『黒い紅玉』 ジョニーウォーカー(ブラックルビー)
今日は、我らが小町ちゃんはインターネットでお買い物?
おっちゃんは読書を嗜んでいるご様子ですが、
何やら疑問が浮かんだ様で?
「…このパーツ、いいなぁ、付けたいなぁ。
マフラーも換えたいけど、フルエキはやっぱりお高いわよねぇ…」
パソコンを前に、ああでもないこうでもないと頭を捻っている私の
名前は飲酒盃小町。
バイクのドレスアップパーツを物色して、インターネッツの海を徘徊
している真っ最中だ。
『あると便利な小物』や『性能アップ』を謳った部品は勿論なんだけど、
バイクって趣味性の高い乗り物だから、やっぱり『自分だけのマシン』って
いう特徴を出したくなる。
さっき言ってた『フルエキ』って言うのは『フルエキゾースト』の略で、
エンジンから出ているエキゾーストパイプから、末端のマフラーサイレンサー
まで一式で交換するタイプ。
サイレンサーだけ交換する『スリップオン』タイプと比べて、そりゃぁもう、
重量が物凄く軽量化出来る。
ライダーなら誰しも憧れるパーツだけど、一式交換だから、とてもお高いザマス。
誤解のない様に言っておくと、ライダーがマフラー交換するのは
何も音を五月蠅くしたい訳じゃなく、少しでも重量を軽くしたいからなんだ。
軽さは正義。
私に限って言えば、軽くてシュッとした、見た目のいいマフラーなら、
音は別にノーマルより静かでも構わない。
『珍走団』じゃあるまいし。
私の後ろのテーブルでは、異世界から来たドワーフ、ヴァインの
おっちゃんが静かに本を読んでいる。
こっちの本を色々読んでみたい、と言う事で、近頃『翻訳』の指輪を
買ったのだそうだ。
私の部屋、結構本あるからね。
…内容が、ちと偏ってるけど。
初めて会った時から使ってる『念話』は会話や音声の翻訳をしてくれるけど、
文字は単語のニュアンスが解る程度。
対して『翻訳』は、文字・文章を強力に翻訳してくれる半面、会話や音声の
翻訳には使えないそうで、使い分けが重要なんだそうな。
でも、上手に使い分ける事で、ある程度知性のある相手とは大体
意思の疎通が出来るらしい。
『念話』といい『翻訳』といい、本当に便利だな、そっちの生活魔法。
「…なぁ、嬢ちゃん嬢ちゃん、ちょいと宝石の事を聞きたいんじゃが。」
本を読んでいたおっちゃんが、おもむろに声を掛けてきた。
「この本なんじゃが、『紅玉』って『ルビー』の事じゃろ?」
「そうねぇ、赤い石って色々あるけど、一般的にはルビーかしらねぇ。」
ちょっと小首を傾げて考えながら、私は答えた。
「じゃろ?
なら、『青い紅玉』って『サファイア』の事じゃね?」
『サファイア』で良かろうに、何で殊更に『紅玉』呼ばわりしとるんか、
それが分からん、とおっちゃんがこぼす。
おっちゃんの言う通り、ルビーとサファイアは『酸化アルミニウム』の
結晶、『コランダム』と言って、鉱物としては同じもの。
含まれる僅かな元素の違いで色が変わり、赤いのは『ルビー』、
それ以外はぶっちゃけ全部『サファイア』なんだな。
別に青じゃなくてもいいんだ、サファイア。
科学や化学的な処はともかく、その辺ちゃんと知識としてあるんだ。
流石は宝石細工の職人だな、おっちゃん。
「…因みに、何読んでるのぉ?」
「これじゃ、『しゃーろっくほーむず』。」
おっちゃんが読んでいた本の表紙を私に向ける。
「『推理小説』と言うのかの?
