『俺、麦じゃね?』 ジム ビーム ライ(バーボン/ライ・ウイスキー)
今日は自宅の押し入れで何やらゴソゴソしている小町ちゃん。
既にヴァインのおっちゃんや、錬金術師のカリーチェさんも
到着して小町ちゃんを見守っている様子ですが、小町ちゃんは
一体何をお探しで?
「…確か使ってないノート、束であったわよねぇ。
後、ボールペンも新品が何本かあった様な、無かった様な…」
押し入れに潜り込んで、がさごそと文房具類を収めた収納ボックスを
漁っている私は飲酒盃小町。
押し入れの外に向けてフリフリしてるお尻もキュートな美人OLよぉ。
(『でっ尻フリフリしても様にならないだろ』って思ったあんた、
…いや、この格好は確かに様になんないわね。)
後ろで見守っているのは異世界からやって来た凸凹フレンズ。
背が低くて横に広い髭モジャは、ドワーフのおっちゃん、
その名を『ヴァイン・ファス』と言う。
やせて背の高い、ちょっとエルフっぽく見えなくもない丸眼鏡の青年…
青年?この人歳いくつだっけ?は人間の錬金術師で、名前は
『カリーチェ・サークロ』氏。
偶然なのか必然か、ある日私ん家の押し入れは異世界…
ヴァインのおっちゃんが棲んでる洞窟と繋がった。
異世界人同士のファーストコンタクトは幸い平和なもので、そりゃ
お互いびっくりしたんだけど、どちらもお酒が好きって事で、
意気投合した私達は今や飲み友達。
何かにつけて私の家で、ご飯や宅飲みを愉しむ仲になったのである。
おっちゃんは特にウイスキーが気に入って、向こうでも作りたい!
ってなったんだけど、こっちの技術や知識を持ち帰るにも限界がある。
そこでおっちゃんが応援に呼んだのが、向こうでは名うての知識人で
通った錬金術師のカリーチェ氏、という訳だ。
このカリーチェ氏、調べた事の書き付けをしようと持ってきたのが
羊皮紙と羽ペンにインク壺!
いやいやいや、羊皮紙ってお高いんでしょう!?
メモ帳代わりに、なんてしてたらもったいないお化けが出て来るわぁ。
それにインク壺とか危なっかしいわよ!
カーペットにでもぶちまけられたら、えらいこっちゃになるわぁ。
そこで、余らせてどこかにしまい込んでる筆記用具があったはずだ、と
私は目下、家探しの真っ最中なのである。
「…あったあった、これ、二人にあげるわぁ。」
私は押し入れから某貞ちゃんの如くズルズルと這い出して、
二人に筆記用具を配る。
ノートにボールペン、鉛筆と消しゴム、小さな鉛筆削りも付けて、
まぁこれだけあれば、書き付けには困らないでしょ。
「何と、こんな高価な物、頂いてよろしいのですか?」
恐縮し切りのカリーチェ氏。
「そんな高いものじゃないし、いいのよぉ?」
「しかし、これだけの紙の束、高くない訳がなかろう?」
おっちゃんも心配顔だ、何か噛み合わないな?
「これ程の枚数で、質も高く均一な紙の束ですよ?
しかもヴァイン、見てごらんなさい、この薄さ、この白さ!
削って書き直しは出来なそうですが…一体どの様な動物の皮なら
こんな羊皮紙が作れるのやら。」
…そうか、そっからかぁ。
これはなかなかにカルチャーショックだわ、ヤックデカルチャ!
「これ、羊皮紙じゃないのよぉ、パルプ紙って言って、主な原料は
植物繊維で…」
ざっくりとパルプ紙の作り方や、漂白と『繋ぎ』が肝である事、
限界はあるけど、不要になった紙から再生紙も作れる事なんかを説明する。
「そんな訳で、これは再生紙なんかも混ぜ込んでお安く大量生産してる
ものだから、気にせずもらっていいし、使ってちょうだぁい?」
「何から何まで、ありがとうございます!
しかし紙も大したものですが、このペンも書き味の滑らかさと来たら!」
「鉛筆っちゅう奴もすごいぞい。
そもそも書いた字が消せるなら、書き損じを削る必要がないんじゃのう!」
「ボールペンは難しいと思うけど、カリーチェさんなら万年筆なんかは
作れるかもねぇ。」
金属の付けペンや、ガラスペンなんかも後で教えてあげよう。
羽ペンよりは使い勝手も良いだろうし。
鉛筆はもっと簡単よぉ、と再び軽く説明。
確か芯は黒鉛と粘土を混ぜて焼成、溝を彫った木の板に挟んで切り分ける、
だっけか。
「こうしてはいられませんよ、ヴァイン!
