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不老不死の魔女ですが、種を植えたら生えてきた美男子に求愛されるので困っています  作者: 鈴木 桜


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第4話 人間らしく


 畑仕事の後は薪割りだ。

 今はまだ春なのでそれほど量は必要ないが、次の冬は人間二人分でどれだけ薪が必要になるか分からない。今から準備をして、冬までに十分乾燥させなければならない。


 これもイデアがやって見せると、サムエルはすぐに覚えた。


(今日から薪割りはサムエルの仕事にしよう)


 今まではイデアが小さな身体でえっちらおっちら割っていたが、サムエルの身体なら斧を一振りするだけで簡単に丸太を割ることができる。


 ──カーン、カーン。


 サムエルが小気味よいリズムで薪を割り、イデアはその隣で木を削って食器を作った。この家にはサムエルが使いやすい大きさの椀やスプーンがないので、これも新調しなければならないのだ。


 ふと気が付くと、サムエルが手を止めてイデアの方をじっと見つめていた。

 前髪の隙間から汗が流れている。


「疲れちゃった?」

「うー」


 イデアの質問に、サムエルが何やら難しい表情を浮かべている。


「あー、うー、イデア、あ」


 どうやら何か伝えたいことがあるらしい。だが言葉が分からないのでもどかしいのだろう。サムエルは眉を寄せてうーうーと唸り始めた。


「……困ったわね」


 イデアが何かを教えるだけなら、言葉は分からなくても問題ない。サムエルが彼女の行動を見て真似ればいいのだから。

 だが、サムエルに話したいことがあるとなると、言葉が分からないのではにっちもさっちもいかない。


 ふと、イデアの視界の中で小さな枝がコロンと転がった。


(そうだわ)


 イデアは枝を拾って、地面にガリガリと絵を描いた。

 斧の絵を描いて、それを指さす。


「斧よ」

「おの」


 次に、鍬の絵を描いた。


「これは、鍬」

「くわ」

「あなたも描いてみて」


 イデアが枝を差し出すと、サムエルの表情がパッと明るくなった。


「……はい!」


 サムエルが地面に描いたのは、何やら長い棒のような絵だった。


「なにこれ?」

「うー、あ、……つえ!」


 昨日、イデアが杖について話していたのを覚えていたのだろう。


「杖がどうかしたの?」

「びゅん! ひょい!」


 今度は積み上げられた丸太に向かって、枝を振った。


「……魔法?」

「まほう!」

「どうして魔法を使わないのかって、聞きたいの?」


 なるほど。

 彼にとっては当然の疑問だろう。

 彼の服を作るのには魔法を使ったし、トイレの方法を教えるのにも魔法を使った。だったら、どうして魔法で薪割りをしないのか、疑問に思って当然だ。


「そうね、魔法を使ったら一瞬で終わるでしょうね」


 薪を作るためには、まず山に入って木を切り倒して原木を手に入れなければならない。その原木を玉切りにして運び、薪の大きさに割っていく。それから、半年から一年かけて乾燥させ、ようやく薪として使える状態になるのだ。

 魔法を使えば、これらの行程を一瞬で終わらせることができる。


「最初のうちはそうしていたのよ」


 人類が滅亡したばかりの頃だ。

 自分以外の人が全ていなくなると、イデアの生活は一気に不便になった。食料を手に入れるためにも、それを売りに来る人がいないからだ。そもそも、野菜や穀物を生産する人がいない。食料以外の生活必需品も同じだ。


 だが、イデアはこれらの問題を全て魔法で解決していった。


 彼女にかかれば、鍋に水を張って杖を一振りするだけでスープになるのだから、簡単なことだった。


 日常生活に必要なあらゆることを一瞬で済ませ、あとの時間は本を読んだり魔法の研究をしたりして過ごす。

 そうして数十年の時を過ごした。


「だけど、なんだか恐くなっちゃってね」


 イデア以外の人がいないということは、いずれ読む本がなくなるだろう。魔法の研究だって、永遠に続けられるわけでもない。だいたい、イデア以外に人がいないのに、魔法を研究しても意味などない。


「いつか、私のやるべきことは一つもなくなってしまう……。そう思ったの」


 彼女は不老不死だ。

 傷を負っても数日後にはキレイに治り、病にかかることもなく、永遠の時を生きる。もちろん、飢えて死ぬこともない。食べなければ、空腹感が永遠に続くだけ。


「ただそこに生きているだけの存在になる。それが恐ろしくて、私は魔法を使わずに暮らすことにしたのよ。生活するためには、やらなきゃいけないことがたくさんあるからね」


 誰の助けもなく衣食住を整えようとすると、あらゆることを自分の手で行わなければならない。それこそ、毎日朝から晩まで働かなければならないほどに。


「おかげで数百年たった今も、それなりに人間らしくいられるんじゃないかと思ってるのよ」


 彼女の言っていることはほとんど理解できなかったのだろう、サムエルは眉を寄せて首を傾げている。

 

「人間の手でやれることに魔法は使わない。それが私の信条なの」

「しんじょう?」

「自分で決めた約束」

「やくそく」

「そう。……あなたの服はね、私が仕立ててもよかったけど時間がかかるから魔法を使ったの。いつまでも裸でいられたら困るから」


 魔法を全く使わないわけではない。普段の生活の中でも、どうにも困ったことがあれば使うこともある。

 だが、生活に関することでは基本的に魔法を使わない。

 イデアはそれを信条に、この数百年を生きてきたのだ。


「やくそく……」


 言ってから、サムエルは再び斧を手に立ち上がった。


「ん!」


 そして、勢いよく薪割りを再開する。

 完全に理解したわけではなさそうだが、それでもイデアの言いたいことがなんとなく分かったのだろう。


 いずれにしてもサムエルは魔法を使えないのだから、イデアから暮らし方を学ぶしかないのだ。


(がんばれ)


 心の中で言いながら、イデアも手仕事を再開した。

 これからサムエルが暮らすために、他には何を作らなければいけないのかを考えながら──。







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