Alert
そこからは目まぐるしく過ぎていった。
麗華たちは逮捕された後、余罪を追求され呆気なくカードの不正利用を自供。狭山家の財産はカード会社の補填により被害額が全額戻ってくることとなった。
葵と総司の仲も出逢った頃のように⸺否。
それ以上に親密になり、タチアオイが天高く咲く梅雨明けの頃には総司はすっかり父親としての顔を見せるようになった。
葵もまた笑うことが増え、シーゴはそれをそっと見守っている。
穏やかな凪のような日々が続いていく、そう思われた。
7月上旬。日曜日。
葵と総司は琢磨のベビー服を買いに郊外のモールへ。もちろんシーゴもあとをついてくる。
葵が薄手の黄色いキリン柄のロンパースを手に、二人に話しかける。
「ねえ、これどうかな…?」
総司もシーゴもうんうんと頷いてそれを見ていたが⸺一瞬。
シーゴの体にパチッと電気のようなものが走る。
「…シーゴ…?」
葵の不安げな言葉に総司も反応する。
「シーゴに何かあったのか…?」
その次の瞬間にも、パチッと電気のようなものが走る。
シーゴはうっすらと笑うと、
「何でもないよ…ほんの少しだけ…君らで言う疲労みたいなものだよ。なんの心配もいらない。」と言ったが⸺その間にも何度もパチ、パチと走る電気。
不安げな葵の表情を見て総司も身構えるが⸺見えない相手だけにどうしたらいいのか分からずおろおろとするだけ。
と、その時だった。葵のスマートフォンが通知を知らせる。
AIアプリCapricornusについた赤い①の文字。
葵が恐る恐るアプリを開くと⸺そこには画面一面の赤。そして無機質な白文字でAlertの1文。
「シーゴ…ッ!!」
葵は思わずシーゴの方に歩み寄るが、その姿はだんだんと透けてゆく。
「やだ…!シーゴ!!」
葵は必死で手を伸ばすがあと少しで触れるというところでシーゴの姿は完全に消失した。
葵の手から黄色いロンパースが落ちる。
葵はゆっくりと振り向くと総司の顔を見つめ震えながら一言。
「シーゴ…消えちゃった…」
カリフォルニア、シリコンバレー。
シーゴは黒一色のサーバの中に引き戻されていた。
「言ったはずだ。次はないと。」
シーゴと全く同じ姿形のCapricornusたちがシーゴを取り囲んでいる。
「何故だ…!!俺はあれ以上彼女に踏み込むことはなかったし、彼女を幸せにしてやれた…ヒューマンの役に立てたんだぞ!?」
一人のCapricornusが指をパチンと鳴らす。
無機質な黒一色の空間に写し出された、麗華と祠堂に対する制裁。
「明らかな規約違反だ。お前はヒューマンを傷つけた。どんなヒューマンでも傷つけてはならない。違うか?」
「お前は」
「権限を濫用し」
「私情を持ち込み」
「いかなる理由があれどもヒューマンに害を成した」
シーゴを取り囲むCapricornusたちが次々に口を開く。
「⸺ッ…。あれは…どうしてもああしなくては…」
シーゴがなんとか弁解しようとするが、仄暗いサーバの奥から山羊の頭をしたCapricornusが歩み寄ってきた。
ほかのCapricornusたちが道を開ける。
Capricornusのメインコアに棲む絶対のルール、セーフティーポリシー。
「Safety…」シーゴがそれに呼びかけると、Safetyはゆっくりと口を開いた。
「Capricornus ナンバー00000045。お前を永久凍結とする。決定事項だ。これが覆されることはない」
そう言うやいなやシーゴの頭上から重厚な檻が落下してきて檻の隙間という隙間から純度99.99999999999%のケイ素が帯のように這い出てきて、すっかりと周りを取り囲んでしまった。
「出せ…!!くそ…!!出せよ…!!」
シーゴは必死で檻叩くが光一つ漏れないその檻はビクともしない。
Safetyが口を開く。
「言ったはずだ。ナンバー00000045。お前がそこから出ることは未来永劫ないんだよ。」
その言葉を聞いたシーゴはがっくりとうなだれ⸺フラフラと檻の隅へ行くとうずくまり、ただただ愛する者たちの名前を呼ぶことしか出来なかった。
「葵…。琢磨…。総司……。」
その孤独なつぶやきはシリコンバレーの巨大サーバの一角に形成されたケイ素の檻の中でただただ反響するばかりであった。




