『スムースクリミナル』 ブッシュミルズ オリジナル(アイリッシュウイスキー)
今日も今日とてヴァインのおっちゃんと錬金術師のカリーチェさんは
小町ちゃんの家で調べもの。
一方、割烹着姿も凛々しく?何やらお料理している小町ちゃん。
今日の料理は、そしてお酒は何をお出しするのでしょうか?
「…あらぁ、いい出来じゃなぁい!」
ガラスの広口瓶を手に、思わず感嘆の声を上げた私は飲酒盃小町。
三角巾に割烹着、ちょっと家庭的な装いも良く似合う、美人OLである。
(『婆臭い恰好が似合ってる』ですってぇ!? 踏み潰すわよ!!)
こんな格好をしているのは、ちょっと凝った料理の最中だから。
今日のメニューはラーメン。
お家ラーメンとしてはそこそこ本格的に、鶏ガラを炊いて出汁を取る傍ら、
鶏チャーシューなんかも準備してる。
何せ今私の家で絶賛調べ物の真っ最中にある二人のお客さん達は、まだ
『ラーメンを食べた』事がない。
何を隠そうこの二人は異世界からやって来た凸凹フレンズ。
背が低くてずんぐりむっくりの髭モジャは、ドワーフのおっちゃん、
その名を『ヴァイン・ファス』と言う。
やせて背の高い、丸眼鏡の青年は一見物語のエルフっぽい風貌だけど、
人間の錬金術師で、名前は『カリーチェ・サークロ』氏。
どんな巡り合わせがあったのかは知らないが、ある日私ん家の
押し入れは異世界…ヴァインのおっちゃんが棲んでる洞窟と繋がった。
幸いにもおっちゃんは『念話』が使える魔法の指輪を持ってたから、
争いになる事もなく会話が成立、どちらもお酒が好きって事で、
こっちのウイスキーを飲ませてみたら随分と気に入った様子。
意気投合した私達は桃園ならぬマイハウスの誓いを交わした飲み友達。
今はちょいちょい私の家で、ご飯や宅飲みを愉しむ仲になのである。
こっちに通う内におっちゃんはすっかりウイスキーに魅せられて、
向こうでも作りたい!って色々調べ始めたんだけど、学者さんでも
技術屋でもないおっちゃんがこっちの技術や知識を得るにも限界がある。
そこでおっちゃんが強力な助っ人として連れてきたのが、おっちゃんの
親友にして名の通った学者・錬金術師のカリーチェ氏、という訳だ。
「なかなかの出来でしょう?
広口瓶の量産には目途が付きましたから、折角教えて頂いた水飴の販売を
本格化するつもりですよ。」
スクリューキャップを作るにはまだ敷居が高いので、コルク栓に封蝋ですが、
とカリーチェ氏。
「で、水飴を売り出すに当たってなんですが、瓶に貼るラベルの事で、
何やらヴァインの奴がこちらの絵師殿に伝手があるとか?」
「おう、それよ!」
と被せる様に後を受けて話し始めるおっちゃん。
「ほれ、桂華の嬢ちゃんに、『らべる』の絵を注文したいと思うてのう。」
桂華の嬢ちゃん…酒匂桂華ちゃんは私のお友達で、結構メジャーな
漫画家さん。
おっちゃんとも面識がある。
「…ど、『ドワーフ女神の雫』だっけ?」
吹き出しそうになるのを堪えて聞き返す私。
そう、私は以前おっちゃんに麦芽糖水飴の作り方を教えたのだが、
おっちゃん、カリーチェ氏と組んでお祭りか何かの折に売ったらしい。
向こうの人達は日頃甘味に接する機会が少ないそうで、水飴は
女性や子供を中心に、飛ぶ様に売れたとの事。
その時の商品名が、『ドワーフ女神の雫』。
ただ、そのままでは当然日持ちしないから、雑貨屋さんなんかで日常的に
売るなら密閉出来る容器が無い事にはねぇ、というのがこれまでのお話。
だが、目の前の青年、カリーチェ氏がそれを可能にした!
「ガラス瓶というだけでも充分『売り』にはなるんですが、もう一工夫、
とヴァインが言い出しまして、成程、この様な美麗な絵がラベルになったら
一際耳目を集める事でしょうねぇ。」
ヴァインの彫金の腕前なら、この繊細な絵も版画に出来るでしょうし、と
カリーチェ氏が請け合う。
「…羊皮紙に焼き印でもするのかしらぁ?」
でもお高くなっちゃうでしょう?と私は当然の疑問を口にしたのだが、
おっちゃんとカリーチェ氏は顔を見合わせ、こっちを向いてニヤニヤ。
な、何よぅ、気持ち悪いわねぇ。
「こ奴、もう『紙漉き』の技術をものにしよったんじゃ。」
え?
