『白いおんまはぱっぱか走る』 ホワイトホース 12年
※2026/4/22 フリガナやカッコの抜け・漏れがあったので修正しました。
我らが小町ちゃんとヴァインのおっちゃん。
今日はテレビで競馬中継を観戦中のご様子ですが…!?
ばりっぼりっ… ずずずーっ…
気だるい日曜の午後、もう夕方に差し掛かろうか、という時間に
お煎餅を齧りながらお茶を啜っている私は飲酒盃小町。
妙齢の美人(ここ大事!)OLである。
ばりっぼりっ… ずずずーっ…
テーブルの向かい側で同じ様にお煎餅とお茶のご相伴に
預かっているのは、異世界からやって来たドワーフ、ヴァインのおっちゃん。
私達は映画の円盤を消化していたのだけど、何枚目かを観終わった処で
ちょっとテレビのチャンネルを回していたら、競馬中継をやっていた。
おっちゃんがちょっと興味を惹かれた風だったので、今は休憩がてら、
競馬を見ていたという次第。
「馬の競争のう…人間という奴は、どこへ行っても何かしら
競う事が好きなんじゃのう。」
「そうねぇ、競馬もそうだし、おっちゃんの好きなお相撲みたいな
格闘技やスポーツから、トランプや将棋みたいなゲームまで、
まぁジャンルを問わず、人間は競争するのが好きみたいねぇ。」
平和的な方法なら、競争したり、それを見るのは楽しい事だと思うわよ、
と私は答える。
「わざわざ『てれび』で流すくらいだから、この競馬というのも
人気のある競技なんじゃのう。」
「あぁ、競馬はレース自体も面白いっちゃ面白いんだけど、これはねぇ、
有り体に言っちゃうと、ギャンブル、賭け事なのよぉ。」
「なんと、金が賭けられるんかい!?」
おっちゃん、驚いた様子で聞き返してきた。
「そんなにびっくりする程の事でもないでしょお?
そっちにも賭け事くらいあるんでしょうし。」
「あ、これは儂が説明不足じゃった。
儂が驚いたのは、馬の駆け比べが賭け事になる、そっちの方じゃて。」
「?…よく分からないわねぇ。」
「だって、調子の良い馬や速い馬なんぞ、直に聞けば分かるんじゃし、
それで大体着順の見当は付くから賭け事にならんじゃろうに。」
は? 聞けば分かる? 何を言ってるのかしら、このモジャ公は。
「エルフ共や、ちょいと気の利いた精霊使いなら、馬と話せば分かる事だし、
賭けにならんじゃろがい?」
インチキ、八百長もし放題じゃろうが、と息巻くおっちゃん。
あー、そうなのか。
向こうには、馬を始め動物と会話が出来る人達がいるんだ。
馬に直接その日の調子を聞くのは勿論、やり様によっては
『今日はどの馬を勝たせてくれ。』なんて談合が簡単に出来ちゃう。
だから、向こうの競馬は王族、お貴族様や大手の商人なんかの持ち馬の
お披露目、といった意味合いの物でしかなく、動物を使った
賭け事は成立し得ない、というのがおっちゃんの説明だった。
成程ねぇ。
こっちにはそもそも馬と会話出来る人なんかいないし、
騎手や調教師の人達なんかはスマホやPC、電話みたいな外部との
やり取りも厳重に制限されるみたいよ、と説明を返すと、おっちゃんも
納得がいった模様。
「で、嬢ちゃんはどの馬に賭けるんじゃ?」
「えーっと、私は競馬はたまに見るけど、賭けるのはやめちゃったのよぉ。」
ちょっと目を泳がせながら答える私。
「? なんじゃ?おかしな嬢ちゃんじゃのう…」
私は、あれなんだ、どうも微妙な戦績の馬を好む癖がある。
私は馬の強さも競馬新聞の読み方も分かんないから、あの馬可愛い!とか
この馬綺麗~!とか、見た目の印象だけで馬券を買ってた。
そして、単勝を買えば二着、連勝を買えば三着、ワイドを買えば馬群に沈む、
そんな馬ばかりと出会い続けた結果、今では馬券を買う事はすっぱりと
なくなったのである!