こう、『すりる』と『さすぺんす』に溢れる物語というか、読んでて
わくわくさせられるんじゃが、今読んどる『青い紅玉』というのがちょっと
引っ掛かってしまってのう…」
あぁ、それか。
聞いてティンときた私。
「その『紅玉』、『ルビー』じゃなく『カーバンクル』なのよぉ。」
『カーバンクル』と言いうのは、『カボッション』…ドーム状に丸く磨いた
『ザクロ石』の事。
ガーネットと言うのは、やっぱり赤い石なんだけど、そこまで高価・希少な
宝石ではない。
「なんと! ガーネットかよ!?」
「ごめんねぇ、その本、ちょっと翻訳が良くないというか、古いのよぉ。
多分当時翻訳した人が、あんまり宝石の知識なかったのかしらねぇ。」
最近の訳ではちゃんと『ガーネット』になってるらしいんだけど、
と私は付け加えた。
「あぁ、成程のう。
ガーネットなら普通は大した石でもないが、それが青い、となったら
大変な希少価値、という事か。」
何せ『青いガーネット』などあり得んからの、腑に落ちたわい、と
おっちゃんは納得がいった様子。
「…しかし嬢ちゃん、宝石の事も結構話せるんじゃの。」
意外だったのか驚いたのか、おっちゃんは微妙な表情でこちらを見る。
「そりゃぁ、私も女の子だからぁ? キラキラした宝石とかは好きだし、
好きなものの事は興味持って調べるもんなのよぉ?」
ネットで調べものしてたら一日終わった経験、皆もあるでしょ?
「…カラスみたい、じゃの。」
何ですってぇ!?
おっちゃん、何かツボった様子でプっと吹き出しながら言ってのけた。
そりゃぁ、私は黒っぽい服装を好んでるけど、言うに事欠いて、女の子に
カラスはないでしょうよ。
ライダーなら黒に染まるものなのよ!…異論は認める。
それにしても、カラス、カラスねぇ…
紅玉…ルビー、ルビーねぇ…
私の脳内で連想ゲームが始まる。
あぁ、そうだ。
今日のウイスキーはあれにしてみましょうか。
・・・
お目当てのウイスキーを買いに、川崎駅前までひとっ走り。
あったあった、これこれ。
最初は限定品だったはずだけど、いつの間にか定番商品になってて、
いつでも買えるのはありがたいわね。
あ、天丼屋さんのテナントが出てる。
ここの天丼美味しいのよねぇ。
晩御飯はここの天丼弁当にしよう。
後はサラダとかお惣菜を買って、帰ったらお吸い物でも作れば
充分かしら。
よし、買うべき程の物をば買うつ、今は晩ご飯をか期すべき。
平知盛の心意気。
家へとんぼ返りよ!
「たっだいま~、帰ったわよぅ!」
「お、おぅ、お帰り…」
買い物袋を抱えて部屋に入ると、何かきょどった様子でおっちゃんが
出迎えてくれた。
「? どうしたのぉ?
すぐ晩御飯にするわねぇ、今日は天丼よぉ。」
「う、うむ、晩御飯か。
『てんどん』とはどんな物かの、楽しみじゃのう…。」
どうしたのかしら、何か歯切れ悪いぞ、おっちゃん。
天丼弁当をレンチンする間に豆腐と三つ葉でお吸い物をちゃちゃっと
仕上げ、ご飯の準備は完了。
テーブルに料理を並べて、「「いただきます!」」
「ほぅ~、『てんどん』というのは、こうした物か。
白身魚やお野菜を油で揚げとるんじゃの。
じゃが、『ころっけ』や『かつ』なんかに較べて上品な感じじゃのう。」
「付いてるお出汁や七味を掛けると又味わいが際立つわよぉ?」
「どれどれ…ほう!
味に深みが増して、ピリっとした辛みが良いアクセントになりよる!
