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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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22/23

『女王様に謁見』 ボウモア 12年

6月に入って、小町ちゃんの会社は夏のボーナスが支給された様です。


早速良いお酒を買いにバイクを走らせる小町ちゃんですが…?

 『フォ~ン…』

小気味よいエキゾーストノートを上げながら夜の国道1号線を

川崎駅方面へ向かって駆け抜ける大型バイク。

長い髪を風に(なび)かせバイクに(またが)る私は飲酒盃小町(いさはいこまち)

どっから見ても美人ライダーね。

(『ヘルメットで顔が見えない』?…はい、ごもっとも。)

6月の第一営業日、我が社は夏のボーナスが支給されたのよ!

ボーナスよ、ボーナス、棒に茄子(なす)なのよ!

言ってもお盆のお供え物とは訳が違うからね。

株価がぶち上がってるこのご時世、我が社は勿論の事、私の部署も相応に

業績が良かったから、ありがたい事に結構な額が頂けた。

ククク…これさえあれば、神にも悪魔にもなれるわ。

バイクのカスタムに、8月の『夏カトケ』資金に…夢が広がるわぁ。


 ただねぇ、ボーナスは良かったんだけど、ちょっと私の部署的には

喜んでばかりもいられなかった。

うちの問題児、茶良尾(ちゃらお)君が、ちょっと上に目を付けられてるんだ。

能力自体はそんなに低い訳じゃないんだけど、仕事に身が入ってないし、

ちょいちょいさぼったり手を抜いてるのもばれてないと思ってるのは

本人だけなんだろうなぁ。

「小町ちゃんとこの茶良尾君、今のところ成果は可もなく不可もなくって

感じだけど、遅刻が多いし、勤務態度もよろしくないねぇ。」

流石に目に余るしこのままだと、次回は評価や査定、下げざるを得ないよぉ、

と部長の佐渡島(さどがしま)さんに釘を刺された。

当然私もそれは判ってて、個別面談の時に注意もしたんだけど、

「へいへい、反省してま~す。」

とどこ吹く風。

…お前なぁ。

もうちょっと態度ってもんがあるでしょうよ。


 係長の安藤(あんどう)君にもお願いしたんだけど、

「うっす、あいつもやれば出来ない奴じゃないんですがねぇ。

俺も気を付けて見ときますよ。」

とは言ってたけど、彼は彼で体育会系で血の気が多いとこがあるから、

やり過ぎないかちょっと心配。

「私も気を付けてはいるんだけど、目の届かないとこがあるから

お願いねぇ。」

この後ちょっと失敗出来ない大きなプロジェクトもあるから、

チームをしっかり引き締めておきたいんだけど、こういう小さな(ほころ)びが

事故を呼ぶのよねぇ…とと、運転中に考え事は危ないな。

私が事故ってどうする。


心配事は一旦(いったん)頭から追いやって、私は駅ピルの駐輪場へとマシンを

走らせたのだった。


・・・


 やって来たのは駅ビルの大きな酒屋さん。

前に『おっちゃん』も連れてきたお店だ。

『おっちゃん』というのは、異世界からやって来たドワーフ。

名を『ヴァイン・ファス』と言う。

ひょんな事から異世界のおっちゃんの住む洞窟と、こっちの世界の

私の部屋の押し入れが繋がって、色々あって今は飲み友達になった。


 折角ボーナスも出た事だし、今日はちょっといいお酒を買いたくて

お店に寄ったんだ。

にゅふふ…どれにしようかしらねぇ。

ジョニーウォーカーの緑や青も飲んでみたいなぁ。

I.W.ハーパーの12年やブラントンなんか、瓶が恰好良くて

憧れの一本ねぇ。

ジャパニーズウイスキーは…いいのはお値段がなぁ。

つらつらとウイスキーの棚を物色していると、ある一角が目に入った。

そういや、()()はおっちゃんに飲ませた事がないわねぇ。

よし、今回は()()でいこう。

おっちゃん、きっとびっくりするわよぉ!


 お酒の他に、ちょっと奮発(ふんぱつ)した肉々しいお弁当やお惣菜(そうざい)、お(つま)みなんかも

買い込んで、私はいそいそと駅ビルを後にしたのだった。


・・・


 「たっだいまぁ~!」

家に帰ると勝手知ったる何とやら、(すで)におっちゃんが来ていて、タブレットで

アクセサリーの写真を撮っていた。

おっちゃんは()()()の世界では宝石や貴金属細工の職人さんで、

その出来栄えは私の素人目(しろうとめ)で見ても、かなりの腕前と思える。

そんなおっちゃんは()()()で自分の自由になるお金を稼ぐ為に、

少し前からアクセサリーのネットショップを開く準備をしているのだ。

勤勉だよなぁ。

茶良尾の奴もちょっとおっちゃんを見習って欲しいもんである。


 「おう、お帰りなさいじゃ。今日は遅かったの。」

「ボーナスが出たんでねぇ、ちょっといいお酒買ってきたのよぉ。」

「ほほう、そりゃまた楽しみじゃわい。」

ポチポチとタブレットの画像を整理しながらおっちゃんが応える。

「…で、『ぼぅなす』って何じゃの?」

そこからか~い!