「まぁ、こんなでっかいのが何頭も走る姿は壮観ではあるのう。」
おっちゃんは私の様子を気にした風でもなく、画面に目を戻していた。
「そ、そうよねぇ、迫力あるわよねぇ…
あ、迫力って言えば、こんなのもあるのよぉ?」
私はタブレットでポチポチと検索してとあるサイトを開いた。
「なんじゃい?…うぉ、でけぇ!」
タブレットの画像を見て、思わず息を飲むおっちゃん。
「おっきいでしょぉ? 『ばんえい競馬』って言うのよぉ。」
「うん、でけぇ…馬ってこんなにでかくなるんか…」
タブレットの中では、象と見紛う様な巨体の馬が、橇を曳いて
のっしのっしと走って…走って? と言うより歩いていた。
「大きくて可愛いわよねぇ。」
ばんえい競馬は北海道でしかやってないんだっけか、一度は生で
観戦したいわ。
「可愛いかは分からんが…馬も色々なんじゃのう。」
向こうでもこんな大きな馬はいないのか、おっちゃんは食い入る様に
画面を見つめていた。
「可愛いわよぉ?
馬って可愛いし美味しいし、愛でて良し、食べて良しなのよぉ。」
おっちゃん、今度こそ本気で驚いて私を見る。
「!? 食べるんか、馬を?…
いや、食えはするんじゃろうが、しかし…」
「食べるわよぉ?
『馬刺し』て言ってねぇ、コクがあって、脂が乗ってて…
おろし生姜やニンニクで頂くと、それはもう、堪えられないのよぉ。」
そう言えば、川崎駅の側に馬刺しと焼酎の美味しいお店があったっけ。
いつかおっちゃんも連れてってあげたいわね。
「今日は無理だけど、その内馬刺しのお店にも行きましょうねぇ。
この後スーパーに行って、馬刺しがあったら買ってあげるわぁ。」
「馬かぁ、食うのは初めてじゃが、嬢ちゃんが言うなら美味いには
違いない。」
おっちゃんも覚悟を決めた、と言うか、困惑より食い気の方が勝った様だ。
そうだ、折角だから、今日のウイスキーは『馬』繋がりで、
あれにしよう…
・・・
競馬中継が終わったので、炊飯器を仕掛けたら、おっちゃんと
スーパーへ買い出しに出かける。
おっちゃんも慣れたもので、カートの買い物かごに良さげな食材を
突っ込んでいく。
夕食用に焼き魚やお惣菜、そしていい感じの馬刺しがあったので、
これも買う。
後は今日のウイスキーに炭酸水。
「ほう、ラベルに馬の絵が描いてあるんじゃのう。」
おっちゃん、目ざといな。
「そうよぉ? 銘柄は『ホワイトホース』…そのまんま『白い馬』ねぇ。
ノンエイジは、お手頃価格でそこまで特徴もない、普通のスコッチなのよぉ。
これは12年物とは言っても、あんまり尖ったお味は期待しないでねぇ?」
今日は馬の話が出たから、それこそ『馬』繋がりで話のタネに選んだのだ、と
話を結ぶ。
「言うて、こっちの棚の『ぶらっくにっか』も、とても安物とは思えん
美味酒だったしのう、期待するなってのは無理じゃのう。」
くつくつと笑いながら答えるおっちゃん。
もー、悪い顔して笑いおって。
あんまりハードル上げて、期待通りじゃなくっても知らないわよ?
・・・
家に着いたらしっかりご飯も炊けていたので、簡単にお豆腐とわかめで
味噌汁を作っておかずをレンチンしたら、晩御飯の出来上がり。
早速テーブルに並べて「「頂きます!」」
流し見していたテレビのニュースが天気予報のコーナーに移る頃には
二人共しっかり晩御飯を食べ終えていた。
「…店で見た時はこれと言って特徴のない瓶と思っておったが、
よくよく見ればなかなかどうして、凝ったラベルじゃのう。」
買ってきた『ホワイトホース 12年』の瓶を眺め眇めつ、
おっちゃんが呟く。
「控えめじゃが、所々にあしらった金色がいい味を出して居る。」
言われてみれば、ノンエイジはぶっちゃけ『安っぽい』印象なんだけど、
この『12年』の瓶は控えめなんだけど、ちょっと上品な感じかも?
