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不老不死の魔女ですが、種を植えたら生えてきた美男子に求愛されるので困っています  作者: 鈴木 桜


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第3話 二人暮らしのはじまり


「痛い……」


 翌朝、イデアの目覚めは最悪だった。

 一晩中サムエルが抱きしめて──しがみついてと言った方が正しいかもしれないが──いたので、寝返りが出来ず、全身の筋肉が凝り固まってしまったのだ。


「信じられない」


 どうにかこうにかサムエルの腕の中から這い出たイデアは、未だすやすやと寝息を立てるサムエルを睨みつけた。


「むにゃ……」


 どんな夢を見ているのか、サムエルの頬が緩む。


「イデアぁ……うにゅ……」


 舌の回っていない拙い声で名を呼ばれては怒鳴りつけることもできず、イデアは深いため息を漏らした。


「はあ」


 だが、このまま寝かせておくわけにもいかない。とうに日は昇っているのだから。


「サムエル、起きて」


 イデアはサムエルの肩をゆさゆさと揺すった。


「んんん」


 半分寝ぼけながら枕に顔を擦りつけながらうにうにと身体を揺する様子から察するに、どうやら朝は苦手らしい。


「朝からやることが山積みなの。さあ、まずは身支度よ!」


 言いながら、イデアはさっさと屋根裏部屋を出て一階の洗面室に向かった。

 その後ろを未だ目の開き切っていないサムエルがとてとてと付いて歩く。そんな彼の後頭部ではぴょんと跳ねた寝ぐせがふわふわと揺れていて、イデアはまるで母鳥の後ろをついて歩くひよこのようだと思った。


 洗面所に着くと、イデアは早速授業を開始した。


「まずは顔を洗って、髪を整えて」


 と、説明をしてはみたが、サムエルは生まれたての子どもだ。

 言葉では理解ができないので、洗面台を見て不思議そうに首を傾げている。


(……これは、かなり面倒ね)


 説明しても理解できないということは、全てやって見せて教えなければならない。

 だが、サムエルには自分のことは自分でできるようになってもらわなければ困るのはイデアだ。彼の面倒を見るために四六時中一緒にいるわけにはいかないし、そもそもずっと一緒に暮らせるという保証もないのだから。


(仕方ないわね)


 しばらくは日常生活のことを教えるだけで手いっぱいになってしまうかもしれない。だが、それでもやらなければと、イデアは気を引き締めた。


「まず、ここをひねるの。左向きよ」


 言いながら蛇口をひねって見せた。

 設備を作る時には魔法を使ったが、この水道は魔法を使わなくても水が出るようにしてある。小屋の裏手の井戸から水を引いているのだ。同じようにトイレにも風呂にも台所にも水道を引いている。


「あ!」


 サムエルは水が出てきたことに驚きつつも、目を輝かせた。


「止めるときは、こっちに回すの」


 今度は水を止めると、サムエルが不思議そうな顔で蛇口を覗き込む。


「やってみて」

「う!」


 サムエルは迷うことなく蛇口を左にひねって水を出し、すぐに右にひねって止めてみせた。

 次いで、褒めてくれと言わんばかりの表情を向けてくる。


「えらいわ。上手」


 イデアは適当な言葉で褒めてみたが、感心しているのは本当だ。


(本当に学習能力が高いのね)


 身体は大人で中身は赤ん坊だが、普通の赤ん坊とは違うようだ。


(脳の体積が大人と同じだから?)


 脳の容量自体が大きいのかもしれない。といっても、情緒や精神の発達は一からということなのだろう。


(日常生活のことを覚えるのは、それほど時間はかからないかもしれないわね)


 そんなことを考えながらイデアが顔を洗って髪を整えると、これを見てサムエルも同じように身支度を整えた。ぴょんと跳ねた寝ぐせは直らなかったが、それはご愛敬だろう。


(なんとかやっていけそうね)


 だが、次の瞬間には早速試練が待っていた。


「さて。次はトイレよ」


 言ってから、イデアははたと気が付いた。


(男の人って、どうするんだろう……?)


 イデアが頭を抱えてうずくまると、


「ん?」


 サムエルもそれを真似てうずくまって、首を傾げたのだった。




 結局、排せつの方法を教えるのには魔法を使わざるを得なかった。

 書斎にあった人体解剖図を参考に魔法で生み出した大人の男の姿をした幻影にそれらしい動きをさせたのだ。

 サムエルはそれを真似てきちんと汚さずに排泄することができた。一度で成功したのは幸運だったと言わざるを得ない。


 清潔な服を魔法で新調して、朝食を済ませる。

 それが終わると、今度はサムエルを連れて畑に出た。

 サムエルの収穫(?)が終わって畝が空いたので、新しい種を植えなければ。


「自分で食べるものは自分でつくるのよ」


 言いながら、サムエルに鍬を渡す。


「まずは土を耕して、畝を作り直す」

「う!」


 一度鍬をつかって見せると、サムエルはたどたどしい手つきだが鍬を使って土を返し始めた。


「これが、〝耕す〟よ。いい?」

「たがやす」

「そう。土を何度も掘り返して、野菜が育ちやすい柔らかい土にするの」

「やさい」

「そう。美味しい野菜をつくるためよ」

「う!」

「返事は〝はい〟」

「は、い?」

「そう。教えてもらったら、はいと返事するの」

「……はい!」


 元気よく返事をして、サムエルは再び土を耕し始めた。


(この調子なら、言葉を覚えるのもすぐね)


 イデアは新しい畝はサムエルに任せて、他の野菜の様子を見て回った。

 昨年の秋に植えた春キャベツがそろそろ収穫の時期だ。種まきから一年以上仕込んできたアルパラガスも、ようやく収穫できる。


 だが、どれも量はごくわずかだ。

 これまでは一人で暮らしてきたので、一人で食べきれる分だけを育ててきた。

 畑の面積も小屋の床面積と同じくらいの広さしかない。


(畑を広げなきゃいけないか……)


 サムエルの身体は大人と同じ。つまり、食事は大人と同じ量が必要ということになる。

 イデアにとって大人の男性の食事量は未知だが、昨夜と今朝の様子を見ていると、どうやら自分の倍くらいをぺろりと食べてしまうということは分かった。


 彼の分を賄うためには畑を広げなければならないし、作付けする野菜の種類も考え直さなければならない。

 主食用の麦や米は、備蓄だけでは足りなくなるだろうから、代わりの主食となるイモ類やマメ類を確保しなければならないだろう。


(やることが山積みね)


 一人気ままな生活から一変、サムエルの分まで暮らしのことを考えなければならない。

 イデアは彼と暮らすことを決めたことを、もうすでに後悔し始めていた。


 だが、一度決めたことだ。

 面倒でも、一つずつやっていくしかない。


 勢い余ってジャガイモの植わっている畝まで掘り返しそうになっているサムエルを見て、またため息が漏れたのだった。

 






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