異世界
俺は、バイト先の店長夫婦や大家のばあちゃんに挨拶したあと、魔王少女ミリーの側近だった、魔導師の少女シフォンと合流する。
背中に背負ったリュックには、これからの異世界での生活に要りそうなものをイロイロ詰め込んであるのでパンパンだ。
「覚悟はいい?」
「ああ」
俺は頷く。
シフォンはどこからか、白金級の勇者の使い手マリアが使ったのと同じ石を取り出していた。
「行くわよ」
シフォンが念じると、石が光出す。
あのときと同じ色の光だ。
俺はこれから、異世界へ行く。
うちの魔王少女ミリーが異世界に連れていかれたからだ。
ミリーは俺の命を心配し、自ら進んで連れていかれた。
今、生きているか死んでるかもわからないが、ただ安穏とこちらの世界で生きていくなんて出来ない。
もし、生きているんだとしたら一言いってやりたいこともある。
こうして、俺とシフォンは光に吸い込まれていった。
俺は光の中で不思議な感覚を味わっていた。
体が痛む。
成長痛のような感覚だ。
やがて、それは収まり、光も収束していく。
…………。
俺は目を開く。
そこには森林が広がっていた。
「シフォン、ここは?」
「私たちの元いた世界、あなたの言うところの異世界よ。っていうか、恭介、若返ってない?」
「へっ?」
そういえば、体が軽いと思っていたけど。
荷物から鏡を取り出す。
見ると、高校に入りたての頃の俺がいた。
ほんとに若返ってる!
「何で、シフォンはそのままなのに俺だけ若返ってんだ?」
「そんなの知らないわよ。ミリー様の魔力を受け継いだんでしょ? その影響で一番肉体が活性化していた時に戻ったとかじゃないの?」
「そうなのか?」
ということは、俺の全盛期は十五、六歳っていうことか。まぁ、歳をとらされるよりは若返ったほうがマシだろう。
体に関しては、他は何も問題ないようだ。
俺は周囲を見渡すが、生い茂る木々ばかりで、文明らしきものはない。
さて困った。
「それで、これからどこに行くんだ?」
「さあ?」
「へっ?」
シフォンの頼りにならない答えに俺はアホな声を出してしまった。
「とりあえず、人のいるところに行って情報収集するか」
そう言うが、どこに人がいるかなんてわからない。
辺り一面森林しか見えない。
周囲をキョロキョロするだけの俺に、シフォンがボソッと呟く。
「……役立たず」
「ジモッティのくせに頼りにならんお前に言われたくない!」
「あ~あ、ミリー様だったら、こんなとき検索の魔法でサクサク人のいるところとか探してくれるのに」
「検索の魔法って、仮死状態だった俺を見つけた魔法だったな……シフォン、それありじゃないか?」
「どういうこと?」
「俺が検索の魔法を使う」
俺は、ミリーから魔力と能力を譲り受けていた。他の能力も使えるのだ。検索の魔法だってできるはずだ。
俺は意識を集中する。
ミリーのいる場所を教えてくれと。
答えはノーだった。
クイズ番組で使われそうな、ブブーって音が聞こえてきた。そんな音が聞こえてきたということは、使用事態は成功ということだろう。
今度は、一番近い人間がいる場所とルートを教えてほしいと念じる。
すると、ピコーンって音とともに、目の前にうっすらと光の路ができる。
光の路は、どうやらシフォンには見えないみたいだ。
俺のあとをトコトコとついてくる。
「なあ、シフォン。ここの木って初めて見たんだが固有の植物なのか?」
「うん、そうだけど。都市や大きな町以外はどこもこんなものよ。私に言わせれば、あんなに自然も少ないのに、あれだけ大勢の人数を養えているあなたのいた世界のほうがおかしいのよ」
成る程、そういう考え方もあるのか。
俺たちは、小一時間ほど歩いていくと、やがて開けた場所に出た。
「町……いや、村か?」
家々が全部で十五戸くらいの小さな村だった。
「そうね、とりあえず、人を探しましょうか?」
こういうときは、一番立派な家に行くに限る。大抵、一番立派な家に住んでいるのが、その土地の有力者だからだ。
俺たちは家の扉を叩く。
中から、はーい、という気のいい返事が返ってきた。
扉が開くと、おばさんが出てきた。
「あらあら、こんなところにお客さんが来るなんて珍しいわね」
おばさんは、俺たちの姿を見て、驚きつつも歓迎してくれているようだ。
満面の笑みを見せてくれる。
「何もないところだけど、ゆっくりしていってね。ようこそ、ミリハイム村へ」
ミリハイム村、これがこの村の名前らしい。