「は~い、お待たせ…お摘みの『馬刺し』よぉ?」
買ってきた馬刺しは、ヒレ・ランプ・タテガミの食べ比べが出来る、
お得なセット。
生姜醤油とニンニク醤油の小皿をスタンバイして、ご機嫌なお摘みの
セッティングも万端。
「おっちゃん、瓶いじってないで、開けてちょうだいねぇ?」
「おぅ、そうじゃな。」
酒は飲んでなんぼじゃわい、と言いながら、おっちゃんはキリキリと
小気味よい音を立ててキャップを回す。
テイスティンググラスに濃い目の琥珀色がトクトクと注がれて…
「「かんぱ~い!」」
小さくチンっとグラスを合わせ、それぞれに香りと味を楽しむ。
「ふむ、華やかな蜜と黒糖の香り、バニラもあるかの?…
味わいは…ほう、甘い中にも酒精のピリッとしたスパイシーさと、
これは焼けた木に、少しベーコンの味もあるか?
嬢ちゃんは随分と脅かしてくれたが、なかなか特徴的じゃぞい。」
思ったより個性的なお味で、おっちゃんは結構嬉しそう。
「あらぁ?…意外に個性豊かなのねぇ。
最初の華やかな甘さから一転して、舌にスパイシーさとスモーキーさが
残るわぁ。
ノンエイジはほんっとうに普通な感じのスコッチなのよぉ?」
程良い香り立ち、程良い甘さ、程良いスモーク感。
普通な上にも普通の、ザ・スコッチ入門編。
ノンエイジのホワイトホースに私が持ってた印象はそんな感じだったから、
この『12年』の個性には驚かされた。
やるじゃないか、ホワイトホース。
それならハイボールはどうかしら?
御作りしたハイボールのジョッキをおっちゃんに手渡す。
「ふむぅ?香り立ちはほとんどないのう。
お味は…すっきりとした口当たりで、果物感が強まったわい。
後味に、ほんの僅かに煙っぽさが残りよる。」
「そうねぇ、スモーキーな余韻が若干あるけど、すっきりした
お味になったわねぇ。」
ストレートの意外な力強さに対して、ハイボールは食中酒向きの
軽やかさだ。
「折角だから、馬刺しに挑戦してみたらどうかしらぁ?」
馬刺しは本当なら焼酎のロックで流し込みたいとこだけど、この軽やかな
ハイボールは和食にも合うんじゃないかしら?
「む…これ、馬の肉なんじゃよな?」
「そぉよぉ? 生姜でもニンニクでも。どっちもいけるわよぉ?」
おっちゃん、意を決してヒレを一切れ摘まむと、ニンニク醤油に浸して
パクっといった。
眼をつぶって、も~ぐも~ぐと味わう。
暫し噛み続けていたが、おもむろにごくんと飲み込んだ。
「…うんま~い。」
にっこりと微笑んでおっちゃんが感想を漏らした。
「濃厚な味わいで、嚙んでるといつまでも旨味が沁み出して…
馬って、こんなに美味かったんじゃのう…」
『うま』が『うまい』と来たか。
「その脂をハイボールで流し込んで、次はランプを試すのよぉ?」
「おぉぅ、部位によって味わいが違うんじゃろ!? 試さんでか!!」
もはや忌避感も消え失せたのか、ランプを生姜醤油で口に運んだ。
「…これもうんまい、うんまいのう。」
おっちゃん、頬が緩みっぱなしである。
「まさか、生肉食って美味いと言う日が来るとは、思ってもみなかった。」
思えば、最初は生魚でも驚いたのに、馬の、しかも生肉を…!と、
馬刺しの脂っ気をハイボールで流し込みながら、おっちゃんはしみじみと語った。
「『タテガミ』もコリコリして美味しいわよぉ?
私はニンニク醤油で頂くのがジャスティスねぇ。」
まぁ、わーくにの食文化はこっちの世界でもちょっと
独特ではあるんだけどね。
取りあえずは、喜んで頂けて何より、って処ねぇ。
・・・
「ちょっと意外な話なんだけどねぇ、その瓶のキャップあるでしょぉ?」
馬刺しを摘まみながら、私はおっちゃんに話の水を向ける。
「うん? 封を切る時、キリキリと小気味よいの。」
これも作り方が分からんのう、とちょっと悔しそうにおっちゃんが答える。
「元々、この手の瓶の蓋ってコルク栓が一般的だったんだけど、
ウイスキーってワインと違って瓶の中で熟成しないから、コルク栓だと
ちょっと問題があったらしいのねぇ。
で、1926年に初めてコルク栓からスクリューキャップに変えて、
大きく売上げを伸ばしたスコッチウイスキーがあったんですってぇ。」
言われて、おっちゃんティンと来たみたい。
「それが、この『ほわいとほぉす』だった訳じゃな?」
「ご名答。
コルク栓ってコルク抜きが必要だし、失敗して折れたり砕けたりすると
悲惨じゃなぁい?」
実際、私もワインの抜栓に失敗して、砕けてひどい目に遭った事がある。
「ところがスクリューキャップだと、開けるのに失敗もないし、
蓋するのも簡単でしょぉ?
