『爆煙の魔法使い』 ビッグピート クレイジースモーキーエディション
前回に引き続き、川崎駅方面へとお出かけする小町ちゃんとおっちゃん。
今回はシネコンで話題の映画を鑑賞する様ですが…?
『夏カトケ』の興奮も覚めやらぬ8月の下旬、まだ暑い中をバスに揺られて
川崎駅へ向かう怪しい二人組の姿があった。
一人は勿論私、飲酒盃小町。
街を歩けば数人は振り返る、ナイスバディの美人OLである。
(『黙ってれば美人なのに』って…まぁ自覚はあるわよ。)
そんな私の連れは、背は小さいが横には広い、顔中髭まみれの中年男。
何人かの乗客の視線を集めている。
特に男性客のそれは『こんちくしょう、上手い事やりやがって』と言う気持ちが
ありありと見て取れる。
良く良く見れば、どこか人間離れした所に気付く人もいるかも知れない。
何を隠そうこのおっちゃん、異世界から来たドワーフなのだ。
その名を『ヴァイン・ファス』と言う。
どんな神様が悪戯したものか、ある日私ん家の押し入れは異世界…
おっちゃんの棲む洞窟と繋がった。
何やかんやあって意気投合した私達は今や飲み友達。
今、周囲の男性客が邪推している様な関係ではない、断じて。
おっちゃんはそんな周囲の視線を気にした様子もなく、『ば~す、ば~す!』と
楽し気に車窓から外の風景を眺めていらっしゃる。
何故こんな目立つ時間帯に外出したのかと言えば、私達は久しぶりに
映画を観に出かけたのだ。
・・・
「…映画か? 観たい観たい! 何を観るんじゃ!?」
「前にテレビシリーズの録画と、円盤で映画観たでしょぉ?
あの魔法少女ものの新作があるのよぉ。」
そう、その映画は何度も延期されつつ、13年の歳月を経て遂に公開となった。
私やおっちゃんはテレビの再放送や円盤で履修した口だけど、大きなお友達は
それこそ13年待ってたのよねぇ、期待も高まるってもんよ。
「おぉ、あれか! …酷い事にはならんのじゃろうな?」
テレビの再放送ではタレントさんの実況が同時に観られて、おっちゃんは
タレントさんと一緒になって『幼気な娘っ子達が可哀想じゃ!』と
えらくのめり込んでたっけ。
「どうかしらねぇ、今日はそれを見届けるのよぉ。」
「むぅ…、あの娘っ子達を不幸な目には遭わせんぞい、儂が付いとるからの!」
おっちゃんが付いてても映画の内容は変わらないんだけどね。
開場まで時間があったので、先に併設のショップでパンフレットや
グッズなんかをお買い物。
キービジュアルのアクリルスタンド、ステキな絵ねぇ。
入場時には来場者プレゼントに大きな色紙と中身が分からないミニ色紙を
頂いて、おっちゃんはホクホク。
大きな色紙は本当に大きくて、これカバンに入るかしらね?
ドリンクの購入ヨシ! ポップコーンはイラネ!
私、家ではともかく映画館では食べ物は気が散っちゃうのよね。
ポップコーンなんかは無しで臨むのが私のジャスティス!
並びの席に着いて、買い物したグッズやらプレゼントやらをカバンに
しまい込む…色紙入るかな、ギリギリ入ったわ。
「あ、おっちゃん、映画が始まる前にスマホの電源切っておくのよぉ?」
「む、急に鳴り出したら迷惑じゃからな…さて、ワクワクしてきたのう!」
程なく館内の照明が落ち、映画が始まった!
・・・
「…凄かった、確かに絵とか音とか凄かったんじゃが…のう?」
映画を観終えて少し身体が冷えたので、今はシネコン内の喫茶店で
コーヒーなど頂きつつ感想戦をしている私達。
お互い、シアターホールを出てきた直後はポカ~ンとしてた。
今はすっごい複雑な表情だ。
「お話としては分かんないでもないのよぉ、でも…ねぇ?」
良く出来てるお話だとは思うのよ? 満足感もそれなりにあるのよ?
