決着と別れ
「あなたたちの実力って、そんなものですかぁ? これじゃ、マリアたちの準備運動にもならないですねぇ」
槍をつまらなさそうに弄びながら、マリアが声をかけてくる。
というか、本当につまらないのだろう。
それくらい、俺たちと奴らには実力差があった。
「ほらほらぁ、どうしたんですかぁ? もう終わりなんですかぁ?」
俺は、自分でも意識せずに1歩下がっていた。
嫌な汗が自然と頬を滴り落ちる。
思えば、俺が恐怖に直面したのは初めてだったかもしれない。
なんだかんだ言って、ハルやシフォンとの戦いの時も何処か余裕があったのだ。
確かに外見だけで言うなら、相手は可愛らしい十代半ばの少女だろう。
だが、今回の相手は違う。
化け物、と本気で思った。
何せ、相手は魔王現役時代のミリーを倒した奴と同じ白金級の化け物なのだ。
化け物(魔王)を倒せるのも、化け物(勇者とその使い手)だけ。
だが、俺自身はミリーを化け物と思ったことはただの1度もない。
確かに、突然現れて、勝手に俺の体を共有して、こいつのためにバイト仲間は危険にさらされるし、勇者や魔導師なんて異世界ファンタジーの住人どもも現れた。
大変なこともあった。
しかし、俺はミリーのおかげで独りじゃなくなった。
以前、危険な工事現場でのバイトで一緒になった気のいいおっちゃんが家族や仲間を守れるためなら命をかけれると平然と言っていたが、今ならその気持ちがわかる。
仲間や家族と言えるかはわからないが、俺はミリーを守るためになら、もう少しだけ頑張れる気がする。
「へえぇ、まだ、そんな眼が出来るんだぁ。そんな眼が出来るんなら、もうちょっと楽しめるかもですねぇ♪」
俺の覚悟を、マリアは嬉しそうに受け止めている。
「出来るだけ、可愛い子の期待には応えたいんだが、どうだろうな? とりあえず、こいつでどうだ、ロックレイブン×3」
俺は地の魔導を使う。
生み出された岩を鳥のような形状にして3方向からぶつけてみる。
しかし、それらはゆっくり歩み寄るマリアの近くまでくると突然砕かれ、霧散する。
「こんなのマリアに効くと思ったんですかぁ?」
「どういうことだ? ハル、アイツは今何か魔導を使ったのか?」
《兄貴、あの使い手の子は、魔導を使ってません。……ただ、槍を振るっただけです》
<そのようだな>
信じられない。
だが、ハルとミリーが言うのだから間違いない。
「だったら、質量より速さで勝負だ! ウィンドウレイブン×5」
今度は風の魔導だ。
速さと視認のし難さでは、風の魔導が一番だ。俺が1度に運用できるミリーの魔力は、レイブン5回分。
これが、俺の今現在の魔導の全力だ。
「さっきとおんなじことですよぉ♪」
またも、魔導がマリアに届く前に霧散させられる。
やはり、今度もマリアの迎撃する動きは俺には見えなかった。辛うじて見えたのは、マリアのワンピースの裾がフワリと捲れた瞬間、白い下着が……。
……。
白い下着?
「おい、ハル。闘気斬でいくぞ!」
俺が、手に持つ戦斧に声をかける。
本体である戦斧に戻っているハルは、俺の無謀な提案に驚いたはずだ。
《兄貴、こんな距離で撃っても、かわされるか迎撃されますよ!》
「ああ、だから至近距離まで近寄って撃つ!」
《近寄るって、兄貴、バカですか!》
<このままでも殺されるのは同じということだろう?>
「まぁ、そんなところだ」
だが、俺の考えが正しければ、勝機……いや、一矢報いる可能性も0ではない。
俺は動き出す。
フィジカルブースト最大稼働。
今では100メートルを4秒台で移動できるが、風の魔導を迎撃できるようなマリアにとっては、止まった的にしか見えないだろう。
だが、俺にはこれしかない。手に持つ戦斧を振りかぶったまま突撃する。
「何~んだ。結局、玉砕覚悟のそんなことしかできないんですかぁ」
その余裕も今のうちだ。
というか、もっと舐めきってもらって構わない。
「もう、いいや。 終わらせちゃいますね」
マリアは終わらせるというが、やはり槍を振るうような動きは見えない。
だが、間違いない。
このタイミングだ!
(イマジンハンドlevelMAX!)
俺は瞬間的に横に飛ぶと、ついさっきまで俺がいた空間を、紫に輝く魔力を纏った左手で弾く。
「!」
爆散する俺の左手。
肘から先が無くなっていたが、痛みを感じるより早く、確認しなければいけないことがあった。
予想通り、さっきまで俺がいた空間に槍が突き出されている。
今は、イマジンハンドの影響で、勇者の精神体が本体の槍から少しだけ露出していた。
本来なら、俺は無傷で、相手を引きずり出せると思っていたが、そんなに甘くはないようだ。
だが、相手の懐には飛び込めた。
この機会を逃す気はない!