「会社の業績がいいと、一時金?報奨金?がもらえるのよぉ。」

たんまりもらったから、今日は奮発したわぁ、と買ってきたお弁当やら

お惣菜やらをテーブルに並べていく。


 「さぁ、まずはご飯にするからテーブルの上、片してねぇ。」

「おっほぅ! こりゃ美味そうじゃ。」

デミグラスハンバーグと牛焼肉にガーリックライスのお弁当。

彩り鮮やかなコブサラダと、もやしやキクラゲにトマトもたっぷりの

中華サラダ。

お弁当はレンチン、わかめと茄子のお味噌汁がインスタントなのは

愛敬(あいきょう)

それでは両手を合わせて


「「いただきます!」」


二人して、モ~グモ~グ、ム~シャム~シャ、と食べ始める。

「時におっちゃん、お店の準備はど~かしらぁ?」

「うむ、良い感じで進んどると思うぞ?」

ほれ、とタブレットを見せてくれる。

どれどれ、と覗き込むと…うん、なかなかいい感じじゃないか。

サイトの構築やレイアウトはお友達の桜子(さくらこ)ちゃんが監修してくれている。

イラストやカットはこれまたお友達の桂華(けいか)ちゃんが描いてくれた。

「いい感じに出来てるわねぇ…」

「形になってきとるじゃろ?」

商売を始めるのが楽しみじゃ、とおっちゃんは笑う。

私もしっかりお手伝いしてあげなきゃだわ。


・・・


 ご飯を食べ終えて、今はちょっとニュースなんぞを流し見ながら

まったりとお茶をしばく。

「おっちゃん、今日は『女王様』に会わせてあげるわよぉ。」

眼を丸くしてこっちを見るおっちゃん。

「女王様? この家に来るのか!?」

そもそもこの国、王制だったかの?と(いぶか)しむおっちゃんに、私は

笑って説明する。

「『女王様』って言ってもお酒の話。

スコッチの中でも『アイラウイスキー』っていうのがあるんだけど、

歴史の深さや優美な味わいから、『アイラモルトの女王』とまで呼ばれる

すごいウイスキーがあるのよぉ?」


 スコットランドのウイスキー産地の一つ、アイラ島で造られるスコッチ。

それがアイラ。

中でも1779年創業のボウモア蒸溜所は、アイラ島で最古の蒸溜所。

スコットランドでも1、2を争う程の古い歴史があり、伝統的な

フロアモルティングとキルン(乾燥塔)での乾燥を手間暇かけて

守り続けてきた老舗(しにせ)

これが美味しくなくて、どうしましょうってもんよ。

説明しながら、私はほっそりした瓶とテイスティンググラスにジョッキ、

氷と炭酸水を並べていく。

お摘みはベーコンにスモークチーズ、それに牡蠣(かき)燻製(くんせい)


 「さぁ、お待ちかね、これが『ボウモア12年』よぉ。」

「ふむぅ…ほっそりしとるが、どこか気品と風格が感じられるのう。」

瓶の(たたず)まいとラベルの調和が良い、とおっちゃんが(うな)る。

「何しろ『女王様』だもんねぇ。」

あ、いけない、飲む前にこれは注意しとかなきゃ。

「一つだけ聞いといてねぇ。

アイラウイスキーって、私は好きなんだけど、かなり癖が強いの。

具体的にはピーティーでスモーキーな方向性なのよぉ。」

私はアードベッグやビッグピートなんかもいけちゃう位、アイラは

大好き。

おっちゃんは個性的なウイスキーもいける口だとは思うんだけど、

ダメって言う人は本当にダメなのもアイラ。

「もし合わなかったら無理はしないでねぇ?」

私はやや淡い琥珀色の液体をグラスに注ぐと、おっちゃんに手渡した。


「「では、かんぱ~い!」」


 「嬢ちゃんも(おど)かしよるのう…酒なら何でも頂くのがドワーフじゃて。」

安心せい、とおっちゃんはグラスを軽く香った。

「ほうほう…上品な煙と、これは海?潮の香りか?僅かに花の様な香りが

残って…複雑な香りじゃのう。」

あら? 意外に大人しい評価ねぇ。アードベッグを初めて飲んだ時なんか、

もう笑っちゃう程強い煙っぽさと正露丸(せいろがん)臭さだったんだけど?

