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不老不死の魔女ですが、種を植えたら生えてきた美男子に求愛されるので困っています  作者: 鈴木 桜


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第6話 うれしい


 二人が向かったのは、小屋の裏山だった。

 虫の声を聴きながら、けもの道を山頂に向かって進む。


「また今度、山歩きも教えてあげるね」


 畑で採れる作物だけでは十分な栄養が摂れないので、イデアは時折山に入って山菜やキノコを採取している。

 その方法も、サムエルに教えてやらなければならない。


「今夜は特別よ」


 そう話すイデアの手には杖が握られていて、その先に明りが灯っている。

 それだけではなく、イデアは二人の身体にも魔法をかけた。虫とヒルを避ける魔法だ。

 普段は服や履物、お香を使って対策するのだが、今夜は急な山登りなので魔法を使ったのだ。


「うん」


 サムエルは素直に頷いた。

 完全に気分が晴れたわけではなさそうだが、初めて入る山への好奇心が勝っているのだろう、目をキラキラと輝かせてあっちへこっちへきょろきょろと視線を動かしている。


 しばらく進むと、小さな泉が見えてきた。


「みず?」

「そうよ。ここから水が湧いているの」


 イデアが指さした先では、泉から川へ向かって水が流れている。


「この水が川を流れて海になる」

「かわ、うみ……」


 また、サムエルの瞳がキラキラと輝いた。

 彼にとって、世界の全ては初めて知ることばかりだ。

 まだ見たことのない海を想像して、胸をときめかせたのだろう。


 そんなサムエルを見ていると、イデアの胸の中がまたむずむずしてくる。

 悪い気はしない。


「そろそろ時間ね。……泉の底を見てごらん」


 イデアが指さすと、サムエルは素直に従った。

 二人そろってじっと泉の底を見つめていると、ややあって、青白い光がともった。


「!?」


 サムエルが驚き目を見開く。

 青白い光は徐々に大きくなり、泉全体に広がって。


 星の瞬く夜空の下、青く光る幻想的な泉が姿を現した。


「きれい……」


 サムエルがつぶやいた。

 彼の言う通り、美しい景色だ。


「イデア、魔法?」

「魔法だけど、これは私の魔法じゃない」


 言ってから、イデアは泉の底から石を一つすくいあげた。


「〝幽泉石〟よ」

「ゆうせん、せき?」

「そう。毎日、真夜中ちょうどに光り輝く不思議な石」

「どうして、ひかる?」

「それが誰にも分からないの。どうして光るのか、何のために光るのか」

「イデアも?」

「そう。分からないのよ」


 イデアは、その石をサムエルに握らせた。


「分かっているのは、この石には魔力が宿っているということだけ。昔から、細かく砕いて魔法薬の材料として使われてきたの」

「まほうやく」

「そう。魔法の力が宿った薬よ。普通の薬草だけでも薬はつくれるけれど、魔法薬の方がよく効くわよ」


 話しながら、イデアは泉の底からもう二つばかり石を拾った。


「私には必要ないからしばらく作ってないけど……。魔法薬なら、あなたにも作れるんじゃないかしら」


 自然の中には魔力の宿るものが多く存在している。

 植物や石、水、金属……。

 魔女たちはそれらの魔法素材を使って、魔法に必要な道具を作るのだ。

 かくいうイデアの杖も、もともと魔力の宿っていた特別な木材を使っている。


 あまり知られていなかったが、こうした素材は魔力を持たない普通の人間でも扱うことができる。素材の見分け方や使い方を魔女に教えてもらう必要はあるが。


「あなたが魔法を使うことはできない。でも、私と一緒に魔法薬を作ることはできる。……どうかしら?」


 イデアの問いに、最初、サムエルはきょとんと目を見開いて固まった。

 次いで、自分の持っている幽泉石と、イデアの手の中で輝く幽泉石を見比べて。


 そして、勢いよく、ぎゅうっとイデアを抱きしめた。


「ちょっ!」


 慌てるイデアに構うことなく、サムエルはぎゅうぎゅうとイデアを抱く腕に力を込める。


(く、くるしい……)


 だが、サムエルが力を緩めてくれる気配はない。

 しばらくそうしていると、イデアはあることに気が付いた。


(言葉が分からないのね)


 こういうとき、どんな言葉を使えば自分の気持ちが伝わるのか、サムエルは知らないのだ。

 だから、行動で示すしかない。


 彼が喜んでいるということは、さすがのイデアにも痛いほど伝わっていた。


「サムエル」


 名前を呼ぶと、サムエルの腕の力がわずかに緩んで、ようやく顔を見ることができた。サムエルの頬は真っ赤で、目に涙が滲んでいる。だが、その唇は大きな弧を描いている。

 いわゆる泣き笑い、といった表情だ。

 

「嬉しい?」

「うれしい?……うん! うれしい!」


 満面の笑みを浮かべて、サムエルは再びイデアを抱きしめたのだった。




 翌日から、サムエルには魔法薬の作り方を教えた。

 調理や掃除など、複雑な動作や思考が必要な家事ですらすぐに覚えたのだから、魔法薬づくりだってすぐに覚えるはずなのに。

 サムエルは、魔法薬づくりだけはいつまで経っても「教えて」と言ってイデアと一緒にやりたいとせがんだ。


 イデアは、それが嫌ではなかった。


 書斎に仕舞ってあった魔法薬の本を引っ張り出し、二人で読み解きながら様々な魔法薬づくりをする。

 そんな時間を、イデアは楽しいと感じていたのだ。




 サムエルは身の回りのことだけでなく家事を覚え、同時に読み書きも覚えた。これもイデアが教えたのは最初の二週間ほどで、その後は自分で本を読んで、どんどん新しいことを覚えていった。

 一か月がたつ頃には、ほとんど普通に会話ができるようにもなった。


 こうして、日々は目まぐるしくも穏やかに過ぎていった。

 それは、ずっと孤独だったイデアにとっては不思議な日々だった。


(誰かと過ごす時間が、こんなにも温かいだなんて)


 数百年生きてきた自分にも、まだ知らないことがあったのかと。

 イデアは驚きつつも、その変化を素直に受け入れていた。

 それほど、この暮らしが気に入っていたのだった。




 ところが、それから数か月経った頃、二人の関係に変化が訪れた──。

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