シフォンの二つ名
俺たちは、毎度お馴染みの海岸に来ていた。
この海岸も、ハルとの出会いや爆発騒ぎで、警察を呼ばれる騒ぎになったりと、いろんな思い出が出来たよな。
感慨深い。
そして、今夜もまた思い出が1つ追加されそうだ。俺と対峙する、魔導師の少女シフォンによって。
「勝負のルールはどうするんだ?」
「私とあなた、どちらかが死ぬまで」
「ダメだ!」
シフォンの案は即却下!
死闘を演じる気は更々ない。
「普通そういうのって、参ったと言うか、戦闘不能になるまでとかだろ?」
「嫌。それじゃあなたを殺せない」
シフォンは、本気で俺を亡き者にしようとしているようだ。
だって、目がマジだし!
<とりあえずは参ったと言うか、戦闘不能になるまでってことで良いだろ?勝負は、俺様が見届けてやる>
「わかりました」
俺のときと違い、ミリーに言われたら一瞬で納得しやがった。
シフォンは本当にミリーのことを慕っているのだ。そんな敬愛するミリーをこんな俺に盗られて……。
俺も両親を亡くしてから一人での生活が長い。シフォンの気持ちはわからなくもなかった。ここまできたら、戦いを避けるのは無理かもしれない。
俺は腹を括る。
「おい、人間!」
シフォン、お前も人間だろ!とは思ったが突っ込まない。
「脆弱そうなお前に、せめてもの情けだ。勇者と共闘してもいいぞ」
自信過剰過ぎじゃないか?
俺は、視線の先にシフォンを捉えたまま、ミリーに思考で確認する。
(なあ、ミリー。シフォンは強いのか?)
<魔力は人間だから、中の上ってところだが、魔導に関しては天才だな。戦闘経験もそれなりにあるし、青銅級の勇者とその使い手程度では相手になるまい>
(成る程、それだけの強さをもっているなら、あの自信にも納得だ)
<では、始めるぞ>
「了解」
(フィジカルブースト)
俺は、ミリーの合図とともに、フィジカルブーストを発動。
それとほぼ同時に、シフォンの体も一瞬光る。
何か魔導か能力を使ったみたいだが、なにも起きないところをみると、攻撃ではないようだ。俺のフィジカルブーストみたいなもんだろうか?
とりあえず、戦闘準備を整えておく。
「こい、ハルバート!」
遠くから一筋の光がやって来る。
俺の手の中に、ハルの本体である戦斧が握られる。
前回呼んだときには、押し入れの壁をぶち抜いて飛んできて帰ってからが大変だったが、今回は大丈夫。ちゃんと窓辺に立て掛けて飛んできやすいようにしておいた。
さて、準備は完了だ。
俺たちは動き出す。
先ずは相手の出方を見るため、横へ移動。
「アイスショット!」
シフォンの短い詠唱で、俺に向かい鋭利な氷の塊が飛んできた。
だが、かなり速いはずのの氷の塊も、増幅されている俺の動体視力には止まって見える。
難なく戦斧で迎撃し砕く。
しかし、相手はそれも予想の範囲みたいだ。
「アイシクルライン!」
今度は俺に向かって、地面を凍気の波動がかけ抜けてくる。
《兄貴!》
「わかっている」
これは受けるとヤバそうだ。
俺がテレポートで避けると、波動が通った軌跡だけが凍っていた。
「そろそろ、こっちからも仕掛けてみるか。先ずは、これだ」
(竜巻、level1)
シフォンに向かい、風の渦を放つ。
「アイスウォール」
淡々と魔導を紡ぐシフォンの前に、氷の壁が出現。風の渦を簡単に防いでみせた。
「もう一度」
再度、風の渦をぶつけると氷の壁は音を立てて崩れた。
「…………」
この間の攻防の間、シフォンは言葉を発しない。まるで、人形、いや機械のようだ。
「ハル、奥義いってみるぞ!」
《兄貴、マジですか!さすがにあの娘、死んじゃうんじゃないですか?》
「だったら、ちゃんと当たらないように調整してくれよ」
俺は戦斧を振りかぶる。
(闘気斬)
上段から降り下ろすと、青い光の刃が迸る。
ギリギリ、シフォンの横をかすめるくらいの距離を狙った一撃だ。
うまくいけば技の余波で、バランスくらい崩してくれるはず。
だが、シフォンは慌てることなく横へステップし紙一重で回避する。
少しでも目測を誤れば、即死なのに。
シフォンには恐怖心というものはないのか?
「いくらなんでも、落ち着きすぎじゃないか?」
<それが、今シフォンの使っている魔導の能力だからな>
ミリーが、いきなり説明してきた。
<シフォンが自分で編み出した、氷の精神系魔導、アイスメンタル。自分の思考を強制的に固定し、戦闘中に動揺や恐怖を抱くことなく戦うことの出来る、まさに氷のような心となる魔導だ>
「氷のような心って怖すぎるだろ。もしかして、相手への慈悲ってのもなくなったりするのか?」
<無論だ!>
ミリーが肯定してくれるが、なんのプラス材料にもなりはしない。
<シフォンの二つ名は、『氷の機械人形』だからな>
なんの捻りもないじゃねえか!って突っ込みたいが、当の『氷の機械人形』の二つ名を持つシフォンを相手に、そんな余裕はなかった。