私もグラスを香ってみた…何だ、アイラの特徴はそのままに、でも

上品に(まと)まってるなぁ。

「ボウモアって、すごく上品なアイラなのねぇ。

尖った所がなくて、アイラらしい特徴のバランスがいいわぁ。

凄いのになると、そりゃぁもう暴力的なまでに『(くせ)つよ』なのよぉ?」

好きになるとそれがいいんだけど、と私は続ける。


 「飲み口も柔らかいのう…おぅ、ゆっくりと煙っぽさがほどけて来よる。

若干の甘みと、ダークチョコレートの様なコク…あぁ、やはり海じゃ、

海の潮が口一杯に広がりよるわい。」

嬢ちゃんがあんまり脅かすから、それこそ炭焼き小屋の女王様が出て来るかと

心配したぞい?とおっちゃんは冗談まじりに笑った。


 「次は…もったいないけど、ハイボールにしちゃうわよぉ?」


ボウモアをハイボールにしたっていいじゃない、宅飲みだもの。 こまち


どこかの詩人めいた言い訳をしながらハイボールのジョッキをおっちゃんへ。

「ほぅ~…煙が香るが、きゅっと締まった感じじゃの。お味は、と…

海の潮と煙と…これはなんじゃ? 妙に後引く味わいがあるんじゃが…」

「あぁ、これ…きっと海藻(かいそう)由来のヨード感ねぇ。」

同じアイラでも随分と表情が違うんだなぁ。

猛烈な香りのビッグピート、強い香りだけど甘味たっぷりのアードベッグ、

タリスカーは塩辛くて、胡椒(こしょう)を浮かべると美味しいんだっけか?


 「ボウモアの飲み方で一番のお勧めはロックだそうよぉ?」

私は氷を落としたグラスをおっちゃんに勧める。

「どれ…むぅ、煙っぽさが影を潜めて…これはチョコレート、いや、

レーズンチョコの香りがするぞい!」

今更ながら、飲み方一つでこうも表情が変わるのは何とも不思議じゃ、

とおっちゃんは感心しきり。

「煙と塩の味にチョコの甘み…あぁ、余韻(よいん)は海ねぇ…どこまでも

海の潮が感じられるわぁ。」

ボウモアってこういうお酒だったのねぇ。

この塩辛さ、如何(いか)にもお摘みが欲しくなるわぁ。


 「アイラの煙っぽさや塩辛さには燻製が最高に合うお摘みなのよぉ?」

「おぉ、このチーズ美味いの…貝の燻製がまた、酒の煙たさや塩味と合って…

うむ、(たま)らん味わいじゃぁ…『ぼうもあ』と言うたか…

どれ程癖の強い女子(おなご)かと思うたが、なかなかどうして、(わし)らドワーフ好みの

立派な女王様じゃて!」

…ドワーフ好みの女王様て、どんな()め方よ?

まぁ気に入ってもらえた様で何より。

このおっちゃんの様子なら、アイラも色んなのを試して良さそうだわぁ。


・・・


 さて、おっちゃんのネットショップの開店準備は着々と進んでいる。

この分だと7月早々にオープン出来るかなぁ、といった具合だ。

お店を開いたら必然、商品とお金のやり取りが発生する訳で、そろそろ

おっちゃんの銀行の口座やカード、折角だからスマホも用意してあげなきゃ

なんだけど、ここで問題。

 

おっちゃんは外国人ならぬ異世界人だから、パスポートはおろか、

ビザも在留カードもありゃしない。

そうか、厳密には不法在留外国人?扱いになっちゃうのか。

わーくにとおっちゃんの国とで国交樹立してくれないかしらねぇ。

まぁ、無理でしょうねぇ、そもそもおっちゃんの存在を(おおやけ)に出来ないんだし。


 良くはないんだろうけど、私の名義で新規に開設するしかないわよねぇ。

ちゃんと商売になる様なら、売り上げに手をつける気は勿論ないけど、

私の副収入扱いで税金なんかも払わなきゃ。

確定申告、面倒ねぇ、今はネットで出来るんだったかしら?

なんか、事態は『脱法ビジネス』の様相(ようそう)(てい)してきたぞ。


…私、警察のお世話になったりしないわよね?


今回は『ボウモア 12年』でした。


城内はアイラウイスキーは大好きなのですが、初めて飲んだアイラは

アードベッグ テン。

大変美味しかったのですがそこはアイラ、癖も強かったので、

ボウモアは結構おっかなびっくりテイスティングしました。


しっかりとアイラの特徴がありながらも思いの他上品に纏まっていて、

アイラ入門にはお勧めの一本だと思いました。


なお、最初のアイラにビッグピートはやめといた方がいいと思います。

これはこれで慣れてれば美味しいのですが。


城内はアイラウイスキーも愛して止みません。

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