シフォンとの決着
魔力の高まりにより、氷の柩が完全に砕かれ、魔導少女シフォンが全裸のまま解放される。
その瞳に羞恥の色はなく、俺への冷たい殺意しか感じない。
「ハル、来るぞ。気合いを入れろ!」
《了解!》
俺はシフォンの動きに備える。
シフォンはゆっくりとした動きで、海の方に寄っていった。
「アイスジャイアント」
シフォンの言葉に、海の水が反応する。
シフォンの足元まで引き寄せられてきた海水は次第に凍っていく。
<ここには水が大量にあるからな。かなりでかいものが出来るぞ♪上から観戦しておくから頑張れ♪>
楽しそうにそう語り去っていく、うちの魔王少女ミリー。
誰のせいで、こんな目に遭っていると思ってんだと言ってやりたい!
やがて、全長十メートル以上はゆうにありそうな氷の巨人が出現する。
巨人は、完全な人型というよりは小さめの氷山に太く短い足と長い手を付けたという感じの姿だ。
シフォンは胸の中心から顔だけを出す形で組み込まれている。おそらく、この氷の巨人はシフォン自身が動かすのだろう。
「死ね」
戦いが始まってから、詠唱以外で無言だったシフォンが、初めて言葉をかけてきた。
視界が全て覆い尽くされる程の巨大な拳が俺を襲う。
「ハル、魔鏡閃は?」
《あの巨人自体は魔導で出したもんでしょうけど、あの拳は単なる氷の塊ですからね。魔鏡閃は物理的なもんには効かないんです》
「そうなのか?」
(テレポート)
緊急回避し、横に回り込み戦斧で巨人の太い腕を斬りつけてみたが、全然刃が通らない。
「ハル、闘気斬だ」
《了解》
俺は戦斧を振りかぶる。
(闘気斬)
青い光の刃で巨人の太い腕が一刀両断され、音を立てて崩れ落ちる。
だが、それは体のごく一部だ。
その巨大な質量は、それほど変わった気がしない。
《厄介ですね》
「だが、本当に厄介なのはあの巨人でも魔導による攻撃でもなく、アイスメンタルだな」
シフォンは、自分で編み出した魔導アイスメンタルで戦闘中の精神を固定し、揺らぎというものがない。
恐怖心も慈悲も羞恥心すらも、それら全て捨て去り自身の体を敬愛するミリーの魂の器にするために、今現在ミリーと魂が繋がっている俺を殺そうとする。
誰もそんなのは望んでいないというのに迷惑な話だ。
「おい、ハル。シフォンのアイスメンタルを砕くぞ。手を貸せ!」
《兄貴、本気ですか?どうするんです?》
「胸に飛び込む」
《確かに、あの子は成長途中というのを感じさせる魅力的な胸をしてましたけど、そんなセクハラまがいで、あの魔導による精神固定は砕けないっすよ?》
さすがは変態勇者、ハル。
こんなときでも見るとこは見ていたらしい。
……まぁ、俺もシフォンの胸見ちゃったけど。
「アホか!懐に飛び込むってことだ」
《でも、このまま飛び込んだら、転位する間もなく、あの太い腕で圧死させられるかもですよ?》
斬り落としたはずの腕も再生している。
至近距離であの豪腕は脅威だ。
「だから、シフォンと話をする間、そっちはお前に任せたい」
《はい?》
「相手と話をするときは、相手の目を見て話したい。その間に俺の邪魔になりそうなものが襲って来たら、指示を頼む。俺の目になってくれ」
圧倒的な物理破壊力は、ハルの本体であるハルバートすら破壊されかねない。
断られてもしょうがないと考えている。
《……了解。御供しますよ、兄貴》
ここ一番というときの勇気はさすが勇者。
少しだけハルを見直した。
「助かる。いくぞ!」
(闘気斬)
「もう、いっちょ!」
とりあえず、二本の豪腕を切り落とすと、俺たちは飛び込む。
腕はゆっくりと、しかし確実に再生していく。
時間はあまりないようだ。
巨人の胸の中心にある、シフォンの前までは一瞬でこれた。
さぁ、勝負はここからだ。
「なあ、シフォン聞いてくれ」
