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異世界で宅飲みを ~OLとドワーフのよもやまウイスキーレビュー~  作者: 城内仁志


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19/19

『激戦区に飛び込め!』 グレンドーワン

緊張した面持ちでPCの画面を睨む小町ちゃん。

同じく緊張した面持ちで小町ちゃんを見守るヴァインのおっちゃん。


風雲急を告げる第19話。スタートです!

 「…あぁ!? また値が上がった! いいえ、まだ行けるぅ!」

もう金曜から土曜に変わろうという夜中、PCに張り付いてやきもき

している私は飲酒盃小町(いさはいこまち)

今はネットオークションで商品を()り落としにかかっている最中である。

狙っているのは古い漫画の単行本セット。

私は好きだったんだけど、ちょっとマイナーな作品で、いつの間にか打ち切り、

そして絶版になり、電子書籍にもならなかった。

古書店の出回りも少ない上に結構なプレ値になっていて、こりゃ手が出ないなぁ

と思っていたんだけど、たまたま(のぞ)いたネットオークションに、

そこそこ安く出ているのを見つけてしまった。

今買えなかったらもう入手は無理っぽいわよねぇ、と言う事で勝負に出たんだ。

だけど、どうも一人手強(てごわ)いライバルがいるみたい。

終了間際(まぎわ)にじわっと値を上げて入札してくる。

私もぎりぎりの時間を見計らって、相手よりすこぉし高い金額で入札する。


 「どこの誰だか知らないけど、やるわねぇ…

でも、負けられない闘いが、ここにあるのよぅ…!」

「嬢ちゃん、頑張れ…(わし)が付いとるぞ!!」

私の隣で固唾(かたず)を飲んで見守っているのは、異世界から来たドワーフ、

ヴァインのおっちゃん。

画面上では静かなデッドヒートが続いている。

世の中には買う気もないのに面白半分で入札して値を吊り上げて楽しむ、

なんて意地悪な人もいるみたいだけど、この相手はプレ値を超えるのは避けて、

出せる範囲のギリギリを狙ってる様に感じられる。

『私も本当に欲しいけど、プレ値は適正価格とは言えないよね。』って

言ってるみたい。

()()()()相手だ。


 「! 来たわね…!!」

相手が私の想定していた上限にほぼ近しい金額で入札した。

ここは悩みどころだ。

後ほんの少し値を上げて、キリの良い金額で入札は出来る。

私の考える適正価格はそれが上限。

これ以上吊り上げるならプレ値で買っても大差ない。

「やるのか…嬢ちゃん!?」

おっちゃんがゴクリと(つば)を飲み込む。

「えぇ、これでダメなら相手が悪かったわぁ…南無三(なむさん)!」

私は祈りを込めてエンターキーをポチィ!と叩く。

画面の中では刻一刻と無機的にタイマーのデジタルが減って行き…


 『おめでとうございます! この商品はあなたが落札しました!』


画面には私の落札でオークションが終了した(むね)が表示された。

GOTCHA !!(やったぜ!!)

懐かしのボクシング映画ばりに、両腕で拳を突き上げる私。

画面の向こうのあんたも強かったわよ!

…顔も名前も知らないけど。

「やったか?…やったのか、嬢ちゃん!?」

「えぇ、勝ったの…私、勝ったのよぅ!!」

「そうか、勝ったのか…良かった、良かったのう!」

おっちゃんも我が事の様に手を叩いて喜んでくれる。

「…で、何に勝ったんじゃの?」


ズコーッ


思わず脱力してこけそうになった。

おっちゃん、あんた、知らんでそんなに興奮してたんかい!?