折角の機会、学べるだけの知識を学んで帰らねば!!」
「おう、やらいでか!」
二人共やる気があって良い事ねぇ。
「じゃぁ、私スーパーに行ってくるから、調べものするんだったら、
おっちゃんに聞いてタブレットなりパソコンなり使ってねぇ。
後、部屋の道具やら設備やらもおっちゃんはもう大体覚えたわよねぇ?」
「うむ、任された。」
気をつけてな。 行ってらっしゃい。
とそれぞれに声を送られ、私は買い物に出かけるのだった。
・・・
「あ~!? 小町お姉さん、ご無沙汰してやがるですぅ!」
スーパーで晩御飯を物色してる私に素っ頓狂なご挨拶をぶちかます
お嬢さん。
ロングの黒髪を三つ編みのツインテールにした、黒縁眼鏡の可愛らしい
お嬢さんは杜氏八千代ちゃん。
私と同じ町内にお住いの学生さんである。
そうか、そりゃご近所さんだからスーパーで会う事もあるか。
「…八千代ちゃん、店内ではお静かに願いたいわぁ。」
「あぁっ! またやっちまったですぅ、ごめんなさいですぅ…」
ちょっと性格と言葉遣いがおかしいのは、人見知りのコミュ障故。
私も同類だから理解は出来る。
この娘も黙ってれば美少女で通る部類だろうに、不憫な子ねぇ。
「そうそう、あれからウイスキー何本か試したですよ?
ブラックニッカのリッチブレンド、ちょっとアルコール感があるけど
甘くて美味しかったですぅ!
ニッカと言えば、ニッカのおじさん、ヴァインのおじさんにそっくりですけど
おじさんは元気ですかぁ?」
「元気って言うか今日も来てるけど、何なら、晩御飯一緒にどうかしらぁ?」
「あ、いいですね! それじゃ今日のウイスキーは私が買いますぅ。」
「あら、いいのぉ?」
そんな高いのは選ばないけど、新しいのを買いに来たのだ、と八千代ちゃん。
ど・れ・に・し・よ・う・か・な? と踊りながら瓶を選ぶ。
やめて、周りのお客さんが笑ってるわぁ…あ、子供が指差してる。
「これにしますぅ!」
八千代ちゃんが選んだのは…
「あら、面白いの選んだわねぇ、いいセンスだわぁ。」
「えへへ…恐縮ですぅ。」
「それじゃ、帰って晩御飯の支度だわぁ、八千代ちゃんも手伝うのよぉ?」
「はい、お姉さん、合点承知の助ですぅ!」
私達は買い物袋を手に、帰りの坂道をえっちらおっちら登って行くのだった。
・・・
「たっだいまぁ、帰ったわよぉ?」
「お邪魔するですぅ、おじさん元気でしたかぁ?」
リビングに入ると留守番の二人は小休止か、お茶を飲みつつテレビ鑑賞中。
「おう、お帰り…おや、八千代の嬢ちゃんかい、久しぶりじゃの。」
「お帰りなさい、結構遅かったですねぇ…おや? 初めまして、お嬢さん。」
「アイエエエ! イケメン? イケメンのお兄さん、ナンデ!?」
あちゃ~。
そうだ、この二人は初対面か。
そして初対面の男性がいたらこの娘はこうもなるか。
「この人はおっちゃんの向こうのお友達、カリーチェさんよぉ。」
「は、初めまして…杜氏八千代と申しますぅ…」
「初めまして、八千代さん、私はカリーチェ・サークロ、錬金術師です。」
カリーチェ氏はすっと立ち上がると、前に私にしたのと同様、片手を腰に、
もう一方の手を胸に当て丁寧にお辞儀した。
「め、目力強いですぅ、眼力に優れたイケメンですぅ…」
そう、カリーチェ氏はかなりの近眼なのだが、向こうには眼鏡なんて
便利なものはなく、物を見るには長年苦労を強いられたそうだ。
初めてこっちに来た時に眼鏡を誂えて、顔つきは大分柔和に
なったんだけど、時折睨む様な迫力満点の目付き顔付きにになるのは
もう癖になってるんだろうな。
「小一時間くらいで晩御飯にするから待っててねぇ?
八千代ちゃんはお台所よぉ。」
「ご飯の後はお酒ですぅ、二人共、首を洗って待ってるがいいですぅ!」
「こちらでは食事の前に首を洗う習慣があるのですか?