ただ、『違う、そうじゃない』って言うか、何とも消化不良。
それこそカレーを食べに来たのに出てきたのが上等なハヤシライスだった、
みたいな。
ちょいとスマホでシャベッターを覗いてみると、やっぱり賛否両論みたい。
私達みたいなニワカでもそうなんだから、特に13年待った人達は忸怩たる
ものがありそうねぇ。
それに…
「「あれ、あわよくば、また続編作る気よね?/よの?」」
続編をやるにしても、今度は何年待たされる事になるのやら。
私達は苦虫を噛み潰した様な表情で、にが~いコーヒーを飲み干すのだった。
…苦虫レビュワーになれそうだわぁ。
・・・
「よし、おっちゃん、口直しにもう一本行くわよぉ!」
「何と、映画の梯子、そういうのもあるんかい!?」
おっちゃんは驚きの表情。
この鬱々とした気持ちを吹っ飛ばすには『ジャコビニ流星打法』
しかねぇ!
もとい、映画の鬱憤は映画で晴らすのよ!!
「じゃが、何を観るんじゃの?」
「これよぉ!」
指差したのは…なんか小さくてワチャワチャしたナマモノ達の楽し気な
様子が描かれたポスター。
「何じゃ、こりゃちっさい子供向けじゃないんか?」
怪訝な顔で私を見つめるおっちゃん。
チッチッチ…違うんだなぁ、これが。
何せこっちは上映30日にして興行収入100億円を超える
勢いで大評判、子供ばかりか大人にも大人気になっている作品。
私も原作やテレビはノータッチなんだけど、いずれは観ないと、と思ってた。
この機会に観てやろうじゃないのよ!
並びの席のチケットを買って…さぁ、シアターホールへ再突入よぉ!
・・・
「何ちゅう…何ちゅうもんを観せてくれよったんじゃぁ…」
ホールを出て、再び併設ショップでパンフレットやグッズを物色している私達。
流石の儂も、ちょいとばかり怖くなったわい、とおっちゃんはちょっと涙目。
心なしか髭もしんなりしてる。
「いやぁ…まさかあんなお話だったとはねぇ、私も知らなかったわぁ。」
あはははは…はは…
私もちょっといやな汗をかいてる。
凄く良く出来てるお話だったわ、確実に人の心を抉って来る様な。
可愛らしいキャラクターで演じられる、断ち切れない憎しみと復讐の連鎖。
とっても上質な…『子供でも解る横溝正史』、みたいな?
「で、でもキャラクターは可愛かったわよねぇ?
おっちゃん、気に入ったんじゃないのぉ? あの『裸エプロンの怪人』。」
「うむ、最初は『変態じゃぁ~!?』と思うたが、あれは英雄的な男じゃ。
『仁義の人』とでも言うべきかのう。」
おっちゃんはウンウンと頷く。
ほとんどの登場人物…人物?が何かしらの悪意を抱く中、唯一人
光属性のおっさん。
『来たぞ、我らの。』的な頼れる快男児…裸エプロンのおっさんだけど。
「おっちゃん、あのエプロン似合うんじゃなぁい?」
ここに売ってるわよぉ、と水を向ける。
よせやい、と照れながら、パンフレットやグッズを手にするおっちゃん。
…しっかりとエプロンも買っていた。
やっぱり気に入ったんじゃない。
私もパンフと、ステンドグラス風のしおりが可愛くて一枚購入。
ボスキャラが怖可愛かったのよねぇ、お歌も上手だし。
「それじゃ、何か食べて帰りましょうねぇ?」
「うむ、『かれぇ』がええの…辛~い『かつかれぇ』を、な!」
元気が出てきた様で、ヨシ!
・・・
帰りのバスを降りて、勝手知ったるコンビニへ寄ってお買い物。
ご飯は食べて来たし、お酒でも買いましょ、と軽い気持ちで寄ったんだけど…
「ちょちょちょ、ちょっとこれぇ…」
お酒の商品棚にとんでもないもんがあった。
ミニボトルなんだけど、これは普通コンビニに並ぶ様なシロモノじゃない。
見渡してみると、他にもレギュラーサイズ・ミニボトルを問わず、
コンビニにあってはいけない様なウイスキーがちらほらと…
そう言えば、この系列のコンビニは昨今ウイスキーに力を入れてるとか。
あれも欲しい、これも飲んでみたいと思いながら、ハッと気が付いた。
そうだ、限定! 期間限定のハイボール缶が出てるはず!
ミニボトルを籠に入れるのももどかしく、慌てて冷たい飲み物の棚へと
走る私。
良かった、あった!