『てんどん』、美味いもんじゃわい!」
サラダはシヤキシャキで、いい箸休めになるし、お吸い物でお口を
リセットして次の天ぷらに齧り付く。
理想的な『口福』のローテーションだわ。
「おぉ、食べた食べた。
ごちそうさまでした、じゃ。」
食後のお茶を啜りながら、満足げにお腹を撫でるおっちゃん。
「で、今日の『ういすきぃ』はどんなのを見せてくれるんかの?」
「今日は、これよぉ。」
私は四角く細長い、黒いボトルをテーブルに載せた。
「おんや?…これ、『じょにぃうぉーかー』よな?
あれ?…でも前に飲んだのとは何か違う様な…これは?」
ジョニーウォーカーはちゃんと覚えていた様で何より。
「これはねぇ、ジョニーウォーカーでも前に飲んだ赤や黒とは別でねぇ?
『ブラックルビー』、黒い紅玉っていう商品なのよぉ。」
言われておっちゃんもティンと来たみたい。
「黒い紅玉…おぉ! さっきの『青い紅玉』の話に掛けたんか!
こいつは一本取られたわい!」
「こっちはガーネットじゃなくルビーだけどねぇ。
好き嫌いは分かれるみたいだけど、ちょっと飲んでみたかったのよねぇ。」
言いながら、私はいそいそとキャップを開ける。
テイスティンググラスに瓶を傾けると、ややダークな琥珀色がグラスに
とくとくと零れ落ちた。
「「では、かんぱ~い!」」
おっちゃんは軽くグラスを薫ると早速一口、芳醇な液体を口に含んだ。
「ふむぅ…これはワイン樽?シェリー樽かの? ベリーとチョコレートの香り…
ほっほぅ! チョコレートや蜜っぽい甘味とコクがあるのう。
ほんのりと炭?焦げた木の様な苦みと煙っぽさ…スパイシーな余韻が
喉から胸に残って、これは面白いわい!」
そうね、濃厚な甘さとコクが際立って、スパイシーでビター、
スモーキーな余韻がずっと残る…確かに面白いわ。
続けて、グラスに氷を落としてみる。
「氷を入れると、黒蜜感やコクのある苦みが伸びてくるわねぇ。
これはこれでなかなか…」
言いながら加水してみたんだけど、これは失敗だった。
「あらぁ…輪郭がボケちゃった…折角の個性が薄まっちゃったわねぇ。
トゥワイスアップより、氷を落とすくらいが良さそうだわぁ。」
「これくらい個性的だと、水割りは合わん感じなのかのぅ。」
「そうみたいねぇ。」
言いながら、ジョッキにハイボールを作り、おっちゃんに手渡す。
「ほう! これは良いの!
ベリーかカシスの様な果物感に、蜜の甘さがしっかりと残っとる。
飲み込んだ後に、程良くチョコレートと煙っぽさがあって、
この『ういすきぃ』の面白みがちゃんと感じられるのが良いて!」
ハイボールはしっかり美味しくて一安心。
「ウイスキーのハイボールは、よっぽどじゃなければ外れないわよねぇ。
炭酸水、様様だわぁ。」
炭酸水と言えば、ちょっと気になってた事を聞いてみた。
「そう言えば、炭酸水のレシピ、そっちに持って行ったでしょぉ?
その後、どうなのかしらぁ?」
「おぅ、炭酸水な?
『ドワーフのびっくり水』と言うて、氷を入れて果実を絞ったのを
祭りの日に売り出してみたんじゃが、これがなかなか好評でな?
