朝の一時
ツヅレ荘の自室。
俺は四畳半の狭い部屋に備え付けられたさらに狭いキッチンで調理を行う。
十年以上の独り暮らしと、バイトで培った技術は自分ではなかなかだと思う。
「何をしているの?」
寝起きの目を擦りながら、北欧系の美少女シフォンが聞いてくる。シフォンはミリーの側近で魔導師だ。
今は、非常に残念ながら、元のポンチョのようなローブを着てしまっている。
どうやら、シフォンもドレスメイクを使えるようだ。
「何って、朝飯を作っているんだろうが。ほい、これ朝飯な」
シフォンにホウレン草とハムのバター炒めとトースト、これが今日の朝食だ。
ホウレン草は見切り品。ハムは切れ端の詰め合わせだが、こうして手を加えたらなかなかバカにできないくらい旨いのだ。
俺も食べ始めると、様子を見ていたシフォンも料理に手をつける。
「!……美味しいじゃない。この火を通した野菜に塩漬け肉も初めて見たし、この味付けも初めてだけど美味しい!」
<バターという牛の乳から作るものらしいぞ。これや麦の粉、砂糖を大量に使って作るケーキというものは、まさに絶品だぞ♪>
うちの魔王少女ミリーが説明する。
というか、なんでお前が偉そうに説明するんだ?
つい最近までお前も知らなかっただろうが!
「異世界にはバターもないんだな。お前らどんな飯を食ってたんだ?」
「肉をそのまま焼いたり、野菜をそのまま焼いたり。ときには虫とか?周りには魔物かミリー……様しかいなかったから」
「酷い食生活だったんだな」
「別に、それが普通だったし。ミリー様が用意してくれたってだけで幸せだった」
シフォンはようやくミリーを愛称で呼ぶようになってくれたようだ。
俺に負けたとい事実と、ミリー自身がそれを望んだことも原因だろう。
ていうか、煮るっていう選択肢すらなかったんかい!
それじゃ、確かにミリーがイチイチ飯の時間に騒がしかったはずだ。
自分の分をペロリと食べてしまったシフォンが食い足りなさそうにしている。
「そんなに旨かったんなら、これも喰うか?」
「いいの!」
俺の食べかけの朝食を差し出すと、シフォンは青い瞳を輝かしている。
「美味しい~♪」
口一杯に炒め物を頬張るシフォン。
仔犬みたいで可愛い!
そんな美少女に褒められて悪い気はしなかった。
それにしても他人にここで飯を出すなんて、想像していなかった。
俺・・・生身。
魔王少女ミリー・・・精神体。
変態勇者ハル・・・精神体+戦斧。
魔導少女シフォン・・・生身。
まるで、小さなファンタジーのよう。
こんな狭い部屋に四人もいる感覚だ。
ミリーと出会ってからというもの、本当にこの部屋は賑やかになったのもである。




