわけだし、元々ミリーに育てられた時から酷い食生活をしていたんだ。
あまりに美少女的な外見過ぎてイメージがなかったが、野宿に関しては何の問題もないのだろう。
だが、現代日本で衛生的に育ってきた俺にそんな真似は出来ない。
「二手に別れて行動するか?……因みに、俺と一緒にいると調味料各種が使えて、美味い料理が食べれるっていう特典があるんだがな」
俺は、リュックに入れられた色とりどりのビンをシフォンに見せる。
その中には、シフォンが初めて食べて感動したという、マヨネーズやケチャップも大量に入っている。
北欧系の美少女という見かけによらず、食い意地の張ったシフォンがこれらを見て我慢できるはずはない。
「……わかったわよ」
こうして、俺たちは一時この村にお世話になることになった。
「それじゃあ、空いている家があるからそこを使うといい」
俺たちはそこに案内される。
そこへの行きしなに、この村の成り立ちを話してくれた。
「この村はな、魔王ミリーヒルクライム様が切り開いた村なのだ」
俺と、シフォンが顔を合わせ驚いた。
「いや、切り開いたっていうのは語弊があるか。昔はここも深い森だったのだが、ある時ここを通る移民団がいてな。運悪く魔物の群れに襲われたんだ。そこにやって来た少女のような姿をした魔王は、気まぐれかもしてないが、救ってくれた。そのときに魔王の使った暴風で出来た開けた土地に、移民の一部が居着いたのがこの村ってわけだ」
ミリーの奴らしい逸話だ。
あいつは、本当に魔王という自覚があったのだろうか? いや、自分でも魔王といっていたし多分自覚はあるのだろう。
だが、俺の知っている姿や行動。
なんだか無性に嬉しくなってくる。
それで、この村の名前の響きはミリーに似ているわけか。助けられた奴等も粋なことをすると思った。
「着いたよ」
俺たちの前には、少し小さめだが、しっかりとした造りの家が建っていた。中に入ると、竈もあるしテーブルや椅子もあった。
そこはいい。
ありがたい話だ。
だが、問題はある。
それはベッドだ。
少し大きめのベッドが一台しかなかった。
俺とシフォン、二人居るのだがこれはどういうことだろう?
俺のそんな疑問はすぐに氷解することになる。
「ここなら好きに使ってくれて構わない。君達のような新婚さんにもお奨めだ!」
「へっ?」
新婚さん?
それって俺とシフォンに言ったのだろうか?
今この場には、俺とシフォンとラルフさんだけ。
ということは、そういうことだろう。
ラルフさんは勘違いしている。それも俺の命を奪いかねない勘違い。
隣を見ると、シフォンが真っ赤な顔している。やはり、怒っているようだ。
沸々とした魔力の高まりを感じる。
「俺達(私達)はそんな関係じゃない!!!」
俺たちの叫びだけが狭い家の中にこだましていた。




