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不老不死の魔女ですが、種を植えたら生えてきた美男子に求愛されるので困っています  作者: 鈴木 桜


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第5話 いっしょがいい


 人の手でできることに魔法は使わない。

 それがイデアの信条ではあるが、いざという時には魔法を使えなければ困ってしまう。


 そこで、イデアはサムエルにも魔法を教えることにしたのだが……。


「ダメね」

「ダメ!?」

「ええ。あなたの身体の中には、魔力がひとかけらもないわ」

「え!」


 二人で暮らし始めて一週間ほどが経った頃、イデアは試しにサムエルの身体を探ってみたのだが、彼の身体の中から魔力を検出することはできなかった。


 つまり。


「あなたは魔法を使うことができないわ」

「そんな~!」


 叫びながら、サムエルは頭を抱えてその場にうずくまってしまった。

 一週間で、彼の語彙はだいぶ増えていて、それなりに会話ができるようになっている。


 魔法の才能は、その人の身体の中に存在する魔力によって大きく左右される。

 たくさんの魔力を持っていれば、様々な魔法を使うことができるのだ。


 かつて生きていた人間たちの内、魔力を持っている人間は約半数ほどだった。そのほとんどは自分に魔法の才能があることに気づかないまま生きていく。魔力の量が少なければ、そんなものだ。

 一定以上の魔力を持っているものだけが魔法の才能を見出されて師匠に学び、魔法使いや魔女と呼ばれる存在になるのだ。

 とはいえ、ほんの少しでも魔力を持っていれば、訓練次第では魔法を使えるようになるのだが。


 サムエルは不運にも、この二分の一の確率を外してしまったというわけだ。


「まほう、つかう、たい……」


 イデアは、おっと思った。

 彼が初めて二語以上の単語を使った文章のようなものを話したからだ。

 成長著しい。


 今の彼はそんなことはどうでもいいらしく、ぶうと声を出しながら唇を尖らせているが。

 だが、拗ねたところでどうしようもないものはどうしようもない。


「魔法が使えないなら、他のことができるようになればいいでしょ」

「やっ!」


 意味が分からなかったわけではなさそうだが、どうも気に入らなかったらしい。サムエルは唇を尖らせたままぷいっとそっぽを向いてしまった。


(えぇ)


 イデアは困惑していた。

 分からないことや知らないことを教えるのは面倒ではあっても難しいことではなかった。サムエルにも分かるように工夫する必要はあったが、ほとんどの場合、そこには正解がる。


 だが、拗ねる子どものなだめ方など、イデアには皆目見当もつかないのだ。

 とはいえ、悩んだ時間はほんのわずかだった。


(……放っておこう)


 何もできないなら放置するしかない。

 イデアはいじいじするサムエルを放置して、さっさと書斎に入った。


 しばらくすると、庭の方から薪を割る音が聞こえてきた。

 どうやらサムエルも諦めがついて仕事を再開したらしい。


 だが、サムエルの機嫌が直ったわけではなかった。

 夕食の時間になっても仏頂面で無言のままだったのだ。生まれてから今日まで、言葉を覚えながらほとんどずっとしゃべり続けていたのに。


「……」

「……」


 今は無言でネギのスープをすすっている。


 特に困ることではない。

 むしろイデアにとっては静かになって助かるくらいだ。


 だが。


(……気まずい)


 そう。この上なく、空気が気まずいのだ。

 どうしてこんなに居心地が悪いのか、自分以外の人間と暮らした経験のないイデアには分からなかった。




 イデアは生まれながらに魔法の天才だった。

 生まれた直後、その産声が呪文となって炎が生まれ、産屋を燃やしてしまったという。もちろん本人は覚えていないが。


 恐ろしかったのだろう。

 両親は、生後間もなくイデアを山にすてた。


 飢えるか獣に食われるか、すぐに死ぬだろうと両親は思ったのだろうが、そうはならなかった。

 なぜなら、イデアには魔法があったから。

 彼女は無意識のうちに自分を守る結界を張り、獣を従わせ、食料を集めることができたのだ。


 そして数年の月日が流れた頃、どこからともなく現れた師匠に拾われた。

 師匠はイデアに魔女としての暮らし方と魔法の扱い方を教えてくれた。


 だが、一緒に暮らしてはくれなかった。


 師匠曰く、

『四六時中一緒にいたら、魔力にあてられて酔ってしまう』

 ということだった。


 イデアは、生まれた時からずっと一人で生きてきたのだ。




 そんな彼女にとって、現在の状況は未知の領域だ。

 サムエルが話さないから沈黙が続いている。

 それだけのことなのに、どうしてこんな風に胸がむずむずするのか。


 そんなことを悶々と考えているうちに、サムエルは食事を終えて食器を洗い始めた。皿洗いも教えたらすぐに覚えたので、今ではサムエルの仕事になっている。

 イデアも慌てて残りのスープを飲み干し、食器を台所に運んだ。


「……」

「……」


 いつもなら彼に任せてイデアはテーブルを拭いたりするのだが、今はそんな気にはなれなかった。乾いたタオルを手に取り、サムエルが洗った食器を拭き上げていく。


 そうしてしばらく経った頃、ようやくサムエルが口を開いた。


「イデア、いっしょ……したかった」


 ぽつり。

 小さな声だった。


「魔法?」

「うん」

「私と一緒がよかったの?」

「……うん」


 どうやら彼は魔法が使えなかったこと自体に拗ねていたわけではないらしい。

 イデアと同じになれないことにショックを受けていたのだ。


「そう」


 イデアはホッと息を吐いた。理由が分かって安心したのだ。

 同時に、またしても胸がむずむずしてきた。

 今度のむずむずは居心地の悪さというよりも、足下がふわつくような感覚だった。


 そのふわふわが、一つの感情に行きつく。


(サムエルのために何かしてあげたい)


 それも初めてのことで、イデアは戸惑いを隠せなかった。


 この感情を制御するためには何をすればいいのか。

 イデアは食器を拭きながら考えた。

 だが、すぐに考えるのをやめた。


 答えの出ない問いをぐだぐだと繰り返すのは、それほど建設的とは思えない。

 だから、イデアは自分の直感に従うことにした。


「……ちょっと出かけましょう」


 自分と一緒がよかったと言って拗ねるサムエルを、なんとか慰めてやりたいと思った。その直感に従うことにしたのだ。







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