いや、前回はそんな説明はなかった様な…」
「手を洗え、とは聞いたがのう…」
それは言い回しなのよ…そしてあまり適切な言葉でもないのよ…
八千代ちゃん、頓智機な言葉遣いも程々にねぇ。
・・・
「「「「いただきま~す!」」」」
今日の晩御飯はパスタ…アサリたっぷりのボンゴレに鶏の唐揚げ、
付け合わせにイタリアンドレッシングのサラダにワカメと玉ねぎの
コンソメスープ、ご機嫌なイタリアンよ!
「カリーチェ、こういうのを『いためし』っちゅうんじゃ。
美味いぞう!?」
「はいはい、ズルいズルい…いや、これは本当に美味い、
今までの貴方が羨ましいですよ。」
おっちゃん、いい先輩風を吹かせてるわねぇ。
風速4メートルくらいかしらぁ?
「お姉さん、お料理上手なんですねぇ、『出来る女』ですぅ。」
「お酒のお摘み作りたくて、色々凝ったのが始まりかしらねぇ…」
そうして私は『ぼっち飯』を極めたのよぉ、哀しい記憶が蘇るわぁ。
八千代ちゃん、貴女だって『喪女』の素質は充分なのよぉ?
ご飯の後、ちょっと食休みしつつお酒の準備。
「おじさん、今日のお酒は私が選んだですよ?」
八千代ちゃんがカバンからいそいそとウイスキーのボトルを取り出した。
暗褐色の液体で満たされたボトルに緑色のラベル、銘を刻んだ金色の
文字が目に鮮やかだ。
「『ジム ビーム ライ』ねぇ、これはちょっと面白いのよぉ?」
「『じむびぃむ』っちゅうたら、『ばぼ~ん』じゃったか。
じゃが、これは前にお店で見たのとはちょいと違うとる様じゃが?」
「おっちゃんが見たのはきっと、白いラベルのジムビームねぇ。
これは広い意味ではバーボンだけど、『ライウイスキー』って言うのよぉ。」
バーボンだと原料の51%がトウモロコシになる処をライ麦に置き換えて、
後はバーボンに準じた製法で造られたウイスキーなのだ、と説明する。
「先日の『ディーコン』は『スコッチ』と言いましたか。
ふむ…同じ『ウイスキー』でもそんなに違うものなのですか?」
カリーチェ氏は違いが気になる様子、知的好奇心が強い人なのねぇ。
「お味は…説明は飲んでからにしましょ、自分の舌で確かめてねぇ。」
こういうのは先入観なしで楽しんでもらおう。
「むぅ、待ち切れんぞい…嬢ちゃん、早よ、早う飲ませてくれい!」
「今お摘みを焼いてるからねぇ、グラスと氷の準備をなさぁい?」
「ほいきた! それ、カリーチェ、台所へ行くぞい!」
「はいはい、これだからドワーフには敵いませんねぇ…」
苦笑しながら満更でもない様子で立ち上がるカリーチェさん。
「二人共仲良いですねぇ、親友って奴ですかぁ。」
八千代ちゃん、『貴腐人』の暗黒面に堕ちた桂華ちゃんや桜子と違って
貴女は純真ねぇ。
何時までもそのままの貴女でいてねぇ。
私は自分の事は棚に上げて祈るのだった。
・・・
「「「「かんぱ~い!」」」」
濃い琥珀色の液体を注いだテイスティンググラスを合わせ、
それぞれに香りと味を楽しむ。
お摘みにはライ麦パンをトーストして、クリームチーズをお好みで。
これ、香ばしくて美味しいのよねぇ。
八千代ちゃんはグラスをクンカクンカ。
「どれどれ…バニラかキャラメルみたいな甘ぁい香りがするですよ?
ちょっとスパイス感もありますねぇ、後、少し接着剤の香り?」
「『ばぼ~ん』はな、甘さマシマシで正に『甘露』の味わいなんじゃ。
甘くて…おぅ、ピリ辛じゃ!
穀物感のある素朴な甘さに黒胡椒みてぇな辛味があって、喉越しと
切れもええのう、『らいういすきぃ』てぇのはこういう感じかい!」
おっちゃんは相変わらず舌が良いわねぇ。
一頻りストレートを味わって、皆ハイボールへ移行。
カリーチェ氏がジョッキを傾ける。
「これは!? 香り立ちは抑えられてますが、素朴でふんわりとした甘味に
独特の切れと胡椒のスパイス感…ミントかライムか、清涼な果実感まである、
いや、この酒は『ハイボール』が最高の飲み方でしょう!」
また一人、ウイスキーの門を潜ったわねぇ、八千代ちゃん、良い仕事を
したわよぉ。
「バーボンっぽさもありつつ、普通のバーボンとは一味違うのよねぇ、
ライウイスキーって面白いでしょぉ?」
「料理と言い酒と言い、実に味わい深く、また興味深い。
こちらの世界と縁が出来た事、僥倖と言う他ありません。」
「おじさんに会えなかったら小町お姉さんとも桂華先生とも桜姫お姉様とも
会えなかったかもですぅ、勿論イケメンのお兄さんとも。
それにお酒の美味しさも教えてもらって、おじさんやお姉さんには
頭が上がらねぇですよぉ。」
奇妙な縁ではあるけど、今のところはプラスばっかりよねぇ。
こういう感謝は何の神様に捧げればいいのかしら?