(闘気斬!)
ありったけの魔力を込めるつもりで奥義を発動する。
戦斧が高密度の魔力を闘気に変質させながら、ミシミシと悲鳴をあげるが、今は構っていられない!
右手1本で降り下ろす。
「へえぇ、青銅級の初級奥義にしては、なかなかの威力じゃないですかぁ♪」
マリアは、自分を狙うエネルギーの奔流を楽しそうに眺めている。
「じゃあ、ご褒美にぃ~マリアたちの奥義も見せてあげるねぇ♪」
初めてマリアが構えを取った。
「神の刺突♪」
突きの構えから繰り出された、エネルギーの奔流は、意図も簡単に俺たちの奥義を呑み込み襲いかかる。
《兄貴、転移してください!》
「!」
辛うじてテレポートすることで奥義の直撃は避けたが、エネルギーの余波だけでかなり吹き飛ばされた。
「ハル、体勢を立て直すぞ!」
《スミマセン、兄貴に姉御。俺はここまでみたいです。皆さんと過ごした日々はなかなか最高でした♪》
「お前、何言って……!」
俺が持つ、ハルの本体である戦斧にヒビが入っている。
それはゆっくり拡がり、やがて戦斧は砕け散った。残されたのは、小さな宝玉のようなものが1つだけ。
「ハル…!」
ハルが死んだ。
そう思うとともに、無くなった左腕に痛みが走る。とりあえず、魔力を使い出血と痛みを止めておく。
<くるぞ!>
ミリーに言われ、顔を上げると目の前にはマリアが立っていた。
「最後に、何か言い残したいことありますぅ?」
「無い」
俺たちは出来ることはやった。
1度は死んだと思った人生。
皆で一緒に死ねるならそれも悪くない。
それじゃと、ゆっくり槍を構えるマリアを止める奴がいた。
ロンこと、勇者ロンギヌスだ。
《あのさ、私が聞きたいことがあるんだが少しいいかな?》
人形の精神体で登場するが、その姿は超美形の青年だ。……何かムカつく。
「何だ?」
俺たちの命は風前の灯火であり、今更どう思われても関係ないので、悪態をついた反応をしても問題ないだろ。
《君は、ただの人間だよね。さっき、君が左腕で槍を払う前に、マリアと私が放つ突きをかわしていたが、どうしてタイミングがわかったんだ? 予備動作はなかったはずだが?》
「確かに、お前らの攻撃に予備動作はなかったさ。だがな、そっちの子、マリアってののワンピースの裾が攻撃直前にフワリとなるんだ。覚えとけ!」
白い下着まで見えていたことは、墓場まで持っていく。
先に向こうに行っているハルへの土産話も必要だろ。
《成る程、魔法の生地で作られた服は、極僅かな闘気にも反応してしまう、そういうことか。……感謝する。我々はまた一つ上を目指せそうだ。そこで礼がしたい。お前の中の魔王と話をさせてくれ》
苦しめずに一撃でとどめを刺してくれるというのだろうか?
確かにいたいのは嫌だ。
<俺様が魔王ミリーヒルクライムだ。要件はなんだ?>
《お前の宿主の命を助けてやろう。我々の目的はお前の魂だ。これを見ろ》
ロンギヌスは懐から野球ボール台の水晶を取り出す。
《これは魔性石。お前の魂をこの中に移し、我々の世界に持ち帰ろうではないか》
「えぇ~、その石、凄く高かったのにぃ~」
《また買ってきてやるさ》
なんとも金持ちクサイ会話だ。
イケメンで金も持っている。
俺の敵だ。
当然、ミリーは話を断ってくれると思った。
<わかった。話を受けよう>
ミリーは優しく微笑んで受託した。
「何で!」
<俺様は、俺様のせいでお前が死ぬのが嫌だ。お前が生きてくれている方が、俺様は嬉しい。シフォンのことを頼んだぞ、恭介>
「えっ! 恭介って、ミリー、お前初めて俺の名前を呼んだんじゃないか……」
<俺様は、俺様の認めた奴の名前しか呼ばんことにしているからな。因みに、能力や魔力はお前の魂に移行させておく、その左腕を治した後は好きに使え>
ミリーは後半の部分をそっと俺だけに伝わるようにしてくれていた。
<去らばだ!>
金髪紅眼の少女のような姿は、ロンギヌスの持つ石の中に吸い込まれていった。
《行こう》
「もう会うこともないかもだけどぉ、元気でねぇ♪」
マリアがロンとは違う石を懐から取りだし、何かを唱えると光とともに、2人の姿がかき消える。
こうして、うちの魔王様はいなくなった。
俺は、久々に声をあげて泣いた。
ボチボチ現代編終了です。
勇者ハルや魔王様ミリーを失った主人公、どういう行動をとるか……というか、そんなもんはわかりきっています。
異世界突入!
やられたらやり返すじゃないけど、頑張ってもらいたいものです。




