魔王さんの食卓
食欲をそそる、音を奏でる鉄板料理の王道。
一度、ナイフを入れるとジュワーっと溢れる肉汁。味付けはシンプルに塩コショウのみ。
実に旨そうなステーキだ。
<やはり、魔王としてはこの程度の晩餐は必要であろう>
うちの魔王少女ミリーが、当然とばかりに俺に言ってくる。俺はそんなの戯れ言を聞き流し、ミリーに現実を叩きつける。
「言っとくけど、うちの家計じゃ絶対に無理だからな」
俺は、ため息混じりに説明した。
俺たちが見ていたステーキは、テレビの中のものだった。いくら食えないとわかっていても、俺の口の中は唾液で一杯になっている。
それは、一緒に観ていたミリーも同じみたいだ。
ステーキどころか、焼き肉すらご無沙汰だ。
<で、うちの晩餐はこれか?>
「なにか文句でもあるのか?」
<…………いつもと変わらんな>
ポツリと呟き、ミリーがテーブルの上の料理をジト目で見つめている。
「何が不満だ」
視線をミリーからテーブルに移すと、今日の夕飯が並んでいる。
メニューは、見切り品の野菜をコンソメで煮込んだスープに、バイト先でもらっていたコロッケに白米という俺としては結構頑張っている方のものだと思う。
俺一人の時代には、ここまでのものは用意していなかった。
原因は、うちの魔王少女ミリーだ。
元々が武器のハルはあまり食への興味はないようだが、ミリーは正直食にうるさい。
こちらに来て間もない頃には、初めて食べるものが多すぎて、海苔弁1つで喜んでいたが、テレビを通して色々な情報を得た今ではあれが食べたい、これが食べたいとうるさい。
食べるのは結局俺一1人の体なので、魂が3人分になろうが量に変わりはない。
だが、味覚を共有するうちの魔王様の要望で、うちの食卓は自然と豪華(?)になっていた。
<それで、今日のデザートは?>
「そんなもんない!」
<何っ!>
大袈裟にリアクションとってくれているところ悪いが無いもんはない。
<今日もケーキが食べれんとはな……>
《ミリーの姉御、しっかり。兄貴酷い!》
「ハル……うちの押し入れにあるお前の本体の戦斧を質屋か骨董品店に持ち込めば、ミリーにケーキくらい買ってやれるんだがな……」
《姉御、贅沢は敵です!》
ハル……相変わらず気持ち良いくらい掌を返してくれる奴だ。
自分の下僕のようなハルにも裏切られ、ミリーは見ているこっちが切なくなるくらいの落ち込みっプリだ。
ミリーが今一番ご執心なのがケーキ。
この間、バイト先の店長が誕生日だったらしく、バイトにも全員苺のショートケーキを振る舞ってくれていたのだ。
異世界にもケーキはあるみたいだが、甘い生地のパンって感じで全くの別物だとミリーは言っていた。
テレビでケーキ特集なんてやろうもんなら食らいつくってもんじゃない。
テレビごと食われるんじゃないかという勢いだ。
<あの店の作り手たちを誘拐すれば、あれらのケーキが食い放題……>
「オイオイ」
ミリーが恐ろしいことを口にする。
そのあと、ちゃんと冗談だとミリーは言っていたが、俺は絶対に半分本気だったと思っている。
俺とケーキショップの平和のために、いつかはミリーにケーキを与えなければ。
財布の中身を確認する。
千円札が一枚に小銭が少しあるだけ。
次の給料日まであと十日。
うちの魔王様のケーキへの道のりはまだまだ遠そうだ。
性別のないはずのミリーが、スイーツとアニメが好きと女の子よりとなってしまいました。
見た目も金髪に紅い瞳って感じで以前の投稿分も加筆修正していきたいと思います。
まだまだ迷走中ですが、よろしくお願いします。