売れに売れて、当時売り上げが2倍になったそうよぉ。」
「成程のぉ、小さな工夫が大きな成果に繋がった、と。
…儂も、何とかガラス瓶の製法をものにせんとのぅ。」
あら、おっちゃんの野望に改めて火が着いたかな?
「ごめんねぇ、私も全部が全部、解って説明出来る訳じゃないからぁ。」
「いや、嬢ちゃんにはようしてもらっとる。
これは儂が工夫せにゃならん事だからの。」
『たぶれっと』も使わせてもろうとるし、完成品も手に取って見る事が出来る、
丸っきりのゼロから始める訳じゃなし、ぼちぼち調べながらやってくわい、と
おっちゃんは決意を新たにしたのだった。
・・・
「それはそれとしてねぇ、今日は馬にまつわるウイスキーって事で、
『ホワイトホース』を飲んだんだけどぉ…」
私はおずおずと切り出した。
「うむ、嬢ちゃんは普通と言うたが、なかなかどうして個性的な
『すこっち』じゃった。」
「実はねぇ、馬にまつわる、すんごいウイスキーがあるのよねぇ。」
「なんと。」
タブレットでポチポチと検索して、画像をおっちゃんに見せる。
「!…すげぇ…何じゃこの『ういすきぃ』…」
美しいカッティングが施された瓶、手書きのラベル、そして…
封蝋されたボトルキャップの上部を誇らしげに飾るサラブレッドの像。
「そのウイスキーの名前は『ブラントン』…『唯一無二』と称される、
スーパープレミアムバーボンよぉ。」
「す、『す~ぱ~ぷれみあむばぼ~ん』…何か凄そうなのは分かるわい…」
おっちゃんはごくりと唾を飲み込む。
「庶民の味方、みたいな『ホワイトホース』を飲んでもらった手前、
その対極みたいなウイスキーも、一応紹介だけはしとこうと思ったのよぉ。」
「紹介だけ、とな?…その心は?」
「そりゃもうね、厳選された少量生産のウイスキーだから、お値段も
スーパープレミアムなのよぉ…」
私に言われて、おっちゃんは画面の下に表示されたお値段を覗き込んだ。
「うわ、たっか…て事は、教えるだけ教えて、これは…」
「そうよぉ、おいそれとは手が出ないお値段って事ねぇ…」
「ひでぇ! 生殺しじゃねぇか!?」
知らなきゃ幸せだったのに!と悶えるおっちゃん。
「私だって飲んでみたいウイスキーの一、二を争う逸品よぉ。
同じ思いを味わうがいいわぁ!」
流石にこのお値段はポンと出して買ってこれるもんじゃないのよ。
でも、そうね…何かの記念やお祝いする事があったなら…
その時は奮発するからね!
今回は『ホワイトホース 12年』でした。
ノンエイジは言わずと知れた庶民の味方、普通に飲みやすい、
ウイスキー初心者にもお勧めし易いスコッチ、という印象ですが、
日本限定のこの12年、思いの他個性的な味わいでした。
意外にスモーキーさが後を引くので、好みは分かれるかもしれません。
ハイボール以外だと初めてのウイスキーにはちょっと向かないかも。
城内は『ブラントン』がかなり気になっているのですが、
作中でもあった通り、ちょっとポンと手は出しづらいお値段の
プレミアムバーボンです。
瓶とキャップが非常にカッコいいので、もし何かの機会に買えたら
空き瓶になっても取っておく事でしょう。
馬券の下りは城内の実体験です。
競馬自体はそれなりに興味を持って見ていましたが、好きになる馬が
ことごとく微妙な着順で、どう買っても当たらないので
馬券を買うのは早々にやめてしまったものでした。
城内はそんなままならない馬達の中でも、『ナイスネイチャ』が大好きです。