「…………」
シフォンはなにも答えず、冷徹な瞳を向けるだけだが、そんなの想定ないだ。
簡潔に用件だけをいう。
「お前はミリーが好きか?」
ミリーという言葉を聞き、今まで無表情だったシフォンに、微かな反応があった。
「…………好き」
やはり、アイスメンタルは感情の揺らぎを凍結させるだけで、会話は可能なようだ。
よし、これならいけるかも。
《兄貴、右後方から腕がきます!》
(闘気斬)
戦斧で巨人の腕を斬り飛ばす。
俺の視線は、シフォンに向けたままだ。
「お前はミリーの役に立ちたいんだな?」
「…………そう」
「でも、お前の考えている方法だと、お前は死んでしまうぞ」
「…………それでもいい」
シフォンが言う。
「せっかく今、ようやく探し出せたミリーに会えているってのに、本当にそれでいいのか?」
《兄貴、左斜め下です!》
(闘気斬)
巨人の巨大な拳が砕け散る。
「…………それは」
「ミリーといたいんだろ。居ればいいじゃないか!」
「…………それは、私の我が儘」
「何が我が儘だ!」
大声を出してしまった。
もういい。
このまま一気にたたみかける。
「ミリーはお前にとって、親も同然の奴なんだろ!」
「……親よりも……もっと……大事な…人」
シフォンが大切な日々を思い出すように言葉を絞り出した。
「ずっと世界を越えてまで探していた大事な奴が、今すぐ話せる場所にいて、そいつと一緒にいたいと思って何が悪いんだ!それを我が儘というクソったれな奴がいるんなら連れてこい!俺が説教してやる!」
「…………何で、あなたは泣いてるの?」
「へ?」
あれ、おかしいな。なんか俺の方が涙を流してしまっているぞ。
……ああ、そうか。多分、これは両親を早くに亡くした俺自身が長い間溜め込んでいた感情なのかもしれないな。
いい大人だってのに恥ずかしい限りだ。
「これは気にするな!いいか、シフォン。お前は、ここでミリーと……いや、俺たちと一緒にいろっ!!!」
俺は力の限り叫んだ。
とりあえず、ぶつけるものはぶつけた。
あとは成るようになれだ!
《兄貴、巨人の動きが止まりました》
そして、シフォンからガラスの砕けたような音が響く。
氷の巨人が頭から崩れていった。
あとにはシフォンが倒れていたが、どうやら気を失っているだけで、息はしている。
以前にやった回復の光を試すと、体温が戻ってくる。元々怪我らしい怪我もないし、大丈夫だろ。
<まさか、シフォンのアイスメンタルを砕いてみせるとはな>
「ミリーか」
今まで上空で観戦していた魔王少女ミリーが、意味ありげな笑みで登場する。
その笑みは不思議と邪悪さはなく悪戯っ子のようにも見える。
<シフォンもここにおいてやるんだろ。大事にしてやれよ>
「そういうお前のほうこそ、もっとシフォンを大事にしてやれよ」
<元々大事にしていたぞ。俺様の妹か娘のようなものだと思っていたしな>
まぁ、そうじゃなければここまでミリーを慕って来ていないだろうけどな。今の言葉をシフォンが聞いたらどんな反応をしたんだろうか。
ただ、今は戦いが無事に終わった安堵感でいっぱいだ。早く家に帰って寝たい。
<そうそう。シフォンが気を失って、今まで張ってくれていた結界が消えたからな。誰かに見られでもしたら面倒だ。そろそろ撤収しておいたほうがいいぞ>
今の状況を確認する。
夜の海岸。
裸で気を失っている少女。
俺(成人男性)。
手にはゴツい戦斧。
俺、怪しすぎだろ!
「ミリーの言う通りだな」
俺はシフォンを抱え、急いでテレポートを開始した。
とりあえず、シフォンとの決着です。
生身の肉体のあるシフォンがいることで、話に動きが出ればなと思います。
それと、この話での魔法と魔導の違いをかけたらと思います。
乱文ですが、読んでくださった方、ありがとうございます。