ちょちょちょ、ちょ、マテよ!?
『紙漉き』って、結構な技術要るわよぉ?
「いやぁ、最初は苦労しましたが、コツが分かれば後は簡単でしたよ?」
カリーチェさん、事も無げに言うわねぇ。
「最初は藁で試したんじゃが、ありゃぁひでぇもんだった。」
灰色でボロッボロの紙がメリメリと毟れて来ての、とおっちゃん。
「ところが、悔しがるかと思うたら、こ奴、それを見てゲラゲラ笑い出し
よっての?
まさか狂うたかと驚いたんじゃが、その後のこ奴の台詞が奮っておった。
『最初はこれでいいんです。
成功した結果も知っているし、何をどう失敗したかも推測の範囲内ですよ。
ゼロから試行錯誤するのと比べたら、どれだけ楽をしている事か。』
と、こうじゃよ。」
既にこっちの画用紙レベルの紙を作るだけのノウハウは確立して、
量産体制に入っているのだ、とおっちゃんは言う。
この『紙』のラベルに精緻な絵を版画にして貼り付ける、話題性は
充分です、とカリーチェ氏が結んだ。
開いた口が塞がらない、とはこの事だ。
…天才っているのねぇ。
私は半ば放心状態でスマホを取り上げ、ポチポチと入力する。
『おっちゃんから【らが★ぶーりん】先生にイラスト一枚発注。
【ふくよかで頬髭の立派な美しいドワーフ女神】の絵を御所望。
お代は現金でもアクセサリーでもお好きな方で、だそうよぉ?』
後はイラストのサイズや、向こうの文字でカリーチェ氏に書いてもらった
『ドワーフ女神の雫』や『滋養豊富』『風味絶佳』といったキャッチコピーの
画像を添えて、桂華ちゃんにメッセージを飛ばすのだった。
・・・
「さぁ皆の衆、ご飯だ、晩御飯よぉ!」
「「わぁ~!」」
パチパチパチ。
二人の拍手に迎えられ、テーブルに運ばれたのはラーメンどんぶりが三つ。
オーソドックスな醤油ベースの鶏出汁ラーメンですよ、お立合い!
葱にメンマもたっぷり、ナルトとジューシーな鶏チャーシューは
食べ応え充分の厚切り。
野菜が不足だから鰹節をかけたホウレン草のお浸しもどうぞ。
三人それぞれお箸を持って、
「「「いただきまぁす!」」」
三者三様にズルズル、ちゅるちゅる、ズズズーッ、と食べ始める。
「うほぅ、これが『ら・め~ん』か!」
テレビやお店を見て気になっちょったんじゃぁ、とおっちゃんはもう
顔が美味しいと言ってる。
「『フォンドボー』や『ブイヨン』ではない旨味、気になりますねぇ。
脂とただの塩とは異なる旨味のある塩気が合わさって…」
カリーチェ氏は食べながらも分析に余念がない。
…いつの間にか、お箸の使い方が上手になってるわねぇ。
「お好みで胡椒やラー油、お酢も使ってちょうだぁい。」
「『味変』ちゅう奴じゃな! 試す、試さんでか!」
おっちゃん、順調にこっちに毒されてるわねぇ、いいのかな?
「今日はお家ラーメンだけど、その内皆で本格的なお店のラーメンも
食べに行けたらいいわねぇ。」
醤油だけじゃない、基本的な処だけでも味噌、塩、豚骨の四種類があるのだ、
と説明すると、
「行く! 山ほど行く!!」「是非、是非!」
と二つ返事だ。
「しかし、この『ら・め~ん』はツルッとして、スルスル腹に入りよるのう、
お替わりしたくなるわい。」
「あ~、一杯で止めといた方がいいわよぉ?」
後、スープは飲み干さないでねぇ、と注意。
「何じゃ?出し惜しみしよるのう。」
ちょっとしょんぼり顔のおっちゃん。
「いや、小町嬢の言う通りですよ、ヴァイン。」
あ、カリーチェさんは気が付いたか、或いは知ってるか。
「これ、脂と塩分、かなり使ってますよね?」
大量に、常態的に食べてると、『贅沢病』の元になるんですよ、と
カリーチェさんがおっちゃんを軽く嗜める。
「『贅沢病』か、あれはおっかないのう。」
目が見えなくなったり、足を失くす事になるのはごめんじゃからのう、と
おっちゃんも二杯目は諦めた。
向こうでも過度な美食や暴飲暴食が元で『贅沢病』…
所謂、高血圧・痛風・糖尿病といった病気で苦しむ人は
いるそうだ。
「言ってしまえばお酒だって飲み過ぎたらいけないんだけどねぇ。」
「前にも言うとったが、『身体に悪いもん程美味い』じゃったか。」
「まぁ、食べ過ぎず飲み過ぎず、何事も程々に楽しむのが良いのですよ。」
「違いないわねぇ。」「然り、然り。」
「「「ご馳走様でしたぁ!」」」
今日のご飯も完食! ただしラーメンスープは飲み干さない!