火酒を割った『はいぼぉる』も売れた売れた。
水飴は『ドワーフ女神の雫』と名付けて売ったんじゃが、
殊に女子供に大人気でのう、あっという間に売り切れたわい。」
ブッ。
女神…ドワーフ女神て…いや、いない事はないんだろうけど、ドワーフで
女神…いや、笑うな、堪えるんだ。
「あ…あら、やったわねぇ…良かったじゃなぁい?」
笑いをこらえながら、何とか言葉を返す私。
「そうなんじゃがのう…やっぱり日持ちがしない問題が出て来るのう。
祭りの様に数日で売り切るならいいんじゃが、やっぱり瓶が欲しいわい…」
保存が効くし、見た目の良いガラス瓶詰が作りたい、出来る事なら量産で。
知ってしまうと悩みは尽きないのよね。
ガラス瓶の量産かぁ…。
「ちょっとすぐって訳にはいかないだろうけど、考えてみるわねぇ。」
「うむ、かたじけないが、よろしく頼むぞい。
しかし、この『ぶらっくるびぃ』、美味いの。
もう一杯、『すとれぇと』でもらえるかの?」
「はいはい、どうぞぉ。」
おっちゃん、煙たいのもいけるみたいだな。
そろそろ、アイラとかも飲ませてみたいわね。
新しい問題や、次のお楽しみなんかも考えつつ、宅飲みの夜は楽しく
過ぎて行くのだった。
…が。
・・・
「でな、嬢ちゃん、これはちょっとした疑問を聞いてみるんじゃが…」
ブラックルビーを舐めつつ、おっちゃんが恐る恐る切り出す。
何だろう?
おっちゃんらしくないと言うか、歯切れ悪いなぁ。
「あのな? あの…こっちじゃ、その、何じゃ…」
「どうしたのぉ? 別に怒りゃしないから、言ってごらんなさぁぃ?」
私は努めてにこやかに促した。
「そのな? こっちの世界じゃ、『男同士で絡み合う』のは、
普通の事なんかの?」
…は?
私の笑顔が凍り付く。
なんだそれ? まさか…
私はそぉっと本棚の方を見やる。
本棚の下の方に数冊散らばっているのは…『薄い本』。
見たのか、読んでしまったのか、よりによってそれを!?
「まさかとは思うんじゃが、儂にそういうの、期待しとらんよな?
儂は、無理じゃぞ? 向こうにもそういうのがおらん事もないが、
儂はそっちの趣味はないぞ?」
おっちゃん、私の『やおい同人誌』コレクションを読んでしまった様だ。
私はまぁ、ヲタクとしてそういう作品も楽しむし、まぁ『腐女子』に片足
突っ込んでいる所はある。
…『貴腐人』や『御腸腐人』には進化してない…と信じたい。
一人暮らしの安心感と言ってしまえばそれまでだが、本棚に普通に収納していた
それをおっちゃん、読んでしまったのか、私が出かけてる間に。
私は内心の動揺を隠し、冷静に次の言葉を考える。
ビー・クールよ、ビー・クール。
「そそそ、それはね? あの、何と言うか、あれよ、あれ?
ファンタジーよ、大人の童話なのよ!? 『乙女の嗜み』って奴よ!?」
「そそそ、そうじゃよな!? お、お、『乙女の嗜み』って奴よな!?」
二人して顔を見合わせ、アハハハハーっと乾いた笑みを浮かべる。
「…おっちゃん、おっちゃんは何も見なかった、イイネ?」
「アッハイ…」
『腐女子』はいない、イイネ?
今回は『ジョニーウォーカー ブラックルビー』を選んでみました。
赤や黒と同系統でのジョニーウォーカーらしさがありながら、
果物感やチョコレート感、スモーキーさが強調された、
面白い飲み口のスコッチだと思います。
確か出始めは期間限定品だったと思いましたが、
今では普通に店頭にあるので新定番として定着したのかしら?
スモーキーさが強いので好みは分かれると思いますが、
個人的にはアリ寄りのアリ、と思います。
飲み切ったら、恐らくリピートするかと。
城内は『シャーロックホームズ』のシリーズが大好きです。
そもそもデビュー作の『若きハドスン夫人の冒険 ~如何にして
彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~』も
シャーロックホームズのオマージュ、スピンオフでしたし。
今回、ブラックルビーを題材にするにあたって、『青い紅玉』の
下りは是非とも書きたい処でしたので、結構満足。
昔、『御腸婦人』という健康飲料がありました。
飲んで見たかったけど、今でもあるのかしら?
城内は『ジョニーウォーカー』の展開商品を愛して止みません。