…取りあえずは、お酒の神様かしらねぇ。
・・・
「…おじさんもお兄さんも、二人共よく聞くですぅ。
この『ライ麦』て奴ぁ、こんななりしてますが、なかなかどうして凄ぇ奴
なんですよぉ?」
テーブルをドンと叩いて真っ赤な顔の八千代ちゃんが力説する。
この娘酔ってるな、やべぇ、やべぇよ…
「そもそもライ麦ってぇのは、麦畑に時々生える雑草だったんですぅ。」
「雑草…ですか?」
神妙な顔で聞き入る二人。
「そうですぅ、名もねぇただの雑草ですぅ。でもある日こいつぁ思ったですよ。
『俺、麦じゃね?』」
「「!?」」
「思ったですよ、『俺、麦じゃね? ワンチャン、麦に成れるんじゃね?』って!
そしてこいつぁ、血の滲む様な努力を重ねたですよ。」
二人はゴクリと唾を飲み込む。
「努力の果てに、こいつぁ、手に入れた、手に入れやがったんですぅ!
一介の雑草が、麦の特性を! 麦の力を!!」
「「おぉぉぉ!!」」
拳を握る二人。
「何なら、麦より寒冷な気候や痩せた土地にも強くなったですよ。
時には畑の麦を駆逐して、ライ麦畑になり替わるくらいの権勢を
誇った、それがライ麦なんですぅ!」
「おぉぉ、ライ麦、ようやった! 苦しみに耐え、頑張った!!」
涙するおっちゃん。
「でも…」
一転、表情を曇らせる八千代ちゃん。
「ライ麦の天下は長くは続かなかったんですぅ…」
「何ですって、それは本当ですか!?」
愕然とするカリーチェ氏。
「本当ですぅ…ライ麦の奴ぁ、今でこそ人気の健康食品ですが、当時は
麦に較べて味が良くないって嫌われたんですぅ。」
家畜の飼料にもなったけど、明らかに普通の飼料より食いつきが悪かったって
記録も残ってるですぅ…」
「「あぁぁ、ライ麦、ライ麦よぉぉぉ!!」」
…お前ら、何感動してんのよ。
「って言う創作小噺を今考えたですよ、どうでしたか?」
ズコーっと倒れる二人。
「何でぇ、出鱈目かい!?」
「ちょっと、私の感動を返して下さいよ、ねぇ!?」
「一応ある程度事実に基づいて作ったお話ではあるですよ。
まぁ『ライ』麦だけに、『嘘』話ではあるですが。」
ドヤ顔でまとめる八千代ちゃん。
「まぁ、即興の割に良く出来たお話だとは思うわぁ、」
「でしょう! お姉さんも褒めちぎってくれていいんですよぉ?」
鼻高々にフンスする八千代ちゃん。
「でもねぇ。」
詰めを誤ったわね、八千代ちゃん。
「『ライ麦』は『Rye』、『嘘』のライは『Lie』よぉ?」
「!? い…いやぁぁぁぁ!!
こいつぁしくじったです、調子に乗って赤っ恥かいたですぅぅぅ!!」
耳まで真っ赤になって顔を押さえる八千代ちゃん。
「いや、騙されましたがなかなか面白いお話でしたよ。
八千代さん、吟遊詩人や戯曲作家の才能があるのでは?」
カリーチェさん、ナイスフォローだ。
それにこの娘、桂華ちゃんの琴線に触れるだけの才能はあるのよねぇ。
この場は将来が楽しみな娘、って事にしときましょぉ!?
今回のお題は、『ジム ビーム ライ』でした。
お手頃価格で楽しめるライウイスキー、なかなか美味しかったですが、
特にハイボールが秀逸と感じました。
今回はやりませんでしたがコーラも合いそうに思えます。
リキュールになりますが『ジム ビーム ハニー』も美味しいんですよね、
こっちはジャックダニエルのハニーと飲み比べもしてみたいなぁ。
城内は庶民の味方、ジム ビーム が大好きです。




