白金級
俺たちは、いつもの海岸まで連続転移で移動した。
「あのあと爆発もなかったし、逃げ切れたんじゃ……」
「そんな甘い相手じゃないみたいよ」
<そういうことみたいだな>
俺たちの前に槍が斜めに突き刺さる。
驚いたことに、その槍の柄には優雅に少女と呼べる年齢の人間が腰かけていた。
《マリアの魔力探知は、相変わらず的確だな》
「やっと、追い付きましたぁ♪ もう、せっかくおうちに行ったのに逃げちゃうんだから、マリアとロンをこれ以上困らせたらダメじゃないですかぁ」
中学生位にしか見えない少女、マリアというらしいがそんなことを言ってくる。
マリアがしゃべる前に聞こえた念話は、彼女の腰かける槍から聞こえた気がする。
マリアの服装は、ヒラヒラした変わったワンピースに要所要所をプロテクターのようなもので覆われているというものだ。
念話を使う武器に、見たことない服装の少女。
おそらく、間違いない。
「なあ、ミリー」
<間違いない、勇者だ。しかも青銅級のハルなど比べ物にならんくらい格上のな!>
《おそらく、黄金級以上の勇者とその使い手です》
俺の予想に反することなく、魔王少女ミリーと勇者ハルが肯定する。
「あなたが魔王ぅ?」
マリアが俺に尋ねてくる。
俺は、愛らしい少女の外見をした化け物の圧力に動けないでいた。
《マリア、あの男の中から魔王ミリーヒルクライムの魂の気配を感じる。だが、同時に人の魂と、どういうわけか勇者の気配も感じる》
マリアに向かい、手に持つ槍が報告する。
美樹ちゃんの時と違って、操られているって感じでもない。
きっと本物の勇者の使い手なのだろう。
「ふーん、まあいっか。あなたの中の魔王を貰うね♪」
そういうと、マリアは槍からおり、手に取る。
明らかに少女より長い槍を、まるでバトンで遊ぶかのように操っている。
「白金級の勇者ロンギヌスとその使い手マリア、いっきまーすぅ!」
速い!
そう思った瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
死ななかっただけでも儲けもんだ。
「シフォン、お前は離れていろ」
「私も戦う!」
<シフォン、こいつの言う通りにしろ。お前では話にならん相手だ>
「……わかりました」
ミリーに言われ、シフォンが離れていくが、相手は気にした様子もない。
ミリーという魔王以外に興味がないようだ。
というか、ロンギヌスの槍ってとんでもない大物が来たようだ。
白金級と言われても納得だ。
「つまらないですねぇ。せっかくなんで、全力で抵抗してくださいよぉ」
せっかくそう言ってくれるのだ。
全力でいかせてもらう。
「ファイアレイブン」
俺は火の魔導を発動させ、槍を持つマリアの周囲を旋回させる。
「それがどうしたんですかぁ?」
全く意に介さない様子だが、此方としては少しでも相手の視線をそらせただけで十分だ。
「食らえ!」
(竜巻、levelMAX)
荒れ狂う暴風。
マリアを中心に全長数十メートルの巨大な竜巻が発生する。
相手は人の形をしているが、感じる圧力は人ではない。
手加減は無用だ!
これで終わるならいいが、まだわからない。
「こい、ハルバート!」
俺の呼び掛けに、勇者ハルの本体である戦斧がやって来る。
あのツヅレ荘で起きたと思われる爆発に巻き込まれ、どうなっているかと思ったが、無事だったらしい。
有り難かった。
ハルが元の球体に戻り、ハルバートが青い闘気で輝く。
俺のフィジカルブーストは連続テレポートの時から発動中。これが俺ができる全力だ。
俺の準備が整ったのを見計らったように、巨大な竜巻の中から声がする。
「もういいのぉ?」
マリアの声だ。
「いくよぉ。ほいっとぉ!」
マリアの声と同時に白く輝く闘気の奔流が暴風を突き抜けていった。
さすがは白金級。
あれは奴らの中級位の奥義だろうか? 魔王ミリーの魔力を使用した俺たちの闘気斬を遥かに越えそうな威力だ。
竜巻がかき消されると、マリアはさっきまでと何一つ変わらない姿を現す。
ワンピースの裾が、風で少しだけフワリとなり俺の集中力まで乱されてしまう。
マリアの白い下着がチラチラ見えるのだ。
「マリアを見るあいつの目ぇ、ちょっと気持ち悪いんだけどぉ」
ほっとけ。
そんな格好で戦っている方が悪い!
《兄貴、今のは闘気突、槍版の闘気斬です!》
「今のがか?」
今の馬鹿げた威力の突きが、ただの初級奥義だと!
というか、
「ハル、お前が、チラリに目もくれずに報告してくるってことは、本気で俺たちヤバイのかもしれないな」
皮肉にも聞こえそうなことを言っておく。
相手との実力差を考えれば、次の瞬間に殺されてもおかしくないのだ。
俺は覚悟を決めないといけないのかもしれない。