・・・


 「成程(なるほど)のう、要は商品の競り落とし勝負をしとった、と。」

私は一息ついて、今はお茶を(すす)りながら、おっちゃんにさっきの経緯を

説明していた。

「ただ、オークションってスタート時点ではお安くても、ライバルがいると、

お互いにヒートアップしてお値段が吊り上がっちゃうのよねぇ。」

出せる上限を決めておくか、プレ値を越えそうなら(あきら)めるんだけど、

と私は言葉を結ぶ。

「その、『ぷれ値』っちゅうのは何じゃの?」

あぁ、そこからか。

「『プレミアが付く』って言ってねぇ、手に入りにくい希少(きしょう)な品物は、

本来の値段よりお高くなっちゃうのよぉ。

本当に希少ならしょうがないけど、今時(いまどき)は何でも買い占めて値を吊り上げる

『転売ヤー』ってのが横行しててねぇ。」


 ネットの個人売買やオークションはお互いの売りたい・買いたいが合致して、

適正なお値段でやり取り出来るなら素晴らしい仕組みだと思う。

元の価格と売主が使った交通費や送料に、幾らかの手数料を利益として乗っける、

これくらいなら私も納得するに(やぶさ)かでないけど、元のお値段の二倍も三倍も

吹っ掛けられて、挙句(あげく)に『我々は良い事をしてる!経済を回してる!』とか

(のたま)われて納得出来る訳がない。

しかもそれで商品を送ってこなかったり、偽物を送る、といった詐欺行為まで

あるのだから、油断がならないのだ、と私は愚痴(ぐち)混じりに(こぼ)した。


 「まったく、

『石川や浜の真砂(まさご)は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ』

とは良く言ったものよねぇ。」

「…今まで良いとこばかり見えとったが、()()()の世界もなかなかに

世知辛(せちがら)いんじゃのう。」

おっちゃんがずずーっとお茶を啜って渋い顔をする。

「それこそ、わーくにの高級ウイスキーなんかは『転売ヤー』のいい的に

されててねぇ、言いたくはないけど、海を渡った某国から大挙してやって来て、

買い占めてくのよねぇ。」

そしてネット通販で値段を吊り上げるばかりか、偽物を売る。

それも、曲がりなりにもお酒が入ってるならまだしも、飲み物かどうかも

怪しい()()が入ってる恐れすらあるのだから、と思わず説明にも

熱がこもってしまう。

「フロムザバレルなんか、お高くなったとは言っても本来三千円台半ばくらい

なのに、小売店でも倍近いお値段になると、なかなか手が出ないわよねぇ。」

「そうなんか…いや、まっこと『てんばいやー』許すまじ、じゃわい。」

私達は顔を見合わせて溜息をつくと、少し冷めてしまったお茶をずずーっと

啜るのだった。


・・・


 「…そんな訳で今日のウイスキーなんだけどぉ。」

「うむ、なんだけどぉ?」

小首を(かし)げて返すおっちゃん。

「プレ値のウイスキーなんてそうそう手が出せるもんでもないから、

まぁ手頃な価格帯を攻める訳ですよ、おっちゃん。」

美人(笑うな、そこっ!)教師、小町先生のハチミツ授業の始まりよっ。

「ふむ。」

「昨今、ウイスキーも値上がりが激しくてねぇ、(こと)にスコッチなんだけど、

そうねぇ、2千円台後半…三千円から四千円台は激戦区って言えるかしらねぇ。」

この辺りの価格帯には有名無名を問わず、色んなウイスキーが目白押しだ。

「この激戦区の中から、好みに合うウイスキーを探すのが醍醐味(だいごみ)なのよぉ。

ただ、手が届くって言っても失敗するとなかなかに(へこ)むお値段だから、

注意が必要ねぇ。」

インターネットは情報の海、下調べ、これ大事。


 「失敗ちゅうと、不味(まず)いのもあるって事かの?」

「有り体に言っちゃうとそうなんだけど、『不味い』っていう言葉はちょっと

使いたくないわぁ?

味は好みだから、おっちゃんと私でも感じ方の違いはあるだろうし、

私達が好きな味でも他の人にとっては好みの味じゃないかもしれないわねぇ。

逆に私達がちょっと苦手な味でも他の人にはすごく美味しいかもだし。

しっかり造られたウイスキーなら、『不味い』じゃなく、『好みじゃない』

『自分には合わない』くらいが穏当(おんとう)な表現だと思うわぁ。」

「あぁ、それは大事じゃの、心得よう。」

大事な考え方がしっかり伝わった様で何より。

「それに、極論すれば、ちゃんとしたウイスキーなら多少好みを外れても

ハイボールか、いっそコークハイにすれば、まぁまぁ美味しく頂けるのよぉ。」

炭酸水はどんなウイスキーも美味しく飲める魔法の水、そしてコーラは

死の淵からでも美味しく(よみがえ)るエリクサー。

「うむ、違いない。」

『男は度胸、何でも試してみるのさ。』じゃったかのう!とおっちゃんは

頼もしく笑うのだった。


・・・


 「で、今日買っといたウイスキーが()()です、ドン!」

「ほぅ~、シンプルな瓶じゃが、中身は美味そうな色をしとる。」

細長い透明な瓶の中で、ダークな琥珀色の液体が揺れる。

「激戦区から選んだ今日の一本、『グレンドーワン』よぉ。」

「おぉ~。」

おっちゃんがパチパチと拍手する。

「これも『ぶれんでっど・すこっち』という奴じゃの?

こないだの『でゅわーず』みたいな大当たりだとええのう!」

灯りに(かざ)して瓶を覗き込みながら舌なめずりするおっちゃん。

ちょっとはしたないぞ?