2種類のハイボール缶を2本ずつ引っ掴んで籠に突っ込む。
「どうした嬢ちゃん、そんな泡食って?」
訝しむおっちゃんにニンマリとした顔を向け、私は言った。
「凄いのがあったのよぉ。
今日の微妙な気分が吹っ飛ばす魔法のウイスキー、飲ませてあげるわぁ!」
「ほう、魔法とは抜かしよる! では楽しみにさせてもらうでの。」
おっちゃんも髭の下でニヤリと笑う。
お摘みにスモークチーズと牡蠣の燻製に…何で『くさや』あるのよ?
まぁ買うんだけど。
諸々買い込んで、王者の帰宅よぉ!
・・・
「悪いけど、先にシャワー使わせてもらうわねぇ。」
「うむ、相分かった。」
今日のお摘みはちょっと準備が要るからね、先にシャワーで汗やら化粧を
落として部屋着に着替える。
おっちゃんがシャワーを使ってる間に『くさや』を焼いてしまう。
しょうがないんだけど、換気扇回してても結構臭うわねぇ。
「ふぅ、さっぱりしたわい…何ぞ妙な臭いがするの。」
シャワーを終えたおっちゃん、お風呂場を出るなり臭いに気が付いた。
「魚の干物焼いてるのよぉ、『くさや』って言うのよぉ?」
臭いんだけど美味しいのよぉ、と説明すると納得した様子。
「成程、干物だの燻製だのはなんぼか臭うても仕方ないわなぁ。」
儂ゃ、美味いなら文句はないわい、と澄ましたものだ。
美味しそうに焼けた『くさや』と牡蠣の燻製にチーズ、グラスにジョッキ、
氷をテーブルに並べ…止めにミニボトルとハイボール缶をドドン!
「お待たせぇ、今日のウイスキー、『ビッグピート』よぉ。」
ミニボトルは『クレイジースモーキーエディション』、ハイボール缶は
『スーパースモーキー』と『クレイジースモーキー』の飲み比べだ。
おっちゃん、ボトルと缶をまじまじと見つめ…ブフゥと笑う。
「こいつぁ、何とも…隣の集落の鍛冶屋の親父にそっくりじゃぁ!」
今度は私がブフゥと笑う。
この銘柄、ボトルのラベルにも缶にもキャラクターが描かれてる。
フィッシャーマンズセーターを着たしかめっ面の、通称『ピートおじさん』。
多分アイラ島の漁師さんのイメージなんだろうけど、言われてみれば
どこかドワーフっぽくも見えて来るな。
「何よぉそれぇ…これ『ピートおじさん』っていうキャラクターなんだけど、
その親父さんって、そんなに似てるのぉ?」
「似ちょる似ちょる、このしかめっ面に団子っ鼻と言い、禿げ上がった
頭と言い、まるで見て来たみたいにそっくりじゃわい!」
おっちゃん、クックック…と笑いが止まらない。
私も笑いながら、ごく淡い琥珀色の液体をテイスティンググラスに注ぐ。
「「それじゃぁ、かんぱ~い!」」
軽くグラスを合わせ、お互いまずは一口…
「あぁ、笑うた笑うた…どれ、まずは香りを…プフォッ!?」
おっちゃん、思いっ切り吸い込んだのか、ちょっとむせる。
「け、煙臭ぇ…煙たくて、土臭くて、薬臭くて磯臭ぇ…こういうの、
『あいら』っちゅうたか?」
同じ『あいら』でも、前飲んだ『ぼうもあ』は女王様と言うだけあって、
お上品な『あいら』だったんじゃのう、と妙な感心をする。
私も恐る恐る香って、そして一口。
「うわ…ピート感といいスモーキーさといい、ボウモアとは違う癖強ねぇ。
あ、でも味は優しい…甘い…甘じょっぱい? 塩キャラメルみたい…」
「うむ、煙てぇのが口一杯に広がりよるが、同時に優しい甘みと塩気があって、
あぁ、舌から喉へピリッとした刺激が滑り落ちて残るわい…心地よいのう。」
成程これはちょいとくさくさした気分なんぞ吹っ飛ぶ爆煙魔法の酒じゃわい、と
喜ぶおっちゃん。
癖が強いけど、これはなかなか美味しいぞ?
グラスを空けると、今度は氷を満たしたジョッキにスーパースモーキーを
シューッ!
超、エキサイティーン!!
「ふむぅ、どうやっても煙臭ぇのと薬臭ぇのは変わらんのじゃな。
だが、味は塩が強調されとるの…海藻? 海の味?
