旅立ち
俺は暫く放心状態であったが、シフォンと合流して部屋に戻ってきていた。
左腕だけは、とりあえず魔力で治療してある。
テーブルに、ハルの形見の宝玉を置き、シフォンと向かい合うように俺は座る。
「「…………」」
俺たちは暫く無言だった。
帰りながら、シフォンには事の顛末を伝えていた。
シフォンは何も言わずにただ聞いていた。
もっと、ミリーを奪われたことや敵わなかったことなど、俺を罵倒とかしてくれても良かったのにと思う。
だが、シフォンは罵倒などせず、むしろいつもより優しいくらいくらいの視線を俺に向けてくる。
「恭介……何か飲む?」
今だって、シフォンは俺を気遣って飲み物を勧めてくれている。
そんなシフォンに俺はというと、
「今はいい」
そういうので精一杯だった。
というか、情けないことに、今は何も喉を通る気がしない。
そういえば、前にもこんなことがあった。
両親を亡くした頃だ。今の俺の精神状態はあの頃に似ている。
ハルの残した宝玉を見ていると、今も涙が込み上げてきそうだ。
「……俺はまた独りになるんかな」
思わず、そんなことを呟いてしまう。
「バカじゃない?」
「!」
おい、シフォン。バカじゃないとか酷すぎだろ!
落ち込んでいる俺に対し、血も涙もないと思うのはおかしいのだろうか?
「ていうか、シフォン。ミリーはお前の育ての親だったんだろう? いなくなってショックじゃないのか?」
「ショックよ! でも今、私が一番ショックなのは恭介、あなたに対してよ!」
「へっ?」
「確かに、あの変態バカ勇者は死んで、ミリー様もいなくなった。でも、それで独りになる? そんなふざけたことを言うあなたに、バカじゃないと言わずして、他に何て言うっていうの? 今もこうしてあなたの目の前にいる私はどうなるの?」
それを聞いて、俺は失言だったということが理解できた。
「恭介、あなたの目の前には私がいるでしょ! あなたは独りなんかじゃない!」
その通りだった。
ミリーもいなくなり、ハルがいなくなり、俺はどうかしていた。
シフォンを侮辱してしまっていた。
「あなたから聞いた話では魔性石って石に吸い込まれたミリー様はそのまま連れていかれたのよね? だったら私は、ミリー様を追って、私がいた元の世界に戻ろうと思う。恭介はどうする?」
「ミリーが生きてる?……」
確かに、死んだのを直接見たわけではない。
「俺は……」
僅かな間。
しかし、答えはもうすでに決まっていた。
「俺も行く」
ミリーが生きている?
その可能性を否定することは、ここにいる誰にもできない。
だったら、確かめに行かないと。
いや、確かめたい!
「ちょうどいい。バイトの時間だ。行ってくる」
俺は、バイト先の弁当屋『熱々亭』に行く。
弁当屋の店長夫婦は、突然の話に驚きながらも俺が今日を最後にバイトを辞めることを快く受託してくれた。本当に人のいい人たちだったと思う。
辞める理由は、遠くに引っ越すという話にしておいた。
本当でもないけど、嘘でもない。
「お世話になりました!」
美樹ちゃんにも挨拶したが、寂しそうにしてくれたのは、少し嬉しかった。
迷惑をかけてしまう。
「遠くにいる大事な奴が困っていると思うんだ。俺が行ってやらないと」
「そこって、スゴく遠いんですか?」
「凄く遠いところだ」
さすがに異世界へとは言えない。
俺の言葉を聞き、美樹ちゃんの笑顔が曇る。
「でも、もう戻って来ないってわけでもないしさ。また、こっちに戻って来るかもしれないし」
俺は慌ててフォローするが、目が泳いでいたことだろう。
今まで残される側になったことはあっても、残す側になった経験などなかったのだから、フォローの仕方がわからない。
でも、俺の頼りないフォローも多少は効果があったようだ。
「そうですね。またこっちに来たら顔を出してくださいね! 色々と伝えなきゃいけないこともあるんで♪」
美樹ちゃんはいつもの輝く笑顔を取り戻してくれていた。
やっぱり、別れはこうでないと。
「もちろん!」
美樹ちゃんの輝く笑顔を見るためにも、店長夫婦に恩を返すためにも、いつかまたこっちに帰ってきたときには絶対に会いに来ることを心に誓う。
俺はバイト後、いつも来ていた海岸に一人できていた。
ここでも、色々あった。
俺たちが、あまりに色々起こしすぎたせいで、噂話程度の都市伝説が山ほど出来た。
ここに来たときには、いつもミリーがいた。
次にここに来るときには、きっとまたミリーもいるはず。
俺は、全力で魔力を込める。
(竜巻、levelMAX)
全長100メートルを越える竜巻。
それは数瞬の後、消失する。
ミリーから受け取った能力や魔力は今も問題なく使用できる。
どうにかなるさ。
「行ってくる」
俺は誰にでもなくそう宣言した。