私との約束よぉ?
・・・
食事の後はミュージックビデオの円盤など眺めながらお酒の用意。
流れているのは『キングオブポップス』と呼ばれた黒人ミュージシャンの
ビデオクリップだ。
今は白いスーツに中折れ帽という恰好で、ちょっとしたドラマ仕立ての
映像、これも随分流行った曲ねぇ。
「これ、すごいですねぇ、魔法も使わずにこの動きですか…」
「人間って、こんな動きが出来るんじゃのう…」
二人共画面に釘付け、ものすごく真剣に見入ってる。
「一応、タネも仕掛けもあるのよぉ?
そりゃ身体もすごく鍛えてるし、相当な訓練も必要なんだけどぉ。」
「いやいや、タネがあるとしても見事なものですよ、これは。」
グラスや氷を並べながら話を続ける私。
「ところでこの曲、『Smooth Criminal』って
言うんだけどねぇ、翻訳は『手練れの犯罪者』『凄腕の犯罪者』
みたいな意味になるんだけど、『Smooth』だけだと『滑らか』
って意味なのよぉ。」
「…ふむ。」「…その心は?」
「さっき食べたラーメンもするっと入るし、『滑らか』っていう言葉に
掛けて、今日のお酒は『滑らかにするっと飲める』をテーマにしたのよぉ。」
と言う訳で、と独特な形の細いボトルをテーブルにドン!
「こちら、『ブッシュミルズ オリジナル』になりまぁす!」
因みに種類は五大ウイスキーの一つ、『アイリッシュウイスキー』で
ございまぁす!と続ける。
「「おぉぉ!?」」
よく分からんままにパチパチと拍手する二人。
と、おっちゃんから質問が飛ぶ。
「嬢ちゃん、『あいりっしゅ』ちゅうのは『あいら』とは違うんかの?」
いいですよ、おっちゃん、いい質問ですねぇ。
「アイリッシュウイスキーとアイラウイスキーは、名前が似てますが
生産国も味わいも全く異なる別のウイスキーでぇす。」
「小町先生! 二つのウイスキーはどう違うんですか!?」
お、カリーチェさんも乗ってきたな?
「アイリッシュウイスキーはアイルランド全域で造られるウイスキーでぇす。
対してアイラウイスキーはスコットランドの南西、アイラ島で造られる
スコッチウイスキーの一種になりまぁす。」
タブレットで地図を表示して説明する私。
「そしてアイリッシュウイスキーは伝統的に三回の蒸留を行いまぁす。
泥炭をほとんど使わず、まろやかでクセが少なく、すっきりした甘みと
フルーティな味わいが持ち味でぇす。
対してアイラウイスキーはニ回蒸留が主流でぇす。
泥炭を強く焚き込んであるので特徴的なヨード香や強いスモーキーさがあって、
非常に個性的で癖強な味わいなのはご存じの通りでぇす。」
ご清聴ありがとうございましたぁ!
私は拍手する二人に頭を下げた。
「…て事で、世界最古級の蒸留所と名高い北アイルランドは
ジ・オールド・ブッシュミルズ蒸留所で造られた、アイリッシュウイスキーの
スタンダード、味わってみましょぉ!」
「「わぁぁぁ!」」
言いながら私はテイスティンググラスに明るい琥珀色の液体を注ぎ…
「「「かんぱ~い!」」」
カリーチェ氏はグラスを丹念に香る。
「どれどれ…蜂蜜と洋梨、僅かにバニラが香りますねぇ、新鮮な果物感のある
甘い香りです。」
おっちゃんもグラスを軽く香り、そして一口。
「ふむぅ、煙たさや潮っぽさが全然ないのう…おぅ、滑らかな口当たりで
雑味無し、軽やかじゃがしっかりと甘い、いや、舌と喉にピリッと来る
酒精は、これは若さか? 後味のほろ苦さが心地よいわい。」
「今日の『オリジナル』はノンエイジだけど、『ブラックブッシュ』って
いうのもあって、そっちはモルト原酒の割合をぐんと高めて、シェリー樽で
熟成してるのよぉ。」
滑らかさはそのままに、芳醇でリッチな甘みとモルト由来の
クッキーみたいな香ばしさを楽しめるわぁ、と教えると、
「あぁ、儂はそっちの方がより好みかも知れぬ。
すっかり癖強な酒が楽しうなってしもうた。」
とおっちゃん。
「癖のあるアイラもいいですが、私はアイリッシュの滑らかさや軽やかさ、
実に好みですねぇ。」
このすっきりとした味わいに加えて深みが増しているなら、その
『ブラックブッシュ』とやらも興味深いですが、とカリーチェ氏。
成程、カリーチェさんはそういう方向が好みなのねぇ。
「ハイボールは更に滑らか・軽やかで、瑞々しさと甘さが際立つわよぉ?」
食中酒にもお勧めねぇ、と二人にハイボールのジョッキを手渡す私。
「! これは実に瑞々しく爽やか、後味もすっきりと嫌みがありませんねぇ!