炭酸が効いて不思議な爽やかさじゃが、これはこれで趣きが深いのう。」
私もハイボールを味わいつつ、おっちゃんに相槌を打つ。
「煙たいのに、妙な爽やかさと言うか、瑞々しさがあるのよねぇ。
塩気と海藻っぽいヨード感が強まって…海を飲んでるみたいな感じ?」
「海を飲む、か…成程、面白い言い回しじゃの。」
おっちゃんはもうピートおじさんの癖にも慣れたのか、ジョッキをグイーッと
飲み干した。
「どれ、次は『くれいじぃすもぉきぃ』の缶をいってみるかい。」
ペース早いわねぇ。
「お摘みも食べなさいよぉ、美味しいんだからぁ。」
おっちゃん、『くさや』に手を出す。
そうそう、男は度胸、何でも試してみるものよぉ。
しばらくむ~にむ~にと噛み続ける。
「…ほむぅ、臭いはきついが、噛んでおると、こう、旨味がじわ~っと
沁み出して、これ美味い、『くさや』か…美味いもんじゃのう!」
そしてハイボールをくいっと煽る。
「か~っ! こりゃ濃くて美味い!!
どっちも臭いんじゃが、酒と摘みの味わいが何とも言えず噛み合っちょるわい!」
勿論、牡蠣もチーズも美味いんじゃが、『くさや』、ええもんを覚えた!と
おっちゃんはご満悦だ。
「そうねぇ、凄く美味しいんだけどぉ…」
私の中でちょっと懸念が生まれた。
「何じゃぁ嬢ちゃん、浮かぬ顔をして?」
「いえねぇ、これ、多分初めて飲むアイラには向かないわよねぇ?」
「あぁ? あぁ、八千代の嬢ちゃんか。」
思い浮かんだのは『夏カトケ』で知り合った現役の学生さん、
杜氏八千代ちゃんの事だった。
流石に初めての『あいら』はもそっと大人しいのがええんと違うか?と
おっちゃんも同意する。
そうよね、初めてのアイラにこんな癖強なの飲ませたら、お酒が嫌いに
なっちゃうかも。
『何ですか、こいつぁ~!? このウイスキー焦げてるですぅ!!』
とか大騒ぎする様が目に浮かぶ。
あの娘に飲ませるなら比較的上品なボウモアか、甘味の強めなアードベッグ
辺りが無難かなぁ、ラフロイグはどうだったかしらねぇ、などと考える。
桂華ちゃんや桜子なら飲み慣れてるから心配ないんだけどね。
そもそもいきなりアイラを勧めなくてもいいのよね。
折角近所住まいの宅飲み友達候補が出来たんだ。
先輩としては、優しく優しくウイスキー沼に引きずり込んであげないと。
「そうよねぇ、まずは口当たりが良くて手頃なお値段のを勧めてあげましょぉ?」
「うむ、それが良かろうの。」
覚悟しときなさい、八千代ちゃん。
今日この時から貴女に向かって、いい先輩風が吹き始めるのよぉ!
…この時、杜氏八千代(20歳・学生)の背中に電流が走ったかどうかは
定かでない。
今回は『ビッグピート クレイジースモーキーエディション』でした。
ご存じの方もおられると思いますが、コンビニのローソンチェーンでは
昨今ウイスキーの販売に随分と力が入っております。
期間限定で発売されるハイボール缶のラインナップは
『どうしてこれハイボールで出るんですか?』と言いたくなる
現場猫案件が目白押し。
過日『クレイジースモーキーエディション』のミニボトルと
『スーパースモーキー』・『クレイジースモーキー』のハイボール缶が
発売されると聞き、速攻で買い求めに走りました。
ブツは無事確保出来たので何時頃お話を書こうかと考えておりましたが、
今回お蔵出しと相成りました。
アイラの中でも癖が強いと噂のピートおじさん、香りはきつめですが、
味は割と優しいと感じました。
個人差はあるでしょうが、アイラをそこそこ嗜んでおられる方々なら
そこまで警戒しなくても大丈夫だと思います。
ローソンの取り扱いウイスキーは限定品以外も『何でこれが?』と
思う様な銘柄があったりしますので、ご興味がありましたらちょっと
覗いてみられるのも良いかと。
城内はローソンのウイスキー関連のバイヤーさんの英断に篤く敬意を表します。