「あぁ、あれは大当たりだったわねぇ、うん、美味しかった。」

相槌(あいづち)を打ちながら、私はグラスにジョッキ、氷と炭酸水、お(つま)みには

クラッカーとクリームチーズを用意する。

「それじゃ、開栓といきましょぉ!」

「おぅ、開けんでか!」

キャップをキリキリと回し、おっちゃんはティスティンググラスにトクトクと

液体を注ぎ込む。

「「では、かんぱ~い!」」


 軽くグラスを合わせて、まずは香りを堪能(たんのう)

「ふむぅ…シェリー樽っぽさがあるかのう?

葡萄(ぶどう)、いや、干し葡萄と干し(あんず)…最後にチョコレート

が香りよる。」

そして一口。

「あら…意外にフルーティ?

アルコールのアタックはあるけど柔らかくて嫌みがないわねぇ。

干し葡萄と、それ以上に干し杏の甘酸っぱい味が主張してきて、

最後にビターなチョコレートっぽい余韻(よいん)が残るわぁ。」

「こないだの『ほわいとほぉす』はかなり煙っぽい後味が残ったが、

こっちは程良いチョコレートじゃのう。

…嬢ちゃん、こいつは。」

「えぇ、なかなかの当たりを引けたわぁ。」

イェーイ、と二人でハイタッチ。

ストレートは二人共納得の味わい、これは当たりだったわね。


 続いてはハイボール、ささっと作ってジョッキをおっちゃんに手渡す。

おっちゃんはぐいーっとジョッキを傾ける。

「むぅ、香り立ちは弱くなったか、お味は…

ほう、果物感から干した感じがなくなって、これは瑞々(みずみず)しい葡萄と杏じゃ!

最後にほんのりチョコレートが舌に残りよる、これはこれで食中酒にはええが、

儂は『すとれぇと』が気に入ったわい。」

「そうねぇ、これ割っちゃうのはちょっと勿体(もったい)ないかも。

私もストレートに一票ねぇ。」

ストレートのドライフルーツ感と柔らかなスパイシーさ、緩やかに残る

チョコレートの余韻がすっごく美味しい、すっごく楽しい。

合間合間にクラッカーを(かじ)りながら、ストレートをちびちびと舐める。

今日は素敵なウイスキーに当たって大満足!

毎回こうは行かないだろうけど、それもまた経験、この激戦区の価格帯、

どうせなら楽しんで飲むのが良いわよね!


・・・


 …マジかよ。

あれから数日後、ネットでヲタ関連のニュースを(さら)っていた私は

自分の目を疑った。

『あの幻の作品が復刻! 豪華特典と共にあなたの手へ!』

こないだオークションで落札した漫画、復刻されよった…

しかも、全巻セットの特典が豪華だ、豪華すぎる…!

複製だけど新規描き下ろしイラストのサイン色紙。

ってか消息も不明だったけど、作者さんご存命だったのね。

それは何よりではあるんだけど。

設定資料集には未発表イラストは勿論、打ち切り後の展開あらすじと

一部書かれていたネーム・下描きも掲載。

更には作者さんのロングインタビューも収録。

至れり尽くせりの内容じゃないのよ!

私が競り落としたセットは…もはや下位互換!?

「いぃぃやぁあぁぁぁぁぁ!」

思わず悲鳴を上げた私の横でスマホが鳴る。


誰よ、こんな時に…って桂華(けいか)ちゃん?

『小町ちゃん、ご無沙汰かしら。

あの漫画の復刻のニュース、見たかしら?』

えぇ、見たわよ、そして打ちひしがれたわよ。

『数日前に、ネットオークションにセットで出てたんだけど、

私、結構粘ったんだけど競り負けちゃったかしら。」

え? おい…おい…ちょ、待てよ!?

『その時は悔しい思いをしたんだけど、そこにこのニュースでしょ?

神様っているんだなぁと思ったかしら!

小町ちゃんもあの漫画好きだったでしょ?

もしニュース見てなかったら、と思って連絡したかしら。』

桂華ちゃん、あんたか…あんただったのか!

『特典も豪華だし、今回を逃したら多分もう入手出来ないかしら。

お互い、すぐ予約しましょうね?

それじゃ、また何かあったら連絡するかしら。』

あぁ、うん、私も予約するわ…またお話ししましょうね…


そして、今現在、私の家には例の漫画が2セット並んでいるのです。




今回は『グレンドーワン』でした。


ノンエイジですが、なかなか美味しいブレンデッドスコッチです。

フルーティで飲みやすいので万人受けするんじゃないかしら?

個人的には割るよりストレートが美味しいと思いました。


8年ものや12年もの、カスクストレングス等意欲的な商品展開に加え、

近くミズナラ樽熟成なんていう商品も出る様です。

美味しいんだろうな、でも予約しないと買えないかな。


ネット通販やオークションの下りはちょっと私怨がこもった

あるある話になってしまいました。

だが、私は謝らない。

転売ヤー滅ぶべし、慈悲はない。


城内は転売ヤーの撲滅を願って止みません。

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