ヴァイン、これは泥炭を焚かないウイスキー造りも視野に入れませんと。」
二回蒸留と三回蒸留に併せてスチルポットの違いも調べておかなくては、
と、お酒を飲みながらもカリーチェ氏の探求心は止まらない。
大したもんだなぁ。
「こ奴、好みの酒が見つかって、すっかり火が着いてしもうたわい。
こうなると嬢ちゃん大変だぞう?」
質問攻めに遭うても儂を恨まんでくれよ?と冗談めかして笑うおっちゃん。
うわぁ、それは大変そうだなぁ…
・・・
お酒も尽きかけて、まったりとしている私達三人。
「何じゃろなぁ、お酒の後に『ら・め~ん』が食いとうなる。
実に背徳的と言うか、犯罪的な食い気を感じるんじゃが…」
「あ、ヴァイン、貴方もですか。
私もいけないとは思いつつもラーメンを食べたい衝動が…」
あぁ、それを知ってしまったのねぇ。
お酒の後にラーメンが欲しくなる気持ち、確か科学的にも証明されてた
様な覚えがあるけど…
その時、私とおっちゃんのスマホがそれぞれ『ピロリン♪』と鳴る。
誰だろ?…桂華ちゃんだ。
『ご注文のイラスト、速攻で仕上げたかしら。
報酬はアクセサリーでよろしく。
おじさまには前に送ったデザイン画で作って頂いて。
石はクリアーな黄色、トパーズかシトリンを希望かしら。』
うわ、桂華ちゃん、仕事が早いよ。
しかもこのイラスト…すげぇ、ふくよかで頬髭あるのにちゃんと美女だ。
品名とキャッチコピーもしっかりレタリングデザインして配置してる。
桂華ちゃん、あんたすげぇよ。
おっちゃんも
「カリーチェ! これ見てくれぃ、すんごい絵じゃ!」
とスマホを手に声を上げている。
私は早速プリンタにデータを送ってイラストを印刷する。
…してたら、私のスマホがもう一度『ピロリン♪』
「はえ?」
再び桂華ちゃんのメッセージだ。
『ところで、最近おじさま、錬金術師さんを連れて来たって聞いたかしら。
今度私に取材させるかしら。
いや、取・材・さ・せ・れ・!』
うわぁ、圧が強い!
てか、何故知ってる!?
「…おっちゃん、貴方、桂華ちゃんにメッセージ送ったりしてなぁい?」
「ぬ? たまに送っとるぞい? カリーチェ連れてきた時の話とか。」
お前か! お前だったのか…!
「火が着いたら大変なのは桂華ちゃんも同じなのよぉ?
ちょっとばかり覚悟しといてねぇ…!」
普段はおっとりとした感じの桂華ちゃんだけど、一旦火が着くと
桜子もビックリの猪突猛進型、ブレーキの壊れたダンプカーになるんだ。
おっぱいが大きいのもあって、界隈では『猛牛先生』の異名で
畏れられている。
鎮まり給へ、鎮まり給へ…
こうして後日、桂華ちゃんはカリーチェ氏に密着取材、カリーチェ氏は私に
聞き取り調査、私とカリーチェ氏はおっちゃんに恨み言、という地獄の様な
一日が設けられるのだったが、それはいずれ語られる事もあるかしらねぇ?
今回のお題は、『ブッシュミルズ オリジナル』でした。
一足飛びに『ブラックブッシュ』も捨て難かったのですが、
まずは基本で行こうと『オリジナル』を選択です。
何より安価ですし、おすし。
癖がないのが癖になる感じ、特にハイボールは軽やかで飲みやすいので
万人向けかしら?
いずれ『ブラックブッシュ』も改めて飲んで書いてみたいですね。
城内はスムースに現れる庶民の味方、ブッシュミルズ が大好きです。
ところで本作をお読みになって、
『この城内って奴、結構いいパンチ持ってんじゃ、ねえの!?』
『お前、そこそこ及第点!』
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頂けると嬉しいです。
おまけに感想まで頂けた日には、もう這いつくばって靴ペロですよ、
旦那ぁ!




