俺の日常
夕暮れの商店街の一角。
今日も仕事帰りの会社員たちで俺のバイトする弁当屋は賑わっていた。
「ありがとうございました」
俺は、注文された弁当をお客さんに渡す美樹ちゃんを眺める。
小野寺美樹ちゃん(18)、ハルに利用されたことも遠い昔のようで今日も元気そうだ。
その笑顔に一点の曇りもなく、今日も癒される。
客足が少し途絶え、一息つくことができた。
美樹ちゃんにお疲れ様と声をかける。
「そういえば、この間小林さんに抱きついてきた子ってどうなったんですか?」
「!」
何て答えよう?
美樹ちゃんのいっているあの子とは、うちの魔王少女ミリーの側近だったという、魔導師の少女シフォンのことだ。
わざわざ、異世界からこっちの世界にミリーの魂を追ってやって来たシフォンは、白に近い銀髪と青い瞳のどこか北欧系を感じさせる美少女。
こないだ美樹ちゃんとケーキを食べに行ったときに見られていた。
というか、いきなりシフォンが俺に抱きついてきたのだ。
まぁ、それは俺というより、俺の体から感じたミリーの気配に感極まっただけみたいなんだけど。
因みに、シフォンは今も俺の家に絶賛居候中だ。
だって、考えてみてほしい。
住所不定、職業魔導師、未成年。しかも、日本人離れした顔立ちで、この日本の何処に居場所があるって話だ? それにここにいろ!って俺自身が言った手前追い出すわけにはいかない。
だが、シフォンは冷静そうな外見に反し、意外と短気だ。
職質や補導でもされたら、絶対えらいことになる! おもに俺が!っていうのは言うまでもない。
俺のバイトが終わるまでは自宅謹慎を命じ……いや、お願いしてある。……最近、俺の土下座が堂に入ってきたって気がするのは気のせいだと思いたい。
そんな俺の様子を気にせず、美樹ちゃんは話を続ける。
「あんな可愛い子初めてみましたよ。外国人なんですかね?」
外国人っていうか、シフォンは異世界人だ。
だが、美樹ちゃんがいい感じに勘違いしてくれているなら有難い。
「抱きついてきたのもあの子の国では普通の挨拶だったのかもしれませんよ」
まさに、いい感じの勘違い。
「ほら、小林さんて安心感を与える感じじゃないですか、いればホッとするっていうか」
「どうしたんですか?」
「いや、美樹ちゃんは優しいなと思って」
少し涙ぐんでしまった。
「元気を出してください! また、ケーキを一緒に食べにいきましょうね」
こんなおっちゃんにも輝かんばかりの笑顔を見せてくれている。
やはり、美樹ちゃんは俺の中でナンバーワンの癒し系だ。
<ケーキか、シフォンも交えて食べさせたいものだな>
《姉御、みんなで行きましょう》
ミリーやハルは、うちの家計も考えずに俺の脳内に念話で話しかけてくる。
この遠慮のないうちの居候どもに美樹ちゃんの優しさを見習わせてやりたい!
バイトも終わり、夜の海岸に向かう俺。
留守番させていたシフォンも一緒だ。
「アイスドール」
シフォンが氷の魔導を使う。
すると、ずんぐりむっくりした全長2メートル程の氷の人形が、拳を振り上げ俺を襲ってくる。
「そんなもの食らうか!ファイアレイブン!」
俺は火の魔導を放つ。
「そのまま、旋回、集束」
カラスのような形をとった炎は、氷の人形の周囲を旋回し、円の内側の温度を上昇させる。そのまま、円を狭めていくことで氷の人形の関節部が融け出した。
俺の魔導はそこで消えてしまったが、動きを止めることができただけで良しとしよう。
「いくぞ。ファイアショット!」
火球が人形に命中し、人形を破壊する。
自分の魔導が砕かれて、シフォンはかなり悔しそうだ。
ふてくされている。
「何か、悔しい……」
「しょうがないだろう。今は俺の訓練なんだから」
<二人ともなかなか見事な魔導だったぞ♪>
《凄いっすね!》
金髪紅眼のミリーはいつもの白いゴシックドレス、ハルも十歳くらいの少年の姿で俺たちのやり取りを見ていた。
<シフォン、以前より腕をあげたな>
ミリーに褒められ、シフォンは嬉しそうだ。
「見ていてくださいね、ミリー様。私の本気は、まだまだこんなものじゃないんですから!」
「ちょっ! それ俺も付き合うのか?」
「はぁ? 当たり前でしょ!」
調子に乗ったシフォンに付き合わされるこっちの身にもなってほしい。
だが、こんな日常も悪くない。
そう思う。




